StudyMed医師国家試験

ドライアイと関節痛がつながるとき―Sjögren症候群を確かめる抗SS-A抗体

第115回医師国家試験 A問題 第44問

国試問題にチャレンジ

第115回 A問題 第44問

42歳の女性。関節痛を主訴に来院した。1年ほど前から眼の乾燥感を自覚していた。自宅近くの眼科を受診し,ドライアイと診断され点眼薬の処方を受けている。3か月前から手のこわばりと両側手指の関節痛を自覚し,症状が改善しないため受診した。体温36.5℃。脈拍72/分,整。血圧124/82mmHg。眼球結膜に充血を認める。舌の乾燥を認める。心音と呼吸音とに異常を認めない。右中指近位指節間関節と両側手関節に圧痛を認める。尿所見:蛋白(-),潜血(-)。血液所見:赤血球410万,Hb 13.7g/dL,Ht 38%,白血球3,400(好中球72%,好酸球2%,好塩基球1%,単球12%,リンパ球13%),血小板17万。血液生化学所見:総蛋白7.0g/dL,AST 23U/L,ALT 25U/L,γ-GT 34U/L(基準8~50),尿素窒素17mg/dL,クレアチニン0.6mg/dL,血糖96mg/dL,HbA1c 5.4%(基準4.6~6.2)。免疫血清学所見:CRP 0.3mg/dL,リウマトイド因子〈RF〉128IU/mL(基準20未満),抗核抗体640倍(基準20以下)。  診断に最も有用な自己抗体はどれか。

