StudyMed医師国家試験

透けて見える小さな影―すりガラス結節が告げる早期肺腺癌

第110回医師国家試験 I問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第110回 I問題 第11問

胸部CTを別に示す。  矢印で示す陰影を呈する疾患について正しいのはどれか。

第110回 I問題 第11問の問題画像
  1. a.喘鳴を聴取する。
  2. b.腺癌であることが多い。
  3. c.抗癌化学療法が行われる。
  4. d.PET/CTは強陽性であることが多い。
  5. e.胸部エックス線写真で発見されることが多い。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は胸部CTの陰影から疾患を推定し、その臨床像を問う問題だ。ポイントは、矢印の陰影が「どんな濃さで、内部がどう見えるか」。画像の見え方から組織の増殖様式を想像できると、選択肢は一気に解けるよ。
医学生医学生
右肺上葉の末梢に、淡くて小さな円形の影がありますね。腫瘍にしてはずいぶん薄い気がします。
ドクタードクター
よく見ているね。肺野条件で約1cmの淡い濃度上昇があり、中を走る血管や気管支の輪郭が透けて見える。血管と同じくらい白い充実成分ははっきりしない。こういう陰影を何と呼ぶかな。
医学生医学生
すりガラス陰影、GGOですね。放射線科の講義では、間質性肺炎の広がりの所見として習った記憶があります。
ドクタードクター
その通り。びまん性に広がればそうした疾患を考えるけれど、今回のように限局した結節として見えるものはすりガラス結節、GGNと呼ぶ。中でも充実成分を含まないものを純粋型すりガラス結節という。なぜ「すりガラス」に見えるのか、その理由がカギなんだ。
医学生医学生
肺胞の中に空気がまだ残っているから、完全には白くならないということでしょうか。
ドクタードクター
まさに。では、肺胞の空気を保ったまま増える腫瘍とは何だろう。腫瘍細胞が既存の肺胞壁に沿って並ぶように増殖する様式を、置換型増殖という。この増え方をするのが肺腺癌の早期病変なんだ。
医学生医学生
病理実習で、肺胞の壁に沿って異型細胞がきれいに並んでいる標本を見ました。あれが置換型増殖ですね。だから正解は「腺癌であることが多い」になるんですね。
ドクタードクター
正解。持続する限局性のすりガラス結節が悪性だった場合、その大半は上皮内腺癌、微少浸潤性腺癌、置換型優位の浸潤性腺癌といった腺癌だ。扁平上皮癌や小細胞癌がこうした像を示すことはまれだよ。ただし炎症や出血でも一過性にすりガラス結節が出るから、まずは数か月後に再検して持続を確認するのが基本だ。
医学生医学生
腺癌は末梢に多いというのも、ちょうど合いますね。では喘鳴はどうでしょう。肺癌なら呼吸器症状が出そうですが。
ドクタードクター
喘鳴は、喘息やCOPD、あるいは気管や主気管支など中枢気道が狭くなったときに、狭い通り道を空気が抜けて出る音だ。今回は肺の末梢にある1cmほどの病変で、気道を狭めることはない。症状はほとんどなく、健診や他の病気の検査で偶然見つかることが多いんだ。
医学生医学生
偶然見つかるなら、胸部エックス線写真の健診で見つかることが多いのかと思いました。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。淡くて小さいうえ、エックス線写真では肋骨や血管、心臓の影と重なるから、ほとんど写らない。実際にはCTで偶然見つかることが大部分で、低線量CT検診の普及でこうした早期腺癌の発見が増えているんだ。
医学生医学生
癌なら抗癌化学療法、と反射的に考えそうになりますが…。
ドクタードクター
この段階の腺癌は発育がとても緩やかで、上皮内腺癌や微少浸潤性腺癌ではリンパ節転移や遠隔転移をほとんど起こさない。だから全身療法である化学療法の対象にはならない。小さければ薄層CTで年単位の経過観察、大きいもの、増大するもの、充実成分が出てきたものは手術を検討する。部分切除や区域切除といった縮小手術が選ばれることもあり、完全切除できれば予後はきわめて良好だ。
医学生医学生
PET/CTはどうでしょう。癌ならFDGが集まるイメージがあります。
ドクタードクター
FDGはブドウ糖に似た物質で、糖代謝の盛んな細胞に取り込まれる。すりガラス結節を呈する腺癌は細胞密度が低く増殖も遅いから、集積は乏しいことが多いんだ。加えて1cm前後の小結節はPETの分解能では評価しにくい。PETが陰性でも悪性を否定できない、という偽陰性の落とし穴は覚えておこう。
医学生医学生
見え方が淡いのは細胞がまばらで増え方がゆっくりだから、それで症状もPET集積も乏しく、治療も局所で済む、と一本の線でつながりました。
ドクタードクター
いいまとめだね。発展として、結節の中に充実成分が出てくると部分充実型結節と呼び、充実成分の大きさは浸潤部の大きさとよく相関する。つまり充実成分の出現や増大は、浸潤が進んだサインなんだ。さらに肺腺癌は日本人の肺癌で最も多い組織型で、女性や非喫煙者にもみられ、EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子などのドライバー遺伝子異常が多い。進行例では遺伝子検査が治療選択に欠かせないから、呼吸器内科を回るときはぜひ意識してほしい。

