「感染」か「アレルギー」か―病態と病原体の構造から読み解く呼吸器の治療薬
第109回医師国家試験 A問題 第4問
国試問題にチャレンジ
疾患と治療薬の組合せで適切なのはどれか。
- a.気管支喘息 ―― β遮断薬
- b.肺高血圧症 ―― 抗コリン薬
- c.マイコプラズマ肺炎 ―― ペニシリン系抗菌薬
- d.ニューモシスチス肺炎 ―― 抗真菌薬
- e.アレルギー性気管支肺アスペルギルス症 ―― 副腎皮質ステロイド
対話形式の解説
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医学生まとめ
呼吸器疾患の治療薬は、病態と病原体の構造から理由をもって選ぶことが大切です。アレルギー性気管支肺アスペルギルス症はアスペルギルスに対するⅠ型・Ⅲ型アレルギーが本態であるため副腎皮質ステロイドが治療の中心で、抗真菌薬は再燃例などで補助的に併用します。気管支喘息にβ遮断薬は気管支収縮を招くため禁忌、肺高血圧症には抗コリン薬ではなく肺血管拡張薬、細胞壁をもたないマイコプラズマにはβ-ラクタム系ではなくマクロライド系、エルゴステロールをほとんどもたないニューモシスチスには一般的な抗真菌薬ではなくST合剤を用います。同じアスペルギルスでも宿主の免疫状態によりアレルギー・菌球・慢性感染・侵襲性感染と病態が変わり、治療が大きく異なる点は臨床でも重要です。「感染かアレルギーか」「薬の標的が病原体に存在するか」という視点は、薬剤選択全般に応用できる考え方です。
解答・解説
正解はeです
テーマ
呼吸器疾患とその治療薬の対応を問う問題である。一見ばらばらの組合せだが、いずれも「病態や病原体の性質から、効く薬・効かない薬を説明できるか」を確かめている。
考え方
各組合せについて、次の点を確認するとよい。 ・気管支喘息:気道の慢性炎症と気道収縮が病態であり、気管支を広げる薬(β2刺激薬)と炎症を抑える薬(吸入ステロイド)が治療の中心。気管支を収縮させる作用をもつ薬は逆効果となる。 ・肺高血圧症:肺動脈が収縮・リモデリング(壁の肥厚)して肺血管抵抗が上がる病態であり、肺血管を拡張させる薬が治療の中心。 ・マイコプラズマ肺炎:病原体のMycoplasma pneumoniaeは細胞壁をもたない細菌であり、細胞壁の合成を阻害する薬は効かない。 ・ニューモシスチス肺炎:病原体のPneumocystis jiroveciiは遺伝学的には真菌に分類されるが、一般的な抗真菌薬の標的となる細胞膜成分をもたないため、特殊な薬剤で治療する。 ・アレルギー性気管支肺アスペルギルス症:アスペルギルスが組織に侵入して起こる感染症ではなく、気道内のアスペルギルスに対するアレルギー反応(Ⅰ型およびⅢ型)が病態の主体である。そのため、炎症を抑える副腎皮質ステロイドが治療の中心となる。 病原体の構造的特徴や病態の本質(感染かアレルギーか)に着目することが、正解を選ぶ鍵である。
選択肢考察
- ×a. 気管支喘息 ―― β遮断薬
気管支平滑筋にはβ2受容体があり、刺激されると平滑筋が弛緩して気管支が広がる。β遮断薬はこの作用を妨げて気管支収縮を招き、喘息発作を誘発・悪化させるおそれがあるため、気管支喘息には原則として禁忌である。β1選択性の高い薬剤や、緑内障に用いる点眼薬でも発作を起こしうるので注意が必要である。喘息の治療では、長期管理に吸入ステロイドを基本とし、必要に応じて長時間作用性β2刺激薬(LABA)、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)、ロイコトリエン受容体拮抗薬などを追加する。発作時には短時間作用性β2刺激薬(SABA)を吸入する。β遮断薬ではなく「β2刺激薬」を用いる、と覚えておくとよい。
- ×b. 肺高血圧症 ―― 抗コリン薬
抗コリン薬は、アセチルコリンによる気管支平滑筋の収縮を抑えて気管支を広げる薬であり、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や気管支喘息に吸入薬として用いられる。肺血管の拡張作用はなく、肺高血圧症の治療薬ではない。肺動脈性肺高血圧症には、肺血管を拡張させる薬として、プロスタサイクリン(PGI2)製剤およびその受容体作動薬、エンドセリン受容体拮抗薬、ホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬、可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬が用いられる。
- ×c. マイコプラズマ肺炎 ―― ペニシリン系抗菌薬
