いびきは心臓を蝕む―睡眠時無呼吸が招く病気、招かない病気
第114回医師国家試験 A問題 第9問
国試問題にチャレンジ
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者で罹患リスクの高い疾患または病態に含まれないのはどれか。
- a.心不全
- b.突然死
- c.高血圧症
- d.心房細動
- e.収縮性心膜炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
閉塞性睡眠時無呼吸症候群では、睡眠中の上気道閉塞が繰り返されることで、間欠的低酸素、交感神経の過剰な活性化、胸腔内の強い陰圧が生じ、全身の心血管系に負担がかかります。その結果、高血圧(二次性高血圧の重要な原因)、心房細動、冠動脈疾患、心不全、脳卒中、夜間の致死性不整脈による突然死、さらに2型糖尿病などのリスクが高まります。一方、収縮性心膜炎は特発性、結核、放射線照射、心臓手術後、膠原病などによる心膜の慢性炎症と線維化で生じる疾患で、OSASの病態生理とは結びつかず、罹患リスクが高まる疾患には含まれません。診断は終夜睡眠ポリグラフィとAHIで行い、中等症以上ではCPAPが治療の中心です。合併症を病態生理から理解しておくと、治療抵抗性高血圧や心房細動の患者に潜むOSASに気づく臨床力につながります。
解答・解説
正解はeです
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome:OSAS)は、睡眠中に上気道(主に咽頭)が繰り返し狭窄・閉塞し、無呼吸や低呼吸が生じる病態である。肥満、小顎、扁桃肥大などが背景となる。 本問は、OSASがどのような疾患・病態の危険因子となるかを問うている。考え方の軸は「無呼吸が全身、特に心血管系に何をもたらすか」である。
無呼吸が心血管系に及ぼす主な影響
1. 間欠的低酸素血症と高二酸化炭素血症:無呼吸と呼吸再開が一晩に何十回、何百回と繰り返されるため、低酸素と再酸素化が反復する。これにより活性酸素による酸化ストレスや全身性炎症、血管内皮機能障害が生じ、動脈硬化が進む。 2. 交感神経の過剰な活性化:低酸素や覚醒反応のたびに交感神経が興奮し、血圧と心拍数が上昇する。この状態が昼間にも持続し、高血圧につながる。 3. 胸腔内圧の大きな陰圧化:閉塞した気道に対して吸気努力を続けるため胸腔内が強い陰圧になる。これが左室の後負荷(心臓が血液を押し出す際の抵抗)を増やし、また心房を引き伸ばす。 これらの機序が重なり合って、高血圧、心房細動などの不整脈、冠動脈疾患、脳卒中、心不全、さらに夜間の致死性不整脈による突然死のリスクが高まる。糖尿病などの代謝異常との関連も知られている。 一方、選択肢のうち収縮性心膜炎は、心膜の慢性炎症と線維化・肥厚によって心臓の拡張が妨げられる疾患で、原因は感染、放射線照射、心臓手術後などである。OSASの病態生理(低酸素・交感神経亢進・胸腔内圧変動)から説明できる関連はなく、OSASで罹患リスクが高まる疾患には含まれない。
選択肢考察
- ×a. 心不全
OSASでは、閉塞した気道に対する吸気努力で胸腔内が強い陰圧となり、左室の後負荷が増大する。加えて交感神経の持続的な亢進、高血圧、低酸素による心筋への負担が加わり、心不全の発症リスクが高まる。逆に心不全患者ではOSASや中枢性睡眠時無呼吸の合併が多く、双方向の関係にある。睡眠時無呼吸を治療すると心不全の発症や増悪が抑えられたとする報告もある。罹患リスクの高い病態に含まれる。
- ×b. 突然死
無呼吸に伴う高度の低酸素血症と交感神経の急激な活性化は、夜間の致死性不整脈(心室頻拍・心室細動など)の引き金となる。さらにOSAS患者は高血圧、冠動脈疾患、心不全、心房細動などを合併しやすく、これらが重なって突然死のリスクが高い。OSAS患者では心臓突然死が睡眠中の時間帯に多いことも報告されている。罹患リスクの高い病態に含まれる。
