早産も低体重も問題なし―ロタワクチンを止める唯一の既往は「腸重積」
第118回医師国家試験 F問題 第57問
国試問題にチャレンジ
生後4か月の男児。3回目のロタウイルスワクチンの接種のため母親に連れられて来院した。①在胎36週2日,②体重2,460gで出生した。新生児期に心雑音を指摘され,③卵円孔開存と診断されたが,器質的な心疾患は指摘されていない。④腸重積の既往がある。⑤来院後の体温は37.0℃であった。 下線部のうち,ロタウイルスワクチンの接種が不適当と判断される理由はどれか。
- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
ロタウイルスワクチンは経口の弱毒生ワクチンで、接種後、特に初回接種後1〜2週間は腸重積症のリスクがわずかに上昇するため、腸重積症の既往がある児は接種不適当者とされます。未治療の先天性消化管障害(メッケル憩室など)や重症複合免疫不全症(SCID)も同様に接種不適当です。一方、早産児や低出生体重児は暦の月齢で通常どおり接種し、心臓血管系疾患は接種要注意者であって禁忌ではなく、卵円孔開存のみでは問題になりません。明らかな発熱は通常37.5℃以上を指し、37.0℃は乳児の正常範囲です。接種不適当者と接種要注意者を正確に区別し、ワクチンごとの特有の注意点を押さえることは、安全な予防接種と保護者への適切な説明の基本となります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・生後4か月の男児で、ロタウイルスワクチンの3回目を受けに来院している。3回接種であることから、5価ワクチン(RotaTeq®)を用いていると考えられる。 ・在胎36週2日で出生しており、在胎37週未満なので早産児にあたる。 ・出生体重2,460gは2,500g未満であり、低出生体重児にあたる。 ・新生児期に卵円孔開存を指摘されたが、器質的心疾患はない。 ・腸重積の既往がある。 ・来院時の体温は37.0℃である。
考え方
本問は、予防接種の現場で行う予診(接種してよいかどうかの事前確認)の知識を問う問題である。予防接種実施要領では、接種してはならない「接種不適当者」と、接種の判断に慎重さを要する「接種要注意者」が区別されている。下線部①〜⑤のそれぞれが、このどちらに当たるのか、あるいはどちらにも当たらないのかを判断する。 ロタウイルスワクチンは経口の生ワクチンであり、接種後、特に初回接種後1〜2週間は腸重積症のリスクがわずかに上昇することが知られている。このため、腸重積症の既往がある児では再発が懸念され、ロタウイルスワクチンに特有の接種不適当者とされている。したがって④が接種不適当の理由となる。 一方、早産・低出生体重は接種を妨げる理由にならず、ロタウイルスワクチンも他の定期接種と同様に出生日からの暦の月齢(修正月齢ではない)に従って接種する。卵円孔開存は器質的心疾患ではなく、生理的な遺残に近い状態であるため、接種上の問題にはならない。体温37.0℃は乳児として正常範囲であり、「明らかな発熱」(通常37.5℃以上)には当たらない。
選択肢考察
- ×a. ①
在胎36週2日は早産にあたるが、早産であることはロタウイルスワクチンの接種不適当の理由にならない。早産児でも全身状態が安定していれば、修正月齢ではなく実際の生後週数(暦の月齢)に従って、正期産児と同じスケジュールで接種する。NICU入院中の早産児では、ワクチン株が便中に排泄されることから院内での伝播に配慮し、退院時に接種するなどの運用がとられることがあるが、それは早産自体を禁忌とする意味ではない。
- ×b. ②
出生体重2,460gは低出生体重児(2,500g未満)にあたるが、低出生体重であることはロタウイルスワクチンを含む予防接種の接種不適当理由ではない。現在の発育や全身状態に問題がなければ、通常どおり接種してよい。
- ×c. ③
