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補体が「減る」のはなぜか―免疫複合体が教える悪性関節リウマチの正体

第109回医師国家試験 E問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第109回 E問題 第15問

血清補体価(CH50)が低下する疾患はどれか。

  1. a.偽痛風
  2. b.強皮症
  3. c.多発性筋炎
  4. d.悪性関節リウマチ
  5. e.サルコイドーシス

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は血清補体価、つまりCH50が低下する疾患を選ぶ問題だ。大事なのは疾患名を丸暗記することではなく、「どういう仕組みで補体が減るのか」を理解すること。そうすれば初めて見る疾患でも判断できるようになるよ。
医学生医学生
炎症が強ければ補体がたくさん使われて減る、というイメージでいいんでしょうか。
ドクタードクター
そこがよくある誤解なんだ。補体は急性期反応物質の一面も持っていて、多くの炎症性疾患では肝臓での産生がむしろ増えるから、正常か高値になることが多い。CH50が下がるのは、主に3つのパターンに限られる。
医学生医学生
炎症の強さだけでは決まらないんですね。では、どんなときに下がるんですか。
ドクタードクター
1つ目は消費の亢進。免疫複合体が血中や糸球体、血管壁などにできて古典経路が活性化され、補体が大量に使われる場合だ。2つ目は産生低下で、肝硬変などの重症肝障害。3つ目は先天的な補体成分の欠損や、C1インヒビター欠損のような制御因子の異常だね。
医学生医学生
そもそもCH50って何を測っているんでしたっけ。免疫学の講義で溶血がどうとか習った気はするんですが。
ドクタードクター
抗体で感作したヒツジ赤血球の50%を溶血させるのに必要な補体量で表した値だ。古典経路のC1からC9までが全体としてどれだけ働けるかを示す総合的な指標で、どれか1つの成分が大きく減っても低下する。
医学生医学生
なるほど。じゃあ選択肢の中で免疫複合体が主役の病気を探せばいいんですね。それなら悪性関節リウマチでしょうか。
ドクタードクター
正解だ。悪性関節リウマチは関節リウマチに血管炎などの関節外症状を伴う、難治性・重症の病態のこと。高力価のリウマトイド因子がIgGなどと免疫複合体をつくって血管壁に沈着し、古典経路を活性化するから、消費が産生を上回ってCH50が下がる。症状としては皮膚潰瘍、指趾壊疽、多発単神経炎、間質性肺炎、上強膜炎などが出てくる。
医学生医学生
でも普通の関節リウマチでも免疫複合体はできますよね。補体は下がらないんですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。通常の関節リウマチでは、血清補体価は正常から高値になる。関節液中では局所で消費されて低下するけれど、血清では炎症による産生増加が勝つんだ。だから関節リウマチの患者さんで血清の低補体を見たら、悪性関節リウマチを疑う手がかりになる。
医学生医学生
膠原病内科の実習で、リウマチの患者さんの皮膚潰瘍を見て指導医の先生が補体をオーダーしていたのは、それを確かめるためだったんですね。
ドクタードクター
まさにそういうことだ。では残りの選択肢も確認しよう。偽痛風はどうかな。
医学生医学生
ピロリン酸カルシウム結晶が沈着して起こる関節炎ですよね。結晶に対する反応なので、免疫複合体は関係なさそうです。
ドクタードクター
その通り。結晶に対する自然免疫の反応が主体だから、CH50は正常か、炎症に伴ってむしろ高めになる。強皮症と多発性筋炎はどうだろう。
医学生医学生
膠原病だから補体が下がりそうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこが引っかけポイントだね。全身性強皮症は線維化と微小血管障害が主病態、多発性筋炎は主にCD8陽性T細胞が筋線維を傷害する細胞性免疫の病気だ。どちらも免疫複合体による補体消費は中心ではないから、単独ではCH50は通常低下しない。SLEとのオーバーラップがあれば話は別だけどね。
医学生医学生
サルコイドーシスも、Th1型の肉芽腫性疾患なので細胞性免疫が主役ですね。CBTの勉強では、血清ACEや可溶性IL-2受容体の上昇、高Ca血症とセットで覚えました。
ドクタードクター
完璧だ。補体は下がらない。最後に、低補体血症をきたす代表的な疾患を整理しておこう。免疫複合体による消費ではSLE、急性糸球体腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、クリオグロブリン血症、感染性心内膜炎に伴う腎炎などがある。SLEでは補体が活動性の指標になるし、溶連菌感染後の急性糸球体腎炎では主にC3が下がって通常8週以内に回復する。
医学生医学生
クリオグロブリン血症はC4が特に下がるんでしたよね。C型肝炎との関連もよく出ると聞きました。
ドクタードクター
その通り。さらに遺伝性血管性浮腫ではC4が低下し、発作時にはCH50も下がる。肝硬変は産生低下の代表だ。臨床では、補体の値そのものより「なぜ下がったか」を考えることで、隠れた血管炎や腎炎に気づけることがある。

まとめ

血清補体価(CH50)は古典経路の補体成分全体の働きを示す指標で、多くの炎症性疾患では補体が急性期反応として増えるため、正常〜高値となります。CH50が低下するのは、免疫複合体による消費の亢進、肝硬変などによる産生低下、先天的な補体欠損やC1インヒビター欠損といった限られた状況です。悪性関節リウマチは高力価のリウマトイド因子を含む免疫複合体が血管壁に沈着して補体を消費するため低補体血症を示し、通常の関節リウマチで血清補体が正常〜高値であることとの対比が重要です。偽痛風、強皮症、多発性筋炎、サルコイドーシスは免疫複合体による補体消費が病態の中心ではなく、単独ではCH50は低下しません。低補体の機序を理解しておくと、SLE、糸球体腎炎、クリオグロブリン血症などの鑑別や、隠れた血管炎の発見に役立ちます。

