StudyMed医師国家試験

「できない診察」を見抜け―意識障害患者で使える手技・使えない手技

第116回医師国家試験 B問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第116回 B問題 第5問

意識障害のある患者に行うことが困難な身体診察はどれか。

  1. a.腱反射
  2. b.項部硬直
  3. c.対光反射
  4. d.鼻指鼻試験
  5. e.膝立て試験(下肢ドロッピングテスト)

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、意識障害のある患者さんに対して、どの身体診察なら実施できて、どれが難しいかを問う問題だ。ポイントは一つ、「その診察は患者さんの協力を必要とするかどうか」という視点で手技を分類することだよ。
医学生医学生
意識がないと、そもそも神経診察自体ができないような気がしてしまいます。
ドクタードクター
そう感じる人は多いね。でも実際には、救急外来で運ばれてくる意識障害の患者さんにこそ、神経診察は欠かせない。指示が通らなくてもできる診察はたくさんあるんだ。まずは反射から考えてみよう。腱反射はどうかな。
医学生医学生
ハンマーで叩くと勝手に筋肉が収縮するので、本人が頑張る必要はないですね。
ドクタードクター
その通り。腱反射は筋が急に伸ばされたときに起こる脊髄レベルの伸張反射で、完全に不随意の反応だ。亢進していれば錐体路障害、減弱・消失なら反射弓の障害を考える。左右差は昏睡の患者さんでも病変の側を推定する大事な手がかりになる。
医学生医学生
対光反射も同じ考え方でいいですか。神経解剖の講義で、求心路が視神経、遠心路が動眼神経と習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。中枢は中脳だから、対光反射は脳幹機能の評価そのものなんだ。意識障害の患者さんではむしろ必須の診察で、たとえばテント切痕ヘルニアでは圧迫された側の動眼神経が障害され、同側の散瞳と対光反射の消失が起こる。
医学生医学生
項部硬直は、患者さんに首を曲げてもらう検査でしたっけ。
ドクタードクター
そこはよくある誤解だね。項部硬直は、仰向けの患者さんの頭を検者が持ち上げて、他動的に首を前屈させたときの抵抗をみるものだ。髄膜炎やくも膜下出血で髄膜が刺激されると、項部の筋が反射的に緊張する。患者さんの協力はいらないから、意識障害があっても評価できる。ただし深昏睡になると筋緊張全体が落ちて出にくくなる点は覚えておこう。
医学生医学生
膝立て試験というのは、あまりなじみがありません。
ドクタードクター
仰向けの患者さんの両膝を検者が曲げて立たせておき、手を離して観察する方法だ。麻痺のある側は姿勢を保てず、外側に倒れたり、膝が伸びて滑ったりする。肢位をつくるのは検者だから、指示が通らない患者さんの片麻痺を見つける方法として、むしろ積極的に使われるんだ。上肢を持ち上げて離す上肢落下試験もセットで覚えておくといい。
医学生医学生
となると、残る鼻指鼻試験が難しいということですね。OSCEの練習で「私の指とご自分の鼻を交互に触ってください」と声をかけたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそれが答えだ。鼻指鼻試験は、患者さんが指示を理解して自分の意思で上肢を動かす協調運動の検査で、主に小脳機能をみている。指示が理解できない、自分で動けない意識障害の状態では、検査そのものが成り立たない。
医学生医学生
小脳障害があると、指が行き過ぎたり、目標の手前で止まったりするんでしたよね。
ドクタードクター
そう、それが測定異常だ。目標に近づくほど揺れが強まる企図振戦もみられる。ここで整理すると、反射や検者が他動的に行う手技は意識障害でも可能、患者さんが能動的に動く検査は不可能、ということになる。
医学生医学生
同じ理屈なら、Barré徴候やRomberg試験、徒手筋力テストも意識障害の患者さんにはできないですね。
ドクタードクター
正解。踵膝試験や回内回外試験、感覚検査の多く、対座法による視野検査も同じで、協力が前提の検査だ。逆に意識障害の患者さんでは、意識レベルをJCSやGCSで評価したうえで、瞳孔・対光反射・角膜反射・眼球頭反射などの脳幹反射、疼痛刺激に対する四肢の動きの左右差、Babinski徴候、除皮質硬直や除脳硬直といった異常肢位を組み合わせて病変の部位と重症度を推定していく。
医学生医学生
救急科の実習で、指導医の先生が最初に瞳孔を見て、それから手足を持ち上げて落としていた理由がやっとわかりました。
ドクタードクター
限られた時間で、協力なしに得られる情報を最大限集めているんだね。「この診察は患者さんに何を求めるか」を意識すると、どんな場面でも適切な手技を選べるようになるよ。

まとめ

身体診察は、患者の指示理解と随意運動を必要とするものと、反射や検者の他動的操作で評価できるものに分けられます。腱反射・対光反射は不随意の反射、項部硬直は検者が頸部を他動的に前屈させる手技、膝立て試験(下肢ドロッピングテスト)は検者がつくった肢位の保持をみる方法であり、いずれも意識障害患者で実施でき、膝立て試験は片麻痺の検出にむしろ有用です。一方、鼻指鼻試験は患者が自ら指を動かす小脳協調運動の検査であり、Barré徴候、Romberg試験、徒手筋力テストなどと同様に意識障害下では行えません。意識障害患者ではJCS・GCSによる意識レベル評価に、脳幹反射、四肢の動きの左右差、病的反射、髄膜刺激徴候を組み合わせて病変を推定します。「患者に何を求める検査か」という視点は、救急現場で迅速かつ適切な神経診察を行うための基本となります。

