StudyMed医師国家試験

補体が「減る」血管炎はどれ?―消費と産生のバランスで読む低補体血症

第113回医師国家試験 C問題 第16問

国試問題にチャレンジ

第113回 C問題 第16問

低補体血症をきたす疾患はどれか。

  1. a.巨細胞性動脈炎
  2. b.クリオグロブリン血症性血管炎
  3. c.結節性多発動脈炎
  4. d.顕微鏡的多発血管炎
  5. e.高安動脈炎〈大動脈炎症候群〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、血管炎の中から低補体血症をきたすものを選ぶ問題だ。暗記で解くこともできるけれど、「補体はなぜ減るのか」という仕組みから考えると迷わなくなる。まず、炎症が起きたとき補体価はどう動くと思う?
医学生医学生
炎症で補体が使われるので、どの血管炎でも下がるイメージがあります。
ドクタードクター
そこがよくある誤解なんだ。補体成分の多くは肝臓で作られる急性期反応物質でもあって、ふつうの炎症ではCRPと同じように産生が増える。だから多くの炎症性疾患では、補体価はむしろ正常から高値になるんだよ。
医学生医学生
えっ、上がることもあるんですね。じゃあ下がるのはどういうときですか。
ドクタードクター
大きく2つ。1つは消費の亢進で、免疫複合体ができて血中や組織に沈着し、古典経路などを通じて補体が大量に活性化・消費される場合。もう1つは産生の低下で、肝硬変や劇症肝炎のように補体を作る肝臓が弱った場合や、先天性欠損だね。
医学生医学生
免疫学の講義で、Ⅲ型アレルギーは免疫複合体が補体を活性化すると習いました。SLEで補体が下がるのもそれですね。
ドクタードクター
その通り。SLEや溶連菌感染後急性糸球体腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎が代表例だ。では血管炎に当てはめよう。Chapel Hill分類では血管の太さと機序で整理されていて、免疫複合体が血管壁に沈着する「免疫複合体性小型血管炎」で補体の消費が起こりうる。選択肢の中でそれに当たるのは?
医学生医学生
クリオグロブリン血症性血管炎だと思います。名前に免疫グロブリンが入っていますし。
ドクタードクター
正解。クリオグロブリンは37℃未満で沈殿し、温めると再び溶ける免疫グロブリンや免疫複合体のこと。特にC型肝炎ウイルス感染に関連する混合型では、リウマトイド因子活性をもつIgMとIgGの複合体が小血管壁に沈着して、主に古典経路から補体を活性化する。そのため低補体血症になり、C3に比べてC4やCH50の低下が目立つのが特徴だ。
医学生医学生
症状としては、下腿の紫斑や関節痛でしょうか。
ドクタードクター
そう。触知可能な紫斑、関節痛、末梢神経障害、それに膜性増殖性糸球体腎炎も起こす。では残りの選択肢を見ていこう。高安動脈炎と巨細胞性動脈炎はどうかな。
医学生医学生
どちらも大型血管炎ですよね。若い女性なら高安、高齢者で側頭動脈なら巨細胞性、とCBTの勉強で覚えました。
ドクタードクター
いい整理だ。どちらも肉芽腫性の炎症で、T細胞やマクロファージが主役の細胞性免疫が病態の中心。免疫複合体による補体消費は起こらないので、炎症に伴って補体価は正常から高値になる。赤沈やCRPの上昇は目立つけれどね。
医学生医学生
結節性多発動脈炎も、なんとなく免疫複合体が関係していそうなイメージがありました。
ドクタードクター
鋭いね。B型肝炎ウイルス関連の結節性多発動脈炎では免疫複合体が関与して補体が下がることもあるとされる。ただ、それは本症の特徴的所見とはいえない。基本は中型の筋性動脈を侵す壊死性血管炎で、腎や腸間膜の小動脈瘤、臓器梗塞を起こし、ANCAは陰性、補体は一般に低下しないと考えよう。
医学生医学生
顕微鏡的多発血管炎は小型血管炎なので、補体が下がりそうな気もしますが。
ドクタードクター
小型血管炎でもANCA関連血管炎は別扱いなんだ。腎生検の蛍光抗体法で免疫グロブリンや補体の沈着がほとんど見られない「pauci-immune型」で、免疫複合体による補体消費は起こらない。MPO-ANCA陽性が多く、急速進行性糸球体腎炎や肺胞出血を起こすけれど、血清補体価は下がらない。
医学生医学生
同じ小型血管炎でも、免疫複合体型かANCA型かで補体の動きが分かれるんですね。
ドクタードクター
その通り。発展知識として、クリオグロブリンにはBrouet分類がある。I型は単クローン性で多発性骨髄腫などに伴い過粘稠症候群を起こしやすく、II型とIII型の混合型が血管炎と低補体血症を起こしやすい。II型はHCVとの関連が強いね。
医学生医学生
検体の扱いにも注意が必要だと聞いたことがあります。
ドクタードクター
よく知っているね。採血後に冷えるとクリオグロブリンが沈殿して偽低値になるから、37℃に保温して運ぶ必要がある。臨床実習で採血を頼まれたら気をつけよう。それから、低補体血症性蕁麻疹様血管炎も名前通り補体が下がる免疫複合体性血管炎として覚えておくといい。

