10秒だけ消える意識―3 Hz棘徐波が映す「欠神発作」の正体
第117回医師国家試験 D問題 第63問
国試問題にチャレンジ
7歳の女児。時々,動作が止まったり,会話が途切れたりすることを主訴に両親に連れられて来院した。成長や発達に異常を認めない。既往歴に特記すべきことはない。身体所見に異常を認めない。過呼吸時の脳波を示す。 この脳波所見が出現したときの症状はどれか。

- a.閉眼する。
- b.四肢を強直させる。
- c.顔色が蒼白になる。
- d.呼びかけに反応しない。
- e.頭部が前屈し両上肢が挙上する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
学童期の発達正常な児が、動作や会話が数秒〜十数秒突然止まる発作を繰り返し、過呼吸で全般性3 Hz棘徐波複合が誘発される場合は、小児欠神てんかんの定型欠神発作を考えます。発作中は視床皮質回路の同期した異常発射により意識が途切れ、開眼したまま一点を凝視して呼びかけに反応せず、発作後のもうろう状態やけいれん・転倒は伴いません。閉眼は欠神発作の特徴ではなく、四肢の強直は強直発作、頭部前屈と両上肢挙上はWest症候群のてんかん性スパズム、顔面蒼白は失神や憤怒けいれんで目立つ症状です。治療はエトスクシミド、バルプロ酸、ラモトリギンが中心で、カルバマゼピンなどは欠神発作を悪化させうる点に注意が必要です。脳波所見を実際の発作症状に結びつけて理解することは、「ぼんやりする子」を見逃さない臨床力につながります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・7歳の女児。主訴は「時々、動作が止まったり会話が途切れたりする」こと。短い意識の途絶が繰り返し起きていると考えられる。周囲からは「ぼんやりしている」「話を聞いていない」と見られやすく、学校の授業中などに気づかれることも多い。 ・成長・発達は正常で、既往歴や身体所見にも異常がない。脳に器質的な障害がない、いわゆる特発性(素因性)のてんかんに合う所見である。 ・過呼吸時の脳波:左右の大脳半球の全誘導で同時に、1秒間に約3回の規則的なリズムで、棘波と徐波が対になった波形(3 Hz棘徐波複合)が連続して現れている(全般性3 Hz棘徐波複合の群発)。過呼吸は欠神発作を誘発する代表的な賦活法である。
診断へのプロセス
学童期の女児に短い意識減損発作が繰り返し起こり、発達は正常で、過呼吸によって全般性3 Hz棘徐波複合が誘発される。これらの所見から、小児欠神てんかん(childhood absence epilepsy)の定型欠神発作と診断できる。 鑑別として、同じ年代に多い中心側頭部棘波を示す小児てんかん(睡眠中に顔面や口周囲のけいれんが起こり、脳波で中心・側頭部に棘波が出る)や、焦点意識減損発作(側頭葉てんかんなど。前兆や口をもぐもぐさせる自動症を伴い、発作後にぼんやりした状態が残り、持続も長い)が挙がる。しかし、全般性3 Hz棘徐波複合はこれらと異なり、欠神発作に特徴的な所見である。
設問の考え方
この脳波所見(3 Hz棘徐波複合の群発)が出ている間に、患者に何が起きているかを問う問題である。定型欠神発作では、前触れなく突然意識が途切れ、それまでしていた動作や会話が止まる。目は開いたまま一点を見つめ、呼びかけても反応しない。発作の持続は数秒から十数秒(多くは10秒前後)で、始まりと同じく突然終わり、発作後にもうろう状態を残さずに元の動作を続ける。本人は発作が起きたことを自覚していないことが多い。全身のけいれんや転倒は伴わない。
選択肢考察
- ×a. 閉眼する。
誤り。定型欠神発作では、目は開いたまま一点を見つめて動かなくなる(凝視)のが典型であり、目を閉じるのではない。まぶたが細かくぴくぴく動く(眼瞼ミオクロニー)ことはあるが、閉眼は欠神発作の特徴ではない。なお、てんかん発作は一般に開眼したまま起こることが多い。発作中に強く目を閉じ続けている場合は、むしろ心因性非てんかん性発作を疑う手がかりとなる。
- ×b. 四肢を強直させる。
誤り。四肢を突っ張らせる強直は、強直発作や強直間代発作(全身の筋肉が強く収縮して突っ張る強直期のあと、律動的にがくがくと収縮と弛緩を繰り返す間代期へ移る)の症状である。強直発作は、Lennox-Gastaut症候群(多くは睡眠中に起こり、脳波では2 Hz前後の遅棘徐波がみられる)などで起こる。定型欠神発作は意識の途絶が主な症状で、四肢の強直や転倒は伴わない。