- ×c. 高血圧症
OSASは二次性高血圧の重要な原因の一つである。無呼吸のたびに生じる低酸素と覚醒反応が交感神経を繰り返し刺激し、これが日中まで持続して血圧を上昇させる。夜間に血圧が下がらない(ノンディッパー型)や早朝高血圧を示しやすい。高血圧患者の約3割にOSASが合併するという報告があり、特に治療抵抗性高血圧ではその割合がさらに高い。罹患リスクの高い疾患に含まれる。
- ×d. 心房細動
無呼吸中の強い胸腔内陰圧によって心房が繰り返し伸展されることに加え、低酸素、交感神経と副交感神経の急激な変動、炎症による心房の線維化(心房リモデリング)が起こり、心房細動が生じやすくなる。心房細動患者の約半数に閉塞性無呼吸が合併するという報告もある。OSASを治療しないとカテーテルアブレーション後の再発が多いことも知られている。罹患リスクの高い疾患に含まれる。
- ○e. 収縮性心膜炎
収縮性心膜炎は、心膜が慢性炎症の結果として線維化・肥厚(ときに石灰化)し、硬い殻のように心臓を取り囲んで拡張期の充満を妨げる疾患である。原因は特発性(ウイルス感染後を含む)が多く、ほかに結核、胸部への放射線照射、心臓手術後、膠原病などの自己免疫疾患、悪性腫瘍などがある。OSASがこれらの心膜の炎症を引き起こす機序はなく、両者の間に明らかな関連は知られていない。したがってOSASで罹患リスクの高い疾患には含まれず、本問の正解である。
OSASの概要
・定義:睡眠中の上気道閉塞による無呼吸(10秒以上の気流停止)や低呼吸が繰り返され、日中の眠気などの症状を伴うもの。重症度は1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数である無呼吸低呼吸指数(apnea hypopnea index:AHI)で評価する。 ・危険因子:肥満、小顎・下顎後退、扁桃肥大・アデノイド、巨舌、男性、加齢、飲酒、鎮静薬など。 ・症状:いびき、目撃される無呼吸、日中の過度の眠気、起床時の頭痛、夜間頻尿、集中力低下。 ・診断:簡易検査(パルスオキシメトリなど)でスクリーニングし、終夜睡眠ポリグラフィ(polysomnography:PSG)で確定する。 ・治療:減量、飲酒制限、側臥位睡眠などの生活指導に加え、中等症以上では持続陽圧呼吸療法(continuous positive airway pressure:CPAP)が中心である。軽症〜中等症では口腔内装置(マウスピース)、扁桃肥大などの解剖学的要因があれば手術も選択肢となる。
OSASと関連する合併症の整理
・心血管系:高血圧(特に治療抵抗性高血圧・早朝高血圧)、心房細動などの不整脈、冠動脈疾患、心不全、脳卒中、突然死、肺高血圧 ・代謝系:2型糖尿病・インスリン抵抗性、脂質異常症 ・その他:日中の眠気による交通事故・労働災害、認知機能や生活の質の低下
収縮性心膜炎の概要
・病態:硬くなった心膜により拡張期の心室充満が制限され、右心不全症状(頸静脈怒張、肝腫大、浮腫、腹水)が目立つ。 ・特徴的所見:吸気時に頸静脈圧が上昇するKussmaul徴候、心膜ノック音、心内圧波形のdip and plateau(平方根サイン)、CTでの心膜肥厚・石灰化。 ・治療:根治療法は心膜切除術である。
POINT
・OSASは間欠的低酸素、交感神経亢進、胸腔内陰圧の増大などを介して心血管疾患の危険因子となる。 ・OSASで罹患リスクが高まる代表的疾患:高血圧(二次性高血圧の原因として重要)、心房細動、冠動脈疾患、心不全、脳卒中、突然死、2型糖尿病。 ・収縮性心膜炎の原因は特発性、感染(ウイルス・結核)、放射線照射、心臓手術後、自己免疫疾患などであり、OSASとは関連しない。
