止まらないけいれんに最初の一手を―てんかん重積状態とベンゾジアゼピン静注
第111回医師国家試験 D問題 第23問
国試問題にチャレンジ
20歳の男性。右上下肢伸展位と右共同偏視が出現した後,全身けいれん発作が出現したため救急車で搬入された。意識レベルはGCS 7(E2V2M3)。来院時も右上下肢の強直間代性けいれんが持続している。体温38.2℃。心拍数96/分,整。血圧158/96mmHg。呼吸数32/分。SpO2 98%(鼻カニューラ 2L/分酸素投与下)。 第一選択となる薬剤はどれか。
- a.ジアゼパム
- b.ミダゾラム
- c.フェニトイン
- d.カルバマゼピン
- e.プロポフォール
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
けいれん性てんかん重積状態は、強直間代発作が5分以上続いた時点で治療を始めるべき緊急事態であり、30分を超えると不可逆的な神経障害のおそれがあります。気道・呼吸・循環の確保と血糖確認に続き、第一段階として脂溶性が高く速やかに脳へ移行するベンゾジアゼピン系のジアゼパムを静注し、作用が短いため長時間作用型の薬剤を続けて投与します。止まらなければホスフェニトイン、フェノバルビタール、レベチラセタムなどの第二段階へ、さらに難治例ではミダゾラム持続静注やプロポフォールによる全身麻酔療法へ進みます。静注製剤のないカルバマゼピンは重積には使えず、ミダゾラムは近年小児を中心に第一段階の選択肢として広がりつつあります。発作停止後には発熱を手がかりに脳炎・髄膜炎などの原因検索を行うことまで含めて、段階的な治療の流れを身につけておくことが救急診療の基本になります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・20歳男性。右上下肢の伸展位と右への共同偏視(両眼が同じ方向へ偏る)で始まり、続いて全身けいれんへ移行した。 ・来院時もGCS 7(E2V2M3:開眼は痛み刺激で、発語は理解不能な声、運動は異常屈曲)と高度の意識障害があり、右上下肢の強直間代性けいれんが持続している。 ・体温38.2℃、頻呼吸、血圧上昇を伴う。
病態の考え方
片側の上下肢の強直と眼球の偏位で始まり全身へ広がる経過は、焦点(部分)発作が両側性強直間代発作へ移行(二次性全般化)したものと解釈できる。頭部と眼が一方へ向く向反発作では、眼球は通常てんかん焦点と反対側を向くため、本例では左大脳半球の焦点が推定される。 けいれんが止まらないまま、意識が回復しない状態で搬送され、来院時も発作が続いているので、けいれん性てんかん重積状態と判断する。国際抗てんかん連盟(ILAE、2015年)の定義では、強直間代発作が5分以上続く時点で治療を開始すべき状態(t1)とされ、30分以上続くと神経細胞の不可逆的障害が生じうる(t2)とされる。したがって、診断が確定するのを待たず、まず発作を止める治療を直ちに行う。
初期対応の流れ
1. 気道確保、酸素投与、呼吸・循環のモニタリング、静脈路確保。 2. 血糖測定(低血糖であればブドウ糖を投与し、アルコール多飲や低栄養が疑われればチアミンを先行投与)。 3. 第一段階の抗けいれん薬として、作用発現の速いベンゾジアゼピン系薬剤を静注する。本問の時点での標準はジアゼパム静注である。 4. 止まらなければ第二段階の薬剤(ホスフェニトイン、フェノバルビタール、レベチラセタムなどの静注)へ進み、それでも止まらない難治性重積では全身麻酔薬(ミダゾラム持続静注、プロポフォール、チオペンタールなど)を用い、気管挿管・人工呼吸管理と持続脳波モニタリングを行う。 発作が止まった後は、発熱を伴っていることから脳炎・髄膜炎などの中枢神経感染症も念頭に置き、頭部CT/MRI、血液検査、髄液検査、脳波などで原因を検索する。
選択肢考察
- ○a. ジアゼパム
ジアゼパムはベンゾジアゼピン系薬剤で、GABA-A受容体に作用してGABAによる抑制性神経伝達を増強する。脂溶性が高く速やかに脳内へ移行するため、静注後数分以内に効果が現れ、てんかん重積状態の第一段階の治療薬として用いられる(成人では5〜10mgを緩徐に静注)。注意点として、呼吸抑制・血圧低下があるため呼吸・循環を監視し、バッグバルブマスクなどを準備しておく。また、脳から脂肪組織へ再分布するため抗けいれん作用の持続は短く、発作の再発を防ぐために、続けてホスフェニトインなど作用時間の長い抗てんかん薬を投与することが多い。静脈路が確保できない場合には注腸・坐薬で用いることもある。
