Gram染色に映らない肺炎―細胞壁をもたないマイコプラズマと「耐性」の時代
第109回医師国家試験 I問題 第30問
国試問題にチャレンジ
マイコプラズマ肺炎で正しいのはどれか。
- a.重症肺炎が多い。
- b.50歳代に最も多い。
- c.比較的徐脈を呈することが多い。
- d.Gram染色で陰性桿菌が観察される。
- e.マクロライド系抗菌薬耐性株が5年前と比較して増加している。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
マイコプラズマ肺炎は小児から若年成人に多く、頑固な乾性咳嗽が続く一方で全身状態は保たれ、軽症〜中等症が大部分を占める非定型肺炎です。原因微生物は細胞壁をもたないため、Gram染色では観察できず、β-ラクタム系抗菌薬も無効で、第一選択はマクロライド系となります。日本では2000年代以降、23S rRNA変異によるマクロライド耐性株が増加して問題となり、投与後48〜72時間で解熱しない場合はテトラサイクリン系やニューキノロン系への変更を検討します。比較的徐脈はレジオネラ肺炎やオウム病などで知られる所見であり、非定型肺炎どうしの違いを区別して覚えることが重要です。「細胞壁がない」という一つの性質から検査所見と治療薬選択を導く考え方は、感染症全般の理解に役立ちます。
解答・解説
正解はeです
非定型肺炎の代表であるマイコプラズマ肺炎の疫学・臨床像・微生物学的特徴・治療上の問題点を問う問題である。 原因微生物のMycoplasma pneumoniaeは、自己増殖できる最小クラスの微生物で、細胞壁をもたないことが最大の特徴である。この性質から、(1) Gram染色では染まらず観察できない、(2) 細胞壁合成を阻害するβ-ラクタム系抗菌薬(ペニシリン系・セフェム系・カルバペネム系)は無効である、という二つの重要な帰結が導かれる。 臨床的には、小児から若年成人(おおむね学童期〜青年期)に多く、飛沫・接触で家族内や学校・職場で流行する。症状は発熱と頑固な乾性咳嗽が中心で、一般状態は比較的保たれ、聴診所見に乏しい割に胸部X線で陰影がみられることが多い。全体としては軽症〜中等症が多く、外来治療で済むことが多い(「歩く肺炎(walking pneumonia)」とも呼ばれる)。 治療の第一選択はマクロライド系抗菌薬だが、日本では2000年代に入ってからマクロライド耐性株が急速に増加し、特に小児で大きな問題となった。本問は第109回(2015年2月実施)の出題であり、「5年前」とは2010年ごろを指す。出題当時は、2000年代から続くマクロライド耐性株の増加が臨床上の重要課題として広く認識されており、この動向を踏まえて本選択肢が正解とされた。
選択肢考察
- ×a. 重症肺炎が多い。
マイコプラズマ肺炎は発熱と乾性咳嗽が長引くものの全身状態は比較的良好で、軽症〜中等症が大部分である。呼吸不全に至る重症例はまれである。同じ非定型肺炎でも、重症化しやすく致死率が高いのはレジオネラ肺炎である。
- ×b. 50歳代に最も多い。
マイコプラズマ肺炎は幼児期後半から学童期、青年期(若年成人)に多く、高齢者には比較的少ない。日本呼吸器学会の成人肺炎診療ガイドラインでも、細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別項目の一つに「年齢60歳未満」が挙げられている。50歳代が最多というのは誤りである。
- ×c. 比較的徐脈を呈することが多い。
比較的徐脈とは、体温上昇の割に脈拍が増えない現象(通常は体温が1℃上がると脈拍は約10回/分増える)を指す。レジオネラ肺炎、オウム病(クラミジア・シッタシ感染症)、Q熱、腸チフスなどで知られるが、マイコプラズマ肺炎では頻度が高い所見とはいえない。現行の非定型肺炎の鑑別項目にも比較的徐脈は含まれていない。
- ×d. Gram染色で陰性桿菌が観察される。
