StudyMed医師国家試験

触れば語るリンパ節―「痛くない・動く・消しゴムの硬さ」が示す悪性リンパ腫

第111回医師国家試験 G問題 第50問

国試問題にチャレンジ

第111回 G問題 第50問

42歳の男性。頸部のリンパ節腫大を主訴に来院した。数年前から風邪をひきやすいと感じていた。1年前から両側の頸部にリンパ節腫大を自覚していた。自宅近くの医療機関を受診したところ,右頸部リンパ節の生検で悪性腫瘍が疑われたため紹介されて受診した。両側の頸部に径3cmのリンパ節を数個触知する。右頸部に生検跡を認める。両側の腋窩に径2cmのリンパ節を1個触知する。脾を左肋骨弓下に3cm触知する。血液所見:赤血球302万,Hb 9.2g/dL,Ht 30%,白血球30,500(桿状核好中球3%,分葉核好中球3%,単球6%,リンパ球88%),血小板19万。リンパ節生検組織のH-E染色標本を別に示す。 この患者のリンパ節の触診所見として最も考えられるのはどれか。 圧痛 可動性 性状 a + + 軟 b + - 弾性硬 c - + 弾性硬 d - - 石様硬 e - - 軟

第111回 G問題 第50問の問題画像
  1. a.+  +  軟
  2. b.+  -  弾性硬
  3. c.-  +  弾性硬
  4. d.-  -  石様硬
  5. e.-  -  軟

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は病名そのものではなく、リンパ節を触ったときの手ざわりを問う問題だ。まず症例全体から、このリンパ節がどんな原因で腫れているのかを見きわめ、そのうえで圧痛・可動性・硬さの3つを組み合わせて答える。最初に、どんな病気を考えるかな。
医学生医学生
前医の生検で悪性腫瘍が疑われているので、がんの転移か悪性リンパ腫だと思います。
ドクタードクター
いいね。その2つを分けるヒントが経過と分布だ。1年かけてゆっくり腫れていて、両側の頸部と腋窩という複数の領域に広がり、脾腫まである。さらに白血球の大部分がリンパ球で、絶対数にすると約2万7千と著明に増えている。
医学生医学生
リンパ球がそんなに増えているなら、慢性リンパ性白血病も考えたくなります。血液内科の講義で、高齢者のリンパ球増多ではまず慢性リンパ性白血病を考えると習いました。
ドクタードクター
鋭いね。実際、慢性リンパ性白血病や小リンパ球性リンパ腫は鑑別に残る。ただリンパ節生検のH-E染色では、小型のリンパ球が濾胞のような結節状の構造をつくって増殖している。年単位の経過と合わせると、低悪性度のB細胞リンパ腫、なかでも末梢血に腫瘍細胞が出た濾胞性リンパ腫が考えやすい。いずれにしても、腫れの正体は悪性リンパ腫というリンパ系腫瘍だ。
医学生医学生
風邪をひきやすいというのも、腫瘍と関係がありますか。
ドクタードクター
関係していると考えられる。骨髄に腫瘍細胞が入り込んで正常の造血が落ちたり、正常な免疫グロブリンが作られにくくなって低γグロブリン血症になったりすると、感染に弱くなる。好中球が相対的に少なく貧血もあるのは、その表れとも読めるね。では本題の触診だ。リンパ節の性状は大きく3つのパターンに分けて覚えるといい。
医学生医学生
OSCEの頸部診察の練習で、圧痛、可動性、硬さを必ず確認するように言われました。
ドクタードクター
その3つがまさに鑑別の軸だ。まず、圧痛があってよく動き、軟らかいリンパ節。これは何を思い浮かべる?
医学生医学生
風邪のときに首が腫れて痛むような、感染による反応性のリンパ節炎ですね。
ドクタードクター
正解。炎症で急に腫れると被膜が引き伸ばされて痛む。年単位で痛みなく大きくなった今回の経過とは合わない。次に、圧痛があるのに動かない弾性硬のリンパ節は?
医学生医学生
痛いのに動かない……炎症が周りに広がってくっついてしまった状態でしょうか。
ドクタードクター
そう考えていい。化膿性リンパ節炎や結核性リンパ節炎で、リンパ節同士や周囲の組織と癒着するとこうなる。悪性リンパ腫は基本的に痛まないから、圧痛ありの時点で合わないね。では痛みがなく、動かず、石のように硬いものは?
医学生医学生
がんのリンパ節転移です。胃癌の左鎖骨上窩転移、Virchow転移がその代表だと消化器の講義で習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。癌細胞は線維化を伴って増え、被膜を越えて周りに浸み込むから、硬くて動かなくなる。悪性リンパ腫とはっきり区別しておきたい所見だ。
医学生医学生
痛くなくて動かない、でも軟らかい、というのはどうでしょう。リンパ腫ならこれもありそうに思えたのですが。
ドクタードクター
そこは誤解しやすいところだ。リンパ腫のリンパ節は軟らかくはない。リンパ節の中身が腫瘍細胞でびっしり置き換わるので、ゴムや消しゴムを押したような弾力のある硬さ、つまり弾性硬になる。リンパ節が軟らかく触れるのは、急性炎症によるむくみや、膿がたまって波動を感じるような場合だね。
医学生医学生
ということは、悪性リンパ腫は圧痛なし、可動性あり、弾性硬の組み合わせが正解ですね。ゆっくり大きくなるから痛まず、周りに浸み込みにくいから動く、と理屈で覚えられそうです。
ドクタードクター
その理解で完璧だ。とくに濾胞性リンパ腫のような低悪性度リンパ腫では、この所見がそろいやすい。軟、弾性硬、石様硬の順に硬くなる、と並べて覚えるのもおすすめだよ。
医学生医学生
濾胞性リンパ腫は、病理の講義でt(14;18)とBCL2が出てきた記憶があります。
ドクタードクター
そう、t(14;18)転座でアポトーシスを抑えるBCL2が過剰に発現し、免疫染色ではCD10陽性が特徴だ。一方、慢性リンパ性白血病はCD5とCD23が陽性で、リンパ節では腫瘍細胞がびまん性に増える中に淡く抜けた増殖中心がみられる。濾胞構造との区別には免疫染色やフローサイトメトリーが役立つ。濾胞性リンパ腫は腫瘍量が少なく無症状なら経過観察を選ぶこともあり、治療が必要なら抗CD20抗体と化学療法の併用が中心になる。臨床では、経過中にびまん性大細胞型B細胞リンパ腫などへ形質転換することがあるので、急な増大や痛みの出現には注意しよう。