卵円孔開存は、胎児期の右房から左房への血流路である卵円孔が生後も閉じきらずに残っている状態で、乳児期には珍しくなく、多くは自然閉鎖するか無症状で経過する。本児は器質的な心疾患がないと明記されている。なお、心臓血管系疾患をもつ児は予防接種の「接種要注意者」に含まれるが、これは主治医と相談して慎重に判断すべきという位置づけであって、接種不適当ではない。卵円孔開存のみでは接種を見送る理由にならない。
- ○d. ④
ロタウイルスワクチンは、接種後(特に初回接種後1〜2週間以内)に腸重積症の発症リスクをわずかに高めることが知られている。そのため、腸重積症の既往がある児は再発のおそれがあるとして接種不適当者に定められている。同様に、腸重積症を起こしやすい未治療の先天性消化管障害(メッケル憩室など)をもつ児や、重症複合免疫不全症(SCID)の児も、ロタウイルスワクチンの接種不適当者とされる。本児には腸重積の既往があるので、3回目の接種は行うべきではない。
- ×e. ⑤
予防接種実施要領で接種不適当とされるのは「明らかな発熱を呈している者」であり、一般に37.5℃以上を指す。乳児は体温がやや高めで、37.0℃は正常範囲内である。したがって体温37.0℃は接種を見送る理由にならない。
ロタウイルスワクチンの概要
・2020年10月から定期接種(A類疾病)となった。いずれも経口の弱毒生ワクチンである。 ・1価ワクチン(Rotarix®):生後6週から接種可能で、4週以上の間隔をあけて2回接種し、生後24週0日までに完了する。 ・5価ワクチン(RotaTeq®):生後6週から接種可能で、4週以上の間隔をあけて3回接種し、生後32週0日までに完了する。 ・いずれも初回接種は生後14週6日までに行うことが推奨されている。月齢が進んでから初回接種をすると腸重積症のリスクが高まるとされるためである。 ・腸重積症の好発年齢は生後3か月以降に高くなる(乳児期後半〜2歳ごろに多い)ため、できるだけ早い時期に接種を始めることが勧められる。
ロタウイルスワクチンの接種不適当者(ワクチン固有のもの)
・腸重積症の既往がある者 ・腸重積症の発症を高める可能性のある未治療の先天性消化管障害(メッケル憩室など)をもつ者 ・重症複合免疫不全症(SCID)の所見が認められる者
予防接種一般の接種不適当者
・明らかな発熱(通常37.5℃以上)を呈している者 ・重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者 ・その予防接種の接種液の成分によってアナフィラキシーを呈したことが明らかな者 ・その他、予防接種を行うことが不適当な状態にある者
接種要注意者(慎重に判断し、接種してよい場合もある)
・心臓血管系疾患、腎臓疾患、肝臓疾患、血液疾患、発育障害などの基礎疾患をもつ者 ・前回の予防接種で2日以内に発熱や全身性発疹などのアレルギーを疑う症状がみられた者 ・けいれんの既往がある者 ・免疫不全と診断されたことがある者、近親者に先天性免疫不全症の者がいる者 ・接種液の成分に対してアレルギーを呈するおそれのある者
腸重積症を疑う症状
接種後に、不機嫌・間欠的な啼泣、繰り返す嘔吐、血便(いちごゼリー状の粘血便)、顔色不良などがみられた場合には、速やかに受診するよう保護者に説明する。
POINT
・ロタウイルスワクチンは経口生ワクチンで、接種後(特に初回後1〜2週間)は腸重積症のリスクがわずかに上昇する。 ・腸重積症の既往、未治療の先天性消化管障害、重症複合免疫不全症(SCID)はロタウイルスワクチンの接種不適当者である。 ・早産児・低出生体重児は暦の月齢で通常どおり接種する。 ・心臓血管系疾患は「接種要注意者」であり、接種不適当ではない。卵円孔開存のみは問題にならない。 ・「明らかな発熱」は通常37.5℃以上を指す。 ・初回接種は生後14週6日までが推奨。1価は2回(生後24週まで)、5価は3回(生後32週まで)。