まとめ

胸部CTで内部の血管が透けて見える淡い限局性陰影はすりガラス結節と呼ばれ、持続する場合は腫瘍細胞が肺胞壁に沿って増殖する置換型増殖を示す早期の肺腺癌(上皮内腺癌、微少浸潤性腺癌、置換型優位の浸潤性腺癌)を第一に考えます。肺末梢の小病変のため無症状で喘鳴は生じず、胸部エックス線写真では写りにくいため、CTで偶然発見されることが大半です。細胞密度が低く増殖が遅いためFDG-PETの集積は乏しく、陰性でも悪性を否定できない点に注意が必要です。治療は化学療法ではなく、薄層CTによる経過観察や縮小手術を含む外科切除が中心で、完全切除により予後はきわめて良好です。画像の濃さから組織の増殖様式を推し量り、症状・検査・治療方針まで一貫して説明できる力は、CT検診時代の肺結節診療に欠かせない基礎となります。

解答・解説

正解はbです

画像所見の整理

胸部CT(肺野条件)で、右肺上葉の末梢に約1cm大の淡い円形の濃度上昇域(矢印)がある。内部を走る血管や気管支の輪郭が透けて見えており、充実成分(血管と同程度に白い部分)は明らかでない。このように、肺胞内の含気が一部残ったまま濃度が上がり、内部の血管影が追える陰影をすりガラス陰影(GGO:ground-glass opacity)といい、限局性の結節として見えるものをすりガラス結節(GGN)と呼ぶ。本例は充実成分を含まない純粋型すりガラス結節(pure GGN)である。

鑑別診断へのプロセス

限局性のすりガラス結節の鑑別には、炎症・出血などの一過性病変と、肺腺癌の前浸潤性病変・早期病変がある。 ・一過性病変:数週〜数か月の経過で縮小・消失する。 ・持続する場合:異型腺腫様過形成(AAH)、上皮内腺癌(AIS:adenocarcinoma in situ)、微少浸潤性腺癌(MIA)、置換型増殖優位の浸潤性腺癌などが考えられる。 これらの腫瘍性病変は、腫瘍細胞が既存の肺胞壁に沿って並ぶように増殖する(置換型増殖、かつての細気管支肺胞上皮癌に相当)ため、肺胞腔の空気が保たれ、すりガラス状に見える。浸潤が進むと中心部に充実成分が出現し、部分充実型(part-solid)結節となる。 したがって、経過観察で持続する限局性のpure GGNは、肺腺癌(またはその前段階)を第一に考える。

設問の考え方

「すりガラス結節を呈する病変=置換型増殖を主体とする早期の肺腺癌」と捉え、その臨床像(無症状、胸部エックス線写真では写りにくくCTで偶然見つかる、増殖能が低くFDG集積が乏しい、治療は経過観察または縮小手術を含む外科切除で予後良好)を思い浮かべると各選択肢を判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  喘鳴を聴取する。

    喘鳴は気管支喘息やCOPD、中枢気道の狭窄(気管・主気管支の腫瘍や異物など)で、狭くなった気道を空気が通過するときに生じる。本病変は肺末梢に限局した小さな病変で気道を狭窄させないため、喘鳴を含めて症状を呈することはほとんどなく、健診や他疾患の精査で偶然発見されることが多い。

  2. ○b.  腺癌であることが多い。

    肺腺癌は肺の末梢に発生しやすく、早期には腫瘍細胞が肺胞壁を置き換えるように増殖して肺胞の含気を保つため、CTで内部の血管が透見できるすりガラス結節として描出される。持続するすりガラス結節が悪性であった場合、その組織型の大半は腺癌(AIS、MIA、置換型優位の浸潤性腺癌)であり、扁平上皮癌や小細胞癌がこのような像を示すことはまれである。純粋型のすりガラス結節では高分化で緩徐に発育するものが多く、完全切除されれば予後はきわめて良好である。