解答・解説

正解はdです

身体診察の手技は、患者の協力(指示の理解と随意運動)を必要とするものと、必要としないものに大別できる。意識障害のある患者では言語指示を理解して自分で動作を行うことができないため、前者に属する診察は成立しない。 反射(腱反射、対光反射)は刺激に対する不随意の反応をみるもので、患者の協力は要らない。髄膜刺激徴候(項部硬直)も検者が他動的に頸部を動かして抵抗を確かめるため、意識がなくても評価できる。膝立て試験(下肢ドロッピングテスト)は検者が下肢の肢位を作って手を離し、その後の動きを観察するもので、意識障害患者における麻痺の検出法としてむしろ積極的に用いられる。 これに対し、鼻指鼻試験は患者自身が指示に従って自分の鼻と検者の指の間を往復させる随意運動を行う協調運動検査であり、意識障害下では実施できない。このように「患者が能動的に行う検査か、検者が他動的に行う・不随意反応をみる検査か」という視点で各選択肢を分類すると正解に至る。

選択肢考察

  1. ×a.  腱反射

    腱をハンマーで叩いて筋を急に伸張し、脊髄レベルの単シナプス反射(伸張反射)による筋収縮をみる検査である。不随意の反応なので意識障害があっても実施でき、亢進・減弱や左右差の評価は昏睡患者でも重要な情報となる。上位運動ニューロン(錐体路)障害では上位からの抑制が外れて亢進し、反射弓を構成する末梢神経・脊髄前角などの障害では減弱・消失する。

  2. ×b.  項部硬直

    仰臥位の患者の頭部を検者が持ち上げて頸部を他動的に前屈させ、抵抗の有無をみる髄膜刺激徴候の診察である。髄膜の炎症や出血(髄膜炎、くも膜下出血など)により項部・傍脊柱筋が反射的に緊張するために生じ、患者の協力は不要であるため意識障害があっても評価できる。ただし深昏睡では筋緊張が全体に低下し、項部硬直が出にくくなる点には注意する。

  3. ×c.  対光反射

    瞳孔に光を当てて縮瞳が起こるかをみる反射で、求心路は視神経、中枢は中脳(視蓋前域からEdinger-Westphal核)、遠心路は動眼神経の副交感線維である。不随意反射なので意識障害の有無に関係なく実施でき、むしろ意識障害患者の脳幹機能評価に欠かせない。テント切痕ヘルニアでは圧迫側の動眼神経が障害され、同側の散瞳と対光反射の消失がみられる。

  4. ○d.  鼻指鼻試験

    検者と患者が向き合い、患者に自分の示指で自分の鼻先と検者の指先とを交互に触れさせる協調運動(主に小脳機能)の検査である。指示を理解し、それに従って随意的に上肢を動かすことが前提となるため、意識障害のある患者では検査そのものが成り立たない。小脳障害では目標までの距離を正確に調節できず、行き過ぎや手前で止まる測定異常(推尺異常)や、目標に近づくほど揺れが強まる企図振戦がみられる。

  5. ×e.  膝立て試験(下肢ドロッピングテスト)

    仰臥位の患者の両膝を検者が屈曲させて立てた位置に保ち、急に手を離して観察する。麻痺側の下肢はその肢位を保持できず、外側に倒れたり膝が伸びて前方へ滑ったりする。肢位の形成は検者が行い、患者に指示に従う能力を求めないため、意識レベルが低下して意思疎通が困難な患者の片麻痺の検出に有用である。

意識障害患者の神経学的診察

意識障害患者では、意識レベル(JCS:Japan Coma Scale、GCS:Glasgow Coma Scale)の評価に加え、指示を必要としない診察を組み合わせて病変の部位や重症度を推定する。 ・脳幹機能:瞳孔径と左右差、対光反射、角膜反射、眼球頭反射(人形の目現象)、眼位、呼吸パターン ・運動系:自発運動や疼痛刺激に対する四肢の動きの左右差、腱反射、Babinski徴候などの病的反射、筋緊張、除皮質硬直・除脳硬直などの異常肢位 ・麻痺の検出:上肢落下試験(両上肢を持ち上げて離すと麻痺側が先に・速く落ちる)、膝立て試験(下肢ドロッピングテスト) ・髄膜刺激徴候:項部硬直、Kernig徴候

協力が必要な診察の例

鼻指鼻試験・指鼻試験、踵膝試験、回内回外試験(反復拮抗運動)、Barré徴候(上肢・下肢)、Romberg試験、徒手筋力テスト(MMT)、感覚検査の多く、視野検査(対座法)などは、患者が指示を理解して能動的に応じる必要があるため意識障害下では行えない。

小脳性運動失調の所見

小脳障害では、測定異常(推尺異常)、反復拮抗運動不能、企図振戦、運動の分解、筋緊張低下などが生じる。主動筋の収縮の止まりが遅れ、拮抗筋の収縮開始も遅れるため、目標をうまく捉えられなくなる。

POINT

・反射(腱反射、対光反射、病的反射)や他動的な手技(項部硬直、上肢落下試験、膝立て試験)は意識障害患者でも評価できる。 ・鼻指鼻試験、Barré徴候、Romberg試験、MMTなど、指示に従った随意運動を要する検査は意識障害患者では行えない。 ・膝立て試験・上肢落下試験は意識障害患者の片麻痺検出法として重要である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。