死体解剖保存法じゃない?―司法解剖の「根拠法」から整理する日本の解剖制度
第110回医師国家試験 E問題 第9問
国試問題にチャレンジ
司法解剖について誤っているのはどれか。
- a.根拠法は死体解剖保存法である。
- b.捜査上の鑑定のために行われる。
- c.死因が明らかであっても行われる。
- d.犯罪の可能性がある場合に行われる。
- e.裁判所の許可(鑑定処分許可状)の下に行われる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
司法解剖は、犯罪またはその疑いのある死体について、捜査上の鑑定として行われる解剖で、根拠法は死体解剖保存法ではなく刑事訴訟法です。捜査機関が法医学者などに鑑定を嘱託し、裁判官の鑑定処分許可状の下で行われるため、遺族の承諾は不要です。目的は死因だけでなく、損傷の性状や凶器、死後経過時間などを客観的に確定し刑事裁判の証拠とすることにあるため、死因が明らかでも実施されます。一方、病理解剖・系統解剖・監察医による行政解剖は死体解剖保存法、調査法解剖は死因・身元調査法が根拠です。医師法21条の異状死届出から始まる死因究明の流れを、解剖の種類ごとの根拠法・許可・遺族承諾の有無とあわせて整理しておくことは、臨床現場での適切な対応にも直結します。
解答・解説
正解はaです
本問は「誤っているもの」を選ぶ問題である。 司法解剖とは、犯罪による死亡またはその疑いがある死体について、死因・死亡時刻・損傷の性状や成傷器・死後経過などを明らかにし、刑事手続の証拠とするために行う解剖である。法的には刑事訴訟法上の「鑑定」の一環として位置づけられる。検察官・検察事務官・司法警察員が大学の法医学者などの学識経験者に鑑定を嘱託し(刑事訴訟法223条)、鑑定人は裁判官が発付する鑑定処分許可状を得て死体の解剖を行う(同法225条・168条)。 わが国の解剖は目的と根拠法によって区別されるので、「どの法律に基づき、誰の判断・許可で、遺族の承諾が必要か」を整理して覚えておくことが解答の鍵となる。司法解剖の根拠法は刑事訴訟法であり、死体解剖保存法ではない点が問われている。
選択肢考察
- ○a. 根拠法は死体解剖保存法である。
誤った記述であり、これが正解。司法解剖は刑事訴訟法に基づく鑑定処分として行われる。死体解剖保存法は病理解剖や系統解剖、監察医による行政解剖などの一般的な手続き(解剖の許可、遺族の承諾、死体の保存など)を定める法律であり、同法自身も刑事訴訟法による解剖については保健所長の許可などの規定の適用外としている。
- ×b. 捜査上の鑑定のために行われる。
正しい記述。司法解剖は犯罪捜査の一環として、捜査機関(検察官・司法警察員など)が法医学者などに鑑定を嘱託することで行われる。得られた所見は鑑定書としてまとめられ、刑事裁判の証拠となる。
- ×c. 死因が明らかであっても行われる。
正しい記述。司法解剖の目的は死因の究明だけではなく、損傷の数・部位・方向、凶器の推定、受傷から死亡までの経過、死後経過時間、薬毒物や飲酒の有無など、捜査と立証に必要な事実を客観的に確定することにある。このため、例えば刺創による失血死のように死因が外見上明らかな場合でも、犯罪性があれば解剖が行われる。
- ×d. 犯罪の可能性がある場合に行われる。
正しい記述。司法解剖の対象は、犯罪によることが明らかな死体や犯罪の疑いのある死体である。犯罪性がないと判断された異状死体については、監察医による行政解剖や、警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律に基づく解剖(いわゆる調査法解剖)などで対応される。
- ×e. 裁判所の許可(鑑定処分許可状)の下に行われる。
正しい記述。死体の解剖は鑑定に必要な処分であり、裁判官が発付する鑑定処分許可状に基づいて行われる。強制処分としての性格をもつため、遺族の承諾がなくても実施できる。
わが国の解剖の種類
・系統解剖:医学・歯学教育のために正常な人体構造を学ぶ目的で行う。根拠法は死体解剖保存法および医学及び歯学の教育のための献体に関する法律(献体法)。 ・病理解剖:病死した患者について、病変や死因、治療効果を明らかにする目的で行う。根拠法は死体解剖保存法で、遺族の承諾が必要。 ・行政解剖:犯罪性のない異状死体の死因を明らかにする目的で行う。監察医制度が置かれている地域(東京23区、大阪市、神戸市など)では、死体解剖保存法8条に基づき監察医が行い、遺族の承諾は不要。監察医制度のない地域では、遺族の承諾を得て行う承諾解剖として実施されることが多い。 ・調査法解剖(新法解剖):2013年施行の「警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律」に基づき、犯罪性はないと判断されたが死因究明の必要がある死体について、警察署長の判断で行う。遺族の承諾は不要(遺族への説明は必要)。 ・司法解剖:犯罪またはその疑いのある死体について、刑事訴訟法に基づき、鑑定処分許可状の下で行う。遺族の承諾は不要。
関連事項
・医師は死体を検案して異状を認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない(医師法21条)。 ・警察による検視・死体見分の結果、犯罪性の有無によって司法解剖か、それ以外の解剖かの振り分けが行われる。
POINT
・司法解剖の根拠法は刑事訴訟法(死体解剖保存法ではない)。 ・犯罪またはその疑いのある死体が対象で、捜査上の鑑定として行われる。 ・裁判官の鑑定処分許可状に基づき、遺族の承諾は不要。 ・死因が明らかでも、損傷や経過など立証に必要な事実を得るために行われる。 ・病理解剖・系統解剖・監察医の行政解剖は死体解剖保存法、調査法解剖は死因・身元調査法が根拠。
