StudyMed医師国家試験

好中球を狙う自己抗体ANCA―血管の「太さ」で見抜く血管炎の地図

第116回医師国家試験 F問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第116回 F問題 第15問

好中球の構成成分に対する自己抗体が診断に有用な疾患はどれか。

  1. a.川崎病
  2. b.高安動脈炎
  3. c.巨細胞性動脈炎
  4. d.結節性多発動脈炎
  5. e.顕微鏡的多発血管炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は血管炎と自己抗体の対応を問う問題だ。まず「好中球の構成成分に対する自己抗体」が何を指すかを言い換えられるかどうか、そして血管炎を侵す血管の太さで整理できているかがカギになる。
医学生医学生
好中球に対する自己抗体……抗好中球細胞質抗体、ANCAのことですね。
ドクタードクター
その通り。ANCAは好中球の細胞質にある顆粒の酵素を標的にする自己抗体で、代表はミエロペルオキシダーゼを標的とするMPO-ANCAと、プロテイナーゼ3を標的とするPR3-ANCAの2つだ。
医学生医学生
免疫学の講義でp-ANCAとc-ANCAという呼び方も習いました。どちらがどっちか、いつも混乱します。
ドクタードクター
間接蛍光抗体法での染まり方による呼び名だね。核の周りが染まるのがp-ANCA、perinuclearで主にMPO。細胞質がびまん性に染まるのがc-ANCA、cytoplasmicで主にPR3。今は抗原ごとに直接測定するのが一般的だから、MPOとPR3で覚えておけば十分だよ。
医学生医学生
では、ANCAが陽性になる血管炎を選べばいいわけですね。結節性多発動脈炎も「多発」がつくので候補に見えます。
ドクタードクター
そこがひっかけポイントだ。血管炎はChapel Hill分類で大型・中型・小型に分ける。ANCAが診断に役立つのは小型血管炎のうち「ANCA関連血管炎」と呼ばれる一群で、顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の3つだ。結節性多発動脈炎は中型血管炎で、ANCAは陰性なんだ。
医学生医学生
名前が似ているのに、まったく別の分類なんですね。
ドクタードクター
実はかつては同じ範疇で扱われていたんだよ。その後、小型血管や糸球体を侵し、ANCAが陽性になる一群が顕微鏡的多発血管炎として独立した。結節性多発動脈炎は中型の筋性動脈に壊死性血管炎を起こし、血管造影で微小動脈瘤が多発するのが特徴で、B型肝炎ウイルスとの関連が知られている。
医学生医学生
川崎病も中型血管炎でしたよね。小児科の実習で、冠動脈瘤のフォローの心エコーを見学しました。
ドクタードクター
いい経験だね。川崎病は発熱、眼球結膜充血、いちご舌などの口唇・口腔所見、発疹、四肢末端の変化、頸部リンパ節腫脹といった主要症状の組み合わせで診断する臨床診断で、自己抗体は使わない。
医学生医学生
高安動脈炎と巨細胞性動脈炎は大型血管炎なので、これも違いますね。
ドクタードクター
そう。高安動脈炎は若年女性に多く、大動脈とその分枝が狭窄して脈が触れにくくなったり血圧に左右差が出たりする。HLA-B52との関連はあるけれど、診断は画像検査が中心だ。巨細胞性動脈炎は高齢者に多く、頭痛や顎跛行、失明の危険があって、側頭動脈生検や画像で診断する。どちらにも診断に有用な自己抗体はない。
医学生医学生
残る顕微鏡的多発血管炎が正解ですね。小型血管炎で、MPO-ANCAが陽性になる。
ドクタードクター
正解。細小動脈・毛細血管・細静脈を侵す壊死性血管炎で、肉芽腫をつくらないのが特徴だ。高齢者に多く、急速進行性糸球体腎炎や肺胞出血、間質性肺炎、多発単神経炎を起こす。わが国ではMPO-ANCA陽性例が大部分を占めるんだ。
医学生医学生
腎臓内科の実習で、血尿と急速な腎機能低下で入院した高齢の患者さんがMPO-ANCA陽性でした。腎生検で半月体があったと聞きました。
ドクタードクター
まさに典型例だね。発展として、ほかのANCA関連血管炎も整理しておこう。多発血管炎性肉芽腫症は鼻・副鼻腔などの上気道、肺、腎の病変と肉芽腫形成が特徴で、PR3-ANCAが特徴的。ただし日本ではMPO-ANCA陽性例も少なくない。好酸球性多発血管炎性肉芽腫症は喘息が先行して好酸球が増え、MPO-ANCA陽性は3〜4割程度で、陰性例も多い。
医学生医学生
ANCAが陰性でも、ANCA関連血管炎を否定しきれないということですね。
ドクタードクター
その通り。臨床では、ANCAは診断の大きな手がかりだけれど、症状や臓器病変、可能なら生検所見と合わせて判断する。腎機能が急速に悪化する症例では、ANCAや抗GBM抗体を早めに提出して治療開始を遅らせないことが大切だよ。

