路上で倒れていた青年―CTより先に「指先の1滴」を
第113回医師国家試験 E問題 第34問
国試問題にチャレンジ
35歳の男性。路上に倒れているところを通行人に発見され,救急車で搬入された。意識レベルはJCSⅡ-30。体温36.0℃。心拍数104/分,整。血圧156/88mmHg。呼吸数16/分。SpO2 99%(マスク5L/分酸素投与下)。対光反射は正常。皮膚は湿潤しており,体表に明らかな外傷を認めない。 まず行うべき検査はどれか。
- a.血糖測定
- b.頭部単純CT
- c.動脈血ガス分析
- d.胸部エックス線撮影
- e.尿の薬物スクリーニング
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
医学生
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ドクター
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ドクターまとめ
原因不明の意識障害では、ABC(気道・呼吸・循環)の評価と安定化に続いて、まず簡易血糖測定で低血糖を除外するのが原則です。低血糖は放置すれば不可逆的な脳障害や死に至る一方、指先の血液1滴で数十秒のうちに確認でき、ブドウ糖静注ですぐに治療できるためです。発汗(皮膚湿潤)・頻脈・血圧上昇はカテコールアミン分泌による交感神経症状で低血糖を示唆しますが、高齢者やβ遮断薬服用者などでは目立たないことがあります。低血糖は片麻痺など脳卒中に似た症状を呈しうるため、頭部CTや血液ガス分析、薬物スクリーニングより先に血糖を確認し、アルコール多飲者や低栄養者ではWernicke脳症予防にビタミンB1をブドウ糖より先か同時に投与します。AIUEOTIPSで鑑別を広く挙げつつ、「致命的かつすぐ治せる原因から確かめる」優先順位をつけることが、救急初療の基本となります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・35歳男性、路上で倒れているところを発見された。経過や既往は不明 ・意識レベル JCS(Japan Coma Scale)Ⅱ-30:刺激をしないと眠り込み、痛み刺激を加えながら呼びかけを繰り返すとかろうじて開眼する状態 ・体温36.0℃(正常)、心拍数104/分(頻脈)、血圧156/88mmHg(高め) ・呼吸数16/分(正常範囲)、酸素投与下でSpO2 99%(酸素化は保たれている) ・対光反射は正常、皮膚は湿潤(冷汗)、体表に明らかな外傷なし
考え方
原因不明の意識障害の初期診療では、まずABC(気道・呼吸・循環)を評価・安定化し、そのうえで「見逃すと致命的で、かつすぐに治療できる原因」から順に確認する。その代表が低血糖である。低血糖は放置すると不可逆的な脳障害や死に至るが、ブドウ糖の投与で速やかに改善する。しかも血糖は簡易血糖測定器を用いれば指先の血液1滴でベッドサイドにおいて数十秒で測定できる。したがって、原因の分からない意識障害では、画像検査などより先に血糖を測定するのが原則である。 本例では、さらに低血糖を積極的に疑わせる所見がそろっている。血糖が下がると、それを上げようとしてアドレナリンなどのカテコールアミンが分泌され、交感神経が刺激される。その結果、発汗(皮膚の湿潤)、頻脈、血圧上昇、振戦、動悸などが現れる(交感神経症状)。さらに低下が進むと、脳のエネルギー不足により意識障害やけいれんなどが起こる(中枢神経症状)。本例の皮膚湿潤・頻脈・血圧上昇・意識障害は、この経過によく合う。 また、酸素投与で十分に酸素化されているのに意識が戻らないので、低酸素が主因とは考えにくい。対光反射が正常で外傷もないことは、脳ヘルニアや重症頭部外傷を直ちに疑う所見ではなく、代謝性・中毒性の原因をまず考える根拠となる。 意識障害の鑑別には語呂合わせ「AIUEOTIPS」が便利である(supplement参照)。この中でも、低血糖は最初に除外すべき原因である。
選択肢考察
- ○a. 血糖測定
原因不明の意識障害では、まず低血糖を除外する。低血糖は致命的になりうるが治療は容易で、簡易血糖測定器で短時間に確認できるので、最初に行うべき検査である。本例は皮膚湿潤(発汗)、頻脈、血圧上昇という交感神経症状を伴っており、低血糖を強く疑う状況でもある。低血糖が確認されれば、直ちにブドウ糖(50%ブドウ糖液など)を静注する。アルコール多飲者や低栄養が疑われる場合は、ブドウ糖の投与でWernicke脳症を誘発・悪化させるおそれがあるため、ビタミンB1(チアミン)を先に、あるいは同時に投与する。