  1. a.PR3-ANCA
  2. b.抗SS-A抗体
  3. c.抗MDA5抗体
  4. d.抗dsDNA抗体
  5. e.抗アクアポリン4抗体

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、膠原病が疑われる患者で、診断を確かめるのに最も役立つ自己抗体を選ぶ問題だ。注目してほしいのは、関節症状だけでなく「眼と口の乾燥」がそろっている点。この組み合わせから何を考えるかが出発点になる。
医学生医学生
手指の関節痛とこわばりがあってRFも高いので、最初は関節リウマチかと思いました。
ドクタードクター
そう考えるのは自然だね。でも、1年前から眼科でドライアイと言われていて、診察では舌の乾燥もある。眼と口の両方が乾く、いわゆる乾燥症状がそろっているんだ。中年女性でこれを見たら、まず思い浮かべたい疾患がある。
医学生医学生
Sjögren症候群ですね。涙腺や唾液腺にリンパ球が浸潤して、分泌が落ちる病気だと免疫の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。そしてSjögren症候群は、腺の症状だけでなく関節痛・関節炎といった腺外症状もよく伴う。高γグロブリン血症を背景にRFや抗核抗体が高い頻度で陽性になり、白血球減少、特にリンパ球減少も起こりやすい。今回の所見はどれもSjögren症候群として矛盾しないんだ。
医学生医学生
RF陽性がSjögren症候群でも出るとは知りませんでした。RF=関節リウマチと覚えていました。
ドクタードクター
そこはよくある落とし穴だね。RFは関節リウマチに特異的なものではなく、Sjögren症候群ではむしろ高頻度に陽性になる。それに今回はCRPの上昇が乏しく、関節破壊を示す所見も述べられていない。もちろん、関節リウマチやSLEにSjögren症候群が合併する二次性もあるから、この情報だけで一次性と決めつけることはできないけどね。
医学生医学生
では、診断を確かめるのに最も有用なのは抗SS-A抗体でしょうか。
ドクタードクター
正解。抗SS-A抗体、別名抗Ro抗体はSjögren症候群でおよそ7割前後と高頻度に陽性になり、感度に優れる。厚生労働省の診断基準でも、ACR/EULARの分類基準でも血清学的項目として採用されている。乾燥症状がある本例で陽性なら、診断に大きく近づくんだ。
医学生医学生
抗SS-B抗体もペアで覚えた記憶があります。
ドクタードクター
いいね。抗SS-B抗体、別名抗La抗体は陽性率は低いけれど特異度が高く、補助的に役立つ。「SS-Aは感度、SS-Bは特異度」と整理しておこう。なお抗SS-A抗体はSLEでも陽性になることがあるので、特異度はそれほど高くない点も知っておきたい。
医学生医学生
ほかの選択肢も確認させてください。抗dsDNA抗体は、白血球減少と抗核抗体強陽性があるのでSLEも気になりました。
ドクタードクター
その視点は大事だよ。抗dsDNA抗体はSLEに特異度が高く、ループス腎炎の活動性とも相関する。ただ今回は、蝶形紅斑のような皮膚症状も、尿蛋白や潜血といった腎障害の所見もない。乾燥症状が主体のこの患者で、診断に最も有用な抗体とはいえないね。
医学生医学生
PR3-ANCAは血管炎の抗体でしたよね。
ドクタードクター
そう。PR3-ANCAは多発血管炎性肉芽腫症で高頻度に陽性になる。上気道、肺、腎を侵すのが特徴で、副鼻腔炎や肺の結節、糸球体腎炎が手がかりになる。今回はどれも見当たらず、尿所見も正常だ。
医学生医学生
抗MDA5抗体は皮膚筋炎で、間質性肺炎が急速に進むタイプだとCBTの勉強で覚えました。
ドクタードクター
よく覚えているね。特に筋症状に乏しい臨床的無筋症性皮膚筋炎に特徴的で、急速進行性の間質性肺炎を合併して予後不良になりうる。今回はヘリオトロープ疹やGottron徴候のような皮疹も、呼吸器症状もないから合わない。最後の抗アクアポリン4抗体はどうかな。
医学生医学生
視神経脊髄炎の抗体ですね。でもSjögren症候群に合併することもあると聞いた気がします。
ドクタードクター
その通りで、視神経脊髄炎スペクトラム障害はSjögren症候群やSLEに合併することがある。ただ、この抗体は視神経炎や長い範囲の脊髄炎を起こす病気の診断に使うもので、視力障害も神経症状もない本例の診断目的には合わないね。
医学生医学生
乾燥症状からSjögren症候群を疑って、その診断基準に含まれる抗体を選ぶ、という流れですね。
ドクタードクター
そう。発展知識も押さえておこう。診断基準では、口唇小唾液腺生検でのリンパ球浸潤、ガムテストや唾液腺シンチグラフィなどの口腔検査、Schirmer試験などの眼科検査、そして抗SS-A抗体または抗SS-B抗体の血清検査の4項目のうち、2項目以上で診断する。抗体だけでなく、生検や機能検査も組み合わせるのがポイントだ。
医学生医学生
腺外症状では、ほかに何に注意すべきですか。
ドクタードクター
間質性肺炎、遠位尿細管性アシドーシスによる低カリウム血症、末梢神経障害、そしてMALTリンパ腫など悪性リンパ腫のリスク上昇が重要だ。それから臨床でとても大切なのが妊娠。抗SS-A抗体は胎盤を通過して、児に新生児ループスを起こすことがある。皮疹のほか、先天性完全房室ブロックという重い合併症もありうるから、抗体陽性の女性が妊娠したら胎児の心拍を注意深く見ていく。
医学生医学生
産婦人科の実習でも、膠原病合併妊娠の方は抗体を確認していました。診断だけでなく将来の妊娠管理にもつながる抗体なんですね。

