StudyMed医師国家試験

原因はどっち?―血糖とインスリンが「同じ向き」に動くとき、膵β細胞は正常に働いている

第110回医師国家試験 B問題 第36問

国試問題にチャレンジ

第110回 B問題 第36問

血糖値と血清インスリン値とが正常に比し同方向に変化(両方とも上昇,または,両方とも低下)するのはどれか。2つ選べ。

  1. a.慢性膵炎
  2. b.1型糖尿病
  3. c.インスリノーマ
  4. d.下垂体副腎不全症
  5. e.インスリン抵抗性を主病態とする2型糖尿病

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、血糖とインスリンが同じ方向に動く病態を選ぶ問題だ。暗記で解こうとすると混乱しやすいけれど、「どちらが原因で、どちらが結果か」を考えれば一気に整理できる。まず基本から確認しよう。インスリンが増えると血糖はどうなるかな。
医学生医学生
下がります。だからインスリンと血糖はいつも逆向きに動く、と思っていました。
ドクタードクター
半分正解だね。インスリンの側に一次的な異常があるなら、確かに逆向きになる。でも正常な膵β細胞は血糖値のセンサーでもあって、血糖が上がればインスリンを多く出し、下がれば分泌を抑える。つまり血糖を動かす原因が膵臓の外にあると、インスリンは血糖に「追従」して同じ向きに動くんだ。
医学生医学生
なるほど。β細胞が壊れたり暴走したりしていれば逆向き、β細胞が正常に反応していれば同じ向き、ということですね。
ドクタードクター
その通り。この軸で選択肢を見ていこう。まず1型糖尿病は?
医学生医学生
自己免疫でβ細胞が壊されて、インスリンが絶対的に欠乏します。インスリンが先に下がって、その結果として高血糖なので逆向きですね。
ドクタードクター
そう。多くは抗GAD抗体などの膵島関連自己抗体が陽性で、内因性インスリン分泌の指標であるCペプチドも低値になる。では慢性膵炎はどうだろう。
医学生医学生
慢性膵炎は外分泌の病気というイメージで、血糖とは結びつきにくいです。
ドクタードクター
そこが盲点になりやすい。炎症と線維化が長く続くと、ランゲルハンス島も巻き込まれて壊れていく。β細胞が減ればインスリンが下がり血糖が上がる、いわゆる膵性糖尿病だ。これも逆向きだね。しかもα細胞も失われてグルカゴンが出にくくなるので、インスリン治療中に低血糖を起こしやすいという特徴もある。
医学生医学生
消化器内科の実習で、アルコール性慢性膵炎の患者さんの血糖コントロールが難しいと聞いたのはそういう理由だったんですね。インスリノーマは逆に、インスリンが勝手に出すぎて低血糖になるから逆向きですか。
ドクタードクター
正解。インスリノーマはβ細胞由来の膵神経内分泌腫瘍で、血糖に関係なく自律的にインスリンを分泌する。本来なら低血糖のときインスリンは抑えられるはずなのに、抑えられていない。この「低血糖なのにインスリンが不適切に高い」ことが診断の鍵になるんだ。
医学生医学生
残るのは下垂体副腎不全症と、インスリン抵抗性が主体の2型糖尿病ですね。2型のほうは、インスリンが効かないから血糖が上がって、それを補おうとβ細胞が頑張るので両方上がる、と考えればいいですか。
ドクタードクター
まさにそう。肝・骨格筋・脂肪組織でインスリンが効きにくくなり、特に内臓脂肪型肥満が代表的な背景だ。高血糖が先にあって、高インスリン血症はその代償反応。だから両方とも上昇する。ただし経過が長くなるとβ細胞が疲弊して分泌が落ちてくるから、病期によって姿が変わる点は意識しておこう。
医学生医学生
下垂体副腎不全症は、血糖が下がる理由が少し分かりにくいです。
ドクタードクター
コルチゾールは肝での糖新生を促し、末梢でインスリン作用に拮抗して血糖を保つホルモンだ。ACTHが低下するとコルチゾールが減って血糖が下がりやすくなる。下垂体機能低下では成長ホルモンも一緒に低下していることが多く、これも低血糖を助長する。そしてβ細胞は正常だから低血糖を感知してインスリン分泌を抑える。結果として両方とも低下するんだ。
医学生医学生
CBTの勉強でインスリン拮抗ホルモンを覚えましたが、グルカゴン、カテコールアミン、コルチゾール、成長ホルモンでしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。前の2つは低血糖時に即座に働き、後の2つは数時間単位で血糖維持に寄与する。この知識を使うと、Cushing症候群や先端巨大症のように拮抗ホルモンが過剰な病態では、血糖もインスリンも両方上がることも予想できるはずだ。
医学生医学生
逆に、Addison病や重症肝不全、飢餓では両方下がる側に入るわけですね。
ドクタードクター
その通り。臨床での注意点として、低血糖患者を診たら血糖と同時にインスリンとCペプチドを測ることが重要だ。インスリンが抑制されていなければインスリン過剰による低血糖を疑う。インスリン高値なのにCペプチドが抑えられていれば、外因性インスリン投与を考える手がかりになるよ。

