不整な脈が脳を詰まらせる―片麻痺の患者で心電図を予想する
第116回医師国家試験 A問題 第61問
国試問題にチャレンジ
A 64-year-old man was brought to the emergency department because of left hemiplegia with impaired consciousness. On physical examination, consciousness level was GCS E4V4M6, blood pressure 164/82mmHg, pulse rate 96/min and irregular. Neurological examination was unremarkable except for left hemiplegia. No carotid bruit was heard on either side. Brain MRI is shown in the figure. Which of the following is the most likely ECG diagnosis?

- a.Atrial fibrillation
- b.Supraventricular tachycardia
- c.Third-degree atrioventricular block
- d.Ventricular fibrillation
- e.Ventricular tachycardia
対話形式の解説
ドクター
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医学生まとめ
突然発症の片麻痺に意識障害を伴い、MRIで皮質を含む広範な中大脳動脈領域の梗塞を認め、頸動脈雑音がなく脈が不整であれば、心原性脳塞栓症を強く疑います。その原因として最も多いのが心房細動で、心房の有効な収縮が失われて左心耳に血栓ができ、それが脳動脈に飛ぶことで発症します。心電図ではP波の消失、f波、R-R間隔の完全な不規則がみられ、規則的な頻拍である上室頻拍・心室頻拍、徐脈となる完全房室ブロック、心停止となる心室細動とは区別されます。急性期には血栓溶解療法や血栓回収療法、再発予防にはCHA2DS2-VAScスコアなどでリスクを評価したうえで抗凝固療法を検討します。脳梗塞の病型診断では、神経所見だけでなく脈や心電図に目を向けることが治療方針を左右します。
解答・解説
正解はaです
問題文の要旨
64歳の男性が、左片麻痺と意識障害のため救急外来に搬送された。意識レベルはGCS(Glasgow Coma Scale)でE4V4M6、血圧164/82 mmHg、脈拍96/分で不整である。神経学的所見は左片麻痺以外に特記すべきものはない。頸動脈雑音は左右とも聴取しない。頭部MRI(拡散強調画像)が示されている。最も考えられる心電図診断はどれか、という問いである。
所見の整理
・突然発症の左片麻痺と意識障害:右大脳半球の急性の脳血管障害を考える。 ・GCS E4V4M6:自発的に開眼し(E4)、会話はできるが見当識障害がある(V4)、命令に従って動かせる(M6)。合計14点で、軽度の意識障害である。 ・脈拍96/分で不整:脈のリズムが不規則であり、不整脈、特に心房細動を強く疑う手がかりである。 ・頸動脈雑音なし:頸動脈の高度狭窄を示唆する所見がなく、頸動脈病変によるアテローム血栓性脳梗塞の可能性は下がる。 ・頭部MRI拡散強調画像(DWI):右前頭葉から島回周囲の皮質・皮質下に広がる高信号域を認め、右中大脳動脈(MCA)領域の急性期脳梗塞である。DWIは発症後早期から梗塞巣を高信号として描出できる撮像法である。皮質を含む広い範囲が一度に障害されるのは、塞栓によって比較的太い血管が突然閉塞したときの特徴である。
診断のプロセス
脳梗塞は大きく、ラクナ梗塞(穿通枝の小梗塞)、アテローム血栓性脳梗塞(太い動脈の動脈硬化性狭窄による)、心原性脳塞栓症(心臓内の血栓が飛んで脳動脈を閉塞する)に分けられる。本例は、皮質を含む広範な梗塞で、意識障害を伴い、頸動脈雑音がなく、脈が不整であることから、心原性脳塞栓症が最も考えられる。 心原性脳塞栓症の原因の大部分は非弁膜症性心房細動である。心房細動では心房が有効に収縮しないため、左房、特に左心耳で血流がうっ滞して血栓ができ、それが剝がれて左室→大動脈→脳動脈へと流れて塞栓を起こす。選択肢の中で、脈が不規則になり、かつ脳塞栓の原因となる不整脈は心房細動である。
選択肢考察
- ○a. Atrial fibrillation
正しい。心房細動(atrial fibrillation)は、心房が毎分350〜600回程度の無秩序な電気的興奮を起こす不整脈である。心電図ではP波が消失して基線が細かく揺れるf波がみられ、R-R間隔がまったく不規則となる(絶対性不整脈)。そのため脈も不整となり、本例の「脈拍96/分、不整」と一致する。心房の有効な収縮が失われることで左心耳に血栓が形成され、脳梗塞(心原性脳塞栓症)のほか、腎梗塞、腸間膜動脈閉塞、四肢の急性動脈閉塞などの全身塞栓症を起こす。心原性脳塞栓症の原因として最も多い。
