28歳、子宮を残す選択―上皮内癌に円錐切除術が選ばれる理由
第99回医師国家試験 G問題 第39問
国試問題にチャレンジ
28歳の女性。未婚,未経妊。不正性器出血を主訴に来院した。子宮頸部細胞診クラスⅣ。コルポスコピー下狙い生検の病理組織H-E染色標本を別に示す。 この患者の治療として適切なのはどれか。

- a.子宮頸部円錐切除術
- b.単純子宮全摘術
- c.広汎子宮全摘術
- d.放射線治療
- e.化学療法
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
子宮頸部細胞診クラスⅣ(現在のHSILに相当)で、組織学的に異型細胞が上皮全層を占めながら基底膜を越えていなければ、上皮内癌(CIN3)と診断します。上皮内癌は原則としてリンパ節転移を起こさないため、標準治療は子宮頸部円錐切除術であり、病変全体を調べて浸潤の有無を確定する診断的意義と、断端陰性なら治療が完了する治療的意義を兼ね、妊孕性も温存できます。単純子宮全摘術は妊娠を希望しない場合や断端陽性・再発例の選択肢で、広汎子宮全摘術・放射線治療・化学療法は浸潤癌に対する治療です。円錐切除後は頸管短縮による流早産リスクに注意し、細胞診やHPV検査で経過を追います。HPV持続感染から段階的に進む病態を理解し、浸潤の有無と妊孕性の希望から治療を選ぶ考え方は、婦人科腫瘍の診療の基本となります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・28歳、未婚、未経妊(妊娠したことがない)の女性で、不正性器出血を主訴に受診した。 ・子宮頸部細胞診はクラスⅣである。日母分類(日本母性保護産婦人科医会による旧来の分類)のクラスⅣは「上皮内癌を想定する」段階にあたる。現在のベセスダシステムでは、HSIL(高度扁平上皮内病変)に相当する。 ・コルポスコピー(腟拡大鏡)下の狙い生検標本(H-E染色)では、核が大きく形の不整な異型細胞が、扁平上皮の全層を占めている。上皮の下から表層に向かうにつれて細胞が成熟していく層構造(極性)は失われている。一方、基底膜は保たれ、間質への浸潤像はない。
診断へのプロセス
異型細胞が上皮全層を置き換えているが基底膜を越えていないので、子宮頸部上皮内癌〈CIS:carcinoma in situ〉と診断できる。子宮頸部上皮内腫瘍〈CIN:cervical intraepithelial neoplasia〉の分類ではCIN3にあたる。CIN3は高度異形成と上皮内癌をまとめた区分である。子宮頸癌のほとんどは、高リスク型ヒトパピローマウイルス〈HPV〉(16・18型など)の持続感染によって起こる。CIN1→CIN2→CIN3→浸潤癌と段階を追って進むため、上皮内の段階で見つけて治療すれば、浸潤癌への進行を防げる。
設問の考え方
治療を選ぶときに考えるべきことは二つある。 (1)病変の広がり:狙い生検は病変の一部を採るだけなので、それだけでは、より深い部分に微小浸潤癌が隠れていないとは言い切れない。 (2)妊孕性(妊娠できる能力)の温存:本例は28歳の未婚・未経妊女性であり、子宮を残すことを最優先に考える。 子宮頸部円錐切除術は、子宮腟部を扁平上皮と円柱上皮の境界(移行帯)を含めて円錐状に切り取る手術である。病変全体を切除標本として組織学的に調べられるので、浸潤の有無と深さを確定する「診断」になる。同時に、切除断端に病変が残っていなければ上皮内癌を取り切れるので「治療」にもなる。しかも子宮を残せるため、本例に最も適した治療法である。
選択肢考察
- ○a. 子宮頸部円錐切除術
上皮内癌(CIN3)は基底膜を越えておらず、原則としてリンパ節転移を起こさない。そのため、病変を局所的に取り切れば根治が見込める。円錐切除術は子宮を残せるので、未婚・未経妊の28歳女性の妊孕性を守ることができる。さらに摘出標本全体を調べることで、生検では分からなかった微小浸潤の有無を確認できる(診断的意義)。断端に病変がなければ治療はここで完了し、治癒率はほぼ100%である。その後は細胞診やHPV検査で定期的に経過を観察する。断端陽性の場合は、再度の円錐切除または厳重な経過観察を検討する。なお、円錐切除後の妊娠では、頸管が短くなることによる流早産の危険がやや高くなる。そのため妊娠時には頸管長の観察などの注意が必要である。
