14番と18番が入れ替わるとき―「死なない細胞」が生む濾胞性リンパ腫
第108回医師国家試験 D問題 第12問
国試問題にチャレンジ
造血器腫瘍細胞の染色体検査写真を別に示す。 この異常を生じるのはどれか。

- a.濾胞性リンパ腫
- b.慢性骨髄性白血病
- c.急性骨髄性白血病(M2)
- d.マントル細胞型リンパ腫
- e.急性前骨髄球性白血病(M3)
対話形式の解説
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ドクターまとめ
t(14;18)(q32;q21)では、14q32の免疫グロブリン重鎖遺伝子(IGH)と18q21のBCL2遺伝子が結合し、抗アポトーシス蛋白BCL2が過剰発現します。腫瘍細胞は増殖が速まるのではなく死ににくくなって蓄積するため、低悪性度の濾胞性リンパ腫を生じ、腫瘍性濾胞のBCL2陽性は反応性濾胞過形成との鑑別にも役立ちます。ほかの代表的な転座として、t(9;22)(BCR::ABL1)は慢性骨髄性白血病、t(8;21)は急性骨髄性白血病M2、t(15;17)(PML::RARA)は急性前骨髄球性白血病、t(11;14)(cyclin D1)はマントル細胞リンパ腫、t(8;14)(MYC)はバーキットリンパ腫と対応します。B細胞リンパ腫ではIGHが転座相手になりやすく、相手遺伝子の働きが腫瘍の性格を決めます。転座・融合遺伝子・病型・治療標的を一連の流れで理解することが、造血器腫瘍の診断と治療選択の基礎になります。
解答・解説
正解はaです
画像の読み取り
提示された核型(G分染法による染色体像)では、14番染色体の長腕と18番染色体の長腕の間で相互転座が起きている。すなわち t(14;18)(q32;q21) である。
この転座で何が起こるか
14q32 には免疫グロブリン重鎖遺伝子(IGH)が、18q21 には抗アポトーシス(細胞死を抑える)蛋白をコードする BCL2 遺伝子が位置する。転座によって BCL2 が IGH の強力なエンハンサーの支配下に置かれ、B細胞で BCL2 蛋白が恒常的に過剰発現する。その結果、腫瘍細胞は増殖が速くなるというより「死ににくくなる」ことで蓄積し、ゆっくり進行する低悪性度(indolent)リンパ腫の性質を示す。
考え方
造血器腫瘍では、特定の染色体転座が特定の病型と強く結びつく。本問は「t(14;18) → BCL2 過剰発現 → 濾胞性リンパ腫」という対応を知っていれば解ける。選択肢に並ぶ他の疾患も、それぞれ代表的な転座(t(9;22)、t(8;21)、t(11;14)、t(15;17))と対にして覚えておくことが求められる。
選択肢考察
- ○a. 濾胞性リンパ腫
濾胞性リンパ腫(follicular lymphoma)の約80〜90%に t(14;18)(q32;q21) が認められる。IGH/BCL2 融合により BCL2 が過剰発現し、胚中心B細胞由来の腫瘍細胞がアポトーシスを免れて濾胞構造を保ったまま増える。免疫染色で腫瘍性濾胞が BCL2 陽性となることは、BCL2 陰性の反応性濾胞過形成との鑑別に役立つ。以上より、提示された異常を生じる疾患として本肢が当てはまる。
- ×b. 慢性骨髄性白血病
慢性骨髄性白血病(CML)の特徴的異常は t(9;22)(q34;q11.2) で、短縮した22番染色体はフィラデルフィア(Ph)染色体と呼ばれる。この転座で BCR::ABL1 融合遺伝子が生じ、恒常的に活性化したチロシンキナーゼが造血幹細胞の増殖を駆動する。イマチニブなどのチロシンキナーゼ阻害薬が標的とするのはこの融合蛋白である。t(14;18) とは無関係である。
- ×c. 急性骨髄性白血病(M2)
FAB分類 M2(成熟傾向を伴う急性骨髄性白血病)では t(8;21)(q22;q22) がしばしばみられ、RUNX1::RUNX1T1(旧称 AML1-ETO)融合遺伝子を生じる。芽球にアウエル小体を認めやすく、化学療法への反応がよい予後良好群に分類される。WHO分類ではこの転座自体が独立した病型(特定の遺伝子異常を伴うAML)として扱われる。t(14;18) は生じない。
