StudyMed医師国家試験

「治ったはず」のウイルスが目を覚ます―抗癌化学療法とB型肝炎再活性化

第110回医師国家試験 A問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第110回 A問題 第4問

抗癌化学療法により再活性化をきたす肝炎ウイルスはどれか。

  1. a.A 型
  2. b.B 型
  3. c.C 型
  4. d.D 型
  5. e.E 型

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、抗癌化学療法で免疫が抑えられたときに「再活性化」してくる肝炎ウイルスを選ぶ問題だ。着眼点は、そのウイルスが体の中に長く潜み続ける仕組みをもっているかどうか。まず、再活性化という言葉をどう理解しているかな。
医学生医学生
一度落ち着いていた感染が、免疫が弱ったときにまたぶり返すこと、というイメージです。帯状疱疹みたいな。
ドクタードクター
いい例えだね。水痘・帯状疱疹ウイルスが神経節に潜むように、再活性化するには「潜む場所と仕組み」が必要なんだ。では、A型からE型の肝炎ウイルスのうち、肝細胞の中に潜み続けられるのはどれだと思う?
医学生医学生
慢性化するのはB型とC型なので、どちらかだと思います。C型のほうが慢性化しやすいと講義で習ったので、正直C型にも惹かれます。
ドクタードクター
そこが迷いどころだね。正解はB型だ。B型肝炎ウイルスはDNAウイルスで、感染した肝細胞の核内にcccDNA、つまり閉環状二本鎖DNAという非常に安定した鋳型をつくる。これが核の中に残り続けるのがポイントなんだ。
医学生医学生
C型も持続感染するのに、何が違うんですか。
ドクタードクター
C型肝炎ウイルスはRNAウイルスで、細胞質で複製を続けることで持続感染している。cccDNAのような核内に潜む鋳型はもたないんだ。免疫抑制下でウイルス量が増えるという報告はあるけれど、B型のように「治ったように見える状態から再増殖して重い肝炎を起こす」という意味での再活性化は、臨床上の確立した問題にはなっていない。
医学生医学生
なるほど、持続感染と潜伏は別物なんですね。A型とE型はどうでしょう。
ドクタードクター
どちらも経口感染するRNAウイルスで、基本的には急性肝炎で終わり、潜伏しない。A型は治れば終生免疫が得られる。E型は豚やイノシシ、シカの肉の生食で感染し、臓器移植後などの免疫不全者で慢性化することはあるけれど、それは感染が持続している状態であって、潜んでいたウイルスの再活性化とは違うんだ。
医学生医学生
D型はB型がいないと増えられない欠損ウイルスでしたよね。CBTの勉強で覚えました。
ドクタードクター
その通り。D型はB型のHBs抗原を借りないと増殖できないから、単独で潜伏・再活性化するものではないし、日本ではきわめてまれだ。ここで大事な落とし穴がある。B型の再活性化は、HBs抗原陽性のキャリアだけに起こると思っていないかな。
医学生医学生
HBs抗原が陰性なら、もうウイルスはいないと思っていました。
ドクタードクター
そう考えがちなんだけど、HBs抗原陰性でもHBc抗体やHBs抗体が陽性の既往感染者では、肝細胞内にcccDNAが残っている。だから強い免疫抑制がかかると再増殖しうるんだ。既往感染者からの再活性化による肝炎をde novo B型肝炎と呼び、劇症化しやすく予後が悪いことで知られている。
医学生医学生
血液検査上は治っていても、肝臓の中には残っているということですね。特に危ない治療はありますか。
ドクタードクター
造血幹細胞移植、リツキシマブを含む化学療法、副腎皮質ステロイドを含む化学療法が代表的だね。関節リウマチなどに使う免疫抑制薬やTNF阻害薬などの生物学的製剤でも注意が必要だ。悪性リンパ腫のR-CHOP療法はまさにハイリスクの組み合わせになる。
医学生医学生
血液内科の実習で、化学療法前に必ず肝炎ウイルスの検査をしていたのはそのためだったんですね。
ドクタードクター
そうなんだ。流れとしては、治療開始前に全例でHBs抗原を測る。陽性ならエンテカビルなどの核酸アナログを予防投与する。陰性ならHBc抗体とHBs抗体を測り、どちらかが陽性ならHBV-DNA量を確認する。一定以上なら核酸アナログを投与し、未満なら治療中から治療後まで定期的にHBV-DNAをモニタリングして、陽性化した時点で核酸アナログを始める。
医学生医学生
発症してから治すのではなく、発症させないことが目標なんですね。
ドクタードクター
その通り。再活性化による肝炎は重症化しやすいうえに、原疾患の治療まで中断せざるを得なくなる。どの診療科で免疫抑制を始めるときも、B型肝炎のスクリーニングを忘れないことが大切だよ。