まとめ

好中球の構成成分に対する自己抗体とはANCA(抗好中球細胞質抗体)であり、MPOを標的とするMPO-ANCA(p-ANCA)とPR3を標的とするPR3-ANCA(c-ANCA)が代表です。血管炎は侵される血管の太さで分類され、ANCAが診断に有用なのは小型血管炎のうち顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の3疾患です。顕微鏡的多発血管炎は肉芽腫を形成しない壊死性血管炎で、急速進行性糸球体腎炎や肺胞出血を起こし、わが国ではMPO-ANCA陽性例が大部分を占めます。一方、高安動脈炎・巨細胞性動脈炎(大型)や結節性多発動脈炎・川崎病(中型)には診断に有用な自己抗体はなく、臨床症状や画像、生検で診断します。血管炎を血管の太さとANCAの有無で整理しておくことは、急速に進行する腎障害や肺胞出血に早く気づき治療につなげるための基盤になります。

解答・解説

正解はeです

「好中球の構成成分に対する自己抗体」とは、抗好中球細胞質抗体(ANCA:anti-neutrophil cytoplasmic antibody)のことである。ANCAは好中球の細胞質内顆粒に含まれる酵素を標的とする自己抗体で、代表的なものに次の2種類がある。 ・MPO-ANCA:ミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase)を標的とする。間接蛍光抗体法で核周囲が染まる型(p-ANCA、perinuclear)を示す。 ・PR3-ANCA:プロテイナーゼ3(proteinase 3)を標的とする。細胞質がびまん性に染まる型(c-ANCA、cytoplasmic)を示す。 血管炎は、侵される血管の太さによって大型・中型・小型に分類される(Chapel Hill分類 2012)。ANCAが陽性となり診断に役立つのは、小型血管炎のうち「ANCA関連血管炎」と呼ばれる一群で、顕微鏡的多発血管炎(MPA)、多発血管炎性肉芽腫症(GPA、旧称Wegener肉芽腫症)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA、旧称Churg-Strauss症候群)の3疾患が含まれる。 選択肢のうち大型血管炎(高安動脈炎、巨細胞性動脈炎)と中型血管炎(結節性多発動脈炎、川崎病)には、診断に有用な疾患特異的自己抗体は知られていない。小型血管炎であり、MPO-ANCAが高率に陽性となる顕微鏡的多発血管炎が正解である。

選択肢考察

  1. ×a.  川崎病

    川崎病は主に4歳以下の乳幼児にみられる中型血管炎で、冠動脈病変(冠動脈瘤)が最も重要な合併症である。診断は発熱、両側眼球結膜充血、口唇・口腔所見(口唇紅潮、いちご舌)、不定形発疹、四肢末端の変化(急性期の手足の硬性浮腫、回復期の膜様落屑)、非化膿性頸部リンパ節腫脹という主要症状の組み合わせで行う臨床診断であり、診断に用いる自己抗体はない。

  2. ×b.  高安動脈炎

    高安動脈炎は若年女性に多い大型血管炎で、大動脈とその主要分枝(鎖骨下動脈、頸動脈など)に狭窄・閉塞・拡張を生じ、上肢の脈拍触知不良や血圧の左右差、血管雑音などを呈する。HLA-B52との関連が知られるが、診断は造影CT・MRA・PETなどの画像検査で血管病変を確認して行い、診断に有用な自己抗体はない。

