薬が切れた、道もない―被災した糖尿病患者を「安全に」医療へつなぐ一本の電話
第111回医師国家試験 H問題 第27問
国試問題にチャレンジ
66歳の女性。5日前の大地震で主要道路が破壊され,大規模な余震が続く地域に居住している。糖尿病のため経口血糖降下薬を服用中で,地震前は約50km離れた自宅から自家用車で通院していた。内服していた薬がなくなったため,対応について電話相談を受けた。近隣に診療所はあるが地震後は閉院しているという。徒歩圏内に避難所が開設されているが,自宅は損壊を免れ居住可能であり,現在1人で暮らしている。公共交通機関は復旧していない。 最も適切な対応はどれか。
- a.診療所の医師を探すように伝える。
- b.自家用車で診察に来るよう伝える。
- c.しばらく放置しても問題ないと伝える。
- d.直接診察しないと医学的な判断はできないことを伝える。
- e.自治体または最寄りの避難所の保健医療職に連絡するよう伝える。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
大規模災害では、医療機関の被災や交通・物流の途絶によって糖尿病などの慢性疾患の治療中断が多発し、高血糖緊急症や感染症などの災害関連疾患・関連死の原因となります。電話相談を受けた医師は、危険な長距離移動を求めたり、患者に困難な探索を任せたり、治療中断を容認したり、相談を突き放したりせず、安全に実行できる方法で医療資源につなぐことが求められます。被災地では自治体の保健師や避難所の保健医療職、JMATなどの医療救護班が在宅被災者も含めて支援しており、そこへの連絡を促すのが最も現実的な対応で、お薬手帳の持参も継続処方の助けになります。災害時の糖尿病では高血糖だけでなく食事不足による低血糖やSGLT2阻害薬による脱水にも注意し、平時から予備薬の確保とシックデイ対応の指導を行っておくことが重要です。医学的判断に加えて、地域の支援体制を理解し活用する視点は、災害医療に限らず臨床医に欠かせない力です。
解答・解説
正解はeです
状況の整理
・66歳女性、糖尿病で経口血糖降下薬を内服中だが、手持ちの薬が切れた。 ・5日前の大地震で主要道路が破壊され、大きな余震が続いている。公共交通機関も止まっている。 ・かかりつけ医療機関は約50km離れており、これまで自家用車で通院していた。 ・近くの診療所は地震後に閉院している。 ・自宅は住める状態で1人暮らし。徒歩で行ける距離に避難所が開設されている。 ・電話で相談を受けたのは、普段診ている遠方の医療機関の医師と考えられる。
問題の本質
大規模災害の急性期から亜急性期にかけては、外傷などの急性疾患だけでなく、糖尿病・高血圧・慢性腎臓病などの慢性疾患の治療が、薬の不足や医療機関の機能停止で中断されることが大きな問題になる。治療中断は血糖・血圧の悪化を通じて、高血糖緊急症、感染症、心血管イベントなどの「災害関連疾患・災害関連死」につながりうる。
対応の考え方
医師に求められるのは、患者の安全を確保しつつ、現実に実行可能な方法で医療につなぐことである。被災地では、自治体の保健師、避難所に配置・巡回する医療救護班(日本医師会災害医療チーム〈JMAT〉など)や保健医療職が、避難所にいない在宅被災者も含めて健康相談や慢性疾患の薬の確保を支援する体制がとられる。本例は徒歩圏内に避難所があるため、そこにいる保健医療職や自治体に連絡すれば、安全に移動でき、薬の入手や受診先の確保につながる可能性が高い。危険な長距離移動を求めたり、患者自身に困難な探索を任せたり、相談を突き放したりする対応は不適切である。
選択肢考察
- ×a. 診療所の医師を探すように伝える。
近隣の診療所は閉院しており、その医師自身も被災している可能性が高い。通信や交通が混乱した中で、高齢の1人暮らしの患者が自力で医師の所在を突き止めるのは現実的ではない。見つかったとしても医療機能が停止していれば薬の処方につながらず、具体的な解決策とならない。