まとめ

抗癌化学療法や免疫抑制療法で再活性化をきたす肝炎ウイルスはB型です。B型肝炎ウイルスはDNAウイルスで、肝細胞の核内にcccDNAという安定した鋳型を残すため、HBs抗原陽性のキャリアだけでなく、HBs抗原陰性でHBc抗体やHBs抗体が陽性の既往感染者でも再増殖しえます(de novo B型肝炎)。A型・E型は急性で終わるRNAウイルス、C型は持続感染するもののcccDNAのような潜伏の仕組みをもたず、D型はB型に依存する欠損ウイルスであり、いずれも再活性化の主役ではありません。リツキシマブ併用化学療法、ステロイド、造血幹細胞移植などは特にハイリスクで、治療前のHBs抗原・HBc抗体・HBs抗体のスクリーニングと、核酸アナログによる予防やHBV-DNAモニタリングが求められます。「持続感染」と「潜伏・再活性化」を区別して理解することは、あらゆる診療科で免疫抑制治療を安全に行うための基本になります。

解答・解説

正解はbです

問われていること

抗癌化学療法などで免疫が抑えられたときに「再活性化」を起こす肝炎ウイルスを選ぶ問題である。

考え方

再活性化とは、いったん免疫によって抑え込まれていたウイルスが、宿主の免疫低下をきっかけに再び増殖し始める現象である。再活性化が起こるためには、ウイルスが体内(肝細胞内)に長期間潜み続ける仕組みをもっていることが必要となる。 B型肝炎ウイルス(HBV)はDNAウイルスであり、感染した肝細胞の核内にcccDNA(covalently closed circular DNA:閉環状二本鎖DNA)という安定した鋳型を形成する。このcccDNAは、血液検査上「治癒した」と考えられる既往感染者(HBs抗原陰性でHBc抗体またはHBs抗体陽性)でも肝細胞内に残存している。そのため、化学療法、副腎皮質ステロイド、リツキシマブ(抗CD20抗体)などの免疫抑制作用をもつ治療を行うと、ウイルスが再増殖して肝炎を起こすことがある。これをHBV再活性化という。 A型・E型は急性感染で終わるRNAウイルスで、肝細胞内に潜伏する仕組みをもたない。C型は持続感染を起こすが、cccDNAのような潜伏型の鋳型をもたず、免疫抑制下での「再活性化」は臨床上問題となる概念として確立していない。D型はHBVの存在を前提とする欠損ウイルスである。 したがって、正解はB型である。

選択肢考察

  1. ×a.  A 型

    A型肝炎ウイルス(HAV)は経口感染するRNAウイルスで、急性肝炎を起こした後は免疫によって完全に排除され、慢性化も潜伏もしない。治癒後は終生免疫が得られるため、化学療法による再活性化は起こらない。

