「片目が数分だけ見えない」―原因は眼ではなく首にある一過性黒内障
第114回医師国家試験 D問題 第1問
国試問題にチャレンジ
繰り返す片側性の一過性視力障害を主訴に来院した患者に対し,診断に有用な診察または検査はどれか。
- a.眼圧測定
- b.視野検査
- c.対光反射
- d.頸部の聴診
- e.眼球運動検査
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクター
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ドクターまとめ
繰り返す片側性の一過性視力障害は、網膜の一過性虚血による一過性黒内障をまず考えます。主な原因は同側内頸動脈の動脈硬化性狭窄から生じる微小塞栓で、網膜を灌流域とするTIAとして、網膜動脈閉塞症や脳梗塞の前触れとなる重要な徴候です。来院時には発作が治まり、眼圧・視野・対光反射・眼球運動は正常であることが多いため、持続して存在する原因病変を探すことが診断の鍵となり、まず頸部聴診で頸動脈雑音を確認します。ただし高度狭窄や閉塞では雑音が消えることもあるため、頸動脈超音波やMRAなどの画像検査、心原性塞栓源の検索へ進みます。眼の症状から全身の血管病変へと視点を広げる考え方は、脳卒中予防の実践に直結する大切な臨床推論です。
解答・解説
正解はdです
問われていること
「片側性」で「一過性」の視力障害が「繰り返し」起こる、という3つのキーワードから最も考えるべき病態を想定し、その診断に結びつく診察・検査を選ぶ問題である。
病態の推定
片眼だけが数秒〜数分間見えなくなり、その後は元に戻る、というエピソードを反復する場合、まず疑うべきは一過性黒内障(amaurosis fugax:一過性単眼視力消失)である。これは網膜の一過性虚血によって起こり、多くは同側の内頸動脈起始部(頸動脈分岐部)の動脈硬化性狭窄やプラークから剥がれた微小な血栓・コレステロール片が、内頸動脈の最初の分枝である眼動脈→網膜中心動脈へ流れて詰まることで生じる。塞栓子が溶解・移動して血流が戻れば視力も回復するため、症状は一過性となる。 一過性黒内障は網膜を灌流域とする一過性脳虚血発作(TIA)に相当し、放置すると網膜動脈閉塞症や同側大脳半球の脳梗塞を起こしうる重要な警告徴候である。したがって、眼そのものよりも、塞栓源である頸動脈の病変を捉えることが診断上の要点となる。
検査の考え方
症状は一過性であり、来院時には視力・視野・瞳孔・眼球運動などが正常に戻っていることが多い。そのため、症状が出ている間にしか異常を示さない眼科的検査は診断の決め手になりにくい。一方、頸動脈狭窄そのものは発作の有無にかかわらず持続して存在するので、頸部の聴診で頸動脈雑音(bruit)を聴取できれば、外来の場で直ちに原因病変を示唆できる。聴診で疑いが生じれば、頸動脈超音波検査、MRA、CTAなどの画像検査で狭窄の程度を評価するという流れになる。
選択肢考察
- ×a. 眼圧測定
眼圧測定は緑内障、とくに急性緑内障発作(急性原発閉塞隅角症)の診断に用いる。急性発作では眼圧が著しく上昇し、眼痛・頭痛・悪心嘔吐・充血・角膜浮腫を伴う視力低下が持続し、治療しなければ一過性に自然回復することはない。本問の「痛みの記載がなく、短時間で回復する発作を反復する」病像は網膜の一過性虚血による一過性黒内障を第一に考えさせるものであり、眼圧測定はその診断の決め手とならない。
- ×b. 視野検査
視野検査は緑内障、視神経疾患、網膜疾患、視路(視交叉以降)の病変など、持続する視野異常の検出には有用である。しかし一過性黒内障では発作が数分程度でおさまり、診察時には網膜血流が回復しているため、視野は正常であることが多い。原因である頸動脈病変を明らかにする検査ではないので、診断に有用とはいえない。
