点滴は「中身」と「針」の二刀流―救急外来の静脈路確保を組合せで読み解く
第108回医師国家試験 F問題 第9問
国試問題にチャレンジ
救急外来で点滴を行う場合の患者の年齢,病態,輸液製剤および注射針の種類の組合せで適切なのはどれか。 患者の年齢 病態 輸液製剤 注射針の種類 a 6か月 脱水 5%ブドウ糖液 留置針 (プラスチックカニューレ型) b 40歳 熱中症 5%ブドウ糖液 翼状針 c 40歳 消化管出血 生理食塩水 留置針 (プラスチックカニューレ型) d 40歳 全身けいれん 生理食塩水 翼状針 e 80歳 心不全 乳酸リンゲル液 留置針 (プラスチックカニューレ型)
- a.6か月脱水 5%ブドウ糖液留置針(プラスチックカニューレ型)
- b.40歳熱中症 5%ブドウ糖液翼状針
- c.40歳消化管出血生理食塩液留置針(プラスチックカニューレ型)
- d.40歳全身けいれん生理食塩液翼状針
- e.80歳心不全乳酸リンゲル液留置針(プラスチックカニューレ型)
対話形式の解説
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ドクターまとめ
救急外来の点滴では、病態に合った輸液製剤と、状況に合った穿刺針を同時に選ぶ必要があります。出血・脱水・熱中症など循環血液量が減った病態には、細胞外液にとどまる生理食塩液やリンゲル液を用い、代謝後に自由水となって血管内にほとんど残らない5%ブドウ糖液は不向きで、低Na血症の危険もあります。一方、心不全ではNaを多く含む細胞外液補充液は肺うっ血を悪化させるため、輸液は最小限に抑えます。針は、体動に強く抜けにくく太いゲージも選べるプラスチックカニューレ型の留置針が救急の基本で、翼状針は採血や短時間投与に限られます。輸液を「体のどこに分布するか」で理解しておくことは、救急だけでなく病棟での輸液管理全般の土台になります。
解答・解説
正解はcです
本問は、救急外来で静脈路を確保して輸液する際に、「病態に合った輸液製剤」と「状況に合った穿刺針」を同時に選べるかを問う問題である。組合せ問題なので、輸液製剤と針の両方が適切である選択肢だけが正解となる。
輸液製剤の選び方
輸液製剤は、投与した水分が体内のどこに分布するかで考えると整理しやすい。 ・細胞外液補充液(生理食塩液、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液など):Na濃度が血漿に近い(約130〜154mEq/L)等張液で、投与した水分の多くが細胞外液(血管内と間質)にとどまる。出血、嘔吐・下痢、熱中症など、循環血液量や細胞外液が失われた病態の初期輸液に用いる。 ・5%ブドウ糖液:投与直後は浸透圧が血漿に近いが、ブドウ糖が代謝されると実質的に電解質を含まない「自由水」となり、体液全体(細胞内液を含む)に分布する。血管内にとどまるのは投与量のごく一部であり、循環血液量を補う目的には向かない。電解質を含まないため、大量に投与すると低Na血症を招く。 ・低張電解質輸液(1号液〜4号液):生理食塩液とブドウ糖液を混ぜたような組成で、Na濃度は細胞外液補充液より低い。1号液(開始液)はKを含まず、病態が不明な段階でも使いやすい。
穿刺針の選び方
・留置針(プラスチックカニューレ型):金属の内針で穿刺したのち、外側の柔らかいプラスチック製カニューレ(外筒)だけを血管内に残す。体動や関節の屈曲があっても血管を傷つけにくく、抜けにくいため、長時間・大量の輸液や、急変に備えた確実な静脈路確保に適する。太いゲージを選べば急速輸液・輸血にも対応できる。 ・翼状針:金属針をそのまま血管内に留置する。穿刺が容易で、採血や短時間の単回投与には便利だが、体動で針先が血管壁を突き破ったり(血管外漏出)、抜けたりしやすい。長時間の持続輸液や体動の激しい患者には適さない。 以上から、救急外来で循環血液量の減少がある、あるいは急変の可能性がある患者に対しては、細胞外液補充液を留置針から投与するのが基本となる。各組合せをこの観点で検討すると、消化管出血の成人に生理食塩液を留置針で投与する組合せのみが、輸液・針の両方で適切である。
選択肢考察
- ×a. 6か月脱水 5%ブドウ糖液留置針(プラスチックカニューレ型)
乳児に留置針を用いること自体は適切である。しかし脱水では水分とともにNaなどの電解質も失われており、電解質を含まない5%ブドウ糖液は初期輸液として不適切である。5%ブドウ糖液は大部分が細胞内へ移行して循環血液量の回復に寄与しにくく、低Na血症を起こす危険もある。小児の脱水の初期輸液には、Kを含まない1号液(開始液)が伝統的に用いられてきたが、近年は生理食塩液や乳酸リンゲル液などの等張液(細胞外液補充液)で循環を立て直すことが推奨されている。いずれにしても電解質を含む輸液を選ぶ。