- ×d. マントル細胞型リンパ腫
マントル細胞リンパ腫の特徴的異常は t(11;14)(q13;q32) である。14q32 の IGH と転座する相手が 11q13 の CCND1 遺伝子であり、細胞周期を G1期からS期へ進める cyclin D1 が過剰発現する。免疫染色での cyclin D1 陽性、CD5 陽性・CD23 陰性が診断の手がかりとなる。IGH が関与する点は濾胞性リンパ腫と共通だが、相手が18番(BCL2)ではなく11番(CCND1)である点で区別する。
- ×e. 急性前骨髄球性白血病(M3)
急性前骨髄球性白血病(APL、FAB分類 M3)の特徴的異常は t(15;17)(q24;q21) で、PML::RARA 融合遺伝子を生じる。この融合蛋白はレチノイン酸受容体の働きを阻害して前骨髄球の段階で分化を止める。全トランス型レチノイン酸(ATRA)や亜ヒ酸で分化誘導療法が行えること、播種性血管内凝固(DIC)を高頻度に合併することが臨床上重要である。t(14;18) とは関係しない。
造血器腫瘍の代表的な染色体異常と関与遺伝子
・t(9;22)(q34;q11.2):BCR::ABL1。慢性骨髄性白血病、Ph陽性急性リンパ性白血病 ・t(8;21)(q22;q22):RUNX1::RUNX1T1。急性骨髄性白血病(主にM2)、予後良好 ・t(15;17)(q24;q21):PML::RARA。急性前骨髄球性白血病(M3)、ATRAが有効 ・inv(16)(p13.1q22) または t(16;16):CBFB::MYH11。好酸球増多を伴う骨髄単球性白血病(M4Eo)、予後良好 ・t(14;18)(q32;q21):IGH::BCL2。濾胞性リンパ腫(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の一部にも) ・t(11;14)(q13;q32):CCND1::IGH。マントル細胞リンパ腫(多発性骨髄腫の一部にも) ・t(8;14)(q24;q32):MYC::IGH。バーキットリンパ腫 ・t(11;18)(q21;q21):BIRC3::MALT1。胃MALTリンパ腫(ピロリ菌除菌が効きにくい) ・t(2;5)(p23;q35):NPM1::ALK。ALK陽性未分化大細胞型リンパ腫
B細胞リンパ腫で IGH が転座相手になりやすい理由
B細胞は分化の過程で免疫グロブリン遺伝子の再構成(V(D)J 組換えやクラススイッチ)を行い、その際にDNAの切断と再結合が起こる。この過程の誤りによって、IGH 領域(14q32)に他の遺伝子が結合しやすい。結合した遺伝子は B細胞で非常に活発な IGH のエンハンサーにより強く発現する。相手が BCL2 なら濾胞性リンパ腫、CCND1 ならマントル細胞リンパ腫、MYC ならバーキットリンパ腫となる。
濾胞性リンパ腫の概要
中高年に多い低悪性度B細胞リンパ腫で、日本では非ホジキンリンパ腫の約1〜2割を占める。無痛性の全身リンパ節腫脹で見つかることが多く、進行は緩徐だが診断時には進行期であることが多い。腫瘍細胞は CD10、CD19、CD20、BCL2、BCL6 陽性で、CD5 は陰性である。治療は抗CD20抗体(リツキシマブなど)を中心とした化学療法が行われ、低腫瘍量で無症状の例では経過観察も選択肢となる。経過中にびまん性大細胞型B細胞リンパ腫へ組織学的に形質転換(transformation)することがある。
POINT
・t(14;18) → IGH::BCL2 → BCL2(抗アポトーシス蛋白)過剰発現 → 濾胞性リンパ腫 ・t(11;14) → cyclin D1 → マントル細胞リンパ腫、t(8;14) → MYC → バーキットリンパ腫 ・t(9;22) → BCR::ABL1 → CML、t(8;21) → AML(M2)、t(15;17) → PML::RARA → APL(M3) ・染色体転座と疾患・融合遺伝子・治療標的はセットで覚える
