StudyMed医師国家試験

閉じそこねた神経管―発生学で解く先天異常の「成り立ち」

第109回医師国家試験 H問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第109回 H問題 第4問

胎芽・胎児組織の閉鎖不全が原因となる疾患はどれか。

  1. a.髄膜瘤
  2. b.停留精巣
  3. c.総胆管拡張症
  4. d.腸回転異常症
  5. e.Hirschsprung病

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、先天異常を「どうやってできたか」という発生機序で分類できるかを問う問題だ。キーワードは「閉鎖不全」。胎生期には左右の組織が寄り合って管や壁を閉じる過程があり、それがうまくいかないと開いたまま残ってしまう。選択肢の疾患がそれぞれどんな異常で起こるのかを考えてみよう。
医学生医学生
閉鎖不全と聞くと、口唇裂や口蓋裂がまず思い浮かびます。発生学の講義で、顔面の突起が癒合しないとできると習いました。
ドクタードクター
いいスタートだね。口唇口蓋裂は顔面突起の癒合不全の代表だ。ほかにも腹壁の閉鎖不全である臍帯ヘルニアや腹壁破裂、尿道ひだの癒合不全である尿道下裂がある。そしてもう一つの代表格が、神経管の閉鎖不全なんだ。
医学生医学生
神経管ということは、髄膜瘤がそれに当たりますか。
ドクタードクター
その通り、正解は髄膜瘤だ。脳と脊髄のもとになる神経管は、受精後3〜4週に、平らな神経板の両縁が背側で寄り合って癒合することでできる。頭側の前神経孔は受精後約25日、尾側の後神経孔は約28日までに閉じる。尾側がうまく閉じないと椎弓も閉じずに二分脊椎となり、その欠損部から髄膜が袋状に飛び出したものが髄膜瘤だよ。
医学生医学生
脊髄髄膜瘤との違いは何でしたっけ。CBTの勉強で混ざってしまったところです。
ドクタードクター
髄膜瘤は髄膜と髄液だけが突出するもの、脊髄髄膜瘤は脊髄や神経根まで一緒に突出するものだ。一般に後者のほうが神経症状は重い。なお、頭側の閉鎖が障害されると無脳症などが起こる。では、ほかの選択肢を見ていこう。停留精巣はどうかな。
医学生医学生
精巣は陰嚢に向かって降りてくるものなので、閉じる異常というより下降の異常でしょうか。
ドクタードクター
正解。精巣は胎生期に腎臓の近くで発生し、胎生後期に鼠径管を通って陰嚢へ下降する。その途中で止まったのが停留精巣で、早産児に多い。自然に降りるのは生後早期に限られるから、降りなければ精巣固定術を行う。放置すると造精機能の低下や精巣腫瘍のリスクがあるんだ。
医学生医学生
総胆管拡張症は、管がうまく閉じないことで広がるのかと思ってしまいました。
ドクタードクター
そう考えたくなるけれど、本質は「合流の異常」なんだ。ほとんどの例で、膵管と胆管が十二指腸壁の外で合流して長い共通管をもつ膵・胆管合流異常を伴う。そのため膵液が胆管に逆流し、胆管炎や膵炎、さらに胆道癌の発生に関わる。女児に多く、腹痛・黄疸・腹部腫瘤が古典的な三主徴だよ。
医学生医学生
腸回転異常症は、名前の通り回転の異常ですね。小児外科を回ったとき、緑色の嘔吐は要注意と教わりました。
ドクタードクター
まさにそこが臨床の要点だ。中腸は胎生期に一度臍帯内へ出て、上腸間膜動脈を軸に反時計回りに計270度回転しながら腹腔に戻り、後腹膜に固定される。この回転と固定が不完全なのが腸回転異常症で、中腸軸捻転を起こしやすい。新生児の胆汁性嘔吐は、腸が壊死する前に急いで評価すべきサインなんだ。
医学生医学生
Hirschsprung病は神経節細胞がない病気でしたよね。それも閉鎖とは関係なさそうです。
ドクタードクター
その通り。腸管の神経節細胞は、神経堤細胞が胎生期に口側から肛門側へ遊走してできる。Hirschsprung病はこの遊走が途中で止まり、肛門側の腸管に神経節細胞が欠如するもので、「遊走の異常」に当たる。その部分は蠕動も弛緩も起こらず、機能的な腸閉塞になる。男児に多く、胎便排泄遅延や頑固な便秘で気づかれるよ。
医学生医学生
閉鎖不全、下降、合流、回転、遊走と、成り立ちごとに整理すると覚えやすいですね。
ドクタードクター
そう、発生機序で並べると選択肢がすっきり分かれる。最後に神経管閉鎖障害の臨床を押さえておこう。脊髄髄膜瘤では病変以下の運動・感覚障害や膀胱直腸障害が起こり、Chiari奇形II型と水頭症を高率に合併する。出生後早期に感染予防のため閉鎖術を行い、水頭症にはシャント術などで対応する。
医学生医学生
予防として葉酸が大事だと、公衆衛生の講義で聞きました。
ドクタードクター
その通り。妊娠を計画している女性には、食事に加えて1日0.4 mgの葉酸摂取が推奨されている。神経管は妊娠に気づく前に閉じてしまうから、妊娠前から摂ることが重要なんだ。また、バルプロ酸などの抗てんかん薬の胎内曝露はリスクを高めるので、妊娠可能年齢の女性への処方では注意が必要だよ。出生前には母体血清や羊水のα-フェトプロテイン高値、胎児超音波検査が手がかりになる。

