StudyMed医師国家試験

頭上から降りてくる一本の命綱―3D-CTで見抜く「LITA-LAD」バイパス

第113回医師国家試験 F問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第113回 F問題 第15問

冠動脈バイパス術後の造影3D-CTを別に示す。  矢印のグラフトが吻合されているのはどれか。

第113回 F問題 第15問の問題画像
  1. a.左冠動脈主幹部
  2. b.左冠動脈前下行枝
  3. c.左冠動脈対角枝
  4. d.左冠動脈回旋枝
  5. e.右冠動脈後下行枝

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は冠動脈バイパス術後の造影3D-CTから、矢印のグラフトがどの冠動脈につながっているかを読む問題だ。ポイントは2つ。グラフトが「どこから来ているか」と「心臓のどの溝を走っているか」。この2点を押さえれば、立体画像でも迷わず答えにたどり着けるよ。
医学生医学生
3D-CTって、カテーテル造影とは見え方が全然違うので苦手です。どこから見ればいいでしょうか。
ドクタードクター
まずは向きの確認から。この画像は心臓を前方からやや左寄りに見ていて、上のほうに上行大動脈の基部がある。そのうえで矢印のグラフトをたどると、大動脈から直接出ているのではなく、さらに頭側、鎖骨下動脈の方向から下りてきているのがわかる。
医学生医学生
頭側から来るということは、大動脈に吻合した静脈グラフトではないということですか。
ドクタードクター
その通り。大伏在静脈を使う場合は中枢側を上行大動脈に縫いつけるから、大動脈の壁から生えるように見える。一方で頭側から下りてくるのは、左鎖骨下動脈から分岐する左内胸動脈を、根元をつけたまま有茎で使ったときの典型的な姿なんだ。
医学生医学生
解剖実習で胸骨の裏に沿って走る細い動脈を確認しました。あれを心臓まで持ってくるんですね。
ドクタードクター
そう。そして次はグラフトの行き先だ。心臓の前面中央、左室と右室の境目の溝を心尖部に向かって縦に走っている。この前室間溝を走る冠動脈は何だったかな。
医学生医学生
前室間溝なので、左冠動脈前下行枝です。だから答えは前下行枝ですね。
ドクタードクター
正解。左内胸動脈を前下行枝につなぐ「LITA-LAD」はバイパス術でもっとも標準的な組み合わせなんだ。前下行枝は左室前壁、心室中隔の前方約3分の2、心尖部を灌流していて、左室で一番広い範囲を担っている。だから開存性に優れた内胸動脈を優先して使うわけだ。
医学生医学生
左冠動脈主幹部も前側にありますよね。主幹部に病変があれば、そこにつなぐことはないんですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。主幹部は左Valsalva洞から出て、肺動脈幹の後ろを通り、前下行枝と回旋枝に分かれるまでの1cm前後の短い部分で、心臓表面の奥に隠れている。主幹部病変でも、バイパスはその先の前下行枝と回旋枝にそれぞれつなぐのが原則なんだ。今回のように心尖部方向へ長く走るグラフトとは合わない。
医学生医学生
対角枝は前下行枝から出る枝なので、見分けが難しそうです。
ドクタードクター
対角枝は前下行枝から左外側へ斜めに分かれて、左室の前側壁に向かう。つまり前室間溝から外れて斜走するのが特徴だ。溝の中央を縦に心尖部まで走る矢印のグラフトとは走行が違うね。
医学生医学生
回旋枝はどうでしょう。画像には心臓の左側へ回り込むグラフトも見えるようですが。
ドクタードクター
よく気づいたね。上行大動脈から出た別のグラフト、おそらく静脈グラフトが心臓の左外側へ回り込んで回旋枝領域につながっている。回旋枝は左房室間溝を後方へ回って、左室側壁から後壁を灌流するから、前面中央を走る矢印のグラフトとは別物だ。ちなみに大動脈の吻合部付近に見える馬蹄形の構造物は、後でカテーテル造影をするときに静脈グラフトの入口がわかるよう付けたマーカーなんだ。
医学生医学生
右冠動脈の後下行枝は、心臓の下面を走るので前から見た画像では外れますね。
ドクタードクター
その通り。後下行枝は多くは右冠動脈から出て、横隔膜面の後室間溝を走り、中隔の後方約3分の1と左室下壁を灌流する。なお本例では右冠動脈系への静脈グラフトは近位部で閉塞していて造影されていない。グラフト開存の評価こそ、術後CTの大事な役割なんだ。
医学生医学生
循環器内科の実習で、静脈グラフトは長持ちしにくいと聞きました。
ドクタードクター
そう。大伏在静脈は採取しやすく長さも取れるけれど、内膜肥厚や動脈硬化を起こしやすく、10年で半数前後が閉塞や高度狭窄に至るとされる。対して左内胸動脈は動脈硬化を起こしにくく、10年開存率はおよそ9割と報告されている。LITA-LADが生命予後を改善するといわれる理由だね。ほかに右内胸動脈、橈骨動脈、右胃大網動脈といった動脈グラフトもある。
医学生医学生
カテーテル治療とバイパス術の使い分けも気になります。
ドクタードクター
左冠動脈主幹部病変、前下行枝近位部を含む多枝病変、糖尿病を合併した多枝病変、左室機能低下例などでは、経皮的冠動脈インターベンションよりバイパス術が推奨されることが多い。そして冠動脈CTは陰性的中率が高く狭窄の否定に強い一方、高度石灰化や頻脈、不整脈があると評価しにくい。術後フォローでは、この長所と限界を知って使うことが大切だよ。

