造影で浮かび上がる無数の結節―頭蓋内圧亢進とやせが指し示す転移性脳腫瘍
第99回医師国家試験 A問題 第44問
国試問題にチャレンジ
59歳の男性。頭痛と吐き気とを主訴に来院した。1か月前から頭痛と吐き気とがあり,徐々に増悪してきた。意識は清明。身長168cm,体重45kg。呼吸数18/分。脈拍92/分,整。血圧110/82mmHg。貧血と黄疸とを認めない。胸部にラ音を聴取しない。腹部は平坦で,肝・脾を触知しない。下肢に浮腫を認めない。眼底検査でうっ血乳頭を認める。頭部単純MRIのT1強調像(A)と造影MRIのT1強調像(B)とを示す。 最も考えられるのはどれか。

- a.髄膜腫
- b.神経膠腫
- c.神経鞘腫
- d.髄膜癌腫症
- e.転移性脳腫瘍
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
頭痛・嘔気・うっ血乳頭は頭蓋内圧亢進の三徴であり、亜急性に進行する場合は脳腫瘍などの占拠性病変を疑います。造影MRIで脳表近くの皮髄境界付近に結節状〜リング状の造影病変が多発し、著明なやせなど悪性腫瘍を思わせる背景があれば、転移性脳腫瘍が最も考えられます。血行性転移は血流が停滞しやすい皮髄境界に着床しやすく、腫瘍の大きさに比べて浮腫が強いのが特徴で、原発巣は肺癌が最多です。膠芽腫は通常単発の不整なリング状増強、髄膜腫・神経鞘腫は実質外腫瘍、髄膜癌腫症は髄膜に沿った線状増強という違いを押さえると、病変の数・場所・造影パターンから鑑別を進められます。脳転移を見つけたら原発巣の全身検索と浮腫の管理を並行して行う、という視点は臨床で欠かせません。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・症状:1か月前からの頭痛と吐き気が徐々に増悪している。眼底検査でうっ血乳頭(頭蓋内圧が上がって視神経乳頭が腫れた状態)を認める。頭痛・嘔気(嘔吐)・うっ血乳頭は頭蓋内圧亢進の三徴であり、亜急性に進行する頭蓋内の占拠性病変が疑われる。 ・全身状態:身長168cm、体重45kgでBMIは約16と著明なやせを示す。悪性腫瘍などの消耗性疾患が背景にある可能性を示唆する所見である。 ・画像:単純T1強調像(A)では病変ははっきりしないが、造影T1強調像(B)では両側大脳半球の脳表近く(皮質〜皮髄境界付近)に、造影される小さな結節状〜リング状の病変が複数散在している。
診断へのプロセス
1. 頭蓋内圧亢進症状が亜急性に進行しており、脳腫瘍などの占拠性病変を考える。 2. 造影MRIで、両側大脳半球に多発する造影病変がある。脳実質内に多発する造影病変の鑑別としては、転移性脳腫瘍、脳膿瘍、悪性リンパ腫、多発性硬化症などが挙がるが、発熱などの感染徴候がなく、やせを伴う中高年男性であることから、転移性脳腫瘍が最も考えやすい。 3. 転移性脳腫瘍は血行性に運ばれた腫瘍細胞が、血管が細くなり血流が停滞しやすい皮髄境界付近に着床するため、脳表近くに多発する小病変として見つかることが多い。本例の画像所見はこれに合致する。単発の病変であれば膠芽腫との鑑別が問題になるが、多発していることが転移を強く示唆する。 設問は画像と臨床像から最も考えられる疾患を問うている。「多発」「造影される(リング状・結節状)」「皮髄境界付近」の3点が転移性脳腫瘍を示す手がかりである。
選択肢考察
- ×a. 髄膜腫
