「聞き返し」は耳からのSOS―平坦なティンパノグラムが語る滲出性中耳炎
第107回医師国家試験 I問題 第49問
国試問題にチャレンジ
3歳の男児。急性中耳炎に罹患後,聞き返しが多くなった。インピーダンスオージオメトリの結果を別に示す。 考えられるのはどれか。

- a.鼓膜炎
- b.慢性中耳炎
- c.悪性外耳道炎
- d.滲出性中耳炎
- e.真珠腫性中耳炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
幼児が急性中耳炎のあと、耳痛や発熱を伴わずに聞き返しなどの難聴のサインを示した場合は、中耳腔に滲出液が残る滲出性中耳炎を考えます。ティンパノメトリでピークのない平坦なB型は中耳腔の液体貯留を示し、伝音難聴の原因となります。慢性中耳炎や真珠腫性中耳炎は耳漏や鼓膜所見、経過が異なり、鼓膜炎はおおむねA型、悪性外耳道炎は高齢糖尿病患者の重症感染症として区別します。ティンパノグラムはA型(正常)、B型(液体貯留)、C型(陰圧)、As型(耳小骨固着)、Ad型(耳小骨離断)の対応を押さえておくことが重要です。小児では言語発達への影響を考えて経過観察と換気チューブ留置を適切に判断し、成人の片側例では上咽頭癌を見逃さないことが臨床の要点です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・3歳の男児:幼児は耳管が太く短く水平に近いこと、アデノイドが大きいこと、上気道感染を繰り返すことから、中耳炎を起こしやすく、治りにくい年代である。 ・急性中耳炎に罹患後:急性炎症が治まった後も中耳腔に液体が残ることがある。 ・聞き返しが多くなった:難聴の出現を示す。幼児は自分で「聞こえにくい」と訴えることが少なく、聞き返し、呼んでも振り向かない、テレビの音を大きくする、といった行動の変化で気づかれることが多い。 ・インピーダンスオージオメトリ(ティンパノメトリ):外耳道の圧を変化させながら鼓膜の動きやすさ(コンプライアンス)を測る検査である。提示された結果はピークをもたない平坦な曲線で、B型に相当する。
診断に至るプロセス
B型ティンパノグラムは、どの圧をかけても鼓膜がほとんど動かないことを意味し、中耳腔に液体が貯留して鼓膜の振動が妨げられている状態が代表的な原因である。急性中耳炎後に、耳痛や発熱といった急性炎症症状を伴わずに難聴だけが目立ってきたという経過と合わせると、中耳腔に滲出液が残った滲出性中耳炎が最も考えられる。
設問の考え方
ティンパノグラムの型と疾患を対応させることが鍵である。耳痛・耳漏・発熱など急性症状のない「難聴のみ」の幼児で、急性中耳炎の後に起こった経過、そしてB型の結果がそろえば、滲出性中耳炎を選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 鼓膜炎
鼓膜炎は鼓膜の表層に限った炎症で、ウイルス感染などによる水疱性鼓膜炎や、肉芽を形成する肉芽性鼓膜炎がある。耳痛や耳漏、耳閉感を訴えるが、中耳腔には液体がなく、鼓膜の可動性も大きくは損なわれないため、ティンパノメトリはおおむね正常(A型)で難聴も軽いことが多い。急性中耳炎後の経過とB型の結果には合わない。
- ×b. 慢性中耳炎
慢性(化膿性)中耳炎は鼓膜に穿孔が残り、耳漏を繰り返す疾患で、伝音難聴を伴う。本例には耳漏の記載がない。また鼓膜穿孔があると外耳道と中耳腔がつながり外耳道に圧をかけられないため、曲線は平坦になるが、測定される等価容積(外耳道+中耳腔の容積)が異常に大きくなる点で、穿孔のない液体貯留とは区別される。幼児が一度の急性中耳炎の後にすぐ慢性化した経過としても不自然である。
