StudyMed医師国家試験

「回る」と「聞こえない」が繰り返す―めまい疾患を3つの軸で切り分ける

第107回医師国家試験 H問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第107回 H問題 第14問

繰り返すめまいと難聴とを特徴とする疾患はどれか。

  1. a.耳硬化症
  2. b.Ménière病
  3. c.前庭神経炎
  4. d.騒音性難聴
  5. e.良性発作性頭位眩暈症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、めまいと難聴をきたす内耳疾患の鑑別がテーマだ。着眼点は「めまいがあるか」「難聴などの聞こえの症状を伴うか」「発作が1回きりか、繰り返すか」の3つ。この軸で選択肢を整理すれば迷わないよ。
医学生医学生
めまいと難聴の両方となると、まずMénière病が浮かびます。でも前庭神経炎も激しいめまいなので、少し迷いました。
ドクタードクター
いいところに引っかかったね。まず内耳の構造から確認しよう。内耳には聞こえを担う蝸牛と、平衡感覚を担う前庭・半規管があって、両者は内リンパでつながっている。障害が蝸牛まで及ぶかどうかで、難聴が出るかが決まるんだ。
医学生医学生
生理学の講義で、膜迷路の中を内リンパが満たしていると習いました。
ドクタードクター
そう。Ménière病はその内リンパが過剰にたまって膜迷路が膨らむ「内リンパ水腫」が本態だ。蝸牛と前庭の両方が影響を受けるから、回転性めまい発作と同時に難聴・耳鳴・耳閉感が起こり、それを反復する。だから正解はMénière病になる。
医学生医学生
発作はどれくらい続くんですか。
ドクタードクター
数十分から数時間程度が多い。国際的な基準では20分〜12時間とされているね。難聴は一側性の感音難聴で、初期には低い音が聞こえにくい低音障害型になり、発作に伴って悪化し、落ち着くと改善するという変動を繰り返すのが特徴だ。長い経過では高音域にも及ぶ固定した難聴へ進みやすい。
医学生医学生
では前庭神経炎は、障害が前庭神経だけだから難聴が出ない、ということですね。
ドクタードクター
その通り。前庭神経炎は風邪などのウイルス感染が先行することが多く、激しい回転性めまいが突然起こって数日続く。でも典型的には1回きりで繰り返さないし、蝸牛は無傷だから難聴も耳鳴もない。温度眼振検査で患側の反応が落ちる半規管麻痺が手がかりになる。
医学生医学生
良性発作性頭位めまい症は繰り返しますよね。耳鼻科の実習で、寝返りでめまいがするという患者さんを見ました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。剥がれた耳石が半規管に入り込んで起こるもので、特定の頭位変換で誘発され、めまいは多くが1分以内と短い。反復はするけれど、蝸牛は障害されないから難聴は伴わない。後半規管型が多く、Dix-Hallpike法で回旋性眼振を確認し、Epley法などの頭位治療で耳石を戻すんだ。
医学生医学生
「繰り返す」だけだと良性発作性頭位めまい症も当てはまるので、難聴の有無が決め手になるんですね。
ドクタードクター
まさにそこがこの問題の核心だ。逆に、難聴はあるけれどめまいがないのが耳硬化症と騒音性難聴。耳硬化症はアブミ骨が前庭窓に固着して音が伝わりにくくなる伝音難聴で、骨導の2 kHz付近が下がるCarhartノッチが有名だ。
医学生医学生
騒音性難聴はc5 dip、つまり4 kHz付近の低下でしたね。CBTの問題集で何度も出てきました。
ドクタードクター
よく覚えているね。強い騒音で蝸牛の有毛細胞が傷んで起こり、初期は会話音域が保たれるので自覚に乏しい。どちらもめまい発作は起こさない。整理すると、難聴のみが耳硬化症と騒音性難聴、めまいのみが前庭神経炎と良性発作性頭位めまい症、両方を繰り返すのがMénière病だ。
医学生医学生
Ménière病の治療はどうなりますか。
ドクタードクター
急性期は安静と抗めまい薬・制吐薬。発作予防には、ストレス軽減や十分な睡眠といった生活指導と、イソソルビドなどの浸透圧利尿薬が基本だ。難治例では中耳加圧療法や内リンパ嚢開放術、ゲンタマイシン鼓室内注入なども検討される。
医学生医学生
めまいの患者さんを見たら、全部耳の病気と考えてよいのでしょうか。
ドクタードクター
そこは臨床で一番注意したい点だ。小脳や脳幹の梗塞・出血でもめまいは起こる。構音障害や複視、手足の失調、しびれがあったり、注視方向で向きが変わる眼振や垂直性眼振がみられたりしたら中枢性を疑い、画像検査を急ぐ。それから、突発性難聴はめまいを伴うことはあっても反復しない点で、Ménière病と区別しておこう。