まとめ

補体は肝臓で作られる急性期反応物質でもあるため、多くの炎症性疾患では正常〜高値となり、低補体血症は免疫複合体による消費亢進か、肝障害などによる産生低下で起こります。血管炎で補体が下がるのは免疫複合体性小型血管炎であり、とくにクリオグロブリン血症性血管炎はHCV関連の混合型が多く、C4の低下が目立つのが特徴です。高安動脈炎・巨細胞性動脈炎などの大型血管炎、結節性多発動脈炎、pauci-immune型のANCA関連血管炎である顕微鏡的多発血管炎では、補体は通常低下しません。「補体は作られ、使われる」というバランスで考える視点は、SLEや糸球体腎炎の鑑別にもそのまま応用できます。

解答・解説

正解はbです

血清補体価(CH50、C3、C4)は、補体が「作られる量」と「使われる(消費される)量」のバランスで決まる。補体成分の多くは肝臓で産生される急性期反応物質でもあるため、ふつうの炎症性疾患ではCRPと同様に産生が亢進し、補体価はむしろ正常〜高値になる。 低補体血症をきたすのは主に次の二つの状況である。 1. 消費の亢進:血中や組織で免疫複合体が形成・沈着し、古典経路などを介して補体が大量に活性化・消費される場合(SLE、クリオグロブリン血症、溶連菌感染後急性糸球体腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎など) 2. 産生の低下:補体を作る肝臓の機能が低下した場合(肝硬変、劇症肝炎など)や先天性欠損 血管炎は、2012年改訂Chapel Hill分類で、侵される血管の太さと機序により整理されている。このうち、免疫複合体が血管壁に沈着して起こる「免疫複合体性小型血管炎」(クリオグロブリン血症性血管炎、IgA血管炎、低補体血症性蕁麻疹様血管炎、抗GBM病)では補体の消費が起こりうる。とくにクリオグロブリン血症性血管炎と低補体血症性蕁麻疹様血管炎は低補体血症が特徴である。一方、大型血管炎(高安動脈炎、巨細胞性動脈炎)、中型血管炎(結節性多発動脈炎)、免疫複合体の沈着がほとんどないANCA関連血管炎(顕微鏡的多発血管炎など)では、補体は消費されず、炎症に伴いむしろ上昇しやすい。 したがって選択肢のうち低補体血症をきたすのはクリオグロブリン血症性血管炎である。

選択肢考察

  1. ×a.  巨細胞性動脈炎

    誤り。巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)は、主に50歳以上に発症する大型血管炎で、側頭動脈など頸動脈の分枝や大動脈を侵す。病理では巨細胞を伴う肉芽腫性炎症を示し、T細胞・マクロファージを主体とする細胞性免疫が病態の中心で、免疫複合体による補体消費は起こらない。炎症に伴い補体の産生が増えるため、補体価は正常〜高値となる。赤沈亢進、CRP上昇が特徴的な検査所見である。

  2. ○b.  クリオグロブリン血症性血管炎

    正しい。クリオグロブリンは、37℃未満の低温で沈殿し、37℃に温め直すと再び溶ける性質をもつ免疫グロブリン(またはその免疫複合体)である。とくにC型肝炎ウイルス(HCV)感染に関連する混合型クリオグロブリン(リウマトイド因子活性をもつIgMとIgGの複合体)は、小血管の壁に沈着して主に古典経路から補体を活性化し、血管炎を起こす。この過程で補体が大量に消費されるため低補体血症となり、とくにC4の著明な低下(C3に比べてC4やCH50の低下が目立つ)が特徴である。臨床的には紫斑(下腿の触知可能な紫斑)、関節痛、末梢神経障害、膜性増殖性糸球体腎炎などを生じる。