まとめ

血糖とインスリンの関係は「どちらが原因か」で整理できます。1型糖尿病や慢性膵炎による膵性糖尿病、インスリノーマのようにインスリン側に一次的な異常がある場合、両者は逆方向に動きます。一方、β細胞が正常で血糖を動かす原因が膵外にある場合、インスリンは血糖に追従して同方向に動き、インスリン抵抗性主体の2型糖尿病では高血糖と代償的な高インスリン血症、下垂体副腎不全症ではコルチゾールや成長ホルモンの不足による低血糖とインスリン分泌抑制がみられます。同じ考え方で、Cushing症候群や先端巨大症(ともに上昇)、Addison病や飢餓(ともに低下)も説明できます。低血糖の鑑別では血糖と同時にインスリン・Cペプチドを測定することが重要で、この因果関係の視点は糖代謝異常の診断の基本となります。

解答・解説

正解はd, eです

考え方

血糖とインスリンの関係は「どちらが原因で、どちらが結果か」で整理すると解きやすい。 1. インスリン側に一次的な異常がある場合(膵β細胞の破壊・腫瘍化など) インスリンは血糖を下げるホルモンなので、インスリンが増えれば血糖は下がり、減れば血糖は上がる。つまり両者は「逆方向」に動く。 2. 膵β細胞は正常で、血糖を動かす原因が膵外にある場合 正常なβ細胞は血糖値をセンサーとして感知し、血糖が上がればインスリンを多く出し、下がれば分泌を抑える。したがってインスリンは血糖に「追従」し、両者は「同方向」に動く。 本問の選択肢を分けると、慢性膵炎・1型糖尿病(インスリン分泌の一次的低下→高血糖)とインスリノーマ(インスリンの一次的過剰→低血糖)は前者に、下垂体副腎不全症(インスリン拮抗ホルモン不足→低血糖→インスリン分泌抑制)とインスリン抵抗性主体の2型糖尿病(インスリンが効きにくい→高血糖→代償的なインスリン過剰分泌)は後者に当たる。よって同方向に変化するのは下垂体副腎不全症と、インスリン抵抗性を主病態とする2型糖尿病である。

選択肢考察

  1. ×a.  慢性膵炎

    慢性膵炎では炎症と線維化が長く続き、外分泌腺だけでなくランゲルハンス島も徐々に破壊される。β細胞が減るためインスリン分泌が低下し、血糖は上昇する(膵性糖尿病)。インスリンは低下、血糖は上昇で逆方向の変化である。なお、膵性糖尿病ではα細胞も失われてグルカゴン分泌も低下するため、インスリン治療中に低血糖を起こしやすく、血糖が不安定になりやすい点も特徴である。