まとめ

めまいと難聴を訴える疾患は、「めまいの有無」「蝸牛症状の有無」「反復性」の3軸で整理すると鑑別しやすくなります。Ménière病は内リンパ水腫により蝸牛と前庭がともに障害され、回転性めまい発作に一側性の変動する感音難聴(初期は低音障害型)・耳鳴・耳閉感を伴って反復するのが特徴です。前庭神経炎は単発で数日続くめまいのみ、良性発作性頭位めまい症は頭位で誘発される短時間のめまいの反復で、いずれも難聴を伴いません。耳硬化症(Carhartノッチ)や騒音性難聴(c5 dip)は難聴のみでめまい発作を起こしません。神経症状を伴うめまいでは中枢性疾患を見逃さない姿勢も含め、この整理はめまい診療の基本となります。

解答・解説

正解はbです

問われていること

「めまい」と「難聴」という2つの症状が、しかも「繰り返し」起こる疾患を選ぶ問題である。めまい・難聴を主訴とする内耳疾患の鑑別では、次の3点を軸に整理すると解きやすい。 (1) めまいがあるか、ないか (2) 難聴・耳鳴・耳閉感などの蝸牛症状(聴覚にかかわる症状)を伴うか (3) 発作は1回きりか、反復するか(持続時間や誘因も含む)

選択肢の整理

・めまいを伴わず難聴のみ:耳硬化症(伝音難聴)、騒音性難聴(感音難聴) ・めまいのみで蝸牛症状を伴わない:前庭神経炎(単発・長時間)、良性発作性頭位めまい症(頭位で誘発・短時間・反復) ・めまいと蝸牛症状の両方が反復:Ménière病 内耳は、聴覚を担う蝸牛と、平衡覚を担う前庭・半規管が内リンパで連続している。Ménière病は内リンパ水腫(内リンパ液が過剰に貯留し膜迷路が膨らむ状態)が本態であり、蝸牛と前庭の両方が障害されるため、めまい発作と難聴・耳鳴・耳閉感が同時に、かつ反復して起こるのが特徴である。よって正解はbである。

選択肢考察

  1. ×a.  耳硬化症

    耳硬化症は、アブミ骨周囲の骨の異常な再構築(海綿状変化・硬化)によりアブミ骨底が前庭窓に固着し、音の伝達が障害される疾患である。緩徐に進行する伝音難聴(進行例では感音成分も加わる混合難聴)と耳鳴が主症状で、鼓膜は正常所見である。オージオグラムの骨導で2 kHz付近が低下するCarhartノッチ、アブミ骨筋反射の消失が特徴的である。白人・女性に多く、両側性が多い。原則としてめまい発作は伴わないため、本問の条件に合わない。

  2. ○b.  Ménière病

    Ménière病は内リンパ水腫を本態とし、回転性めまい発作に難聴・耳鳴・耳閉感などの蝸牛症状を伴い、これを反復する疾患である。めまい発作は数十分から数時間続くことが多く、発作中は患側方向または健側方向への水平回旋混合性眼振がみられる。難聴は一側性の感音難聴で、初期には低音域が障害される低音障害型を示し、発作に伴って悪化し間欠期に改善するという変動(聴力の動揺)を繰り返しながら、長期的には高音域にも及ぶ固定した難聴へ進行しやすい。「繰り返すめまい」と「難聴」を併せ持つ代表的疾患であり、これが正解である。

  3. ×c.  前庭神経炎

    前庭神経炎は、上気道感染などのウイルス感染が先行することが多く、前庭神経の障害によって激しい回転性めまいが突然起こる疾患である。めまいは数日間持続し、その後ふらつきが長く残ることがあるが、典型的には1回きりの発作で反復しない。障害は前庭神経に限られるため、難聴や耳鳴などの蝸牛症状は伴わない。温度眼振検査で患側の反応低下(半規管麻痺)を認める。反復性もなく難聴もないため誤りである。