- ×b. ミダゾラム
ミダゾラムも短時間作用型のベンゾジアゼピン系薬剤で、主に麻酔前投薬、全身麻酔の導入・維持、集中治療での鎮静に用いられてきた。薬理学的にはてんかん重積状態に対して静注・筋注で有効であり、ベンゾジアゼピンが効かない難治性重積では全身麻酔療法として持続静注にも用いられる。しかし、わが国では成人のてんかん重積状態に対するミダゾラムの使用は従来、保険適用外とされ、本問の時点では成人例の第一選択はジアゼパム静注とされていたため正解とならない。なお、近年は小児を中心にてんかん重積状態に用いるミダゾラム製剤(静注製剤や口腔用液)が承認され、診療ガイドラインでもベンゾジアゼピン系の第一段階の選択肢の一つに位置づけられるなど、使用の幅は広がっている。
- ×c. フェニトイン
フェニトインはNa+チャネルを遮断して神経の反復発火を抑える抗てんかん薬で、ベンゾジアゼピン系薬剤で発作が止まらない場合や、発作停止後の再発予防として第二段階に用いられる。作用発現までに時間がかかるため、第一選択にはならない。静注製剤は強アルカリ性で、血管外漏出による組織障害(紫手袋症候群)や静脈炎を起こしやすく、急速投与で不整脈・血圧低下を起こすことがある。このため現在は、フェニトインの水溶性プロドラッグであるホスフェニトインが急性期に用いられることが多い。
- ×d. カルバマゼピン
カルバマゼピンは焦点(部分)てんかんの長期的な発作予防に用いられる代表的な内服薬である(本問出題当時は部分発作の第一選択薬とされ、現在もラモトリギン、レベチラセタムなどと並ぶ第一選択群に含まれる)。しかし静注製剤がなく、内服薬で効果発現も遅いため、意識障害下で発作が持続している重積状態の治療には使えない。なお、欠神発作やミオクロニー発作を悪化させることがある点にも注意が必要である。
- ×e. プロポフォール
プロポフォールは静脈麻酔薬で、全身麻酔の導入・維持や人工呼吸中の鎮静に用いられる。てんかん重積状態では、第一段階・第二段階の薬剤で発作が止まらない難治性(治療抵抗性)重積に対し、気管挿管・人工呼吸管理下で全身麻酔療法として用いられることがある。強い呼吸抑制・循環抑制があり、長時間・高用量投与ではプロポフォール注入症候群(代謝性アシドーシス、横紋筋融解、心不全など)のリスクもあるため、最初に用いる薬剤ではない。
てんかん重積状態の定義
・ILAE(2015年):発作を止める機構の破綻、または異常に長引く発作を起こす機構が働くことで生じる状態。強直間代発作では、5分以上持続すれば治療開始が必要(t1)、30分以上で長期的な神経障害のおそれ(t2)とされる。 ・発作が5分以上続く、または意識が回復しないまま発作が反復する場合に、重積状態として治療を開始する。
治療の段階(成人けいれん性重積状態の概要)
・第一段階(早期):ベンゾジアゼピン系薬剤の静注(ジアゼパム、ロラゼパム、ミダゾラム)。静脈路がなければミダゾラムの筋注・口腔内投与、ジアゼパム注腸など。 ・第二段階(確定期):ホスフェニトイン、フェノバルビタール、レベチラセタム、(バルプロ酸)の静注。 ・第三段階(難治性):ミダゾラム、プロポフォール、チオペンタールなどによる全身麻酔療法。人工呼吸管理と持続脳波モニタリングを行う。
わが国での承認状況の変化
本問の時点で、わが国の成人のてんかん重積状態に対して第一選択として広く用いられていたのはジアゼパム静注であった。近年、ロラゼパム静注製剤の承認や、小児を中心としたミダゾラム製剤(静注製剤・口腔用液)の承認が進み、第一段階で選べる薬剤は広がっている。
発作症状と焦点の推定
・向反発作では、頭部・眼球は通常焦点と反対側へ向く。 ・発作後に一側上下肢の一過性麻痺(Todd麻痺)が残ることがあり、焦点の推定に役立つ。
けいれん重積で発熱を伴う場合
発作自体でも体温は上昇しうるが、脳炎(単純ヘルペス脳炎など)、髄膜炎、自己免疫性脳炎などの鑑別が必要であり、発作停止後に画像・髄液検査を行う。
POINT
・けいれん性てんかん重積状態は、発作が5分以上続いた時点で治療を開始する。 ・まず気道・呼吸・循環を確保し、血糖を確認する。 ・第一段階はベンゾジアゼピン系薬剤の静注(本問ではジアゼパム)。呼吸抑制に注意し、作用が短いため長時間作用型薬剤を続けて投与する。 ・第二段階はホスフェニトイン、フェノバルビタール、レベチラセタムなど。 ・難治例ではミダゾラム持続静注、プロポフォール、チオペンタールによる全身麻酔療法。 ・カルバマゼピンは静注製剤がなく、重積状態の治療には用いない。