  3. ×c.  巨細胞性動脈炎

    巨細胞性動脈炎(旧称:側頭動脈炎)は50歳以上の高齢者に多い大型血管炎で、側頭部痛、側頭動脈の圧痛・怒張、顎跛行、視力障害(失明の危険)を生じ、リウマチ性多発筋痛症を合併しやすい。赤沈亢進・CRP上昇などの炎症所見と側頭動脈生検(巨細胞を伴う肉芽腫性炎症)や画像検査で診断し、診断に有用な自己抗体はない。

  4. ×d.  結節性多発動脈炎

    結節性多発動脈炎(PAN)は中型の筋性動脈に壊死性血管炎を起こす疾患で、腎梗塞・腎血管性高血圧、多発単神経炎、腸間膜動脈病変による腹痛、皮膚結節などを呈する。B型肝炎ウイルス感染との関連が知られる。かつては顕微鏡的多発血管炎と同じ範疇で扱われたが、現在は小型血管や糸球体を侵さずANCAが陰性である点で区別されている。診断は生検組織や血管造影(微小動脈瘤の多発)によって行い、診断に有用な自己抗体はない。

  5. ○e.  顕微鏡的多発血管炎

    顕微鏡的多発血管炎(MPA)は細小動脈・毛細血管・細静脈を侵す壊死性血管炎で、肉芽腫形成を伴わない。高齢者に多く、急速進行性糸球体腎炎(壊死性半月体形成性糸球体腎炎)や肺胞出血、間質性肺炎、多発単神経炎を起こす。好中球の顆粒酵素MPOに対する自己抗体であるMPO-ANCAが高率に陽性となり、診断に有用であるため正解である。わが国のMPAではMPO-ANCA陽性例が大部分を占める。

血管の太さによる血管炎の分類(Chapel Hill分類 2012の概略)

・大型血管炎:高安動脈炎、巨細胞性動脈炎 ・中型血管炎:結節性多発動脈炎、川崎病 ・小型血管炎  ANCA関連血管炎:顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症  免疫複合体性血管炎:IgA血管炎(旧称Henoch-Schönlein紫斑病)、クリオグロブリン血症性血管炎、抗糸球体基底膜(GBM)病など

ANCA関連血管炎とANCAの対応

・顕微鏡的多発血管炎(MPA):MPO-ANCAが高率に陽性。肉芽腫を形成しない。 ・多発血管炎性肉芽腫症(GPA):PR3-ANCA(c-ANCA)が特徴的。上気道(鼻・副鼻腔)、肺、腎の病変と肉芽腫形成が特徴。欧米ではPR3-ANCA陽性が多いが、わが国ではMPO-ANCA陽性例も少なくない。 ・好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA):気管支喘息やアレルギー性鼻炎が先行し、末梢血好酸球増多を伴う。MPO-ANCAが陽性となるのは3~4割程度で、陰性例も多い。

ANCAの検出法

間接蛍光抗体法では染色パターンによりc-ANCA(細胞質がびまん性に染まる、主にPR3)とp-ANCA(核周囲が染まる、主にMPO)に分けられる。現在は抗原特異的な酵素免疫測定法(ELISA、化学発光法など)でMPO-ANCA、PR3-ANCAを直接測定するのが一般的である。

ANCA以外の主な自己抗体と疾患の対応(参考)

・抗GBM抗体:抗GBM病(Goodpasture症候群) ・抗核抗体、抗dsDNA抗体、抗Sm抗体:全身性エリテマトーデス ・抗リン脂質抗体:抗リン脂質抗体症候群

POINT

・好中球の構成成分に対する自己抗体=ANCA(抗好中球細胞質抗体)。 ・MPO-ANCA(p-ANCA)→顕微鏡的多発血管炎で高率陽性。EGPAでも一部陽性。 ・PR3-ANCA(c-ANCA)→多発血管炎性肉芽腫症に特徴的。 ・大型血管炎(高安動脈炎、巨細胞性動脈炎)と中型血管炎(結節性多発動脈炎、川崎病)には診断に有用な自己抗体がない。 ・結節性多発動脈炎はANCA陰性で、B型肝炎ウイルスとの関連がある。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。