まとめ

冠動脈バイパス術後の3D-CTでは、グラフトの起始部と心臓表面での走行を追うことが読影の基本です。頭側の鎖骨下動脈方向から下りてきて、前室間溝に沿って心尖部へ向かうグラフトは、左内胸動脈を左冠動脈前下行枝に吻合した「LITA-LAD」と判断できます。上行大動脈から起始するグラフトは大伏在静脈などの静脈グラフトで、回旋枝や右冠動脈系に用いられることが多く、前下行枝は左室前壁・中隔前方約2/3・心尖部、回旋枝は側壁・後壁、右冠動脈は右室・下壁・中隔後方約1/3を灌流します。LITA-LADは長期開存率に優れ予後改善に寄与するため、バイパス術の要となる組み合わせです。冠動脈の走行と灌流域を立体的にイメージできると、CT読影だけでなく心電図や心エコーの所見の理解にもつながります。

解答・解説

正解はbです

画像の読み取り

冠動脈バイパス術(CABG: coronary artery bypass grafting)後の心臓を、造影CTのデータから立体的に再構成した画像(volume rendering像)である。心臓を前方(やや左前方)から見ており、上方に上行大動脈の基部がある。 矢印のグラフトは、画面の上方(大動脈弓より頭側、すなわち鎖骨下動脈の方向)から下りてきて、大動脈基部の前面を越え、心臓前面を縦に走って心尖部の方向へ向かっている。上行大動脈から直接出ているのではなく頭側から下行してくる走行は、左鎖骨下動脈から分岐する左内胸動脈(LITA: left internal thoracic artery)を有茎グラフトとして用いたときの典型的な姿である。 心臓前面で左室と右室の境界にあたる溝(前室間溝)を心尖部へ向かって走る冠動脈は左冠動脈前下行枝(LAD: left anterior descending artery)である。グラフトはこの前室間溝に沿う血管へ到達しており、吻合先は前下行枝と判断できる。

その他のグラフト

画像では、上行大動脈から起始する別のグラフト(大腿~下腿の大伏在静脈を用いた静脈グラフトと考えられる)が心臓の左側(側壁側)へ回り込んでおり、左冠動脈回旋枝領域に吻合されている。さらに右冠動脈に対しても静脈グラフトが用いられたが、その近位部で閉塞しているため造影されていない。大動脈壁の吻合部付近に見える馬蹄形の構造物は、後日カテーテル造影を行う際に静脈グラフトの大動脈側吻合部の位置がわかるように付けられたマーカー(リング)である。

考え方

「LITA→LAD」はCABGで最も標準的な組み合わせであり、長期開存率が高く生命予後を改善することが示されている。頭側から降りてきて心臓前面中央を心尖部へ走るグラフトを見たら、まずLITA-LAD吻合を想起すればよい。

選択肢考察

  1. ×a.  左冠動脈主幹部

    左冠動脈主幹部(LMT: left main trunk)は、大動脈基部の左Valsalva洞(左冠尖洞)から起始し、肺動脈幹の後方を通って前下行枝と回旋枝に分かれるまでの短い部分である。長さは通常1cm前後にすぎず、心臓表面の奥に隠れている。主幹部に病変がある場合でも、バイパスは主幹部そのものではなくその末梢である前下行枝と回旋枝にそれぞれ吻合するのが原則である。矢印のグラフトは心臓前面を心尖部方向へ長く走っており、主幹部に吻合されている所見ではない。

