夏のプールで始まった多臓器障害―顔の紅斑と低いCRPが指し示す抗dsDNA抗体
第118回医師国家試験 F問題 第55問
国試問題にチャレンジ
17歳の女子。労作時息切れと下腿浮腫を主訴に来院した。3か月前から屋外プールで水泳の練習をしているが,1か月前から倦怠感,労作時息切れ及び両下腿浮腫が出現したため受診した。意識は清明。体温37.4℃。脈拍110/分,整。血圧120/70mmHg。顔面に紅斑を認める。その他の部位には皮疹を認めない。両側の手関節と膝関節に腫脹と圧痛とを認める。尿所見:蛋白3+,糖(-),潜血1+。血液所見:赤血球323万,Hb 8.6g/dL,Ht 38%,網赤血球2.5%,白血球2,300(桿状核好中球2%,分葉核好中球76%,単球10%,リンパ球12%),血小板11万。血液生化学所見:総蛋白7.2g/dL,アルブミン2.6g/dL,IgG 2,622mg/dL(基準861~1,747),IgA 261mg/dL(基準93~393),IgM 122mg/dL(基準50~269),総ビリルビン2.1mg/dL,直接ビリルビン0.2mg/dL,AST 66U/L,ALT 56U/L,LD 462U/L(基準124~222),ALP 110U/L(基準38~113),γ-GT 64U/L(基準9~32),CK 42U/L(基準41~153),尿素窒素28mg/dL,クレアチニン1.1mg/dL,TSH 3.6μU/mL(基準0.2~4.0)。CRP 0.1mg/dL。 この患者で陽性となる自己抗体はどれか。
- a.抗CCP抗体
- b.抗Jo-1抗体
- c.抗Mi-2抗体
- d.抗Scl-70抗体
- e.抗dsDNA抗体
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
若年女性に紫外線曝露後の発症、顔面紅斑、多関節炎、高度蛋白尿を伴う腎障害、溶血性貧血・白血球減少・リンパ球減少・血小板減少がそろえば、全身性エリテマトーデス(SLE)を考えます。活動性が高いのにCRPが上がりにくいことや高γグロブリン血症もSLEを支持する所見です。SLEに特異性の高い自己抗体は抗dsDNA抗体と抗Sm抗体で、抗dsDNA抗体は疾患活動性やループス腎炎と相関し、低補体血症を伴います。抗CCP抗体は関節リウマチ、抗Jo-1抗体・抗Mi-2抗体は炎症性筋疾患、抗Scl-70抗体は全身性強皮症に対応しており、臨床像と自己抗体を結びつけて整理することが膠原病の診断と病勢評価の基本になります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・17歳女子。屋外プールでの水泳練習(強い紫外線曝露)を始めて2か月後から、倦怠感、労作時息切れ、両下腿浮腫が出現した。紫外線曝露が発症・増悪の誘因となることは全身性エリテマトーデス(SLE)の特徴である。 ・微熱(37.4℃)と頻脈(110/分)。 ・顔面紅斑(他部位に皮疹なし)→SLEの急性皮膚ループス(蝶形紅斑)を考える。 ・両側の手関節と膝関節の腫脹・圧痛→多関節炎。 ・尿蛋白3+、潜血1+、アルブミン2.6g/dLと低下、尿素窒素28mg/dL、クレアチニン1.1mg/dL(17歳女性としては高値)→糸球体腎炎による高度蛋白尿と腎機能低下、すなわちループス腎炎を疑う。浮腫の主因は低アルブミン血症と考えられる。 ・血球:Hb 8.6g/dLの貧血、網赤血球2.5%と軽度上昇、白血球2,300(減少)、リンパ球約280/μL(著減)、血小板11万(軽度減少)→汎血球減少。 ・総ビリルビン2.1mg/dLのうち直接ビリルビンは0.2mg/dLで間接ビリルビン優位、LD 462U/Lと上昇→溶血を示唆する。網赤血球の増加とあわせ、自己免疫性溶血性貧血を考える。 ・IgG 2,622mg/dLと高値(多クローン性高γグロブリン血症)。 ・CRP 0.1mg/dLと炎症反応が乏しい。CKは正常で筋炎の所見はなく、TSHも正常で甲状腺機能異常はない。