- ×b. 40歳熱中症 5%ブドウ糖液翼状針
熱中症では大量の発汗により水分とNaがともに失われ、細胞外液が減少している。補うべきは細胞外液であり、生理食塩液やリンゲル液などの細胞外液補充液を用いる。5%ブドウ糖液では循環血液量の補正が不十分で、低Na血症を悪化させうる。また、熱中症ではある程度の量を比較的速く輸液する必要があり、意識障害や不穏・けいれんを伴うこともあるため、翼状針ではなく留置針が適する。輸液製剤・針ともに不適切である。
- ○c. 40歳消化管出血生理食塩液留置針(プラスチックカニューレ型)
消化管出血では循環血液量が減少しており、出血性ショックに陥る危険がある。初期輸液としては血管内・間質にとどまる細胞外液補充液(生理食塩液やリンゲル液)を用いて循環を維持し、必要に応じて輸血を行う。輸液・輸血を急速かつ長時間続けることになり、内視鏡処置中などの体動もあるため、抜けにくく太いゲージも選べるプラスチックカニューレ型の留置針で確実な静脈路を確保するのが適切である。輸液製剤と針の両方が病態に合致している。
- ×d. 40歳全身けいれん生理食塩液翼状針
全身けいれんの患者では、抗けいれん薬(ジアゼパムなど)を静注するための静脈路確保が必要であり、生理食塩液で静脈路を維持すること自体は問題ない。しかし、けいれん中は激しい体動があり、金属針をそのまま血管内に残す翼状針では針先がずれて血管外漏出を起こしたり、抜けたりしやすい。けいれんの再発に備えて確実な静脈路を保つためにも、留置針を用いるべきである。
- ×e. 80歳心不全乳酸リンゲル液留置針(プラスチックカニューレ型)
心不全では体液が過剰になっていることが多く、細胞外液を増やす乳酸リンゲル液(Naを多く含む)を投与すると、循環血液量がさらに増えて心臓への負荷が増し、肺うっ血や浮腫を悪化させる。心不全の患者では輸液量を最小限に抑えるのが原則であり、薬剤投与用の静脈路を確保する目的であれば、Na負荷の少ない5%ブドウ糖液を少量で用いるか、ルートをロックして維持する。留置針の選択は適切だが、輸液製剤が不適切である。なお、右室梗塞など前負荷の維持が必要な特殊な病態では細胞外液を慎重に投与することもあるが、一般的な心不全には当てはまらない。
主な輸液製剤の特徴
・生理食塩液:Na 154mEq/L、Cl 154mEq/L。細胞外液補充の基本。大量投与するとClが過剰になり、高Cl性代謝性アシドーシスを起こしうる。 ・乳酸リンゲル液/酢酸リンゲル液:Na約130mEq/Lに加えK・Caを含み、乳酸や酢酸が代謝されて重炭酸(HCO3−)となるため、より血漿に近い組成である。 ・1号液(開始液):Kを含まない低張電解質液。腎機能や血清Kが不明な段階でも使いやすい。 ・3号液(維持液):1日に必要な水分と電解質を補う目的で用い、Kを含む。 ・5%ブドウ糖液:代謝後は自由水となり、体液全体に分布する。循環血液量の補正には不向き。
投与した輸液が血管内に残る割合の目安
体液は細胞内液:細胞外液が約2:1、細胞外液のうち血管内(血漿):間質が約1:3である。 ・細胞外液補充液1Lを投与すると、細胞外液全体に分布し、そのうち約1/4(約250mL)が血管内に残る。 ・5%ブドウ糖液1Lを投与すると、体液全体に分布し、血管内に残るのは約1/12(約80mL)にすぎない。 この違いから、出血や脱水で循環血液量を補う場合は細胞外液補充液を選ぶ。
静脈路確保の実際
・救急外来では、急変時の薬剤投与や急速輸液に備え、留置針で確実な静脈路を確保するのが原則である。 ・出血性ショックなど大量輸液・輸血が予想される場合は、18G以上の太い留置針で2本以上の静脈路を確保することが推奨される。 ・末梢静脈路の確保が困難な小児や心停止例では、骨髄路(骨髄内輸液)も選択肢となる。 ・翼状針は採血や短時間の単回投与には便利だが、持続輸液、体動の多い患者、大量輸液には向かない。
POINT
・循環血液量が減少した病態(出血、脱水、熱中症)の初期輸液には、細胞外液補充液(生理食塩液・リンゲル液)を用いる。 ・5%ブドウ糖液は代謝後に自由水となり、血管内にほとんど残らないため、循環血液量の補正には不向きである。 ・心不全では過剰な輸液、特にNaを多く含む細胞外液の投与を避ける。 ・救急外来での静脈路確保は、体動に強く抜けにくいプラスチックカニューレ型の留置針が基本。翼状針は体動の激しい患者や持続・大量輸液には不適切である。
