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死体解剖保存法じゃない?―司法解剖の「根拠法」から整理する日本の解剖制度

第110回医師国家試験 E問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第110回 E問題 第9問

司法解剖について誤っているのはどれか。

  1. a.根拠法は死体解剖保存法である。
  2. b.捜査上の鑑定のために行われる。
  3. c.死因が明らかであっても行われる。
  4. d.犯罪の可能性がある場合に行われる。
  5. e.裁判所の許可(鑑定処分許可状)の下に行われる。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は司法解剖についての正誤問題だ。日本の解剖にはいくつも種類があって、それぞれ「目的」「根拠となる法律」「誰の判断や許可で行うか」「遺族の承諾が要るか」が違う。この4つの軸で整理できているかが問われているよ。
医学生医学生
解剖の法律というと、死体解剖保存法がすぐ思い浮かびます。司法解剖もそれに含まれるんじゃないんですか。
ドクタードクター
そこがまさにこの問題のひっかけなんだ。司法解剖の根拠法は刑事訴訟法。犯罪捜査の中で行う「鑑定」の一つとして位置づけられている。だから「根拠法は死体解剖保存法である」という記述が誤りで、これが正解になる。
医学生医学生
なるほど。でも死体解剖保存法は解剖全般を定めた法律だと習った気がします。
ドクタードクター
確かに、解剖の許可や遺族の承諾、死体の保存といった一般的な手続きを定めているのは死体解剖保存法だ。ただ、この法律自身が、刑事訴訟法による解剖については保健所長の許可などの規定を適用しないと定めている。つまり司法解剖は別ルートで動いている、ということだね。
医学生医学生
具体的にはどういう流れで解剖に至るんですか。
ドクタードクター
検察官や司法警察員といった捜査機関が、大学の法医学者などに鑑定を嘱託する。そして鑑定人は、裁判官が発付する鑑定処分許可状を得て解剖を行う。「捜査上の鑑定のために行われる」「裁判所の許可の下に行われる」という記述は、どちらもこの流れに沿った正しい内容だよ。
医学生医学生
裁判所の許可があるなら、遺族の承諾はどうなるんでしょう。
ドクタードクター
鑑定処分は強制処分の性格をもつから、遺族の承諾がなくても実施できる。ここも試験で狙われやすいポイントだ。
医学生医学生
もう一つ気になったのが「死因が明らかであっても行われる」という記述です。死因がわかっているなら、解剖する必要はない気がしてしまいました。
ドクタードクター
直感的にはそう思うよね。でも司法解剖の目的は死因の究明だけじゃない。損傷の数や部位、刺した方向、凶器の推定、受傷から死亡までの経過、死後経過時間、薬毒物や飲酒の有無など、裁判で立証に必要な事実を客観的に確定することが目的なんだ。だから刺創による失血死のように死因が一見明らかでも、犯罪性があれば解剖される。
医学生医学生
法医学の講義で、鑑定書が裁判の証拠になると聞いたのを思い出しました。死因だけでは証拠として足りないんですね。
ドクタードクター
その通り。そして対象は、犯罪によることが明らかな死体か、犯罪の疑いのある死体だ。「犯罪の可能性がある場合に行われる」も正しい記述だね。
医学生医学生
では、犯罪性がないと判断された異状死体はどうなるんですか。
ドクタードクター
いい質問だ。ここで他の解剖と比べてみよう。監察医制度がある東京23区、大阪市、神戸市などでは、死体解剖保存法に基づいて監察医が行政解剖を行い、遺族の承諾は不要。監察医制度のない地域では、遺族の承諾を得る承諾解剖として行われることが多い。さらに2013年からは、いわゆる死因・身元調査法に基づき、警察署長の判断で行う調査法解剖もできるようになった。こちらも遺族の承諾は不要だけど、説明は必要だ。
医学生医学生
病理解剖は、臨床実習中にCPCで症例を担当しました。あれは死体解剖保存法で、遺族の承諾が必要でしたよね。
ドクタードクター
そう。病理解剖と、解剖学実習で行う系統解剖は死体解剖保存法が根拠で、系統解剖には献体法も関わる。整理すると、司法解剖は刑事訴訟法、調査法解剖は死因・身元調査法、それ以外は死体解剖保存法、と覚えるとすっきりする。
医学生医学生
臨床医として関わるのは、どの段階になりますか。
ドクタードクター
入口は医師法21条だね。医師は死体を検案して異状を認めたら、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。その後、警察の検視や死体見分で犯罪性の有無が判断されて、司法解剖か、それ以外の解剖かに振り分けられる。救急や在宅医療の現場で「この死は異状か」を判断する場面は意外と多いから、制度の全体像を知っておくことは大切だよ。
医学生医学生
届出が起点になって、犯罪性の有無で解剖の種類が分かれる、という流れですね。表にまとめて覚え直します。