診断へのプロセス
若年女性に、紫外線曝露後の発症、顔面紅斑、多関節炎、腎障害(高度蛋白尿)、溶血性貧血・白血球減少・リンパ球減少・血小板減少という血液異常が同時にみられる。これら多臓器にわたる症状を一つの疾患で説明できるのはSLEである。全身症状や多関節炎があるのにCRPがほとんど上昇しないことは、SLEの特徴的な所見であり(漿膜炎や感染症の合併がなければCRPは上がりにくい)、高γグロブリン血症も診断を支持する。
設問の考え方
SLEで陽性となる自己抗体を選ぶ。SLEでは抗核抗体がほぼ全例で陽性になり、なかでも抗dsDNA抗体と抗Sm抗体はSLEに特異性が高い。抗dsDNA抗体は疾患活動性、とくにループス腎炎の活動性とよく相関する。他の選択肢は、関節リウマチ、炎症性筋疾患、全身性強皮症に特徴的な抗体である。
選択肢考察
- ×a. 抗CCP抗体
抗CCP抗体(抗環状シトルリン化ペプチド抗体)は関節リウマチ(RA)に対する特異度が高く(約90%以上)、発症早期から陽性となり、骨びらんの進行など予後不良とも関連する。本例は多関節炎を呈するが、顔面紅斑、高度蛋白尿、溶血性貧血、白血球・リンパ球減少などRAでは説明できない多臓器病変があり、SLEとして理解すべきである。SLEの関節炎は通常骨破壊を伴わない(変形が生じても整復可能なJaccoud関節症)点もRAと異なる。
- ×b. 抗Jo-1抗体
抗Jo-1抗体はヒスチジルtRNA合成酵素に対する抗体で、抗アミノアシルtRNA合成酵素(ARS)抗体の代表である。多発性筋炎・皮膚筋炎でみられ、間質性肺炎、関節炎、発熱、機械工の手(手指の角化・亀裂)、Raynaud現象を伴う抗ARS抗体症候群を特徴とする。本例はCKが正常で筋炎の所見がなく、間質性肺炎の所見も示されていない。一方で高度蛋白尿や汎血球減少は抗ARS抗体症候群の特徴ではないため、合わない。
- ×c. 抗Mi-2抗体
抗Mi-2抗体は皮膚筋炎に特異性の高い抗体である。ヘリオトロープ疹、Gottron徴候などの典型的な皮膚症状と筋炎を伴い、間質性肺炎や悪性腫瘍の合併が比較的少なく、ステロイドへの反応が良い病型と関連する。皮膚筋炎でも顔面の紅斑はみられるが、本例はCK正常で筋症状がなく、腎障害や血球減少が前景に立つ点から皮膚筋炎は考えにくい。
- ×d. 抗Scl-70抗体
抗Scl-70抗体(抗トポイソメラーゼI抗体)は全身性強皮症、特に皮膚硬化が四肢近位や体幹に及ぶびまん皮膚硬化型に特異的で、間質性肺炎の合併と関連する。限局皮膚硬化型では抗セントロメア抗体が、強皮症腎クリーゼを来しやすい病型では抗RNAポリメラーゼIII抗体が多い。本例には皮膚硬化やRaynaud現象の記載がなく、強皮症を示唆する所見はない。
- ○e. 抗dsDNA抗体
抗dsDNA抗体(抗二本鎖DNA抗体)はSLEの約60〜70%で陽性となり、SLEに対する特異性が高い。抗体価は疾患活動性と相関し、特にループス腎炎の活動期に高値となりやすく、補体(C3、C4、CH50)の低下を伴う。本例は顔面紅斑、多関節炎、ループス腎炎を疑う高度蛋白尿、溶血性貧血、白血球・リンパ球減少を伴う活動性の高いSLEと考えられ、抗dsDNA抗体の陽性が予想される。
SLEの概要