まとめ

胎生期には左右の組織が寄り合って管や壁を閉じる過程があり、その閉鎖不全によって生じる先天異常の代表が、神経管閉鎖障害である二分脊椎・髄膜瘤・脊髄髄膜瘤・無脳症です。神経管は受精後3〜4週に閉じ、尾側の閉鎖障害で二分脊椎や髄膜瘤が生じます。ほかに口唇口蓋裂、臍帯ヘルニア・腹壁破裂、尿道下裂も閉鎖(癒合)不全に分類されます。一方、停留精巣は下降の異常、総胆管拡張症は膵・胆管合流異常、腸回転異常症は回転・固定の異常、Hirschsprung病は神経堤細胞の遊走異常によるもので、閉鎖不全ではありません。神経管閉鎖障害は妊娠前からの葉酸摂取でリスクを下げられるため、発生学の理解は診断だけでなく予防指導にも直結します。

解答・解説

正解はaです

本問は、先天異常の原因を発生学の観点から分類できるかを問う問題である。 胎芽期・胎児期には、体のさまざまな構造が「左右や前後の組織が寄り合って癒合し、管や壁を閉じる」過程を経てできあがる。この閉じる過程がうまくいかないと、本来閉じているはずの部位に開いた状態や欠損が残る。これが「閉鎖不全(癒合不全)」による先天異常である。代表例として、神経管の閉鎖不全(二分脊椎、髄膜瘤、脊髄髄膜瘤、無脳症など)、顔面突起の癒合不全(口唇裂・口蓋裂)、腹壁の閉鎖不全(臍帯ヘルニア、腹壁破裂)、尿道ひだの癒合不全(尿道下裂)などがある。 一方、先天異常には閉鎖不全以外にも、臓器が本来の位置まで移動しない「下降・移動の異常」、腸管の「回転の異常」、管どうしの「合流の異常」、細胞の「遊走の異常」など、さまざまな成り立ちがある。 本問の選択肢を発生機序で分けると、髄膜瘤は神経管の閉鎖不全、停留精巣は精巣の下降異常、総胆管拡張症は膵管と胆管の合流異常、腸回転異常症は中腸の回転・固定の異常、Hirschsprung病は神経堤細胞の遊走異常による腸管神経節細胞の欠如であり、閉鎖不全によるものは髄膜瘤のみである。

選択肢考察

  1. ○a.  髄膜瘤

    正しい。脳と脊髄のもとになる神経管は、受精後3〜4週に、平らな神経板の両縁が背側で寄り合って癒合することで形成される。管は中央から頭側・尾側に向かって閉じていき、頭側の開口部(前神経孔)は受精後約25日、尾側の開口部(後神経孔)は受精後約28日までに閉鎖する。後神経孔側の閉鎖が障害されると、椎弓が閉じない二分脊椎となり、その欠損部から髄膜が嚢状に突出したものが髄膜瘤、髄膜とともに脊髄・神経組織も突出したものが脊髄髄膜瘤である。腰仙部に好発する。前神経孔側の閉鎖が障害されると無脳症などが生じる。

  2. ×b.  停留精巣

    誤り。精巣は胎生期に腹腔内(腎臓の近く)で発生し、胎生後期に鼠径管を通って陰嚢内へ下降する。停留精巣は、この下降が途中で止まり、精巣が陰嚢底まで達していない状態であり、閉鎖不全ではなく下降の異常によるものである。早産児に多い。自然下降は生後早期に限られるため、下降しない場合は精巣固定術を行う。放置すると造精機能の低下や精巣腫瘍のリスクがある。