まとめ

リンパ節腫大の触診では、圧痛・可動性・硬さの組み合わせから原因を推定します。急性リンパ節炎は圧痛あり・可動性あり・軟、癌のリンパ節転移は圧痛なし・周囲と癒着して可動性なし・石様硬、そして悪性リンパ腫は圧痛なし・可動性あり・弾性硬が典型です。本例は年単位で進む全身性のリンパ節腫大、脾腫、末梢血リンパ球の著増と濾胞構造を示す組織像から、白血化した濾胞性リンパ腫などの低悪性度B細胞リンパ腫が考えられ、触診所見は消しゴムのような弾性硬で無痛性、可動性良好と予想されます。慢性リンパ性白血病との鑑別には免疫形質の確認が重要で、濾胞性リンパ腫ではt(14;18)によるBCL2過剰発現とCD10陽性が特徴です。触診という基本手技で病態を推し量る力は、外来での初期診断や精査の判断に直結する大切な臨床能力です。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・42歳男性。1年前から両側頸部のリンパ節腫大を自覚しており、経過は年単位とゆっくりである。数年来の易感染性(風邪をひきやすい)もある。 ・前医の右頸部リンパ節生検で悪性腫瘍が疑われている。 ・身体所見: 両側頸部に径3cmのリンパ節が数個、両側腋窩に径2cmのリンパ節、脾腫(左肋骨弓下3cm)。リンパ節腫大は左右両側・複数の領域に及び、脾臓まで病変が広がっている。 ・血液所見: 白血球30,500/μLのうちリンパ球88%で、リンパ球の絶対数は約27,000/μLと著明に増加している。一方で好中球は合計6%(約1,800/μL)と相対的に少ない。Hb 9.2g/dLの貧血もある。血小板は保たれている。 ・リンパ節生検のH-E染色では、小型のリンパ球が濾胞(結節)状の構造をつくって増殖している。

診断へのプロセス

年単位でゆっくり進む全身性のリンパ節腫大と脾腫に、末梢血リンパ球の著増が加わっている。この組み合わせは低悪性度(インドレント)のB細胞リンパ腫が骨髄や末梢血に広がった状態、あるいは慢性リンパ性白血病〈CLL〉を考えさせる。生検組織で濾胞構造を伴う小型リンパ球の増殖がみられることから、白血化した濾胞性リンパ腫〈FL〉と考えられる。いずれにしても本例は「悪性リンパ腫(リンパ系腫瘍)によるリンパ節腫大」である。易感染性は、腫瘍細胞の骨髄浸潤による正常造血の低下や、正常な免疫グロブリン産生の低下(低γグロブリン血症)を反映していると考えられる。

設問の考え方

本問で問われているのは病名そのものではなく、悪性リンパ腫で腫れたリンパ節を触ったときにどう感じるかである。リンパ節の触診では、圧痛・可動性・硬さの三つを組み合わせて原因を推定する。炎症性・反応性、悪性リンパ腫、癌のリンパ節転移の三つで典型像が異なる。悪性リンパ腫のリンパ節は「圧痛なし・可動性あり・弾性硬(消しゴムのような硬さ)」が典型であり、この組み合わせを選ぶ。

選択肢考察

  1. ×a.  +  +  軟

    圧痛があり、よく動き、軟らかいリンパ節は、細菌やウイルスの感染などによる急性リンパ節炎(反応性腫大)の典型像である。炎症でリンパ節が急に腫れると被膜が引き伸ばされ、痛みが生じる。年単位で無痛性に増大し、濾胞構造をもつ腫瘍細胞が増殖している本例には合わない。