  2. ○b.  B 型

    HBVは肝細胞核内にcccDNAを形成して長期に残存するため、HBs抗原陽性のキャリアだけでなく、HBs抗原陰性の既往感染者でも、化学療法や免疫抑制療法により再増殖(再活性化)しうる。再活性化による肝炎は重症化・劇症化しやすく、既往感染者からの再活性化(de novo B型肝炎)は特に致死率が高いことが知られている。

  3. ×c.  C 型

    C型肝炎ウイルス(HCV)は持続感染して慢性肝炎・肝硬変・肝細胞癌の原因となるRNAウイルスであるが、HBVのcccDNAのような核内に潜む安定な鋳型をもたない。免疫抑制下でウイルス量が増加する報告はあるものの、HBVのように治癒状態から再増殖して重症肝炎を起こす「再活性化」として問題になることはなく、本問の答えには当たらない。

  4. ×d.  D 型

    D型肝炎ウイルス(HDV)は増殖にHBVのHBs抗原を必要とする欠損RNAウイルスで、HBVとの同時感染または重複感染でしか成立しない。単独で潜伏・再活性化する性質はなく、わが国ではきわめてまれである。化学療法で再活性化をきたすウイルスとして問われるものではない。

  5. ×e.  E 型

    E型肝炎ウイルス(HEV)は豚・イノシシ・シカの肉の生食などで経口感染するRNAウイルスで、通常は急性肝炎で終わる。臓器移植後などの免疫不全者では慢性化することがあるが、これは新たな感染が持続する現象であり、潜伏していたウイルスの再活性化ではない。

HBV再活性化の対象者

・HBs抗原陽性者(キャリア):もともとウイルスが増殖可能な状態にあり、免疫抑制で肝炎が増悪しやすい。 ・HBs抗原陰性で、HBc抗体またはHBs抗体が陽性の既往感染者:血液上は治癒していても肝細胞内にcccDNAが残存しており、再活性化しうる。これによる肝炎をde novo B型肝炎と呼び、劇症化しやすく予後不良である。

再活性化のリスクが高い治療

・造血幹細胞移植 ・リツキシマブ(抗CD20抗体)を含む化学療法(悪性リンパ腫など) ・副腎皮質ステロイドを含む化学療法 ・関節リウマチなどに対する免疫抑制薬や生物学的製剤(TNF阻害薬など)

予防の考え方(日本肝臓学会のガイドラインに基づく流れ)

1. 免疫抑制・化学療法の開始前に全例でHBs抗原を測定する。 2. HBs抗原陽性なら、核酸アナログ(エンテカビルなど)を予防的に投与する。 3. HBs抗原陰性ならHBc抗体・HBs抗体を測定し、いずれかが陽性であればHBV-DNA量を測定する。 4. HBV-DNAが一定値以上なら核酸アナログを投与し、未満であれば治療中・治療後にHBV-DNAを定期的にモニタリングして、陽性化した時点で核酸アナログを開始する。 再活性化による肝炎は発症すると重症化しやすく、原疾患の治療継続も困難になるため、発症させないことが最も重要である。

肝炎ウイルスの整理

・A型:RNA、経口感染、急性のみ ・B型:DNA、血液・体液感染、急性・慢性、潜伏と再活性化あり ・C型:RNA、血液感染、慢性化しやすい ・D型:RNA、HBV存在下でのみ増殖 ・E型:RNA、経口感染(獣肉生食など)、通常は急性、妊婦で重症化しやすい

POINT

・抗癌化学療法や免疫抑制療法で再活性化する肝炎ウイルスはB型である。 ・HBVは肝細胞核内のcccDNAとして残存するため、HBs抗原陰性の既往感染者(HBc抗体・HBs抗体陽性)でも再活性化しうる(de novo B型肝炎)。 ・再活性化による肝炎は重症化・劇症化しやすく、治療前のHBs抗原・HBc抗体・HBs抗体のスクリーニングと、核酸アナログによる予防・HBV-DNAモニタリングが重要である。 ・リツキシマブ併用療法や造血幹細胞移植は特にハイリスクである。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。