腟から出てきたのは子宮―多産の高齢女性に起こる骨盤臓器脱と「起こらない症状」
第107回医師国家試験 I問題 第70問
国試問題にチャレンジ
72歳の5回経妊5回経産婦。数年前から持続する外陰部違和感を主訴に来院した。外陰部の写真を別に示す。 この疾患の症状でないのはどれか。

- a.頻尿
- b.尿失禁
- c.帯下増加
- d.性器出血
- e.鼠径部痛
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
多産の高齢女性が長期間の外陰部違和感を訴え、腟の入口から子宮腟部と腟壁が脱出していれば子宮脱(骨盤臓器脱)を考えます。症状は、脱出による異物感・下垂感、脱出部のこすれによるびらん・潰瘍からの帯下増加や性器出血、合併する膀胱瘤・直腸瘤による頻尿・尿失禁・排尿困難・排便困難に整理でき、強い痛みは少なく鼠径部痛は子宮脱の症状ではありません。閉経後の性器出血では悪性腫瘍の除外が必要で、高度な脱出では水腎症にも注意します。治療は骨盤底筋訓練やペッサリーなどの保存療法から、腟式手術やメッシュ手術、腟閉鎖術まで病態と患者背景に応じて選びます。症状を「脱出そのもの・局所・隣接臓器」に分けて考える姿勢は、骨盤臓器脱の診療全般に役立ちます。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・72歳、5回経妊5回経産。経腟分娩の回数が多い高齢女性である。 ・数年前から続く外陰部の違和感が主訴。 ・外陰部の写真では、腟の入口から子宮(子宮腟部とそれを包む腟壁)が体外へ脱出している。
診断へのプロセス
子宮は、基靱帯・仙骨子宮靱帯などの靱帯や、肛門挙筋を中心とする骨盤底筋群によって骨盤内に支えられている。多産(特に経腟分娩の繰り返し)によるこれらの支持組織の損傷や伸展に、閉経後のエストロゲン低下による組織の脆弱化、加齢、腹圧の上昇(肥満、慢性の咳、便秘など)が加わると、子宮が下がって腟から脱出する。本例は多産の高齢女性で、長期にわたる外陰部違和感と写真所見から子宮脱(骨盤臓器脱の一つ)と診断できる。腟の入口に腫瘤がみられる場合は外陰・腟の腫瘍との鑑別も考えるが、写真で脱出した子宮腟部と腟壁が確認でき、肉眼所見で診断可能である。
設問の考え方
子宮脱の症状は、1)脱出そのものによる症状(下垂感、異物感、違和感)、2)脱出した部分が外に出ていることによる局所症状(乾燥、下着とのこすれ、びらん・潰瘍、出血、感染、帯下増加)、3)一緒に下がる隣接臓器の症状(膀胱瘤による排尿症状、直腸瘤による排便症状)に分けて考えると整理しやすい。これらに当てはまらない症状を選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 頻尿
子宮が単独で脱出することはまれで、多くは腟前壁とともに膀胱が下がる膀胱瘤(膀胱脱)を伴う。膀胱の位置や形が変わることで膀胱が刺激されたり、排尿後に尿が残る(残尿)ために、頻尿や尿意切迫感が出る。子宮脱の症状としてみられる。
- ×b. 尿失禁
膀胱瘤の合併や骨盤底の支持力の低下によって、咳やくしゃみなどで腹圧がかかったときに尿が漏れる腹圧性尿失禁が起こりうる。また、強く脱出して尿道が折れ曲がると排尿困難や尿閉になり、あふれるように尿が漏れる溢流性尿失禁の原因にもなる。いずれも子宮脱に伴う症状である。
- ×c. 帯下増加
腟の外に出た子宮腟部や腟壁は、外気にさらされ下着とこすれることで乾燥・角化し、炎症やびらん・潰瘍ができやすい。そこに細菌感染も加わると分泌物が増え、帯下(おりもの)が増加する。子宮脱の症状としてみられる。
- ×d. 性器出血
脱出部が下着や歩行時の摩擦で傷つき、びらんや潰瘍ができると、そこから出血する。閉経後の萎縮した腟粘膜は傷つきやすく、出血しやすい。したがって性器出血は子宮脱の症状となりうる。ただし閉経後の性器出血では子宮体癌・子宮頸癌などの悪性腫瘍を見逃さないよう、細胞診などで確認することが大切である。
- ○e. 鼠径部痛
子宮脱では強い痛みを伴うことは少なく、下腹部や腰の重い感じ、股に物がはさまったような違和感が主体である。鼠径部の痛みは、鼠径ヘルニアや大腿ヘルニア、股関節疾患、鼠径リンパ節の腫脹などを考える症状であり、子宮脱によって生じる症状ではない。
骨盤臓器脱とは
骨盤底の支持組織がゆるんで、骨盤内の臓器が腟の方向へ下がってくる状態の総称である。下がる臓器によって、子宮脱(子宮)、膀胱瘤(膀胱、腟前壁)、直腸瘤(直腸、腟後壁)、小腸瘤、子宮摘出後の腟断端脱などに分けられ、複数が合併することが多い。
子宮下垂と子宮脱
・子宮下垂:子宮が正常の位置より下がっているが、腟の入口を越えて外には出ていない状態。 ・子宮脱:子宮の一部または全部が腟の入口より外に出ている状態。一部が出るものを不全子宮脱、子宮全体が出るものを全子宮脱という。 ・現在は、腟の入口(処女膜輪)を基準に下降の程度を数値で評価するPOP-Q法による分類が国際的に用いられる。
危険因子
経腟分娩(特に多産、巨大児、難産)、加齢、閉経後のエストロゲン低下、肥満、慢性の咳、便秘、重いものを持つ仕事などの腹圧上昇、子宮摘出の既往。
症状
・下垂感、股にはさまったような異物感、腫瘤の触知。立っている時間が長い夕方や、いきんだときに強くなり、横になると軽くなる。 ・局所症状:脱出部の乾燥、びらん・潰瘍、出血、帯下増加 ・排尿症状(膀胱瘤):頻尿、尿意切迫感、腹圧性尿失禁、排尿困難、残尿、尿閉、繰り返す膀胱炎。高度な例では尿管が引き伸ばされて水腎症をきたすことがある。 ・排便症状(直腸瘤):排便困難、残便感(腟の後壁を指で押して排便を助ける必要が出ることもある)
治療
・保存的治療:骨盤底筋訓練、腟内にリング状の器具を挿入して支えるペッサリー療法。 ・手術:腟式子宮全摘術と腟壁形成術、メッシュを用いた修復術(腹腔鏡下仙骨腟固定術など)、性交渉の予定がない高齢者では腟閉鎖術など。
POINT
・多産の高齢女性の外陰部違和感・腟からの脱出 → 子宮脱(骨盤臓器脱)。 ・子宮脱は膀胱瘤・直腸瘤を合併しやすく、頻尿・尿失禁・排尿困難・尿閉・排便困難をきたす。 ・脱出部のこすれ・びらん・感染により、帯下増加や性器出血が起こる。 ・強い痛みは少なく、鼠径部痛は子宮脱の症状ではない(鼠径ヘルニアなどを考える)。