  2. ×b.  +  -  弾性硬

    悪性リンパ腫のリンパ節腫大は通常痛みを伴わないため、圧痛ありの時点で合わない。可動性がないのは、病変が被膜を越えて周囲の組織と癒着した状態を意味する。炎症が周囲へ広がったリンパ節炎(化膿性リンパ節炎や結核性リンパ節炎など)で、リンパ節どうしや周囲組織と癒着した場合にみられる所見である。

  3. ○c.  -  +  弾性硬

    悪性リンパ腫の腫大リンパ節に典型的な触診所見である。腫瘍細胞の増殖はゆっくり進むため、急な被膜の伸展が起こりにくく、通常は無痛性である。リンパ節の構造が腫瘍細胞でびっしり置き換わることで、ゴムや消しゴムを押したような弾力のある硬さ(弾性硬)になる。周囲組織への浸潤が乏しいため、腫大が大きくても皮膚や深部組織と癒着しにくく、可動性は保たれることが多い。濾胞性リンパ腫のようなインドレントリンパ腫では特にこの所見がそろいやすい。

  4. ×d.  -  -  石様硬

    痛みがなく、周囲に固定されて動かず、石のように硬いリンパ節は、癌(上皮性の固形腫瘍)のリンパ節転移の典型像である。癌細胞が線維化(間質反応)を伴って増殖し、被膜を越えて周囲組織へ浸潤するため、硬く動かなくなる。代表例は胃癌の左鎖骨上窩リンパ節転移(Virchow転移)である。悪性リンパ腫の弾性硬とは区別して覚える。

  5. ×e.  -  -  軟

    悪性リンパ腫のリンパ節は軟らかくなく弾性硬であり、可動性も通常は保たれるため合わない。リンパ節が軟らかく触れるのは、急性炎症による浮腫や、膿瘍形成による波動を伴う場合などである。

リンパ節腫大の触診のポイント

・圧痛: 急性炎症で生じやすい。腫瘍性の腫大は通常無痛性である。 ・可動性: 周囲組織への浸潤や癒着があると失われる。癌の転移や、周囲に広がった炎症でみられる。 ・硬さ: 軟(炎症)、弾性硬(悪性リンパ腫)、石様硬(癌の転移)の順に硬くなる。 ・大きさ・部位・経過: 径1cm(鼠径部では1.5cm程度)を超える腫大、鎖骨上窩の腫大、数週間以上続く増大は精査の対象となる。

典型的な触診所見のまとめ

・急性リンパ節炎: 圧痛あり・可動性あり・軟 ・悪性リンパ腫: 圧痛なし・可動性あり・弾性硬 ・癌のリンパ節転移: 圧痛なし・可動性なし(周囲と癒着)・石様硬 ・結核性リンパ節炎: 周囲と癒着して複数のリンパ節が塊(数珠状)になり、進行すると乾酪壊死から自壊・瘻孔をつくることがある

濾胞性リンパ腫〈FL〉

・成熟B細胞から生じる低悪性度(インドレント)リンパ腫の代表で、日本では非Hodgkinリンパ腫のうちびまん性大細胞型B細胞リンパ腫〈DLBCL〉に次いで多い。 ・病理では、腫瘍細胞が正常の胚中心に似た濾胞状(結節状)の構造をつくって増殖する。 ・t(14;18)転座により、抗アポトーシス蛋白であるBCL2が過剰に発現する。免疫染色ではCD10陽性、BCL2陽性が特徴である。 ・年単位でゆっくり進み、診断時には全身のリンパ節腫大や骨髄浸潤を伴う進行期であることが多い。本例のように末梢血に腫瘍細胞が出る(白血化する)こともある。 ・腫瘍量が少なく症状がなければ経過観察(watch and wait)とすることもある。治療を要する場合は、抗CD20抗体(リツキシマブなど)と化学療法の併用が中心となる。経過中にDLBCLなどの高悪性度リンパ腫へ形質転換することがある。

鑑別: 慢性リンパ性白血病〈CLL〉/小リンパ球性リンパ腫〈SLL〉

・高齢者に多く、成熟した小型B細胞が増殖し、末梢血リンパ球増加、リンパ節腫大、脾腫を呈する。CD5とCD23が陽性である。 ・低γグロブリン血症による易感染性や、自己免疫性溶血性貧血を合併しやすい。 ・リンパ節では、腫瘍細胞がびまん性に増殖する中に淡く抜けた増殖中心(偽濾胞)がみられる。FLの濾胞構造との鑑別には、免疫染色(CD5、CD10、CD23など)やフローサイトメトリーが用いられる。

POINT

・悪性リンパ腫のリンパ節: 無痛性・可動性あり・弾性硬 ・癌のリンパ節転移: 無痛性・可動性なし・石様硬 ・急性リンパ節炎: 有痛性・可動性あり・軟 ・年単位の全身性リンパ節腫大、脾腫、末梢血リンパ球増加ではインドレントB細胞リンパ腫(濾胞性リンパ腫の白血化、CLL/SLLなど)を考える。 ・濾胞性リンパ腫: 濾胞構造、t(14;18)、BCL2過剰発現、CD10陽性。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。