Gram染色は細胞壁の構造(ペプチドグリカン層の厚さ)の違いを利用して細菌を染め分ける方法である。マイコプラズマは細胞壁を欠くため染色されず、喀痰Gram染色では原因菌が見えない。むしろ「肺炎があるのに喀痰Gram染色で有意な菌がみられない」ことが非定型肺炎を疑う手がかりとなる。Gram陰性桿菌がみられるのは肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、インフルエンザ菌(球桿菌)、緑膿菌などによる肺炎である。
- ○e. マクロライド系抗菌薬耐性株が5年前と比較して増加している。
日本では2000年ごろにマクロライド耐性マイコプラズマが報告されて以降、耐性株が急速に増え、2010年前後の流行期には小児分離株の過半数(報告によっては8〜9割)が耐性を示すまでになった。耐性の主な機序は、マクロライドの結合部位である23S rRNAドメインVの点変異(A2063Gなど)である。第109回(2015年2月実施)の出題時点からみた「5年前」は2010年ごろにあたり、この間も耐性株の増加・高止まりが問題とされていたことから、本選択肢が正しいとされた。耐性株による感染では、マクロライド投与後も48〜72時間以上解熱しないことが目安となり、テトラサイクリン系(ミノサイクリン、ドキシサイクリン)やニューキノロン系への変更が検討される。
マイコプラズマ肺炎の臨床像
・好発:幼児期後半〜若年成人。潜伏期は2〜3週間程度と長く、集団内でゆっくり広がる。 ・症状:発熱、頭痛、倦怠感に続く頑固な乾性咳嗽。咳は解熱後も数週間続くことがある。 ・身体所見:聴診で異常が乏しいことが多い。 ・画像:気管支壁肥厚、小葉中心性の粒状影、すりガラス影など気管支・細気管支に沿った陰影が特徴とされる。 ・検査:白血球数は正常〜軽度増加にとどまることが多い。
肺外合併症
寒冷凝集素(赤血球I抗原に対するIgM抗体)による自己免疫性溶血性貧血、多形紅斑・Stevens-Johnson症候群、髄膜脳炎・Guillain-Barré症候群、心筋炎、水疱性鼓膜炎、肝機能障害など。
診断
・核酸増幅検査(LAMP法、PCR法):迅速かつ感度が高い。 ・抗原迅速検査:咽頭ぬぐい液で行う。 ・血清学的検査:PA法・CF法などで、急性期と回復期のペア血清で4倍以上の上昇を確認する(単一血清での判定は偽陽性・偽陰性に注意)。寒冷凝集反応は非特異的な補助所見である。
細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別(日本呼吸器学会 成人市中肺炎)
(1) 年齢60歳未満、(2) 基礎疾患がない、あるいは軽微、(3) 頑固な咳がある、(4) 胸部聴診上所見が乏しい、(5) 痰がない、あるいは迅速診断法で原因菌が証明されない、(6) 末梢血白血球数が10,000/μL未満である。 (1)〜(6)のうち4項目以上で非定型肺炎疑い、3項目以下で細菌性肺炎疑い((1)〜(5)の5項目で判定する場合は3項目以上で非定型肺炎疑い)とする。
治療
・第一選択:マクロライド系(クラリスロマイシン、アジスロマイシンなど)。 ・マクロライド無効・耐性が疑われる場合:テトラサイクリン系(ミノサイクリン、ドキシサイクリン。8歳未満では歯牙着色・エナメル質形成不全のため原則避ける)、ニューキノロン系(成人ではレボフロキサシンなど、小児ではトスフロキサシンなど)。 ・β-ラクタム系は細胞壁をもたないため無効。
耐性株の動向
日本ではマクロライド耐性株が2000年代に急増し、2010年代初めにピークを迎えた。その後いったん減少したが、流行のたびに再び増加がみられるなど、変動しながら推移している。耐性率は時期・地域・年齢層により大きく異なるため、最新の動向を確認することが重要である。
POINT
・マイコプラズマは細胞壁をもたない→Gram染色で見えない、β-ラクタム系が無効。 ・小児〜若年成人に多く、軽症〜中等症が多い。頑固な乾性咳嗽と聴診所見の乏しさが特徴。 ・比較的徐脈はレジオネラ肺炎・オウム病・Q熱・腸チフスで知られる所見で、マイコプラズマ肺炎の特徴ではない。 ・第一選択はマクロライド系だが、2000年代以降、耐性株(23S rRNA変異)の増加が問題となった。無効時はテトラサイクリン系やニューキノロン系を用いる。 ・肺外合併症:寒冷凝集素による溶血性貧血、多形紅斑・Stevens-Johnson症候群、脳炎、水疱性鼓膜炎。