解答・解説

正解はdです

血清補体価(CH50)が低下する疾患を選ぶ問題である。

CH50とは

CH50(50%溶血補体価)は、抗体で感作したヒツジ赤血球の50%を溶血させる血清補体の量で表した値で、古典経路のC1からC9までの成分が全体としてどれだけ働けるかを示す総合的な指標である。どれか1つの成分が欠けたり大きく減ったりしても低下する。

CH50が低下する機序

補体は急性期反応物質の一面もあり、多くの炎症性疾患ではむしろ産生が増えて正常〜高値となる。低下するのは主に次の場合である。 ・消費の亢進:免疫複合体が血中や組織(糸球体、血管壁など)に形成・沈着し、古典経路が活性化されて補体が大量に使われる(Ⅲ型アレルギー)。 ・産生の低下:重症肝障害(肝硬変など)では肝で作られる補体成分が減る。 ・先天的な欠損や制御因子の異常:補体成分欠損症、C1インヒビター欠損(遺伝性血管性浮腫)など。

考え方

選択肢の中で免疫複合体による血管炎を主病態とするのは悪性関節リウマチであり、補体が消費されてCH50が低下する。ほかの疾患は免疫複合体による補体消費が病態の中心ではなく、単独ではCH50は低下しない。

選択肢考察

  1. ×a.  偽痛風

    誤り。偽痛風はピロリン酸カルシウム(CPPD)結晶が関節軟骨などに沈着し、結晶誘発性の急性関節炎を起こす疾患である(高齢者の膝関節に多く、X線で軟骨石灰化を認める)。炎症は結晶に対する自然免疫反応が主体で、免疫複合体による補体消費は起こらないため、CH50は正常〜炎症に伴いむしろ高値となる。

  2. ×b.  強皮症

    誤り。全身性強皮症は皮膚や内臓の線維化と微小血管障害(Raynaud現象など)を主病態とし、免疫複合体の沈着による補体消費は病態の中心ではない。単独ではCH50は通常正常である。SLEとの重複(オーバーラップ症候群)がある場合などには低下しうる。

  3. ×c.  多発性筋炎

    誤り。多発性筋炎は主にCD8陽性T細胞が筋線維を傷害する細胞性免疫の機序による炎症性筋疾患で、免疫複合体による補体の大量消費は起こらない。CH50は通常正常〜高値である。SLEを合併する場合には低下することがある。

  4. ○d.  悪性関節リウマチ

    正しい。悪性関節リウマチは関節リウマチに血管炎などの関節外症状を伴い、難治性・重症の病態を示すものをいう(わが国の指定難病の名称)。高力価のリウマトイド因子とIgGなどが免疫複合体を形成し、血管壁に沈着して古典経路を活性化するため、補体の消費が産生を上回りCH50が低下する。皮膚潰瘍、指趾壊疽、多発単神経炎、間質性肺炎、上強膜炎などの血管炎症状を示す。なお通常の関節リウマチでは血清補体価は正常〜高値であり(関節液中では局所の消費により低下する)、血清で低補体を示す点は悪性関節リウマチを疑う手がかりとなる。

  5. ×e.  サルコイドーシス

    誤り。サルコイドーシスは原因不明の非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が肺門リンパ節、肺、眼、皮膚、心臓などに形成される疾患で、主体はTh1型の細胞性免疫反応である。免疫複合体による補体消費は病態の中心でなく、CH50は低下しない。血清ACE(アンジオテンシン変換酵素)やリゾチーム、可溶性IL-2受容体の上昇、高Ca血症などが特徴的な検査所見である。

低補体血症をきたす主な疾患

・全身性エリテマトーデス(SLE):免疫複合体による消費。活動性の指標となり、C3・C4・CH50が低下する。 ・悪性関節リウマチ(リウマトイド血管炎)。 ・急性糸球体腎炎(溶連菌感染後):主に第二経路の活性化でC3が低下し、通常8週以内に回復する。 ・膜性増殖性糸球体腎炎:持続性の低補体血症。 ・クリオグロブリン血症(C型肝炎ウイルス関連が多い):特にC4が著明に低下する。 ・感染性心内膜炎に伴う糸球体腎炎、ループス腎炎、シャント腎炎など免疫複合体性疾患。 ・遺伝性血管性浮腫(C1インヒビター欠損):C4が低下し、発作時にはCH50も低下する。 ・肝硬変など重症肝障害:補体の産生低下。 ・先天性補体欠損症。

補体が正常〜高値となる疾患

関節リウマチ(通常型)、多くの感染症・炎症性疾患、悪性腫瘍など。補体は急性期反応で産生が増加するためである。

悪性関節リウマチ

関節リウマチのうち、血管炎をはじめとする関節外症状を伴い難治性・重症のもの。高力価のリウマトイド因子、低補体血症、免疫複合体陽性を示す。臨床病型には、全身性動脈炎型(結節性多発動脈炎に似る)と末梢動脈炎型(皮膚潰瘍・指趾壊疽・末梢神経炎)などがある。国際的にはリウマトイド血管炎と呼ばれる。

POINT

・CH50低下=免疫複合体による消費(SLE、悪性関節リウマチ、クリオグロブリン血症、急性糸球体腎炎、MPGN)、産生低下(肝硬変)、先天的欠損・C1インヒビター欠損。 ・通常の関節リウマチでは血清補体は正常〜高値、悪性関節リウマチでは低下。 ・強皮症、多発性筋炎、サルコイドーシス、偽痛風は単独では補体低下をきたさない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。