- ×c. 顔色が蒼白になる。
誤り。顔色が蒼白になるのは、血管迷走神経反射による失神や、泣いたあとに起こる憤怒けいれん(息止め発作)の蒼白型など、脳の血流が一時的に減る病態で目立つ症状である。強直間代発作では、呼吸が止まることでチアノーゼがみられる。定型欠神発作は数秒から十数秒の短い意識の途絶が中心であり、顔面蒼白は欠神発作を特徴づける症状ではない。
- ○d. 呼びかけに反応しない。
正しい。3 Hz棘徐波複合が出ている間は、大脳皮質と視床を結ぶ神経回路(視床皮質回路)全体で、同期した異常な発射が起きている。このため意識が途切れ、呼びかけや周囲からの刺激に反応しなくなる。これが定型欠神発作の中心となる症状であり、患者は動作や会話を突然止め、うつろな目で一点を見つめる。脳波で棘徐波の群発が終わると同時に意識は元に戻り、元の動作を続ける。
- ×e. 頭部が前屈し両上肢が挙上する。
誤り。頭部を急に前に曲げ、両上肢を持ち上げる一瞬の発作は、てんかん性スパズムである。主に乳児期(多くは生後3〜11か月)に発症するWest症候群(点頭てんかん)でみられる。スパズムは数秒から数十秒の間隔で繰り返し起こり(シリーズ形成)、寝起きに起こりやすい。脳波ではヒプスアリスミア(高振幅の徐波と棘波が無秩序に混ざった波形)がみられ、発達の停止や退行を伴うことが多い。7歳で発達が正常な本例には当てはまらない。
小児欠神てんかんの概要
・幼児期後半から学童期(おおむね4〜10歳)に発症する。女児に多い。素因性(特発性)全般てんかんの代表であり、発達は正常で、頭部MRIにも異常を認めない。 ・発作:定型欠神発作が1日に何回も(ときに数十回以上)起こる。1回の持続は10秒前後である。発作中に軽い自動症(口をもぐもぐさせる、手をもてあそぶなど)や眼瞼ミオクロニーを伴うこともある。 ・誘発:過呼吸によって誘発されやすい。外来で数分間、過呼吸をさせると発作を再現できることが多く、診断に役立つ。 ・脳波:発作時に全般性3 Hz棘徐波複合が規則正しく連続して出現する。発作がない時期(間欠期)にも短い群発がみられることがある。 ・治療:エトスクシミド、バルプロ酸が第一選択であり、ラモトリギンも用いられる。カルバマゼピンやフェニトインなどナトリウムチャネル遮断薬の一部は欠神発作を悪化させることがあるので避ける。 ・予後:治療への反応はよく、多くは思春期までに発作がなくなる。一部では、のちに全身性強直間代発作が出てきたり、若年ミオクロニーてんかんなどに移行したりすることがある。
小児の代表的なてんかん症候群
・West症候群:乳児期に発症する。てんかん性スパズム、ヒプスアリスミア、発達の停止・退行が三主徴である。治療にはACTH療法やビガバトリンを用いる。 ・Lennox-Gastaut症候群:幼児期に発症する。強直発作、非定型欠神発作、脱力発作など複数の発作型をもち、脳波では遅棘徐波(約2 Hz以下)がみられる。知的障害を伴い、難治性である。 ・中心側頭部棘波を示す自然終息性てんかん(旧称:中心側頭部棘波を示す良性小児てんかん、ローランドてんかん):学童期に発症し、睡眠中に顔面や口周囲の焦点発作が起こる。思春期までに自然に治まる。 ・若年ミオクロニーてんかん:思春期に発症する。起床後まもなく四肢がぴくっとするミオクロニー発作が起こり、全身性強直間代発作を伴う。脳波は多棘徐波複合を示す。バルプロ酸がよく効くが、薬をやめると再発しやすい。
定型欠神発作と非定型欠神発作
・定型:始まりと終わりが急である。脳波は規則的な3 Hz棘徐波複合を示し、発達は正常であることが多い。 ・非定型:始まりと終わりがゆるやかで、筋緊張の変化を伴いやすい。脳波は不規則な遅棘徐波(2.5 Hz未満)を示し、Lennox-Gastaut症候群などでみられる。
POINT
・学童期の女児で、動作が止まる短い意識減損を繰り返す場合は小児欠神てんかんを考える。 ・過呼吸で誘発され、脳波で全般性3 Hz棘徐波複合がみられる。 ・発作中は開眼したまま凝視し、呼びかけに反応しない。持続は10秒前後で、発作後のもうろう状態はない。けいれんや転倒は伴わない。 ・治療はエトスクシミド、バルプロ酸、ラモトリギンである。カルバマゼピンは欠神発作を悪化させうる。 ・頭部前屈+両上肢挙上のスパズムはWest症候群、四肢の強直は強直発作である。