若年女性(20〜40歳台が中心、男女比約1:9)に好発する全身性自己免疫疾患である。免疫複合体の組織沈着と補体の活性化によって多臓器が障害される。紫外線曝露、感染、妊娠・出産、手術などが発症や増悪の誘因となる。
主な症状・所見
・全身症状:発熱、倦怠感、体重減少 ・皮膚粘膜:蝶形紅斑、円板状皮疹、光線過敏症、口腔潰瘍、脱毛 ・関節:非びらん性の多関節炎 ・漿膜炎:胸膜炎、心膜炎(このときはCRPが上昇しやすい) ・腎:ループス腎炎(国際腎臓学会/腎病理学会(ISN/RPS)分類でI〜VI型)。III・IV型(増殖性)は予後に大きく影響する。 ・神経精神:けいれん、精神症状(NPSLE) ・血液:自己免疫性溶血性貧血(直接Coombs試験陽性)、白血球減少、リンパ球減少、血小板減少 ・検査:赤沈亢進、CRPは上昇しにくい、低補体血症、高γグロブリン血症、抗リン脂質抗体陽性(梅毒血清反応の生物学的偽陽性を含む)
SLEに関連する自己抗体
・抗核抗体:ほぼ全例で陽性。感度は高いが特異度は低い。 ・抗dsDNA抗体:特異度が高く、疾患活動性・腎炎と相関する。 ・抗Sm抗体:陽性率は日本人で20〜30%程度と低いが特異度は非常に高い。 ・抗リン脂質抗体(抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラントなど):血栓症や習慣流産と関連する。 ・抗SS-A抗体:新生児ループス(先天性完全房室ブロック)と関連する。 ・抗ヒストン抗体:薬剤誘発性ループスで高率に陽性となる。
分類基準
2019年のEULAR/ACR分類基準では、抗核抗体80倍以上を必須(エントリー基準)とし、臨床項目(発熱、血球減少、皮膚粘膜、漿膜、関節、神経精神、腎)と免疫項目(抗リン脂質抗体、補体、SLE特異抗体)に重み付けした点数をつけて、合計10点以上でSLEと分類する。抗dsDNA抗体または抗Sm抗体の陽性は6点、ループス腎炎III・IV型の腎生検所見は10点と配点が大きい。ほかに1997年改訂ACR基準、2012年SLICC基準も用いられてきた。
治療
グルココルチコイドを基本に、ヒドロキシクロロキン(皮膚症状、関節症状、倦怠感などに有効で、再燃予防のため原則全例で使用を考慮する)、免疫抑制薬(ミコフェノール酸モフェチル、シクロホスファミド静注療法、タクロリムス、アザチオプリンなど)を組み合わせる。難治例には生物学的製剤として抗BLyS(B細胞活性化因子)抗体のベリムマブ、I型インターフェロン受容体抗体のアニフロルマブが用いられる。日常生活では紫外線を避ける指導が重要である。
主な膠原病と特異的自己抗体の対応
・関節リウマチ:抗CCP抗体、リウマトイド因子 ・多発性筋炎・皮膚筋炎:抗ARS抗体(抗Jo-1抗体など)、抗Mi-2抗体、抗MDA5抗体(急速進行性間質性肺炎)、抗TIF1-γ抗体(悪性腫瘍合併) ・全身性強皮症:抗Scl-70抗体、抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体 ・Sjögren症候群:抗SS-A抗体、抗SS-B抗体 ・混合性結合組織病:抗U1-RNP抗体
POINT
・若年女性+紫外線曝露後の発症+顔面紅斑+多関節炎+蛋白尿+溶血性貧血・白血球減少・リンパ球減少・血小板減少→SLE。 ・SLEは活動期でもCRPが上がりにくい(漿膜炎や感染症の合併時は上昇する)。 ・SLEに特異性の高い抗体は抗dsDNA抗体と抗Sm抗体。抗dsDNA抗体は疾患活動性・ループス腎炎と相関し、低補体血症を伴う。 ・抗CCP抗体=RA、抗Jo-1抗体・抗Mi-2抗体=筋炎、抗Scl-70抗体=びまん型全身性強皮症。