  3. ×c.  総胆管拡張症

    誤り。総胆管拡張症(先天性胆道拡張症)は、総胆管を含む胆管が嚢状や紡錘状に拡張する疾患である。ほとんどの例で、膵管と胆管が十二指腸壁の外で合流して長い共通管をもつ膵・胆管合流異常を伴う。このため膵液が胆管内に逆流し、胆管炎や膵炎、さらには胆道癌の発生に関与する。成因は管の合流の異常であり、閉鎖不全ではない。女児に多く、腹痛・黄疸・腹部腫瘤が古典的な三主徴である。

  4. ×d.  腸回転異常症

    誤り。中腸(十二指腸の一部から横行結腸のほぼ中央まで)は胎生期に一度臍帯内へ脱出(生理的臍帯ヘルニア)し、上腸間膜動脈を軸に反時計回りに計270度回転しながら腹腔内に戻り、後腹膜に固定される。腸回転異常症はこの回転と固定の過程が不完全なものであり、閉鎖不全ではない。腸間膜の付着部が短くなるため中腸軸捻転を起こしやすく、また異常な腹膜の索状物(Ladd靭帯)が十二指腸を圧迫して閉塞を起こすことがある。新生児期の胆汁性嘔吐が典型的な症状である。

  5. ×e.  Hirschsprung病

    誤り。腸管の壁内神経叢(筋層間のAuerbach神経叢と粘膜下のMeissner神経叢)の神経節細胞は、神経堤細胞が胎生期に口側から肛門側へ向かって遊走することで形成される。Hirschsprung病はこの遊走が途中で止まり、肛門側の腸管に神経節細胞が欠如する疾患である。無神経節腸管は蠕動が起こらず弛緩もしないため、機能的な腸閉塞をきたす。成因は細胞の遊走の異常であり、閉鎖不全ではない。男児に多く、新生児期の胎便排泄遅延や腹部膨満、乳幼児期以降の頑固な便秘で発症する。

神経管閉鎖障害(NTD)の分類

・頭側(前神経孔)の閉鎖障害:無脳症、脳瘤 ・尾側(後神経孔)の閉鎖障害:二分脊椎  - 潜在性二分脊椎:椎弓の欠損のみで、髄膜や脊髄の突出がない。背部正中の皮膚の陥凹、多毛、血管腫、皮下脂肪腫などの皮膚異常が手がかりとなる。  - 顕在性(嚢胞性)二分脊椎:髄膜瘤(髄膜と髄液のみが突出)、脊髄髄膜瘤(脊髄・神経根も突出)

脊髄髄膜瘤の臨床

・病変部より下位の運動・感覚障害(下肢麻痺、足の変形)、膀胱直腸障害(神経因性膀胱など)を生じる。 ・Chiari奇形II型(小脳・延髄の大後頭孔への下垂)と水頭症を高率に合併する。 ・出生後早期に感染防止のための閉鎖術を行い、水頭症に対しては脳室腹腔シャントなどを行う。 ・出生前診断として、母体血清や羊水中のα-フェトプロテイン(AFP)高値、胎児超音波検査が用いられる。

予防

妊娠前から妊娠初期にかけての葉酸摂取により神経管閉鎖障害のリスクが低下する。妊娠を計画している女性には、食事に加えて1日0.4 mgの葉酸の摂取が推奨されている。神経管は妊娠に気づく前の時期に閉じるため、妊娠前からの摂取が重要である。抗てんかん薬(バルプロ酸など)の胎内曝露はリスクを高める。

発生機序による先天異常の整理

・閉鎖(癒合)不全:二分脊椎・髄膜瘤・無脳症、口唇口蓋裂、臍帯ヘルニア・腹壁破裂、尿道下裂 ・下降の異常:停留精巣 ・回転・固定の異常:腸回転異常症 ・合流の異常:膵・胆管合流異常(総胆管拡張症) ・神経堤細胞の遊走異常:Hirschsprung病

POINT

・神経管は受精後3〜4週に閉じ、後神経孔は受精後約28日までに閉鎖する。その閉鎖不全が二分脊椎・髄膜瘤・脊髄髄膜瘤である。 ・閉鎖不全による代表疾患:神経管閉鎖障害、口唇口蓋裂、臍帯ヘルニア・腹壁破裂、尿道下裂。 ・停留精巣=下降異常、腸回転異常症=回転・固定の異常、総胆管拡張症=膵・胆管合流異常、Hirschsprung病=神経堤細胞の遊走異常。 ・神経管閉鎖障害の予防には妊娠前からの葉酸摂取(0.4 mg/日)が重要である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。