- ×b. Supraventricular tachycardia
誤り。上室頻拍(発作性上室頻拍;PSVT)は、房室結節リエントリーや副伝導路を介するリエントリーなどで起こる頻拍で、心拍数はおよそ150〜250/分と速く、R-R間隔は規則正しい。突然始まり突然止まる動悸が典型である。本例は脈拍96/分で不整であり合致しない。また、発作が短時間で終わる上室頻拍は、心房内血栓の原因になりにくい。
- ×c. Third-degree atrioventricular block
誤り。第3度房室ブロック(完全房室ブロック)は、心房から心室への興奮伝導が完全に途絶え、心房と心室がそれぞれ独立したリズムで興奮する状態である。心室は下位の補充調律で動くため、心拍数は通常40/分前後かそれ以下の徐脈となり、R-R間隔は比較的規則正しい。脈拍96/分で不整という本例の所見とは合わない。症状としては失神(Adams-Stokes発作)や心不全が問題となり、脳塞栓の主要な原因ではない。
- ×d. Ventricular fibrillation
誤り。心室細動(ventricular fibrillation)は心室が無秩序に興奮して有効な拍出がなくなる致死性不整脈で、発症すると数秒で意識を失い、脈は触れず、心停止の状態となる。直ちに心肺蘇生と電気的除細動が必要である。本例は脈拍が触れ、血圧も保たれているため該当しない。
- ×e. Ventricular tachycardia
誤り。心室頻拍(ventricular tachycardia)は心室から起こる頻拍で、心電図では幅の広いQRS波が速い心拍数(多くは120〜250/分程度)で連続する。単形性心室頻拍ではR-R間隔はほぼ規則的である。血行動態が破綻すると失神や心停止に至るが、脈拍96/分で不整という本例の所見とは合わず、心房内血栓による脳塞栓の原因にもなりにくい。
脳梗塞の病型の比較
・心原性脳塞栓症:心房細動などで心内にできた血栓が脳動脈を閉塞する。突然発症し、発症時に症状が完成していることが多い。皮質を含む広範な梗塞となりやすく、意識障害や失語・半側空間無視などの皮質症状を伴う。閉塞した血栓が溶けて血流が再開すると出血性梗塞を起こしやすい。 ・アテローム血栓性脳梗塞:頸動脈や頭蓋内の太い動脈の動脈硬化性狭窄が原因。症状が段階的に進行することがあり、一過性脳虚血発作(TIA)が先行することも多い。頸動脈狭窄があれば頸動脈雑音を聴取することがある。 ・ラクナ梗塞:高血圧による穿通枝の細動脈病変が原因で、直径15 mm未満の小梗塞。意識障害や皮質症状は通常伴わず、純粋運動性片麻痺などを呈する。
心房細動と脳梗塞予防
非弁膜症性心房細動患者の脳梗塞リスクは、CHA2DS2-VAScスコアで評価する。構成項目は、C:心不全(1点)、H:高血圧(1点)、A2:75歳以上(2点)、D:糖尿病(1点)、S2:脳卒中・TIA・血栓塞栓症の既往(2点)、V:血管疾患(心筋梗塞の既往、末梢動脈疾患、大動脈プラークなど;1点)、A:65〜74歳(1点)、Sc:女性(1点)である。点数が高いほど脳梗塞のリスクが高く、抗凝固療法の適応を判断する目安となる。なお、より簡便な旧来のCHADS2スコア(心不全・高血圧・75歳以上・糖尿病を各1点、脳卒中/TIA既往を2点とする)も併せて参照されることがあり、CHA2DS2-VAScは特にCHADS2で0〜1点の低リスク群をより細かく層別化できる点が利点である。抗凝固薬としては、ワルファリンのほか、直接経口抗凝固薬(DOAC:ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン)が用いられる。一方、僧帽弁狭窄症や機械弁置換後に伴う心房細動ではワルファリンを用いる。
急性期の治療
発症から4.5時間以内で適応を満たせば、遺伝子組み換え組織型プラスミノゲンアクチベーター(rt-PA、アルテプラーゼ)の静注による血栓溶解療法を行う。主幹動脈閉塞では、カテーテルを用いた機械的血栓回収療法も行われる。
GCS(Glasgow Coma Scale)
開眼(E:1〜4)、言語反応(V:1〜5)、運動反応(M:1〜6)の合計3〜15点で評価する。V4は「混乱した会話(見当識障害あり)」、M6は「命令に従う」である。
POINT
・突然発症の片麻痺+意識障害+不整脈(脈の不整)+皮質を含む広範な梗塞 → 心原性脳塞栓症。 ・心原性脳塞栓症の原因として最も多いのは心房細動(左心耳血栓)。 ・心房細動の心電図:P波消失、f波、R-R間隔が完全に不規則。 ・上室頻拍・心室頻拍は規則的な頻拍、完全房室ブロックは徐脈、心室細動は心停止である。 ・非弁膜症性心房細動ではCHA2DS2-VAScスコアで脳梗塞リスクを評価し、抗凝固療法(DOACまたはワルファリン)を検討する。