- ×b. 頭部単純CT
脳出血や脳梗塞、頭部外傷などの頭蓋内病変を調べるには重要な検査で、本例でも低血糖が否定されたり、血糖を補正しても意識が戻らなかったりすれば行うべきである。しかし、CT室への移動と撮影には時間がかかるうえ、頭蓋内病変がないのに低血糖を見逃すと治療が遅れてしまう。低血糖は片麻痺などの局所神経症状を起こして脳卒中と紛らわしいことがあるので、CTの前に血糖を確認するのが原則である。本例は対光反射が正常で外傷もなく、まず行う検査ではない。
- ×c. 動脈血ガス分析
動脈血ガス分析では、酸素化、二酸化炭素の貯留(CO2ナルコーシスの評価)、酸塩基平衡、乳酸、電解質などを評価でき、一部の機器では血糖も測定できる。意識障害の原因検索に役立つ検査ではあるが、動脈穿刺が必要で、簡易血糖測定と比べると手間がかかる。本例は呼吸数16/分と正常で、酸素投与下にSpO2 99%を保っており、呼吸の異常が切迫した原因とは考えにくい。血糖測定よりも先に行う検査ではない。
- ×d. 胸部エックス線撮影
肺炎、気胸、誤嚥などの胸部疾患の評価に用いる。本例は呼吸数が正常で酸素化も保たれ、胸部の外傷を疑う所見もないので、意識障害の原因検索として最初に行う意義は乏しい。
- ×e. 尿の薬物スクリーニング
路上で倒れていた若年者の意識障害では、急性薬物中毒も鑑別に挙がる。尿の薬物スクリーニングキットでは、覚醒剤(アンフェタミン類)、ベンゾジアゼピン類、三環系抗うつ薬、バルビツール酸類、大麻、オピオイドなどを短時間で調べられる。しかし、導尿などで尿を採取する必要があり、結果を得るまでに時間がかかる。また、陽性でも現在の症状の原因とは限らず、検出対象外の薬物は見逃す。まず血糖を測定して低血糖を除外したうえで、病歴や中毒症状(トキシドローム)から必要に応じて行う検査である。
意識障害の鑑別:AIUEOTIPS
・A:Alcohol(急性アルコール中毒) ・I:Insulin(低血糖、高血糖:糖尿病ケトアシドーシス・高浸透圧高血糖状態) ・U:Uremia(尿毒症) ・E:Encephalopathy(肝性脳症、高血圧性脳症、Wernicke脳症)、Endocrine(甲状腺・副腎の異常)、Electrolytes(Na・Ca異常など) ・O:Opiate/Overdose(薬物中毒)、O2/CO2(低酸素血症、CO2ナルコーシス)、CO中毒 ・T:Trauma(頭部外傷)、Temperature(低体温・高体温) ・I:Infection(髄膜炎、脳炎、敗血症) ・P:Psychiatric(精神疾患)、Porphyria ・S:Stroke/SAH(脳卒中、くも膜下出血)、Seizure(てんかん)、Shock
低血糖の症状
・一般に血糖値がおおむね70mg/dL未満になると症状が出始める。 ・交感神経症状(血糖を上げようとカテコールアミンが分泌されることによる):発汗、動悸・頻脈、振戦、不安感、顔面蒼白、空腹感 ・中枢神経症状(脳へのブドウ糖供給不足による):頭痛、集中力低下、異常行動、意識障害、けいれん、片麻痺など局所症状 ・高齢者や、低血糖を繰り返している人、β遮断薬の服用者、糖尿病性自律神経障害のある人では交感神経症状が出にくく、いきなり意識障害で発症することがある(無自覚性低血糖)。 ・原因:インスリンやスルホニル尿素薬(SU薬)の過量・食事摂取不足、アルコール多飲、インスリノーマ、副腎不全、重症肝障害、敗血症など。SU薬によるものは遷延・再発しやすく、経過観察が必要である。
原因不明の意識障害への初期対応
1. ABC(気道・呼吸・循環)の評価と安定化、モニター装着、静脈路確保 2. 簡易血糖測定 → 低血糖ならブドウ糖静注(必要に応じてビタミンB1を併用) 3. 神経学的評価(瞳孔所見、対光反射、麻痺の有無など)、病歴の聴取(家族・目撃者・所持品) 4. 血液検査、血液ガス分析、頭部CT・MRI、薬物スクリーニング、髄液検査などを状況に応じて行う
POINT
・原因不明の意識障害では、ABCの安定化に続いてまず簡易血糖測定で低血糖を除外する。 ・低血糖は致命的だが、すぐに確認・治療できる(ブドウ糖静注)。 ・発汗(皮膚湿潤)、頻脈、血圧上昇は低血糖による交感神経症状を示唆する。 ・低血糖は片麻痺などを起こし脳卒中と紛らわしいことがあるので、頭部CTの前に血糖を確認する。 ・アルコール多飲者・低栄養者では、Wernicke脳症予防のためビタミンB1をブドウ糖より先に、または同時に投与する。