まとめ

中年女性でドライアイと口腔乾燥がそろえば、まずSjögren症候群を考えます。Sjögren症候群は涙腺・唾液腺へのリンパ球浸潤による自己免疫疾患で、関節痛などの腺外症状を伴い、RFや抗核抗体の陽性、白血球減少もしばしばみられるため、関節リウマチやSLEと紛らわしいことがあります。診断に最も有用な自己抗体は、感度が高く診断基準にも含まれる抗SS-A抗体で、特異度の高い抗SS-B抗体が補助的に用いられます。PR3-ANCAは多発血管炎性肉芽腫症、抗MDA5抗体は急速進行性間質性肺炎を伴う皮膚筋炎、抗dsDNA抗体はSLE、抗アクアポリン4抗体は視神経脊髄炎スペクトラム障害と、抗体と疾患の対応を整理しておくことが鑑別の土台になります。抗SS-A抗体陽性の妊婦では新生児ループスによる先天性房室ブロックに注意が必要であり、自己抗体の知識は診断だけでなく長期的な患者管理にも直結します。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・42歳の女性。中年女性は膠原病の好発層である。 ・1年前からの眼の乾燥感(眼科でドライアイと診断され点眼中)、眼球結膜の充血、舌の乾燥 → 眼と口の両方に乾燥症状(sicca症状)がある。涙腺・唾液腺など外分泌腺の障害が疑われる。 ・3か月前からの手のこわばりと手指・手関節の関節痛、右中指PIP関節(近位指節間関節)と両手関節の圧痛 → 多関節炎がある。 ・白血球3,400/μLと減少し、リンパ球は3,400×0.13≒440/μLと著明に減少している。 ・CRP 0.3 mg/dLと炎症反応は軽度にとどまる。 ・リウマトイド因子(RF)128 IU/mLと高値、抗核抗体640倍と強陽性。 ・尿所見は正常で腎障害を示す所見はない。

診断へのプロセス

中年女性にドライアイと口腔乾燥がそろえば、まずSjögren症候群を考える。Sjögren症候群は涙腺や唾液腺にリンパ球が浸潤して分泌が低下する自己免疫疾患であり、腺外症状として関節痛・関節炎もよくみられる。高γグロブリン血症を背景にRFや抗核抗体が高頻度に陽性となり、白血球減少(特にリンパ球減少)も起こりやすい。本例の所見はいずれもSjögren症候群として矛盾しない。 ただし、多関節炎とRF高値からは関節リウマチ、白血球減少と抗核抗体強陽性からは全身性エリテマトーデス(SLE)の存在も念頭に置く必要がある。Sjögren症候群は他の膠原病に合併する場合(二次性)があるため、与えられた情報だけで一次性か二次性かを決めることはできない。もっとも、関節リウマチと比べるとCRPの上昇が乏しく、関節破壊を示す所見も述べられていない。

設問への考え方

乾燥症状を主体とする本例で診断を確定するうえで最も役立つ自己抗体は、Sjögren症候群の診断基準の項目に含まれる抗SS-A抗体である。各選択肢の自己抗体がどの疾患と結びつくかを整理しておくことが鍵となる。

選択肢考察

  1. ×a.  PR3-ANCA

    PR3-ANCA(プロテイナーゼ3に対する抗好中球細胞質抗体)は、ANCA関連血管炎のうち多発血管炎性肉芽腫症(GPA、旧称Wegener肉芽腫症)で高頻度に陽性となる。GPAは上気道(副鼻腔炎、鞍鼻)・肺(結節、空洞)・腎(糸球体腎炎)を侵すのが特徴で、本例にはこれらを示す所見がなく、尿所見も正常である。

  2. ○b.  抗SS-A抗体

    抗SS-A抗体(抗Ro抗体)はSjögren症候群で約70%前後と高頻度に陽性となり、感度に優れる。厚生労働省の診断基準やACR/EULAR分類基準でも血清学的項目として採用されており、眼の乾燥・口腔乾燥がある本例で陽性となれば診断に大きく近づく。SLEなど他の膠原病でも陽性となることがあるため特異度はそれほど高くないが、本問の臨床像では最も診断価値の高い抗体である。なお、抗SS-B抗体(抗La抗体)は陽性率は低いものの特異度が高く、補助的に用いられる。

  3. ×c.  抗MDA5抗体

    抗MDA5抗体(melanoma differentiation-associated gene 5に対する抗体)は皮膚筋炎、特に筋症状に乏しい臨床的無筋症性皮膚筋炎(CADM)に特徴的な抗体である。急速進行性の間質性肺炎を合併しやすく、治療抵抗性で予後不良となりうる。本例にはヘリオトロープ疹やGottron徴候などの皮疹も呼吸器症状もなく、合致しない。