  2. ×b.  1型糖尿病

    1型糖尿病は膵β細胞が破壊され、インスリンが絶対的に欠乏する病型である。多くは自己免疫機序による(膵島関連自己抗体である抗GAD抗体などが陽性となる。原因となる自己抗体が証明できないものは特発性に分類される)。インスリン分泌が一次的に低下し、その結果として高血糖となるため、両者は逆方向に変化する。血中Cペプチド(インスリンと等モル分泌され、内因性インスリン分泌の指標となる)も低値を示す。

  3. ×c.  インスリノーマ

    インスリノーマはβ細胞由来の膵神経内分泌腫瘍で、血糖値に関係なく自律的にインスリンを分泌する。インスリンが一次的に過剰となり、その結果として低血糖が起こるため、インスリン上昇・血糖低下の逆方向の変化となる。正常であれば低血糖時にはインスリン分泌が抑えられるはずなので、「低血糖なのにインスリンが抑制されていない」ことが診断の鍵となる。

  4. ○d.  下垂体副腎不全症

    下垂体からのACTH(副腎皮質刺激ホルモン)分泌が低下すると、副腎からのコルチゾール分泌も低下する。コルチゾールは肝での糖新生を促し、末梢でのインスリン作用に拮抗して血糖を保つホルモンであるため、その欠乏で血糖は低下しやすくなる。さらに下垂体機能低下では成長ホルモン(これもインスリン拮抗ホルモン)が同時に低下していることも多く、低血糖を助長する。β細胞自体は正常なので、低血糖を感知してインスリン分泌は抑制される。血糖低下が原因、インスリン低下がその結果であり、両者は同方向(ともに低下)に変化する。

  5. ○e.  インスリン抵抗性を主病態とする2型糖尿病

    インスリン抵抗性とは、肝・骨格筋・脂肪組織などでインスリンが効きにくくなった状態であり、肥満(特に内臓脂肪蓄積)が代表的な背景である。インスリンが効かないため血糖が上がり、β細胞はそれを補おうとインスリンを過剰に分泌するので高インスリン血症となる。それでも作用が足りず高血糖が残る。血糖上昇が先行し、インスリン上昇はそれに対する代償反応であるため、両者は同方向(ともに上昇)に変化する。ただし経過が長くなるとβ細胞が疲弊し、インスリン分泌が低下してくる点にも注意する。

血糖とインスリンの動きのまとめ

逆方向に動くもの(インスリン側の一次的異常) ・インスリン低下+高血糖: 1型糖尿病、慢性膵炎・膵切除後などの膵性糖尿病、インスリン分泌低下が主体の2型糖尿病 ・インスリン上昇+低血糖: インスリノーマ、インスリン自己免疫症候群、インスリンや経口血糖降下薬(スルホニル尿素薬など)の過量 同方向に動くもの(膵外の原因にβ細胞が反応) ・ともに上昇: インスリン抵抗性主体の2型糖尿病、肥満、Cushing症候群・先端巨大症・褐色細胞腫などインスリン拮抗ホルモン過剰 ・ともに低下: 副腎不全(Addison病、下垂体性副腎不全)、成長ホルモン分泌不全、重症肝不全、飢餓、膵外腫瘍によるIGF-II産生腫瘍(インスリン様物質が血糖を下げ、内因性インスリンは抑制される)

インスリン拮抗ホルモン

グルカゴン、カテコールアミン(アドレナリン)、コルチゾール、成長ホルモンは血糖を上げる方向に働く。前2者は低血糖時に即座に働き、後2者は数時間単位で血糖維持に寄与する。

低血糖時の内因性インスリン評価

低血糖時のインスリン値やCペプチド値が抑制されていなければ、インスリン過剰による低血糖(インスリノーマなど)を疑う。外因性インスリン投与ではインスリン高値でもCペプチドは抑制される点が鑑別に役立つ。

POINT

・インスリン分泌の一次的異常(β細胞破壊、インスリノーマ)では血糖とインスリンは逆方向に動く。 ・膵外の原因で血糖が変化し、正常なβ細胞がそれに反応する場合は同方向に動く。 ・インスリン抵抗性: 高血糖+高インスリン血症。 ・下垂体副腎不全(コルチゾール・GH低下): 低血糖+インスリン低値。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。