ペニシリン系を含むβ-ラクタム系抗菌薬は、細菌の細胞壁(ペプチドグリカン)の合成を阻害して効果を発揮する。マイコプラズマは細胞壁をもたないため、β-ラクタム系抗菌薬はまったく効かない。治療にはタンパク合成を阻害するマクロライド系が第一選択として用いられ、マクロライド耐性株や効果不十分の場合には、テトラサイクリン系(ミノサイクリン、ドキシサイクリン)やニューキノロン系抗菌薬が用いられる。なお、テトラサイクリン系は歯の着色の問題があるため、8歳未満の小児には原則として用いない。
- ×d. ニューモシスチス肺炎 ―― 抗真菌薬
Pneumocystis jiroveciiは遺伝子解析から真菌に分類されるが、一般的な真菌と異なり細胞膜にエルゴステロールをほとんど含まない。アムホテリシンBやアゾール系などの抗真菌薬はエルゴステロールやその合成を標的とするため、ニューモシスチスには効果がない。治療の第一選択はスルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST合剤)であり、葉酸合成を2段階で阻害する。ST合剤が使えない場合は、ペンタミジン(抗原虫薬)やアトバコンが用いられる。低酸素血症を伴う中等症以上の例(特にHIV感染者)では、治療初期の炎症の悪化を抑えるために副腎皮質ステロイドを併用する。予防にもST合剤が用いられる。
- ○e. アレルギー性気管支肺アスペルギルス症 ―― 副腎皮質ステロイド
アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)は、気道内に定着したアスペルギルス(主にAspergillus fumigatus)に対して、IgEを介したⅠ型アレルギーと、免疫複合体によるⅢ型アレルギーが起こる疾患である。組織への菌の侵入が本態ではなく、アレルギー性の炎症が病態の中心であるため、全身性の副腎皮質ステロイド(経口プレドニゾロンなど)が治療の第一選択となる。ステロイドにより、気道の炎症、粘液栓、肺浸潤影が改善する。再燃を繰り返す例やステロイドを減量したい例では、菌量を減らす目的でイトラコナゾールなどの抗真菌薬を併用することがあり、近年は抗IgE抗体などの生物学的製剤も用いられている。
アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)
・背景:気管支喘息や嚢胞性線維症の患者に多い。日本では主に喘息患者にみられる ・症状:喘息のコントロール悪化、咳嗽、褐色の粘液栓の喀出など ・検査所見:末梢血好酸球増多、血清総IgE高値、アスペルギルス特異的IgE・IgG(沈降抗体)陽性、アスペルギルス抗原に対する即時型皮膚反応陽性 ・画像所見:中枢性気管支拡張(肺門に近い太い気管支が拡張する)、粘液栓、移動する浸潤影。粘液栓が指のように分岐して見える所見(finger-in-glove sign)が特徴的である ・診断:古典的にはRosenbergとPattersonの基準(喘息、即時型皮膚反応陽性、総IgE高値、沈降抗体陽性、末梢血好酸球増多、肺浸潤影、中枢性気管支拡張など)が用いられ、現在は国際的な基準や、アスペルギルス以外の真菌による病型も含めた日本の診断基準(アレルギー性気管支肺真菌症:ABPM)も用いられる ・治療:全身性ステロイドが中心。抗真菌薬(イトラコナゾールなど)の併用、生物学的製剤(抗IgE抗体、抗IL-5抗体など)も選択肢となる
アスペルギルスによる肺疾患の整理
アスペルギルスは宿主の免疫状態によって異なる病態を起こす。 ・免疫過剰(アレルギー):ABPA → ステロイド ・既存の空洞への定着:肺アスペルギローマ(菌球)→ 外科的切除、抗真菌薬 ・軽度の免疫低下:慢性進行性肺アスペルギルス症 → 抗真菌薬 ・高度の免疫不全(好中球減少など):侵襲性肺アスペルギルス症 → ボリコナゾールなどの抗真菌薬 ABPA以外は感染症として抗真菌薬が中心となる点が対照的である。
その他の組合せの要点
・細胞壁をもたない病原体(マイコプラズマ)にはβ-ラクタム系が無効 ・エルゴステロールをもたないニューモシスチスには一般的な抗真菌薬が無効で、ST合剤を用いる ・気管支喘息ではβ遮断薬が禁忌
POINT
・ABPAはアスペルギルスに対するⅠ型・Ⅲ型アレルギーが本態であり、治療の中心は副腎皮質ステロイド(抗真菌薬は補助的に併用)。 ・気管支喘息にβ遮断薬は禁忌(気管支収縮を誘発)。用いるのはβ2刺激薬。 ・肺高血圧症には肺血管拡張薬(PGI2製剤、エンドセリン受容体拮抗薬、PDE5阻害薬、sGC刺激薬)。 ・マイコプラズマは細胞壁をもたない → β-ラクタム系無効、マクロライド系が第一選択。 ・ニューモシスチス肺炎の第一選択はST合剤。代替薬はペンタミジン、アトバコン。
