StudyMed医師国家試験

生まれた日は静かでも油断禁物―Basedow病の母から生まれた赤ちゃんで見張るべきサイン

第114回医師国家試験 D問題 第58問

国試問題にチャレンジ

第114回 D問題 第58問

日齢0の新生児。Basedow病に罹患している母親から出生した。母親は抗甲状腺薬を服用しており,抗甲状腺抗体は陽性である。  新生児期に最も留意すべきなのはどれか。

  1. a.血圧
  2. b.尿量
  3. c.呼吸数
  4. d.心拍数
  5. e.動脈血酸素飽和度

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、Basedow病の母親から生まれた新生児で何に注意するか、という問題だ。ポイントは、母親の何が赤ちゃんに移行して、それが赤ちゃんの体に何を起こすのか。ここから考えていこう。
医学生医学生
母親の甲状腺ホルモンそのものが赤ちゃんに移って、甲状腺機能亢進症になるのでしょうか。
ドクタードクター
惜しいけれど、主役はホルモンではなく自己抗体なんだ。Basedow病の原因はTSH受容体を刺激する抗体、つまりTRAbだったね。これはIgGだから胎盤を通過し、赤ちゃんの甲状腺のTSH受容体を刺激してしまう。
医学生医学生
免疫学の講義で、胎盤を通るのはIgGだけと習いました。重症筋無力症の母親から生まれた子の一過性筋無力症と同じ仕組みですね。
ドクタードクター
いい連想だね。母体由来の抗体による一過性の病気という点で共通している。こうして起こるのが新生児Basedow病、つまり新生児の一過性甲状腺機能亢進症だ。母体のTRAb値が高いほど起こりやすい。
医学生医学生
母親は抗甲状腺薬を飲んでいるので、赤ちゃんへの影響も薬で抑えられているのでは。
ドクタードクター
鋭い。実際、抗甲状腺薬も胎盤を通るから、胎内では赤ちゃんの甲状腺も抑えられている。ところが生まれると薬の供給が途絶え、児の体内の薬は数日で消える。一方、抗体の半減期は数週間あって長く残る。
医学生医学生
薬が先に切れて、抗体だけが残る。だから生まれてすぐは何ともなくても、少したってから症状が出てくるんですね。
ドクタードクター
その通り。おおむね生後4~5日前後から機能亢進症状が出ることがある。日齢0で異常がなくても、経過を追うことが大切なんだ。では、新生児の甲状腺機能亢進症では何が一番早く、捉えやすく現れると思う?
医学生医学生
代謝が上がるので、呼吸数が増えるのかなと思いました。
ドクタードクター
多呼吸も起こりうるけれど、主に心不全に至ってから目立つ所見なんだ。それに新生児の多呼吸は一過性多呼吸や呼吸窮迫症候群、感染症など原因がたくさんあって特異性が低い。早期から出やすいのは頻脈だ。甲状腺ホルモンは心筋のβ受容体の感受性を高めるから、心拍数が上がる。
医学生医学生
心拍数なら数値で客観的に追えますし、モニターで連続して見られますね。
ドクタードクター
そう、それが最も留意すべき理由だ。新生児の正常心拍数はおおむね120~160/分で、安静時に持続して超えるなら疑う手がかりになる。放置すると高拍出性心不全や不整脈に進むから、その前兆を捉える意味でも心拍数が大切なんだ。
医学生医学生
血圧はどうでしょう。機能亢進症では脈圧が開くと習いました。
ドクタードクター
成人ではそうだね。でも新生児の血圧は啼泣や体温で大きく揺れるし、カフのサイズで測定値も変わりやすい。早期発見の指標としては心拍数ほど鋭敏ではない。尿量も哺乳量や日齢で大きく変わる非特異的な指標で、心不全が進んでから評価の意味が出てくる。
医学生医学生
酸素飽和度は小児科実習の新生児室で必ず測っていたので、大事そうに思えます。
ドクタードクター
もちろん新生児管理では重要だけど、甲状腺機能亢進症は高拍出状態だから、重い心不全になるまで酸素飽和度は保たれることが多い。早期発見には向かないんだ。ほかに見逃したくない症状として、易刺激性でよく泣く、汗をかいて皮膚が湿っている、よく飲むのに体重が増えない、甲状腺腫や眼球突出などもある。
医学生医学生
頻脈が続いたら、FT4とTSHを測って確認するんですね。治療はどうなりますか。
ドクタードクター
軽症なら経過観察、症状があればチアマゾール、頻脈にはプロプラノロールなどのβ遮断薬を使い、重症なら無機ヨウ素を加えることもある。母体由来の抗体が消えるにつれて、通常は数週~数か月で自然に軽快する。もう一つ大事なのは、母親が甲状腺全摘や放射性ヨウ素内用療法で甲状腺機能が正常化していても、TRAbが残っていれば赤ちゃんに発症しうることだ。
医学生医学生
母親の今の甲状腺機能ではなく、TRAbの値を確認しておくべき、ということですね。産婦人科の実習で妊娠初期はチアマゾールを避けると聞いたのも、胎児への影響を考えてのことでしたか。
ドクタードクター
そう、妊娠初期のチアマゾールは頭皮欠損や臍帯ヘルニアなどとの関連が指摘されていて、その時期はプロピルチオウラシルが優先される。母体と胎児の両方を見据えて管理するのが、この領域の面白さだね。