  3. ×c.  抗癌化学療法が行われる。

    純粋型すりガラス結節は発育がきわめて緩徐で、AISやMIAの段階ではリンパ節転移や遠隔転移をほとんど起こさないため、全身療法である抗癌化学療法の対象とはならない。小さな結節では薄層CTで経過観察を行い、増大や充実成分の出現・増大があれば、胸腔鏡下の部分切除・区域切除などの縮小手術や肺葉切除による外科的切除を行う。手術で確定診断と治療を兼ねることが多い。

  4. ×d.  PET/CTは強陽性であることが多い。

    FDG-PETは、ブドウ糖類似物質であるFDG(18F-フルオロデオキシグルコース)が糖代謝の盛んな細胞に取り込まれることを利用した検査である。すりガラス結節を呈する腺癌は細胞密度が低く増殖も遅いため糖代謝が低く、FDG集積は乏しい(陰性〜弱陽性)ことが多い。そのため、PETが陰性でも本病変の悪性を否定できず、偽陰性に注意が必要である。PETの分解能の限界から、1cm前後以下の小結節では一般に評価が難しい。

  5. ×e.  胸部エックス線写真で発見されることが多い。

    すりガラス結節は淡く小さいうえ、胸部エックス線写真では肋骨・血管・心陰影などとの重なりがあるため、ほとんど描出されないことが多い。実際には、CT検診や他疾患の検査で撮影された胸部CTで偶然見つかることが大部分である。低線量CT検診の普及に伴い、このような早期の腺癌の発見が増えている。

CTでの肺結節の分類

・純粋型すりガラス結節(pure GGN):充実成分を含まない。持続すればAAH、AIS、MIAなどを考える。 ・部分充実型結節(part-solid nodule):すりガラス成分の中に充実成分を含む。充実成分の大きさは浸潤部の大きさとよく相関し、浸潤性腺癌の可能性が高まる。 ・充実型結節(solid nodule):内部の血管が見えない。浸潤性腺癌のほか、扁平上皮癌、転移性腫瘍、良性腫瘍(過誤腫など)、肉芽腫などを鑑別する。

肺腺癌の前浸潤性病変・早期病変(WHO分類)

・異型腺腫様過形成(AAH):通常5mm以下の小病変で、腺癌の前段階とされる。 ・上皮内腺癌(AIS):3cm以下で、置換型増殖のみからなり浸潤のない腺癌。完全切除で5年生存率はほぼ100%。 ・微少浸潤性腺癌(MIA):3cm以下の置換型優位の腺癌で、浸潤部が5mm以下のもの。完全切除で予後はきわめて良好。 ・浸潤性腺癌:浸潤部が5mmを超える。置換型、腺房型、乳頭型、微小乳頭型、充実型などの亜型があり、置換型優位は予後良好、微小乳頭型・充実型優位は予後不良とされる。 なお、かつての細気管支肺胞上皮癌(BAC)という名称は、2011年の国際的な分類改訂以降は用いられず、AIS・MIA・置換型優位腺癌などに再分類された。

すりガラス結節の取り扱いの考え方

一過性の炎症性病変を除外するため、まず数か月後に薄層CTで再検する。持続する純粋型すりガラス結節では、大きさが小さければ長期間のCT経過観察とし、大きなもの、増大するもの、充実成分が出現・増大するものは手術を検討する。発育が緩徐なため、経過観察は年単位で長期に行う。手術では、すりガラス成分が優位な小型の腺癌に対しては、肺葉切除より切除範囲の小さい区域切除や部分切除(縮小手術)が選択されることがある。

関連事項

・肺腺癌は日本人の肺癌で最も多い組織型で、女性や非喫煙者にもみられる。 ・肺腺癌ではEGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子などのドライバー遺伝子異常の頻度が高く、進行例では分子標的薬の選択に遺伝子検査が欠かせない。 ・喫煙との関連が強く中枢に発生しやすいのは扁平上皮癌と小細胞癌である。

POINT

・CTで内部の血管が透見できる淡い結節=すりガラス結節(GGN)。 ・持続する限局性のすりガラス結節は、置換型増殖を示す早期肺腺癌(AIS・MIA・置換型優位腺癌)を第一に考える。 ・無症状で、胸部エックス線写真では写りにくく、CTで偶然発見されることが多い。 ・細胞密度が低くFDG-PETの集積は乏しい(偽陰性に注意)。 ・治療はCT経過観察または外科切除(縮小手術を含む)で、化学療法の対象ではない。完全切除で予後は良好。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。