輸血歴とHCV-RNAが語るもの―C型慢性肝炎の「当時の標準治療」と今のDAA
第99回医師国家試験 A問題 第27問
国試問題にチャレンジ
47歳の男性。健康診断で肝機能異常を指摘され来院した。32歳時に輸血歴があるが明らかな急性肝炎の既往はない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。血液生化学所見:AST 75U/L,ALT 126U/L。免疫学所見:HBs抗原陰性,HCV抗体陽性,HCV-RNA 240KIU/mL,HCVセロタイプグループ1。抗核抗体陰性。腹部超音波検査では肝辺縁は鋭,表面平滑で占拠性病変はなく,脾腫を認めない。 治療薬として適切なのはどれか。2つ選べ。
- a.インターフェロン
- b.プレドニゾロン
- c.ラクツロース
- d.ラミブジン
- e.リバビリン
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
輸血歴があり、HCV抗体に加えてHCV-RNAが陽性であれば、C型肝炎ウイルスの持続感染と判断できます。ALT優位のトランスアミナーゼ上昇と、超音波で肝硬変所見を欠くことから、本例は肝硬変に至る前のC型慢性肝炎です。出題当時の標準治療はインターフェロンとリバビリンの併用で、ジェノタイプ1型・高ウイルス量の難治例ではペグインターフェロンとリバビリンの長期併用が推奨されていました。プレドニゾロンは自己免疫性肝炎、ラクツロースは肝性脳症、ラミブジンはB型肝炎の薬であり、病態と薬剤を対応づけて整理することが重要です。現在は経口DAAで95%以上のウイルス排除が得られますが、排除後も肝癌の発生に注意して経過観察を続ける点まで理解しておきましょう。
解答・解説
正解はa, eです
所見の整理
・47歳男性。健康診断で肝機能異常を指摘されたが、自覚症状の記載はない。 ・32歳時に輸血歴がある。輸血はC型肝炎ウイルス(HCV)の代表的な感染経路で、特に献血血液のHCV抗体スクリーニングが導入された1989年以前の輸血が問題となる。明らかな急性肝炎の既往がないのは、HCV急性感染の多くが無症状か軽症で気付かれないことと矛盾しない。 ・AST 75 U/L、ALT 126 U/Lと、ALT優位の軽度〜中等度のトランスアミナーゼ上昇がある。ALT優位は慢性肝炎で典型的なパターンで、肝硬変やアルコール性肝障害ではAST優位になりやすい。 ・HBs抗原陰性でB型肝炎は否定的。HCV抗体陽性に加えHCV-RNA 240 KIU/mLと血中にウイルス遺伝子が検出されており、現在もHCVが持続感染している(HCV抗体だけでは既往感染と区別できないため、HCV-RNAの確認が重要である)。 ・HCVセロタイプはグループ1で、これは遺伝子型(ジェノタイプ)1a/1bに相当する。日本では1bが最も多い。 ・抗核抗体陰性で、自己免疫性肝炎(AIH)は考えにくい。 ・腹部超音波で肝辺縁は鋭、表面平滑、脾腫なし、占拠性病変なし。肝硬変(辺縁鈍化、表面凹凸、脾腫)や肝細胞癌を示す所見はない。
診断
以上から、C型慢性肝炎(肝硬変には至っていない段階)と診断できる。
設問の考え方
C型慢性肝炎治療の目標は、ウイルスを排除して肝炎の進行(肝硬変化)と肝細胞癌の発生を防ぐことである。本問が出題された当時の標準治療は、インターフェロン(IFN)にリバビリンを併用する抗ウイルス療法であった。特に本例のようなジェノタイプ1型・高ウイルス量(おおむね100 KIU/mL以上が目安)の症例はIFN単独療法での著効率が低く、ペグインターフェロン+リバビリン併用療法(48週間)が推奨されていた。したがって「治療薬として適切なもの」はインターフェロンとリバビリンの2つとなる。 なお現在は、IFNを用いない直接作用型抗ウイルス薬(DAA)の経口投与が第一選択となっている(supplement参照)。
選択肢考察
- ○a. インターフェロン
IFNは宿主細胞の抗ウイルス蛋白の誘導や免疫賦活を介してHCVの増殖を抑え、ウイルス排除を目指す薬剤である。ポリエチレングリコールを結合させて血中半減期を延ばしたペグインターフェロンでは週1回投与が可能となった。ジェノタイプ1型・高ウイルス量の本例では単独での効果が不十分なため、リバビリンとの併用で用いるのが当時の標準であった。副作用として発熱・倦怠感などのインフルエンザ様症状、血球減少、うつ症状、間質性肺炎、甲状腺機能異常などがある。