  4. ×d.  抗dsDNA抗体

    抗dsDNA抗体(抗二本鎖DNA抗体)はSLEに対する特異度が高く、ループス腎炎の活動性とも相関して疾患活動性の指標となる。本例でも白血球減少と抗核抗体強陽性からSLEの合併を考える余地はあるが、蝶形紅斑などの皮膚症状、腎障害(尿蛋白・潜血は陰性)、漿膜炎などSLEを示唆する所見は乏しい。乾燥症状が主体の本例の診断に最も有用な抗体とはいえない。

  5. ×e.  抗アクアポリン4抗体

    抗アクアポリン4(AQP4)抗体は、アストロサイトに発現する水チャネルAQP4を標的とする抗体で、視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)に特異性が高い。視神経炎や長大な横断性脊髄炎を起こす。NMOSDはSjögren症候群やSLEに合併することがあるが、本例には視力障害や神経症状がなく、診断の目的には合わない。

Sjögren症候群の概要

・外分泌腺(涙腺・唾液腺)へのリンパ球浸潤を特徴とする自己免疫疾患。中年女性に多く、男女比は約1:10以上と女性に著しく多い。 ・他の膠原病(関節リウマチ、SLE、全身性強皮症など)を伴わない一次性と、それらに合併する二次性に分けられる。 ・腺症状:ドライアイ(乾燥性角結膜炎)、口腔乾燥(齲歯の増加、嚥下時の不快感)、反復性の耳下腺腫脹。 ・腺外症状:関節痛・関節炎、Raynaud現象、間質性肺炎、尿細管間質性腎炎(遠位尿細管性アシドーシス、低カリウム血症)、末梢神経障害、環状紅斑、悪性リンパ腫(MALTリンパ腫など)の発生リスク上昇。 ・検査:高γグロブリン血症、RF陽性、抗核抗体陽性、抗SS-A抗体・抗SS-B抗体陽性、白血球減少。

診断に用いる検査(厚生労働省改訂診断基準、1999年)

①口唇小唾液腺などの生検でのリンパ球浸潤、②口腔検査(唾液腺造影、ガムテスト・Saxonテストでの唾液分泌低下+唾液腺シンチグラフィでの機能低下)、③眼科検査(Schirmer試験で5 mm/5分以下+ローズベンガル試験または蛍光色素試験陽性)、④血清検査(抗SS-A抗体または抗SS-B抗体陽性)の4項目のうち2項目以上を満たせばSjögren症候群と診断する。

抗SS-A抗体の臨床的意義

Sjögren症候群のほかSLEでも陽性となる。抗SS-A抗体陽性の母体では、抗体が胎盤を通過して児に新生児ループス(皮疹、先天性完全房室ブロック)を起こすことがあり、妊娠管理で重要である。

主な自己抗体と疾患の対応

・抗SS-A抗体(感度高い)、抗SS-B抗体(特異度高い):Sjögren症候群 ・抗dsDNA抗体(活動性の指標)、抗Sm抗体(特異度高い):SLE ・抗CCP抗体:関節リウマチ ・抗Scl-70(トポイソメラーゼⅠ)抗体、抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼⅢ抗体:全身性強皮症 ・抗ARS抗体(抗Jo-1抗体など)、抗MDA5抗体、抗TIF1-γ抗体(悪性腫瘍合併)、抗Mi-2抗体:多発性筋炎・皮膚筋炎 ・抗U1-RNP抗体:混合性結合組織病 ・PR3-ANCA:多発血管炎性肉芽腫症、MPO-ANCA:顕微鏡的多発血管炎・好酸球性多発血管炎性肉芽腫症 ・抗AQP4抗体:視神経脊髄炎スペクトラム障害

POINT

・中年女性+ドライアイ+口腔乾燥 → Sjögren症候群をまず考える。 ・Sjögren症候群ではRF・抗核抗体が高頻度に陽性で、関節痛や白血球減少もみられる。 ・診断に有用な自己抗体は抗SS-A抗体(感度が高い)と抗SS-B抗体(特異度が高い)。 ・抗SS-A抗体陽性の妊婦では新生児ループス(先天性房室ブロック)に注意。 ・PR3-ANCA=GPA、抗MDA5抗体=急速進行性間質性肺炎を伴う皮膚筋炎、抗dsDNA抗体=SLE、抗AQP4抗体=NMOSD。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。