まとめ

Basedow病の母体から生まれた児では、胎盤を通過したTRAb(IgG)が児の甲状腺を刺激し、一過性の新生児甲状腺機能亢進症(新生児Basedow病)を起こすことがあります。母体が抗甲状腺薬を服用していると、薬剤が先に消失して抗体が残るため生後数日たってから発症しうるので、出生直後に異常がなくても経過観察が必要です。症状のなかでも早期から現れ、客観的に連続モニタリングできる頻脈が最も留意すべき所見であり、進行すると高拍出性心不全や不整脈に至ります。血圧、尿量、呼吸数、酸素飽和度は新生児では変動要因が多く、早期発見の指標としては心拍数に劣ります。母体の甲状腺機能が正常でもTRAbが残っていれば児に発症しうるという視点は、周産期医療の連携に欠かせない知識です。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・日齢0の新生児で、母親がBasedow病である(Basedow病母体児)。 ・母親は抗甲状腺薬(チアマゾール〈MMI〉やプロピルチオウラシル〈PTU〉)を服用している。 ・母親の抗甲状腺抗体が陽性である。Basedow病で問題となるのは、甲状腺のTSH受容体を刺激する自己抗体(TSH受容体抗体:TRAb、そのうち刺激活性をもつものを甲状腺刺激抗体:TSAbという)である。

考え方

TRAbはIgGであるため胎盤を通過し、胎児・新生児の甲状腺のTSH受容体を刺激して甲状腺ホルモンの産生を高める。その結果、新生児に一過性の甲状腺機能亢進症(新生児Basedow病)が起こりうる。母体のTRAb値が高いほど発症の危険が高い。 一方、母親が服用している抗甲状腺薬も胎盤を通過し、胎児の甲状腺ホルモン合成を抑えている。出生後は臍帯を介した薬剤の供給が途絶え、児の体内の薬剤は数日で消失するが、母体由来の抗体はそれより長く(半減期は数週間)児の体内に残る。そのため、出生直後は甲状腺機能が正常ないし低下していても、生後数日(おおむね4~5日前後)たってから機能亢進症状が現れてくることがある。日齢0の時点で異常がなくても、経過を追って観察する必要がある。 新生児の甲状腺機能亢進症では、易刺激性(不機嫌・啼泣が多い)、皮膚の湿潤(発汗)、体重増加不良などとともに、甲状腺ホルモンの心臓への作用(心筋のβ受容体の感受性亢進など)による頻脈が早期から出現しやすい。頻脈は客観的に数値で捉えられ、モニターで連続的に観察でき、異常の検出に最も役立つ。重症化すると高拍出性の心不全や不整脈に至るため、その前兆を捉えるうえでも心拍数の観察が最も重要となる。

選択肢考察

  1. ×a.  血圧

    甲状腺機能亢進症では収縮期血圧の上昇や脈圧の拡大がみられることはあるが、新生児の血圧は啼泣、体温、循環血液量などさまざまな要因で変動し、測定もカフの大きさなどの影響を受けやすい。機能亢進症の早期発見の指標としては心拍数ほど鋭敏ではない。心不全が進行して循環管理が必要となった段階では注意すべき項目となる。