- ×b. 単純子宮全摘術
単純子宮全摘術(子宮を周囲の組織を広く付けずに摘出する手術)は、上皮内癌を確実に治療する方法の一つである。妊娠を希望しない女性や、円錐切除後の断端陽性例・再発例では選択肢となる。しかし本例は未婚・未経妊の若年女性であり、子宮を失うことは永久に妊娠できなくなることを意味する。子宮を残せる円錐切除術で十分に治療できる病変に対して、最初から子宮全摘を行うのは過大な治療である。また、円錐切除で浸潤の有無を確かめないまま子宮全摘を行うと、万一浸潤癌だった場合に不十分な手術になるおそれもある。
- ×c. 広汎子宮全摘術
広汎子宮全摘術は、子宮に加えて基靱帯などの子宮傍組織、腟の上部、骨盤リンパ節を広く一括して切除する手術である。浸潤癌(主にⅠB~ⅡB期)が対象となる。リンパ節転移を起こさない上皮内癌には明らかに過大な治療で、排尿障害などの合併症も多く、妊孕性も失われるため適応はない。
- ×d. 放射線治療
放射線治療(外部照射と腔内照射の組み合わせ)は、子宮頸癌の浸潤癌に対して行う治療である。手術が難しい進行例(ⅢB~ⅣA期など)では、同時化学放射線療法が標準となる。上皮内癌は手術で局所的に取り切れるため、放射線治療の適応はない。さらに、骨盤への照射は卵巣機能の廃絶や子宮・腟の障害をきたし、妊孕性を失わせる点でも本例には不適切である。
- ×e. 化学療法
子宮頸癌で化学療法を用いるのは、主に次のような場合である。(1)放射線の効果を高めるために放射線治療と同時に行う(同時化学放射線療法)。(2)大きな腫瘍を手術前に縮小させる(術前化学療法)。(3)遠隔転移がある例や再発例。上皮内癌は局所の切除で治癒が見込める病変なので、全身に作用する化学療法を行う意義はなく、副作用による不利益のほうが大きい。
子宮頸部上皮内腫瘍〈CIN〉の分類
・CIN1:軽度異形成。異型細胞は上皮の下1/3までにとどまる。多くは自然に消える。 ・CIN2:中等度異形成。異型細胞は上皮の下2/3までに及ぶ。 ・CIN3:高度異形成と上皮内癌。異型細胞が上皮の2/3を超えて全層に及ぶが、基底膜は保たれている。 近年の組織分類では、CIN1をLSIL(軽度扁平上皮内病変)、CIN2・CIN3をHSIL(高度扁平上皮内病変)と二つに分ける考え方も用いられる。
子宮頸がん検診と精密検査の流れ
細胞診(現在はベセスダシステムで報告。NILM、ASC-US、ASC-H、LSIL、HSIL、SCCなど)で異常があれば、コルポスコピーで酢酸加工後の白色上皮、モザイク、赤点斑、異型血管などを観察する。所見の最も強い部位から狙い生検を行い、組織診断する。ASC-USでは、まずハイリスク型HPV検査を行って振り分ける方法もある。
CINの管理の目安
・CIN1:原則として経過観察。 ・CIN2:経過観察または治療。妊娠を望む若年者では経過観察を選ぶこともある。 ・CIN3:治療が必要。子宮頸部円錐切除術が基本である。妊孕性の温存を望まない場合は、単純子宮全摘術も選択肢となる。 ・円錐切除の方法:コールドナイフ、レーザー、高周波電流を用いるLEEP(ループ電気切除)などがある。レーザー蒸散術のように組織を残さない方法は、診断の役割を果たせない。そのため、主に浸潤癌の可能性が低いCIN2などに用いる。
浸潤癌との関係
円錐切除標本で間質浸潤が見つかった場合、浸潤の深さが3mm以下の微小浸潤癌(ⅠA1期)で脈管侵襲がなく断端陰性であれば、妊孕性を温存して経過観察できることがある。より深い浸潤がある場合は、準広汎・広汎子宮全摘術や放射線治療など、病期に応じた治療に進む。
予防
HPVワクチン(一次予防)と子宮頸がん検診(二次予防)が柱である。上皮内の段階で見つけて治療すれば、ほぼ確実に治癒できる。
POINT
・子宮頸部細胞診クラスⅣ(現在のHSILに相当)で、組織学的に異型細胞が上皮全層を占め、間質浸潤がなければ上皮内癌(CIN3)。 ・上皮内癌の標準治療は子宮頸部円錐切除術。診断(浸潤の有無の確定)と治療を兼ね、妊孕性を温存できる。 ・妊娠を希望しない場合や断端陽性・再発例では、単純子宮全摘術も選択肢となる。 ・広汎子宮全摘術、放射線治療、化学療法は浸潤癌に対する治療で、上皮内癌には適応がない。 ・子宮頸癌の主な原因は高リスク型HPV(16・18型など)の持続感染。