髄膜腫はくも膜細胞由来の脳実質外腫瘍で、中年女性に多い良性腫瘍である。硬膜に広く接して発育し、造影MRIでは腫瘍全体が均一に強く造影され、硬膜に沿った増強(dural tail sign)を伴うことが特徴である。リング状増強を示すことはまれである。神経線維腫症2型などでは多発しうるが、本例のように脳実質内に小さな造影病変が散在する像とは異なる。
- ×b. 神経膠腫
神経膠腫(グリオーマ)はグリア細胞由来の脳実質内腫瘍である。悪性度の最も高い膠芽腫では、中心壊死を反映して不整な厚い壁のリング状増強を示し、周囲に強い浮腫を伴う。しかし通常は単発で大脳白質を中心に浸潤性に発育し、脳梁を介して対側へ広がることはあっても、本例のように両側の脳表近くに小病変が多数散在することはまれである。
- ×c. 神経鞘腫
神経鞘腫はシュワン細胞由来の良性腫瘍で、頭蓋内では前庭神経から発生し小脳橋角部に生じる聴神経鞘腫が大部分を占める。症状は片側の難聴・耳鳴りなどで始まることが多い。神経線維腫症2型では両側性に生じ、嚢胞変性を伴うとリング状の造影を示すこともあるが、大脳半球の脳実質内に多発することはなく、本例の画像とは合わない。
- ×d. 髄膜癌腫症
髄膜癌腫症は、他臓器の癌(胃癌、肺癌、乳癌など)の細胞がくも膜下腔に播種し、髄膜全体に広がった状態である。頭痛・嘔吐などの頭蓋内圧亢進症状や、多発する脳神経麻痺を呈する。造影MRIでは脳表や脳溝に沿った線状の髄膜の増強が見られるのが特徴で、脳実質内に腫瘤は形成しない。診断には髄液細胞診が重要である。本例は脳実質内の結節状病変であり、これとは異なる。
- ○e. 転移性脳腫瘍
転移性脳腫瘍は他臓器の悪性腫瘍が血行性に脳へ転移したもので、成人の脳腫瘍のなかで頻度が高い。原発巣としては肺癌が最も多く、ほかに乳癌、腎癌、消化器癌、悪性黒色腫などがある。多発しやすく、血流の停滞しやすい皮髄境界付近に好発し、造影MRIで結節状またはリング状に増強される。腫瘍の大きさに比べて周囲の浮腫が強いことが多く、頭蓋内圧亢進症状をきたす。本例は亜急性の頭蓋内圧亢進症状、著明なやせ、両側大脳半球の脳表近くに多発する造影病変がそろっており、最も考えられる。
転移性脳腫瘍の要点
・原発巣:肺癌が最多(約半数)で、乳癌、腎癌、大腸癌などの消化器癌、悪性黒色腫が続く。脳転移が原発巣より先に見つかることもあるため、全身検索(胸腹部CTなど)を行う。 ・画像:造影MRIが最も検出感度が高い。多発性、皮髄境界付近、結節状またはリング状増強、腫瘍の大きさに不釣り合いな強い周囲浮腫が特徴である。 ・治療:個数・大きさ・全身状態・原発巣の制御状況によって、手術摘出、定位放射線照射(ガンマナイフなど)、全脳照射、薬物療法を組み合わせる。脳浮腫にはステロイド(デキサメタゾンなど)や浸透圧利尿薬を用いる。
リング状増強を示す主な病変
転移性脳腫瘍、膠芽腫、脳膿瘍、悪性リンパ腫(免疫不全者)、脱髄性疾患(不完全なリング)など。 ・多発 → 転移性脳腫瘍や脳膿瘍を考える。 ・単発で不整な厚い壁 → 膠芽腫を考える。 ・薄く均一な壁で、MRI拡散強調像で内部が高信号 → 脳膿瘍を考える(膿の粘稠さを反映)。
脳実質外腫瘍と実質内病変の区別
髄膜腫・神経鞘腫は脳実質外の腫瘍で脳を外から圧排する。髄膜癌腫症は髄膜に沿った線状の増強が特徴で、脳実質内に結節をつくらない。
POINT
・頭痛+嘔気(嘔吐)+うっ血乳頭 → 頭蓋内圧亢進 → 頭蓋内占拠性病変を考える。 ・脳内に多発する造影病変(結節状〜リング状)、皮髄境界付近 → まず転移性脳腫瘍。 ・転移性脳腫瘍の原発巣は肺癌が最多。 ・単発のリング状増強 → 膠芽腫・脳膿瘍も鑑別。髄膜癌腫症は髄膜に沿った線状増強。