  2. ×b.  尿量

    新生児の尿量は哺乳量や生後日数によって大きく変化し、甲状腺機能亢進症に特異的な変化を示す指標ではない。心不全が進行して浮腫や肝腫大が出てきた段階で尿量を評価する意義が生じるが、最初に注意すべき指標とはいえない。

  3. ×c.  呼吸数

    甲状腺機能亢進症では代謝亢進や心不全に伴って多呼吸がみられることがある。しかし多呼吸は主に心不全に至ってから目立つ所見であり、新生児では一過性多呼吸や呼吸窮迫症候群、感染症など他の原因でも頻繁に起こるため非特異的である。早期から現れやすい頻脈に比べると優先度は低い。

  4. ○d.  心拍数

    胎盤を通過した母体のTRAbによって児の甲状腺が刺激されると、甲状腺ホルモン過剰の作用として頻脈が早期から出現する。新生児の正常心拍数はおおむね120~160/分であり、安静時にこれを持続的に超える場合は機能亢進症を疑う手がかりとなる。心拍数は客観的に測定でき、連続モニタリングも容易で、さらに進行すると心不全・不整脈を起こすため、最も留意すべき指標である。頻脈が持続する場合は血中の遊離T4(FT4)、TSHを測定し、必要に応じてβ遮断薬や抗甲状腺薬で治療する。

  5. ×e.  動脈血酸素飽和度

    動脈血酸素飽和度は呼吸機能、先天性心疾患の有無、ヘモグロビン濃度など多くの要因で変動し、甲状腺機能亢進症の早期発見に役立つ指標ではない。高拍出状態の甲状腺機能亢進症では、重篤な心不全に至るまで酸素飽和度は保たれることが多い。

新生児Basedow病(新生児甲状腺機能亢進症)

・病態:母体のTRAb(IgG)が胎盤を通過し、児の甲状腺を刺激して起こる一過性の甲状腺機能亢進症である。Basedow病母体から生まれた児の1~数%程度に発症するとされ、母体のTRAb値が高いほど起こりやすい。Basedow病の治療として甲状腺全摘や放射性ヨウ素内用療法を受け、母体自身の甲状腺機能が正常化していても、TRAbが残っていれば児に発症しうる点に注意する。 ・発症時期:母体が抗甲状腺薬を服用していた場合、薬剤の影響が消える生後数日以降に症状が出ることが多い。母体からの移行抗体と薬剤の量の兼ね合いにより、一過性の機能低下のみ、機能低下の後に機能亢進、機能亢進のみ、などさまざまな経過をとる。 ・症状:易刺激性、多動、発汗・皮膚湿潤、頻脈、哺乳良好にもかかわらず体重増加不良、甲状腺腫、眼球突出、振戦、下痢、肝脾腫など。重症例では心不全(多呼吸、肝腫大、浮腫)や不整脈を呈する。胎児期に発症すると胎児頻脈や胎児発育不全がみられることがある。 ・経過:母体由来の抗体が消失するにつれ、通常は数週~数か月(おおむね3か月以内)で自然に軽快する。 ・治療:軽症は経過観察。症状がある場合は抗甲状腺薬(チアマゾール)、頻脈にはβ遮断薬(プロプラノロール)、重症例では無機ヨウ素(ヨウ化カリウム)などを用いる。

母体の抗甲状腺薬と授乳・胎児

・抗甲状腺薬は胎盤を通過し、過量では胎児の甲状腺機能低下や甲状腺腫を起こしうる。 ・チアマゾールは妊娠初期(特に妊娠5~9週ごろ)の使用で頭皮欠損や臍帯ヘルニアなどの奇形(MMI奇形症候群)との関連が指摘されており、妊娠初期にはプロピルチオウラシルが優先される。 ・授乳は、通常量の抗甲状腺薬であれば可能とされる。

POINT

・母体のTRAbは胎盤を通過し、新生児に一過性の甲状腺機能亢進症(新生児Basedow病)を起こしうる。 ・母体が抗甲状腺薬を服用していると、その影響が切れる生後数日以降に症状が出ることがあるため、出生直後に正常でも経過観察が必要。 ・新生児の甲状腺機能亢進症で早期に捉えやすく、最も留意すべき所見は頻脈(心拍数)。 ・重症化すると心不全・不整脈をきたす。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。