  3. ×c.  結節性多発動脈炎

    誤り。結節性多発動脈炎は中型の筋性動脈を侵す壊死性血管炎で、動脈瘤形成(腎・腸間膜動脈などの小動脈瘤)や臓器梗塞を起こす。ANCAは通常陰性で、糸球体腎炎や細小血管の血管炎は伴わない。補体は一般に低下せず、炎症に伴いむしろ上昇する。B型肝炎ウイルス関連の症例では免疫複合体の関与が考えられ補体が低下することもあるが、本症の特徴的所見とはいえない。

  4. ×d.  顕微鏡的多発血管炎

    誤り。顕微鏡的多発血管炎はMPO-ANCA(ミエロペルオキシダーゼに対する抗好中球細胞質抗体)が陽性となることが多いANCA関連血管炎で、急速進行性糸球体腎炎や肺胞出血、間質性肺炎を起こす。ANCA関連血管炎は、血管壁への免疫グロブリンや補体の沈着がほとんどない「pauci-immune(微量免疫型)」の血管炎であり、免疫複合体による補体消費は起こらないため、血清補体価は低下しない。

  5. ×e.  高安動脈炎〈大動脈炎症候群〉

    誤り。高安動脈炎は若年女性に多い大型血管炎で、大動脈とその主要分枝に肉芽腫性の炎症を起こし、狭窄・閉塞・拡張をきたす(脈なし病、血圧の左右差、血管雑音など)。巨細胞性動脈炎と同様に細胞性免疫が主体の炎症で、補体の消費は起こらず、補体価は正常〜高値となる。

低補体血症をきたす主な病態

1. 消費の亢進(免疫複合体形成や補体活性化) ・全身性エリテマトーデス(SLE):活動性の指標となり、ループス腎炎で顕著 ・クリオグロブリン血症(とくにHCV関連の混合型):C4の低下が目立つ ・溶連菌感染後急性糸球体腎炎:C3、CH50が低下し、通常6〜8週で正常化する ・膜性増殖性糸球体腎炎:持続的な低補体血症 ・悪性関節リウマチ(血管炎を伴う関節リウマチ) ・低補体血症性蕁麻疹様血管炎(抗C1q抗体) ・自己免疫性溶血性貧血(寒冷凝集素症など) ・感染性心内膜炎に伴う糸球体腎炎、播種性血管内凝固(DIC)、重症敗血症 ・遺伝性血管性浮腫(C1インヒビター欠損症):C4が低下する 2. 産生の低下 ・肝硬変、劇症肝炎などの重度の肝障害 ・補体成分の先天性欠損

Chapel Hill分類(2012年)による血管炎の整理

・大型血管炎:高安動脈炎、巨細胞性動脈炎 ・中型血管炎:結節性多発動脈炎、川崎病 ・小型血管炎  ANCA関連血管炎:顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症  免疫複合体性小型血管炎:抗GBM病、クリオグロブリン血症性血管炎、IgA血管炎、低補体血症性蕁麻疹様血管炎(抗C1q血管炎)

クリオグロブリンの分類(Brouet分類)

・I型:単クローン性免疫グロブリンのみ。多発性骨髄腫、原発性マクログロブリン血症などに伴い、過粘稠症候群や血栓症状が出やすい ・II型:単クローン性IgM(リウマトイド因子活性あり)+多クローン性IgG。HCV感染との関連が強い ・III型:多クローン性IgM+多クローン性IgG。膠原病や感染症に伴う II型とIII型を混合型と呼び、免疫複合体性血管炎と低補体血症(とくにC4低下)を起こしやすい。採血した検体は37℃に保温して運ぶ必要がある(低温で沈殿してしまい測定値が偽低値になるため)。

POINT

・補体は急性期反応物質であり、多くの炎症性疾患では正常〜高値になる。 ・低補体血症は「消費亢進(免疫複合体性疾患)」か「産生低下(肝不全)」で起こる。 ・血管炎で低補体血症をきたすのは免疫複合体性小型血管炎、とくにクリオグロブリン血症性血管炎(C4低下が目立つ)と低補体血症性蕁麻疹様血管炎。 ・大型血管炎(高安動脈炎、巨細胞性動脈炎)、結節性多発動脈炎、ANCA関連血管炎(pauci-immune)では補体は低下しない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。