- ×c. 悪性外耳道炎
悪性外耳道炎(壊死性外耳道炎)は、主に高齢の糖尿病患者や免疫不全者に、緑膿菌感染が外耳道から側頭骨・頭蓋底へ骨髄炎として広がる重症感染症である。激しい耳痛、肉芽を伴う耳漏、進行すると顔面神経麻痺などの脳神経麻痺を起こす。「悪性」は腫瘍の意味ではなく経過の重さを示す。3歳児で耳痛・耳漏のない本例とは合わない。
- ○d. 滲出性中耳炎
滲出性中耳炎は、耳痛や発熱などの急性炎症症状を伴わずに中耳腔に液体が貯留する疾患で、急性中耳炎の後に移行することが多い。中耳腔の液体のため鼓膜の振動が妨げられて伝音難聴が生じ、ティンパノメトリはピークのない平坦なB型を示す。幼児に多く、聞き返しなどの行動変化で気づかれる。年齢、経過、検査結果のすべてが合致する。
- ×e. 真珠腫性中耳炎
真珠腫性中耳炎は、角化扁平上皮が中耳腔に入り込んで塊(真珠腫)を作り、周囲の骨を破壊しながら進行する疾患である。悪臭を伴う耳漏や、耳小骨破壊による伝音難聴を生じ、進行すると顔面神経麻痺、めまい(迷路瘻孔)、頭蓋内合併症を起こす。鼓膜の弛緩部などに陥凹や白色塊を認めるのが特徴である。本例では耳漏や鼓膜所見の記載がなく、急性中耳炎直後の短期間の経過で考える疾患ではない。先天性真珠腫は小児にもみられるが、本問の経過とは異なる。
ティンパノメトリの型
外耳道に加える圧を+200~-400 daPa程度で変化させ、鼓膜のコンプライアンス(動きやすさ)を記録する。 ・A型:0 daPa付近にピークがある正常型。 ・As型:ピークはあるが低い。耳小骨の固着(耳硬化症など)で鼓膜が動きにくい。 ・Ad型:ピークが異常に高い。耳小骨連鎖の離断や鼓膜の菲薄化。 ・B型:ピークのない平坦型。中耳腔の液体貯留(滲出性中耳炎)が代表。鼓膜穿孔でも平坦になるが、その場合は等価容積が大きくなる。 ・C型:ピークが陰圧側(おおむね-100 daPa以下)にずれる。耳管狭窄などで中耳腔が陰圧になった状態で、滲出性中耳炎の初期や治りかけでみられる。
滲出性中耳炎
・病態:耳管機能障害により中耳の換気が悪くなり、中耳腔が陰圧となって滲出液が貯留する。 ・背景因子:小児では急性中耳炎の後遺、アデノイド増殖症、上気道炎、アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、口蓋裂、Down症候群など。成人・高齢者では上咽頭癌による耳管閉塞を必ず鑑別する(特に片側性の場合)。 ・症状:難聴(伝音難聴)、耳閉感。耳痛や発熱はない。小児では言語発達への影響が問題となる。 ・所見:鼓膜の陥凹、光錐の消失、鼓膜を透かして見える液面や気泡、鼓膜の色調変化(黄色・琥珀色)。オージオグラムでは気骨導差(air-bone gap)を伴う伝音難聴。 ・治療:小児では自然治癒も多いため、発症から3か月程度は経過観察しつつ原因となる鼻・副鼻腔疾患を治療する。難聴が持続する例、鼓膜の病的変化がある例では鼓膜換気チューブ留置術を行う。鼓膜切開も選択肢であり、反復例ではアデノイド切除術を考慮する。
POINT
・幼児の急性中耳炎後に、耳痛・発熱なしに難聴(聞き返し)が出現 → 滲出性中耳炎を考える。 ・ティンパノメトリB型(平坦型)=中耳腔の液体貯留。C型は陰圧(耳管狭窄)、As型は耳硬化症、Ad型は耳小骨離断。 ・滲出性中耳炎は伝音難聴。小児ではアデノイド、成人の片側例では上咽頭癌を鑑別する。 ・遷延する難聴には鼓膜換気チューブ留置を行う。