まとめ

司法解剖は、犯罪またはその疑いのある死体について、捜査上の鑑定として行われる解剖で、根拠法は死体解剖保存法ではなく刑事訴訟法です。捜査機関が法医学者などに鑑定を嘱託し、裁判官の鑑定処分許可状の下で行われるため、遺族の承諾は不要です。目的は死因だけでなく、損傷の性状や凶器、死後経過時間などを客観的に確定し刑事裁判の証拠とすることにあるため、死因が明らかでも実施されます。一方、病理解剖・系統解剖・監察医による行政解剖は死体解剖保存法、調査法解剖は死因・身元調査法が根拠です。医師法21条の異状死届出から始まる死因究明の流れを、解剖の種類ごとの根拠法・許可・遺族承諾の有無とあわせて整理しておくことは、臨床現場での適切な対応にも直結します。

解答・解説

正解はaです

本問は「誤っているもの」を選ぶ問題である。 司法解剖とは、犯罪による死亡またはその疑いがある死体について、死因・死亡時刻・損傷の性状や成傷器・死後経過などを明らかにし、刑事手続の証拠とするために行う解剖である。法的には刑事訴訟法上の「鑑定」の一環として位置づけられる。検察官・検察事務官・司法警察員が大学の法医学者などの学識経験者に鑑定を嘱託し(刑事訴訟法223条)、鑑定人は裁判官が発付する鑑定処分許可状を得て死体の解剖を行う(同法225条・168条)。 わが国の解剖は目的と根拠法によって区別されるので、「どの法律に基づき、誰の判断・許可で、遺族の承諾が必要か」を整理して覚えておくことが解答の鍵となる。司法解剖の根拠法は刑事訴訟法であり、死体解剖保存法ではない点が問われている。

選択肢考察

  1. ○a.  根拠法は死体解剖保存法である。

    誤った記述であり、これが正解。司法解剖は刑事訴訟法に基づく鑑定処分として行われる。死体解剖保存法は病理解剖や系統解剖、監察医による行政解剖などの一般的な手続き(解剖の許可、遺族の承諾、死体の保存など)を定める法律であり、同法自身も刑事訴訟法による解剖については保健所長の許可などの規定の適用外としている。

  2. ×b.  捜査上の鑑定のために行われる。

    正しい記述。司法解剖は犯罪捜査の一環として、捜査機関(検察官・司法警察員など)が法医学者などに鑑定を嘱託することで行われる。得られた所見は鑑定書としてまとめられ、刑事裁判の証拠となる。

  3. ×c.  死因が明らかであっても行われる。

    正しい記述。司法解剖の目的は死因の究明だけではなく、損傷の数・部位・方向、凶器の推定、受傷から死亡までの経過、死後経過時間、薬毒物や飲酒の有無など、捜査と立証に必要な事実を客観的に確定することにある。このため、例えば刺創による失血死のように死因が外見上明らかな場合でも、犯罪性があれば解剖が行われる。

  4. ×d.  犯罪の可能性がある場合に行われる。

    正しい記述。司法解剖の対象は、犯罪によることが明らかな死体や犯罪の疑いのある死体である。犯罪性がないと判断された異状死体については、監察医による行政解剖や、警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律に基づく解剖(いわゆる調査法解剖)などで対応される。

  5. ×e.  裁判所の許可(鑑定処分許可状)の下に行われる。

    正しい記述。死体の解剖は鑑定に必要な処分であり、裁判官が発付する鑑定処分許可状に基づいて行われる。強制処分としての性格をもつため、遺族の承諾がなくても実施できる。

わが国の解剖の種類

・系統解剖:医学・歯学教育のために正常な人体構造を学ぶ目的で行う。根拠法は死体解剖保存法および医学及び歯学の教育のための献体に関する法律(献体法)。 ・病理解剖:病死した患者について、病変や死因、治療効果を明らかにする目的で行う。根拠法は死体解剖保存法で、遺族の承諾が必要。 ・行政解剖:犯罪性のない異状死体の死因を明らかにする目的で行う。監察医制度が置かれている地域(東京23区、大阪市、神戸市など)では、死体解剖保存法8条に基づき監察医が行い、遺族の承諾は不要。監察医制度のない地域では、遺族の承諾を得て行う承諾解剖として実施されることが多い。 ・調査法解剖(新法解剖):2013年施行の「警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律」に基づき、犯罪性はないと判断されたが死因究明の必要がある死体について、警察署長の判断で行う。遺族の承諾は不要(遺族への説明は必要)。 ・司法解剖:犯罪またはその疑いのある死体について、刑事訴訟法に基づき、鑑定処分許可状の下で行う。遺族の承諾は不要。

関連事項

・医師は死体を検案して異状を認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない(医師法21条)。 ・警察による検視・死体見分の結果、犯罪性の有無によって司法解剖か、それ以外の解剖かの振り分けが行われる。

POINT

・司法解剖の根拠法は刑事訴訟法(死体解剖保存法ではない)。 ・犯罪またはその疑いのある死体が対象で、捜査上の鑑定として行われる。 ・裁判官の鑑定処分許可状に基づき、遺族の承諾は不要。 ・死因が明らかでも、損傷や経過など立証に必要な事実を得るために行われる。 ・病理解剖・系統解剖・監察医の行政解剖は死体解剖保存法、調査法解剖は死因・身元調査法が根拠。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。