- ×b. プレドニゾロン
副腎皮質ステロイドであり、自己免疫性肝炎(AIH)の第一選択薬である。AIHは中年女性に多く、抗核抗体陽性やIgG高値を示すが、本例は男性で抗核抗体陰性であり、原因はHCVと明らかである。ウイルス性肝炎にステロイドを投与すると免疫が抑制されてウイルス増殖を助長するおそれがあり、適応とならない。
- ×c. ラクツロース
合成二糖類で、大腸で腸内細菌に分解されて腸管内を酸性化し、アンモニアの産生と吸収を抑える。また浸透圧性の下剤作用で腸内容の排出を促す。肝硬変などで生じる高アンモニア血症・肝性脳症の治療薬である。本例は肝硬変に至っておらず肝性脳症もないため、適応はない。
- ×d. ラミブジン
核酸アナログ製剤で、B型肝炎ウイルス(HBV)の逆転写酵素を阻害してHBVの複製を抑える、B型慢性肝炎の治療薬である(HIV感染症にも用いる)。長期投与で耐性ウイルス(YMDD変異株)が出現しやすいため、現在のB型肝炎治療ではエンテカビルやテノホビルが優先される。HCVはRNAウイルスで逆転写過程をもたず、本例(HBs抗原陰性)には効果がない。
- ○e. リバビリン
グアノシン類似の核酸アナログで、RNAウイルスの複製を広く抑える経口抗ウイルス薬である。単独投与ではHCV排除効果はほとんどないが、IFNと併用すると著効率(治療終了後もウイルスが陰性を保つ割合)が大きく向上する。本例はジェノタイプ1型・高ウイルス量のIFN難治例に当たるため、IFNとの併用が適切である。主な副作用は溶血性貧血で、催奇形性があるため投与中と投与後一定期間は男女とも避妊が必要となる。
C型肝炎の概要
HCVはフラビウイルス科の一本鎖RNAウイルスで、主に血液を介して感染する(輸血、血液製剤、注射針の共用、刺青など)。感染者の約70%が慢性化し、長い経過で慢性肝炎→肝硬変→肝細胞癌へと進む。日本では肝細胞癌の原因としてHCVが長く最多であった。
HCV感染の診断
・HCV抗体:陽性なら感染の既往または現在の感染を示す。 ・HCV-RNA:陽性なら現在の持続感染を示し、治療の適応判断と効果判定に用いる。 ・ジェノタイプ(セロタイプ):日本では1b型が約70%、2a・2b型が約30%を占める。IFN時代には1型・高ウイルス量が難治とされた。
治療の変遷
・IFN単独療法 → ペグIFN+リバビリン併用療法:1型・高ウイルス量でも著効率はおおむね50%前後にとどまり、副作用も多かった。 ・2011年以降、プロテアーゼ阻害薬(NS3/4A阻害薬)を加えた3剤併用療法が登場した。 ・2014年以降、IFNを使わない経口DAA療法が主流となった。DAAにはNS3/4Aプロテアーゼ阻害薬(グレカプレビルなど)、NS5A阻害薬(レジパスビル、ベルパタスビル、ピブレンタスビルなど)、NS5Bポリメラーゼ阻害薬(ソホスブビル:ヌクレオチド型)がある。代表的なレジメンとしてレジパスビル/ソホスブビル、グレカプレビル/ピブレンタスビル、ソホスブビル/ベルパタスビルなどがあり、ジェノタイプを問わず8〜12週の内服で95%以上のウイルス学的著効(SVR)が得られる。ジェノタイプ2型ではソホスブビル+リバビリン併用も用いられた。 ・SVR達成後も肝発癌のリスクは残るため、画像検査による経過観察を続ける。
肝炎の原因別の主な治療薬
・C型肝炎:DAA(かつてはIFN+リバビリン) ・B型肝炎:核酸アナログ(エンテカビル、テノホビル。ラミブジンは旧来薬)、ペグIFN ・自己免疫性肝炎:副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン) ・原発性胆汁性胆管炎:ウルソデオキシコール酸 ・肝性脳症:ラクツロース、難吸収性抗菌薬(リファキシミン)、分岐鎖アミノ酸製剤
POINT
・輸血歴+HCV抗体陽性+HCV-RNA陽性+ALT優位のトランスアミナーゼ上昇 → C型慢性肝炎。 ・HCV抗体陽性だけでは現在の感染と断定できず、HCV-RNAで持続感染を確認する。 ・肝辺縁鋭・表面平滑・脾腫なし → 肝硬変には至っていない。 ・本問出題当時のC型慢性肝炎治療:IFN(ペグIFN)+リバビリン併用。ジェノタイプ1型・高ウイルス量は難治例。 ・現在の第一選択はIFNフリーの経口DAA療法(SVR率95%以上)。 ・薬剤と疾患の対応:プレドニゾロン=AIH、ラクツロース=肝性脳症、ラミブジン=B型肝炎。 ・リバビリンの副作用:溶血性貧血、催奇形性。
