StudyMed医師国家試験

主治医意見書に「家族構成」の欄はない―医師が書くべきは医学的評価

第111回医師国家試験 E問題 第40問

国試問題にチャレンジ

第111回 E問題 第40問

77歳の男性。脳梗塞後のリハビリテーションのために入院中である。5か月前に右中大脳動脈領域の広範な脳梗塞を発症し,急性期病院で治療後に左片麻痺と高次脳機能障害とに対するリハビリテーションのために回復期リハビリテーション病棟に転院した。妻と2人暮らしで,年金で生活している。日常会話に支障はない。軽度の温痛覚低下と左半側空間無視とを認める。短下肢装具とT字杖とを用いた平地歩行が可能だが,階段昇降には介助を要する。本人,家族とも自宅退院後の介護保険の利用を希望しており,主治医意見書の記載を依頼された。  意見書の記載項目に含まれないのはどれか。

  1. a.栄養状態
  2. b.移動の手段
  3. c.認知症の症状
  4. d.同居家族の有無
  5. e.日常生活の自立度

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、介護保険の要介護認定で医師が作成する主治医意見書に、どんな項目が含まれるかを問う問題だ。着眼点は「医師が医学的に評価できる内容かどうか」。まず、要介護認定がどういう流れで決まるか覚えているかな。
医学生医学生
市町村に申請して、認定調査員が自宅などを訪問する認定調査と、かかりつけ医の主治医意見書の2つが資料になる、と公衆衛生の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。認定調査の結果をコンピュータで処理するのが一次判定で、その結果と主治医意見書、調査の特記事項をもとに、保健・医療・福祉の専門家からなる介護認定審査会が二次判定を行う。主治医意見書は、病気や心身の状態について医学的な立場から意見を述べる書類で、書式は全国共通なんだ。
医学生医学生
医学的な評価が中心なら、病名や麻痺の程度を書くのはわかりますが、栄養状態まで書くんですか。
ドクタードクター
書くよ。「生活機能とサービスに関する意見」の中に栄養・食生活の欄があって、食事行為が自立しているか、現在の栄養状態が良好か不良かを記入する。低栄養は筋力低下や褥瘡、感染症のリスクを高めて、介護の手間に直結するからね。
医学生医学生
移動の手段も同じ欄でしょうか。この患者さんは短下肢装具とT字杖で歩いていますよね。
ドクタードクター
そう。移動の欄では屋外歩行の状況、車いすの使用、歩行補助具・装具の使用を記入する。この症例なら装具と杖を使っていることを書くことになる。では認知症の症状はどうだろう。
医学生医学生
この方は会話には支障がないので、認知症の欄は関係ないように思えますが……。
ドクタードクター
症状がなければ「なし」と記入するだけで、項目自体はある。「心身の状態に関する意見」の中で、短期記憶や意思決定の能力、意思の伝達能力といった中核症状と、妄想や昼夜逆転、徘徊などの行動・心理症状、いわゆるBPSDの有無を書く。認知症の症状は介護の手間を大きく左右するから重要な判断材料なんだ。
医学生医学生
日常生活の自立度も書きますよね。臨床実習で寝たきり度のJとかAとかを聞いた覚えがあります。
ドクタードクター
よく覚えているね。意見書の冒頭近くに、障害高齢者の日常生活自立度、いわゆる寝たきり度と、認知症高齢者の日常生活自立度の2つを記入する欄がある。寝たきり度は自立からJ、A、B、Cの段階、認知症のほうはⅠからⅣとMで評価する。申請者の状態を簡潔に伝える、特に重視される項目だよ。
医学生医学生
そうすると、残る同居家族の有無が含まれないものですね。でも、介護する人がいるかどうかは大事な情報な気がします。
ドクタードクター
もっともな疑問だね。たしかに家族の状況は大切だけれど、それは医学的評価ではない。要介護認定では原則として本人の心身の状態から介護の手間を判断し、同居家族がいるかどうかで要介護度自体を変えない考え方がとられている。家族構成や介護力は、認定調査の概況調査やケアマネジャーのアセスメントで把握され、ケアプランを立てるときに生かされるんだ。
医学生医学生
要介護度を決める段階と、どのサービスをどれだけ使うかを決める段階で、使う情報が違うということですね。
ドクタードクター
その通り。発展として、意見書には他にも、診断名と発症日、症状の安定性、過去14日以内に受けた点滴や透析、酸素療法などの特別な医療、麻痺や拘縮などの身体の状態、転倒・骨折や誤嚥性肺炎など今後起こりうる状態と対処方針、訪問看護や訪問リハビリなど医学的管理の必要性、感染症の有無を書く欄がある。
医学生医学生
この患者さんなら、左半側空間無視があるので転倒リスクや移動時の留意点を書いておくとよさそうです。
ドクタードクター
いい視点だ。審査会もケアマネジャーも、医師の書く留意事項を頼りにサービスを組み立てる。もう一つ、40〜64歳の第2号被保険者は、脳血管疾患などの特定疾病が原因の場合に限って認定の対象になることも押さえておこう。研修医になると意見書を書く機会は意外に多いから、何を書く書類なのかを理解しておくと役に立つよ。

