生検は「一部分」にすぎない―若年女性の子宮頸部腺系病変、まず円錐切除を選ぶ理由
第110回医師国家試験 I問題 第62問
国試問題にチャレンジ
23歳の女性。未経妊。子宮頸癌検診で異常を指摘されて来院した。内診と経腟超音波検査で子宮は正常大で子宮体部内膜,付属器および子宮傍組織に異常を認めない。コルポスコピィで子宮頸部に異常所見があり,狙い組織診を実施した。H-E染色標本(A)(B)を別に示す。 この患者への対応として適切なのはどれか。

- a.円錐切除
- b.子宮全摘出
- c.イミキモド塗布
- d.化学放射線療法
- e.経過観察(3か月後の再診)
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
子宮頸癌検診で異常を指摘され、狙い組織診で頸管腺の構造を保ったまま上皮が核腫大・重層化した異型細胞に置き換わる像を認めた場合、上皮内腺癌あるいは腺癌が疑われます。生検は病変の一部しか採取できず、浸潤の有無や深さ、広がりは判定できないため、病変全体を切除して病理学的に評価する円錐切除術を行うのが適切です。円錐切除は病期を決める診断手技であると同時に、上皮内病変で断端陰性なら治療にもなり、子宮を温存できるため若年・未経妊女性の妊孕性を守れます。病期未確定のまま子宮全摘出や化学放射線療法を行うのは不適切で、イミキモドは尖圭コンジローマの治療薬、経過観察はCIN1で選ぶ対応です。腺系病変は頸管内に生じて見逃されやすく、skip lesionや円錐切除後の流早産リスクにも注意が必要であり、「生検で分かること・分からないこと」を意識する姿勢は婦人科腫瘍の診療全般に通じます。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・23歳、未経妊の女性。子宮頸癌検診(細胞診)で異常を指摘された。 ・内診と経腟超音波検査では子宮は正常大で、体部内膜・付属器・子宮傍組織に異常はない。肉眼的・画像的に、腫瘍が頸部を越えて広がる所見はない。 ・コルポスコピィ(腟拡大鏡診)で頸部に異常所見があり、その部位から狙い組織診(生検)を行った。
組織像の読み方
・弱拡大(A):頸部の間質内に、大小さまざまな腺管が多数みられる。多くは内頸部腺(頸管腺)と同様の、粘液を含む淡明な円柱上皮に覆われた腺管である。その中に、上皮の色調が濃く見える腺管が混在している。 ・強拡大(B):一部の腺管では、正常の粘液性円柱上皮が、核が腫大・濃染し、重なり合って(重層化して)密に並ぶ異型細胞に置き換わっており、内腔に向かって乳頭状・不規則に突出する部分もある。同じ腺管内で正常上皮から異型上皮へ急に移行している。 ・既存の腺管の輪郭はおおむね保たれており、腺管が癒合したり間質へ不規則に浸潤したりする明らかな像は、この標本からははっきりしない。 以上から、子宮頸部の腺系の悪性(前癌〜癌)病変、すなわち上皮内腺癌(AIS)あるいは腺癌が疑われる。
設問の考え方
生検は病変のごく一部を採取するにすぎず、病変がどこまで広がり、間質へどの程度浸潤しているか(上皮内にとどまるのか、微小浸潤か、それ以上か)は生検だけでは決められない。子宮頸癌の病期(FIGO分類のⅠA期かそれ以上かなど)と治療方針は、この浸潤の深さと広がりによって決まる。さらに腺系病変は頸管の奥(頸管腺)に存在しやすく、コルポスコピィで全体を観察しにくい。 そこで、頸部を円錐状に切除して病変全体を病理学的に評価する円錐切除術を行う。円錐切除は、浸潤の有無・深さと切除断端を確かめる「診断」であると同時に、病変が上皮内にとどまり断端が陰性であれば「治療」にもなる。本例は23歳の未経妊女性であり、子宮を温存して妊孕性を保つ観点からも、まず円錐切除を選ぶのが適切である。
選択肢考察
- ○a. 円錐切除
生検で頸部の腺系悪性病変(上皮内腺癌ないし腺癌)が疑われるが、浸潤の有無・深さや病変の広がりは生検では確定できない。円錐切除術により病変を一塊として切除し、病理学的に浸潤の深さ・範囲と切除断端を評価することで、正確な診断と病期決定が可能になる。病変が上皮内にとどまり断端陰性であれば、それ自体が治療となる。子宮を温存できるため、妊孕性の温存が重要な23歳の未経妊女性に最も適した対応である。
- ×b. 子宮全摘出
