ベッド柵は虐待か?―高齢者虐待防止法の「5類型」で見分ける
第114回医師国家試験 F問題 第18問
国試問題にチャレンジ
高齢者虐待の防止,高齢者の養護者に対する支援等に関する法律で規定される養護者による行為で,高齢者虐待にあてはまらないのはどれか。
- a.食事の提供を拒絶する。
- b.わいせつな行為をする。
- c.就寝時にベッド柵で囲む。
- d.排泄物の処理を拒絶する。
- e.本人の財産を許諾なく処分する。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
高齢者虐待防止法は65歳以上の高齢者を対象とし、養護者による虐待を身体的虐待、介護・世話の放棄・放任(ネグレクト)、心理的虐待、性的虐待、経済的虐待の5類型で定義しています。食事を与えない・排泄の世話をしないことはネグレクト、わいせつな行為は性的虐待、財産の無断処分は経済的虐待に当たる一方、転落防止など安全確保目的のベッド柵は5類型のいずれにも直接は該当しません。ただし施設でベッドを四方の柵で囲むことは身体拘束に当たり、切迫性・非代替性・一時性の3要件を満たさなければ認められず、不当な行動制限は虐待とみなされうる点に注意が必要です。生命・身体に重大な危険がある場合には市町村への通報義務があり、医師の守秘義務は通報を妨げません。虐待の類型と通報の仕組み、そして養護者支援という視点を理解しておくことは、高齢者診療に携わる医療者にとって欠かせません。
解答・解説
正解はcです
テーマ
高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(高齢者虐待防止法、2005年制定・2006年施行)は、65歳以上の者を「高齢者」とし、虐待を行う主体として「養護者(家族・親族・同居人など、高齢者を現に養護する者)」と「養介護施設従事者等(介護施設・介護サービス事業所の職員)」の二つを想定している。本問は、養護者による虐待として法律が定める類型に当てはまらない行為を選ぶ「誤っているもの」型の問題である。
考え方
法律は、養護者による高齢者虐待を次の5類型に分けて定義している。 ①身体的虐待:高齢者の身体に外傷が生じる、または生じるおそれのある暴行を加えること ②介護・世話の放棄・放任(ネグレクト):高齢者を衰弱させるような著しい減食や長時間の放置など、養護を著しく怠ること(養護者以外の同居人による虐待を放置することも含む) ③心理的虐待:著しい暴言や著しく拒絶的な対応など、著しい心理的外傷を与える言動を行うこと ④性的虐待:わいせつな行為をすること、またはさせること ⑤経済的虐待:養護者または親族が高齢者の財産を不当に処分すること、その他不当に財産上の利益を得ること 各選択肢がどの類型に当たるかを照らし合わせると、5類型のどれにも該当しないのは、転落防止などの安全確保の目的で行われる「就寝時にベッド柵で囲む」行為である。
選択肢考察
- ×a. 食事の提供を拒絶する。
食事を与えないことは、法律が例として挙げる「高齢者を衰弱させるような著しい減食」に当たり、介護・世話の放棄・放任(ネグレクト)に該当する高齢者虐待である。脱水・低栄養・体重減少などで気づかれることが多い。
- ×b. わいせつな行為をする。
高齢者にわいせつな行為をすること、または高齢者にわいせつな行為をさせることは、性的虐待として法律に明記されている。排泄の失敗を罰として下半身を裸のまま放置することなども、性的虐待に含まれると解釈されている。
- ○c. 就寝時にベッド柵で囲む。
夜間の転落を防ぐなど、本人の安全確保を目的にベッド柵を用いることは、法律が定める5類型(身体的虐待、ネグレクト、心理的虐待、性的虐待、経済的虐待)のいずれにも直接は当たらず、本問では高齢者虐待に当てはまらない行為である。ただし、介護保険施設などでは「自分で降りられないようにベッドの四方を柵(サイドレール)で囲む」ことは身体拘束の一つとされ、原則として禁止されている。例外として、切迫性・非代替性・一時性の3要件をすべて満たす場合に限り、手続きを経て行うことが認められている。家庭でも、正当な理由なく本人の行動を不当に制限し続けるような使い方は、身体的虐待とみなされうる点に注意する。
- ×d. 排泄物の処理を拒絶する。
排泄の介助や汚れたおむつの交換をせず放置することは、養護を著しく怠る行為であり、介護・世話の放棄・放任(ネグレクト)に該当する。皮膚の汚れや褥瘡、悪臭などで発見されることがある。
- ×e. 本人の財産を許諾なく処分する。
本人の同意なく預貯金や不動産を処分したり、年金を勝手に使い込んだりすることは、法律が定める「財産を不当に処分すること」に当たり、経済的虐待に該当する。経済的虐待は、養護者に加えて親族が行った場合も対象となる。
高齢者虐待防止法の主な仕組み
・対象:65歳以上の高齢者。虐待の主体は「養護者」と「養介護施設従事者等」。 ・通報:養護者による虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、生命または身体に重大な危険が生じている場合は市町村への通報義務を負い、それ以外の場合は通報の努力義務を負う。養介護施設従事者等が自分の施設などで虐待を発見した場合は、危険の程度にかかわらず通報義務がある。医師などの守秘義務は、通報を妨げない。 ・対応の中心は市町村であり、地域包括支援センターと連携して事実確認や立入調査を行い、必要に応じて老人福祉施設への入所措置などで高齢者を保護する。 ・法律の名称が示すとおり、介護負担などから虐待に至る養護者への支援も目的としている。
養護者による虐待の実態(厚生労働省の調査より、概況)
・虐待の類型では身体的虐待が最も多く、心理的虐待、介護等放棄、経済的虐待が続く。 ・被虐待者は女性が多く、認知症のある高齢者の割合が高い。 ・虐待者の続柄は息子が最も多く、夫、娘が続く。
身体拘束について
介護保険施設などでは、身体拘束は原則禁止されている。厚生労働省の手引きでは、ベッドを柵で囲む、車椅子にベルトで固定する、ミトン型手袋をつける、つなぎ服を着せる、向精神薬を過剰に使って行動を抑えるなどが身体拘束の例とされている。緊急やむを得ない場合に限り、切迫性・非代替性・一時性の3要件をすべて満たし、記録などの手続きを踏んだうえで例外的に認められる。要件を満たさない身体拘束は、施設職員による高齢者虐待(身体的虐待)に当たりうる。
虐待防止に関する法律の比較
児童虐待防止法、障害者虐待防止法、配偶者暴力防止法(DV防止法)でも、身体的・心理的・性的虐待とネグレクトは共通して規定されている。経済的虐待が明記されているのは、高齢者虐待防止法と障害者虐待防止法である。
POINT
・高齢者虐待防止法の対象は65歳以上。虐待の主体は養護者と養介護施設従事者等。 ・虐待の5類型:身体的虐待、介護・世話の放棄・放任(ネグレクト)、心理的虐待、性的虐待、経済的虐待。 ・食事を与えない、排泄の世話をしない → ネグレクト。財産の無断処分 → 経済的虐待。 ・転落防止目的のベッド柵は虐待の類型に当たらない。ただし施設での四点柵は身体拘束であり、3要件(切迫性・非代替性・一時性)を満たさなければ認められない。 ・生命・身体に重大な危険がある場合は、市町村への通報義務がある。