まとめ

介護保険の要介護認定は、認定調査(訪問調査)と主治医意見書を資料に、コンピュータによる一次判定と介護認定審査会による二次判定を経て決まります。主治医意見書は全国共通の書式で、傷病に関する意見、特別な医療、心身の状態(日常生活自立度、認知症の中核症状とBPSD、麻痺などの身体の状態)、生活機能とサービス(移動、栄養・食生活、今後起こりうる状態、医学的管理の必要性など)、特記事項から成ります。一方、同居家族の有無や住環境といった生活背景は医学的評価ではないため意見書の項目には含まれず、認定調査の概況調査やケアマネジャーのアセスメントで把握され、ケアプランの作成に生かされます。要介護度は原則として本人の心身の状態から判断されるという考え方を理解しておくと、各書類の役割分担が整理できます。医師として意見書を的確に書くことは、患者の退院後の生活を支える介護サービスにつながる大切な仕事です。

解答・解説

正解はdです

症例の整理

77歳の男性で、5か月前に右中大脳動脈領域の広範な脳梗塞を起こし、回復期リハビリテーション病棟で左片麻痺と高次脳機能障害(左半側空間無視など)に対する訓練を受けている。短下肢装具とT字杖で平地は歩けるが、階段昇降には介助が要る。会話は保たれている。自宅退院後に介護保険サービスを使いたいという希望があり、主治医意見書の作成を求められた場面である。

主治医意見書とは

介護保険のサービスを受けるには、市町村(保険者)による要介護認定(要支援1・2、要介護1〜5、非該当)を受ける必要がある。認定は、認定調査員が自宅などを訪問して行う認定調査(訪問調査)と、かかりつけ医が作成する主治医意見書の2つを資料として行われる。まず認定調査の結果をコンピュータで処理する一次判定があり、その結果と主治医意見書・認定調査の特記事項をもとに、保健・医療・福祉の専門家で構成される介護認定審査会が二次判定を行う。主治医意見書は、申請者の病気や心身の状態について医学的な立場から意見を述べる書類であり、書式と記載項目は全国で統一されている。

考え方

主治医意見書に書くのは、医師が医学的に評価できる内容、すなわち疾病の状態、受けている特別な医療、心身機能、日常生活の自立度、生活機能、介護サービス上の医学的留意点などである。一方、家族構成や住環境といった生活背景は、認定調査(訪問調査)やケアマネジャー(介護支援専門員)によるアセスメントで把握される情報であり、意見書の記載項目ではない。設問は「含まれないもの」を選ばせているので、医学的評価に当たらない「同居家族の有無」が正解となる。

選択肢考察

  1. ×a.  栄養状態

    記載項目に含まれる。「生活機能とサービスに関する意見」の中に「栄養・食生活」の欄があり、食事行為(自立ないし何とか自分で食べられる/全面介助)と、現在の栄養状態(良好/不良)を記入する。栄養・食生活上の留意点も書く。低栄養は筋力低下や褥瘡、感染症のリスクを高め、介護の必要量に直接かかわるため、医学的な評価として求められている。

  2. ×b.  移動の手段

    記載項目に含まれる。「生活機能とサービスに関する意見」の中に「移動」の欄があり、屋外歩行(自立/介助があればしている/していない)、車いすの使用(用いていない/主に自分で操作/主に他人が操作)、歩行補助具・装具の使用(用いていない/屋外で使用/屋内で使用)を記入する。本例であれば、短下肢装具とT字杖を使用していることを記入することになる。

  3. ×c.  認知症の症状

    記載項目に含まれる。「心身の状態に関する意見」の中で、認知症の中核症状(短期記憶、日常の意思決定を行うための認知能力、自分の意思の伝達能力)と、認知症の行動・心理症状(BPSD:幻視・幻聴、妄想、昼夜逆転、暴言、暴行、介護への抵抗、徘徊、火の不始末、不潔行為、異食行動、性的問題行動など)の有無を記入する。認知症の症状は介護に要する手間を大きく左右するため、重要な判断材料となる。