子宮全摘出術は、上皮内病変で妊孕性温存の希望がない場合や、浸潤癌の治療(病期に応じて単純子宮全摘出術・準広汎・広汎子宮全摘出術を選択)として行われる。しかし本例はまだ浸潤の有無も病期も確定しておらず、経腟超音波でも頸部を越える進展を認めない。病期が決まらないまま、未経妊の若年女性に妊孕性を失う子宮全摘をいきなり行うのは不適切である。まず円錐切除で診断を確定させ、その結果に基づいて追加治療の要否を判断する。
- ×c. イミキモド塗布
イミキモドは局所の免疫反応(Toll様受容体7を介したインターフェロンなどのサイトカイン産生)を誘導する外用薬で、ヒトパピローマウイルス(HPV)6型・11型などの低リスク型による尖圭コンジローマ(外性器・肛門周囲のいぼ)の治療に用いる。子宮頸部の上皮内腺癌や腺癌の治療薬ではなく、本例には適応がない。
- ×d. 化学放射線療法
同時化学放射線療法(シスプラチンを中心とした化学療法と放射線療法の併用)は、局所進行子宮頸癌(ⅠB3期〜ⅣA期など)の標準治療の一つであり、手術後に再発リスクが高い場合の術後補助療法としても用いられる。本例は浸潤の有無すら確定しておらず、頸部を越える進展所見もないため、現段階で選択する治療ではない。卵巣機能の廃絶など妊孕性への影響も大きい。
- ×e. 経過観察(3か月後の再診)
経過観察は、自然消退が期待できる軽度異形成(CIN1)などで選択される対応である。本例は組織診で腺系の悪性病変(上皮内腺癌ないし腺癌)が疑われており、自然消退は期待できず、浸潤癌が潜んでいる可能性もある。さらに腺癌は扁平上皮癌に比べて細胞診やコルポスコピィで見逃されやすい。精査・治療をせずに3か月放置するのは不適切である。
子宮頸癌の概要
・大部分は高リスク型HPV(16型・18型など)の持続感染が原因で、扁平円柱上皮境界(SCJ)付近の移行帯から発生する。20〜40歳代の若年女性に多く、近年は若年化が問題となっている。 ・組織型は扁平上皮癌が多数を占めるが、腺癌が約2〜3割を占め、増加傾向にある。腺癌は頸管の奥に発生しやすく、細胞診やコルポスコピィで発見しにくいうえ、扁平上皮癌より放射線・化学療法が効きにくく予後不良とされる。HPV18型は腺癌との関連が強い。 ・予防として、HPVワクチン(一次予防)と子宮頸癌検診(二次予防)がある。
前癌病変
・扁平上皮系:子宮頸部上皮内腫瘍(CIN1=軽度異形成、CIN2=中等度異形成、CIN3=高度異形成・上皮内癌)。現在はLSIL(CIN1)とHSIL(CIN2・CIN3)の2段階分類も用いられる。 ・腺系:上皮内腺癌(AIS)。正常の頸管腺の構造を保ったまま、腺上皮が核の腫大・濃染・重層化などを示す異型細胞に置き換わった病変で、間質浸潤はない。病変が頸管内で連続せずに飛び石状に存在すること(skip lesion)があり、円錐切除で断端陰性でも遺残の可能性に注意を要する。
検診で異常が出たときの流れ
細胞診(ベセスダシステムで報告)→ コルポスコピィと狙い組織診 → 必要に応じて円錐切除術で確定診断・病期診断。
治療の概略
・CIN1:多くは自然消退するため経過観察。 ・CIN2:経過観察が基本だが、持続例や高リスク型HPV陽性例などでは治療(円錐切除やレーザー蒸散術)を考慮する。 ・CIN3:円錐切除術(またはレーザー蒸散術などの局所療法)。 ・AIS:円錐切除で診断する。妊孕性温存を希望する場合は円錐切除(断端陰性)で厳重に経過観察し、温存希望がなければ子宮全摘出術が推奨される。 ・浸潤癌:ⅠA期は円錐切除や子宮全摘出術、ⅠB〜Ⅱ期は広汎子宮全摘出術または同時化学放射線療法、Ⅲ〜ⅣA期は同時化学放射線療法、ⅣB期は全身化学療法が中心となる。ⅠA期の確定には円錐切除標本による病理診断が必要である。 ・円錐切除後は、頸管の短縮により妊娠時の流早産リスクが上昇しうる点に注意する。
POINT
・頸癌検診の異常 → コルポスコピィ下の狙い組織診 → 浸潤の有無・病期が不明なら円錐切除で確定診断、という流れを押さえる。 ・円錐切除術は診断(浸潤の深さ・範囲・断端の評価)と治療(上皮内病変なら根治)を兼ね、子宮を温存できる。 ・病期が確定しないうちに子宮全摘や化学放射線療法を行わない。特に若年・未経妊では妊孕性温存を考慮する。 ・腺系病変(AIS・腺癌)は頸管内に生じ、細胞診・コルポスコピィで見逃されやすい。 ・イミキモドは尖圭コンジローマの治療薬で、子宮頸癌には用いない。