- ×b. 自家用車で診察に来るよう伝える。
主要道路が破壊され大規模な余震が続く中で約50kmの移動を求めることは、交通事故や二次災害に巻き込まれる危険が高い。燃料の入手も困難なことが多く、緊急車両の通行の妨げにもなりうる。患者の安全を損なうため不適切である。
- ×c. しばらく放置しても問題ないと伝える。
血糖コントロールの状態が把握できない中で治療中断を容認することは危険である。災害時はストレスホルモンの増加、活動量の低下、炭水化物に偏った支援食などにより血糖が上昇しやすく、脱水も加わると高浸透圧高血糖状態などの高血糖緊急症をきたすおそれがある。1人暮らしで異変に気付かれにくい点も危険を高める。
- ×d. 直接診察しないと医学的な判断はできないことを伝える。
原則としては対面診察が望ましいが、災害時に通院手段のない患者に対してこう伝えるだけでは、相談を打ち切ることと変わらず、患者は医療から取り残される。電話で状況を聴き取り、利用可能な医療資源へつなぐ具体的な助言をすることが医師の役割である。
- ○e. 自治体または最寄りの避難所の保健医療職に連絡するよう伝える。
徒歩圏内の避難所には、自治体の保健師や医療救護班などの保健医療職が配置または巡回しており、在宅で過ごす被災者からの相談も受け付けている。そこへ連絡すれば、巡回診療や救護所での診察、臨時の処方・医薬品の供給、受診可能な医療機関の紹介などにつながる可能性が高い。患者が安全に実行でき、現地の支援体制を活用できる最も現実的な対応である。可能であれば、普段の処方内容(お薬手帳など)を持参するよう添えるとよい。
災害時の慢性疾患管理
・大規模災害では医療機関の被災、物流の停止、交通の途絶により、慢性疾患の治療中断が多発する。東日本大震災などでも、糖尿病・高血圧などの悪化や災害関連死が問題となった。 ・避難所などでは、自治体の保健師、医療救護班(JMATなど)、災害派遣医療チーム(DMAT、主に発災直後の急性期)、日本赤十字社の救護班、薬剤師会などが連携して医療支援を行う。DMATは発災からおおむね48〜72時間の急性期が中心で、その後は JMAT などによる慢性疾患を含めた継続的な支援へ移行していく。 ・災害時には、処方内容がわかるお薬手帳や薬の空き袋が、継続処方の大きな手がかりとなる。平時から携帯・写真保存しておくよう指導する。
災害時の糖尿病患者への注意点
・ストレス、運動不足、おにぎり・パンなど炭水化物中心の食事で高血糖になりやすい。 ・逆に食事が十分に取れない状況でスルホニル尿素(SU)薬やインスリンを通常量使い続けると低血糖を起こすことがある。食事量に応じた調整(シックデイルールに準じた対応)が必要である。 ・SGLT2阻害薬は水分摂取が不十分な状況で脱水やケトアシドーシスのリスクがあり、注意を要する。 ・水不足による脱水、トイレを我慢するための飲水制限は高血糖の悪化や血栓症(深部静脈血栓症など)につながる。 ・足の外傷や感染症にも注意する。
平時からの備え
糖尿病患者には、数日〜1週間分程度の予備薬の確保、お薬手帳の携帯、災害時に食事が取れない場合の薬の調整方法の確認などを日頃から指導しておくことが重要である。
POINT
・災害時は慢性疾患(糖尿病など)の治療中断が問題となり、災害関連疾患・関連死の原因となる。 ・医師は患者の安全を最優先し、実行可能な手段で医療資源につなぐ。危険な長距離移動を求めたり、相談を突き放したりしない。 ・被災地では自治体(保健師)や避難所の保健医療職、医療救護班(JMATなど)が在宅被災者も含めて支援する。 ・お薬手帳は災害時の継続処方の重要な情報源。 ・災害時の糖尿病は高血糖にも、食事不足による低血糖(SU薬・インスリン)にも注意する。