  4. ○d.  同居家族の有無

    記載項目に含まれないため、これが正解である。主治医意見書は申請者本人の疾病や心身の状態を医学的に評価する書類であり、家族構成を書く欄はない。要介護認定では、原則として介護の手間を本人の心身の状態から判断し、同居家族がいるかどうかで要介護度そのものを変えない考え方がとられている。家族の状況や介護力は、認定調査の概況調査やケアマネジャーのアセスメントで把握され、ケアプラン(どのサービスをどの程度使うか)を立てる段階で重要な情報として生かされる。

  5. ×e.  日常生活の自立度

    記載項目に含まれる。「心身の状態に関する意見」の冒頭に「日常生活の自立度等について」の欄があり、障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)と認知症高齢者の日常生活自立度の2つを記入する。この2つの指標は申請者の状態を簡潔に伝えるもので、意見書の中でも特に重視される項目である。

主治医意見書の主な記載項目

・基本情報:申請者の氏名・生年月日・住所、最終診察日、意見書作成回数(初回/2回目以上)、他科受診の有無など 1.傷病に関する意見:診断名(生活機能低下の直接の原因となっている傷病名を含む)と発症年月日、症状の安定性、生活機能低下の直接の原因となっている傷病の経過と投薬内容を含む治療内容 2.特別な医療:過去14日間以内に受けた医療(点滴の管理、中心静脈栄養、透析、ストーマの処置、酸素療法、レスピレーター、気管切開の処置、疼痛の看護、経管栄養、モニター測定、褥瘡の処置、カテーテル管理など) 3.心身の状態に関する意見:日常生活の自立度、認知症の中核症状、認知症の行動・心理症状、その他の精神・神経症状、身体の状態(利き腕、身長・体重、四肢欠損、麻痺、筋力低下、関節の拘縮、関節の痛み、失調・不随意運動、褥瘡、その他の皮膚疾患など) 4.生活機能とサービスに関する意見:移動、栄養・食生活、現在あるいは今後発生の可能性の高い状態とその対処方針(尿失禁、転倒・骨折、摂食・嚥下機能低下、誤嚥性肺炎、褥瘡など)、サービス利用による生活機能の維持・改善の見通し、医学的管理の必要性(訪問診療、訪問看護、訪問リハビリテーションなど)、サービス提供時の医学的観点からの留意事項(血圧、摂食、嚥下、移動、運動など)、感染症の有無 5.特記すべき事項

障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)

自立、J1・J2(生活自立:何らかの障害はあるが日常生活はほぼ自立し独力で外出する)、A1・A2(準寝たきり:屋内での生活はおおむね自立しているが介助なしには外出しない)、B1・B2(寝たきり:屋内での生活に何らかの介助を要し、日中もベッド上での生活が主体だが座位を保つ)、C1・C2(寝たきり:1日中ベッド上で過ごし、排泄・食事・着替えに介助を要する)の9段階で評価する。

認知症高齢者の日常生活自立度

自立、Ⅰ、Ⅱa、Ⅱb、Ⅲa、Ⅲb、Ⅳ、Mの8段階で評価する。Ⅱは日常生活に支障をきたす症状が多少みられても誰かが注意していれば自立できる状態(aは家庭外、bは家庭内でもみられる)、Ⅲは介護を必要とする状態(aは日中中心、bは夜間中心)、Ⅳは常に介護を必要とする状態、Mは著しい精神症状や問題行動、重篤な身体疾患があり専門医療を必要とする状態である。

要介護認定の流れ

申請 → 認定調査(訪問調査)と主治医意見書の作成 → 一次判定(コンピュータ) → 介護認定審査会による二次判定 → 市町村による認定・通知。第2号被保険者(40〜64歳)は、脳血管疾患などの特定疾病が原因である場合に限って認定の対象となる。

POINT

・要介護認定の資料は、認定調査(訪問調査)と主治医意見書の2つである。 ・主治医意見書の書式は全国共通で、傷病、特別な医療、心身の状態、生活機能とサービス、特記事項から成る。 ・日常生活自立度(障害高齢者・認知症高齢者の2種)、認知症の症状、移動、栄養状態は記載項目に含まれる。 ・同居家族の有無や住環境は意見書の記載項目ではなく、認定調査やケアマネジャーのアセスメントで把握される。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。