  2. ○b.  左冠動脈前下行枝

    矢印のグラフトは頭側(左鎖骨下動脈の方向)から下行し、心臓前面の前室間溝に沿って心尖部へ向かう血管に到達している。この走行は左内胸動脈を前下行枝に吻合した(LITA-LAD)バイパスに一致する。前下行枝は左冠動脈主幹部から分岐して前室間溝を走り、中隔枝で心室中隔の前方約2/3を、対角枝などで左室前壁を、さらに心尖部を灌流する。左室心筋のうち最も広い範囲を担うため、ここへの血流確保がCABGで最も重視され、開存性に優れた内胸動脈が優先的に用いられる。

  3. ×c.  左冠動脈対角枝

    対角枝(diagonal branch)は前下行枝から左外側へ斜めに分岐し、左室の前側壁を灌流する枝である。前室間溝から外れて左方へ斜走するのが特徴で、前室間溝の中央を縦に心尖部まで走る矢印のグラフトの吻合先とは走行が合わない。

  4. ×d.  左冠動脈回旋枝

    回旋枝(LCX: left circumflex artery)は左冠動脈主幹部から分岐して左房室間溝を左後方へ回り込み、鈍縁枝などを出して左室側壁から後壁を灌流する。本画像では、上行大動脈から起始する静脈グラフトが心臓の左外側へ回り込んで回旋枝領域に吻合されているが、矢印のグラフトはそれとは別で、心臓前面中央を走っている。

  5. ×e.  右冠動脈後下行枝

    後下行枝(PD: posterior descending artery)は多くの場合(右冠動脈優位型)右冠動脈から分岐し、心臓の下面(横隔膜面)の後室間溝を走って心室中隔の後方約1/3と左室下壁を灌流する。心臓の下面・後面にあるため、前方から見た本画像の前面中央を走る矢印のグラフトの吻合先ではない。なお本例では右冠動脈系への静脈グラフトは近位部で閉塞しており、造影されていない。

冠動脈の解剖と灌流域

・右冠動脈(RCA):右Valsalva洞から起始し、右房室間溝を走る。洞結節枝(約60%)、房室結節枝(約90%)を出し、右室、左室下壁、心室中隔後方1/3(後下行枝経由)を灌流する。 ・左冠動脈主幹部(LMT):左Valsalva洞から起始し、前下行枝と回旋枝に分岐する。 ・前下行枝(LAD):前室間溝を走り、中隔枝と対角枝を出す。左室前壁、心室中隔前方2/3、心尖部を灌流する。 ・回旋枝(LCX):左房室間溝を走り、鈍縁枝を出す。左室側壁・後壁を灌流する。

CABGで用いるグラフト

・左内胸動脈(LITA):鎖骨下動脈から分岐し、有茎(in situ)のまま使用する。動脈硬化を起こしにくく、10年開存率は約90%と最も良好で、LADへの吻合が第一選択である。 ・右内胸動脈(RITA)、橈骨動脈、右胃大網動脈(GEA、主に右冠動脈系へ):その他の動脈グラフト。 ・大伏在静脈(SVG):採取が容易で長さを確保しやすいが、内膜肥厚や動脈硬化をきたしやすく、長期開存率は動脈グラフトより劣る(10年で約半数前後が閉塞・高度狭窄となる)。上行大動脈に中枢側を吻合する。

CABGの主な適応

左冠動脈主幹部病変、前下行枝近位部を含む多枝病変、糖尿病を合併する多枝病変、左室機能低下例などでは、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)よりCABGが推奨されることが多い。

冠動脈CTの役割

CABG後のグラフト開存の評価、冠動脈狭窄の非侵襲的評価に用いられる。陰性的中率が高く、狭窄の否定に有用である。一方、高度石灰化や頻脈・不整脈があると評価が難しい。

POINT

・CABGで最も重要な組み合わせは左内胸動脈(LITA)→左前下行枝(LAD)。 ・頭側(鎖骨下動脈方向)から降り、心臓前面の前室間溝を心尖部へ走るグラフトはLITA-LAD。 ・静脈グラフト(大伏在静脈)は上行大動脈に中枢側を吻合し、回旋枝や右冠動脈に用いられることが多い。 ・LADは左室前壁・心室中隔前方2/3・心尖部、LCXは左室側壁・後壁、RCAは右室・左室下壁・中隔後方1/3を灌流する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。