- ×c. 対光反射
対光反射は、視神経炎などの片側性視神経障害で見られる相対的瞳孔求心路障害(RAPD:病側眼に光を当てたときの縮瞳が健側眼より弱い所見)や、動眼神経麻痺などの評価に有用である。一過性黒内障では発作が過ぎれば網膜・視神経の機能は回復しているので、診察時の対光反射は通常正常であり、診断には結びつかない。
- ○d. 頸部の聴診
繰り返す片側性の一過性視力障害は、同側の内頸動脈狭窄を塞栓源とする一過性黒内障を強く示唆する。内頸動脈の狭窄部では血流が乱流となるため、頸部(下顎角の下方、頸動脈分岐部付近)に聴診器を当てると収縮期を中心とする血管雑音(bruit)を聴取できることがある。狭窄は発作のない時期にも持続して存在するため、来院時に無症状であっても所見を得られる点で、本問の状況に適した診察法である。ただし、高度狭窄や閉塞ではかえって雑音が聴取されなくなることもあるため、雑音がなくても頸動脈超音波などの画像検査で確認する必要がある。
- ×e. 眼球運動検査
眼球運動検査は、複視を訴える患者での外眼筋麻痺や脳神経(動眼・滑車・外転神経)麻痺、脳幹病変などの評価に用いる。本問の主訴は視力低下であって複視ではない。一過性黒内障は網膜の虚血であり眼球運動にかかわる神経・筋は障害されない。将来脳梗塞を発症すれば、病変部位によっては眼球運動障害をきたすことはありうるが、現時点で一過性の症状しかない患者では眼球運動は正常であり、診断に寄与しない。
一過性黒内障(amaurosis fugax)
・定義:片眼の視力が突然低下・消失し、通常は数秒〜数分(多くは数分以内)で完全に回復する発作。「上からカーテンが降りてくるように見えなくなる」と表現されることがある。 ・機序:内頸動脈(とくに頸動脈分岐部)の動脈硬化性プラーク由来の微小塞栓が眼動脈→網膜中心動脈に流入して網膜が一過性に虚血となる。心原性塞栓(心房細動など)、低灌流、巨細胞性動脈炎なども原因となりうる。 ・位置づけ:網膜を灌流域とする一過性脳虚血発作(TIA)の一型と考えられる。将来の網膜中心動脈閉塞症や同側大脳半球の脳梗塞の前触れとなるため、迅速な原因検索と再発予防が必要である。 ・眼底所見:発作時や直後には網膜動脈内にコレステロール塞栓(Hollenhorst plaque:黄白色に光る小片)を認めることがある。 ・検査:頸部聴診(頸動脈雑音)→頸動脈超音波検査、MRA、CTA、必要に応じて脳血管造影。心電図・心エコーで心原性塞栓源の検索も行う。 ・治療:抗血小板薬、動脈硬化危険因子(高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙)の管理。症候性の高度頸動脈狭窄では頸動脈内膜剥離術(CEA)や頸動脈ステント留置術(CAS)を検討する。
一過性視力障害の主な鑑別
・片眼性:一過性黒内障、視神経乳頭浮腫(うっ血乳頭)による一過性の視覚不鮮明(数秒程度、体位変換で誘発)、間欠的な閉塞隅角による発作など。 ・両眼性:片頭痛の閃輝暗点、椎骨脳底動脈系のTIA(後頭葉の虚血)など。片眼か両眼かの確認が鑑別の第一歩となる。
POINT
・繰り返す片側性の一過性視力障害=一過性黒内障をまず考える。 ・一過性黒内障は網膜のTIAであり、同側の内頸動脈狭窄由来の微小塞栓が主な原因である。 ・来院時は無症状で眼科的検査は正常のことが多い。持続して存在する原因病変(頸動脈狭窄)を探すことが重要で、まず頸部聴診で頸動脈雑音を確認し、頸動脈超音波などの画像検査へ進む。 ・脳梗塞の前触れとして、抗血小板療法や頸動脈内膜剥離術・ステント留置術による予防を考慮する。