  4. ×d.  騒音性難聴

    騒音性難聴は、強大な騒音に長期間さらされることで蝸牛の有毛細胞が障害されて生じる感音難聴で、職業性疾患として重要である。初期にはオージオグラムで4 kHz付近に限局した聴力低下(c5 dip)がみられ、会話音域が保たれるため自覚に乏しい。両側性に緩徐に進行し、耳鳴を伴うことはあるが、めまい発作は起こさないため誤りである。

  5. ×e.  良性発作性頭位眩暈症

    良性発作性頭位めまい症(BPPV)は、耳石器から剥がれた耳石(炭酸カルシウムの結晶)が半規管内に迷入するなどして起こるめまいである。寝返りや起き上がりなど特定の頭位変換で誘発され、めまいは数十秒程度(多くは1分以内)と短時間で、反復して起こる。後半規管型が最も多く、Dix-Hallpike法で回旋性眼振が誘発される。めまいは反復するが、蝸牛は障害されないため難聴・耳鳴は伴わない。治療としてEpley法などの頭位治療(耳石置換法)が行われる。難聴を伴わない点で誤りである。

Ménière病の概要

・病態:内リンパ水腫。内リンパ液の産生と吸収(内リンパ嚢での吸収)のバランスが崩れて生じると考えられている。ストレス・過労・睡眠不足が誘因となりやすい。 ・好発:30〜50歳代に多く、多くは一側性で発症する(経過中に両側化することがある)。 ・症状:回転性めまい発作、変動する感音難聴(初期は低音障害型)、耳鳴、耳閉感。悪心・嘔吐を伴うことが多い。意識障害や他の神経症状は伴わない。 ・診断基準の骨子:めまい発作を反復し、それに伴って難聴・耳鳴・耳閉感などの蝸牛症状が変動すること、そして他の疾患が除外されることが中心となる。国際的な基準(Bárány学会など)では、めまい発作の持続時間は20分〜12時間とされている。 ・検査:純音聴力検査(低音障害型感音難聴)、グリセロールテストやフロセミドテスト(内リンパ水腫の推定)、蝸電図、造影MRIによる内リンパ水腫の画像化など。 ・治療:急性期は安静・抗めまい薬・制吐薬など。発作予防には生活指導(ストレス軽減、十分な睡眠、有酸素運動)と浸透圧利尿薬(イソソルビド)などの薬物療法が基本となる。難治例では中耳加圧療法、内リンパ嚢開放術、ゲンタマイシン鼓室内注入、前庭神経切断術などが検討される。

めまい・難聴を来す主な疾患の整理

・Ménière病:めまい+蝸牛症状、反復する ・突発性難聴:突然の一側性感音難聴。めまいを伴うことがあるが、発作は反復しない ・前庭神経炎:めまいのみ、単発で長時間持続 ・良性発作性頭位めまい症:めまいのみ、頭位で誘発、短時間で反復 ・聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫):緩徐進行性の一側性感音難聴・耳鳴。めまいより慢性のふらつきが多い ・外リンパ瘻:いきみ・鼻かみ・気圧変化などを契機とした難聴・めまい ・耳硬化症、騒音性難聴:難聴のみで通常めまいはない

中枢性めまいとの鑑別

小脳・脳幹の梗塞や出血などでもめまいが起こる。構音障害、複視、四肢の運動失調、しびれなどの神経症状や、方向が変わる注視眼振・垂直性眼振がみられる場合は中枢性を疑い、画像検査を急ぐ。

POINT

・「繰り返すめまい」+「難聴・耳鳴・耳閉感(蝸牛症状)」→ Ménière病(本態は内リンパ水腫) ・Ménière病の難聴は一側性の感音難聴で、初期は低音障害型、発作に伴って変動する ・前庭神経炎:めまいのみ・単発・数日持続、先行感染が多い ・良性発作性頭位めまい症:めまいのみ・頭位で誘発・短時間で反復 ・耳硬化症(伝音難聴、Carhartノッチ)と騒音性難聴(感音難聴、c5 dip)はめまいを伴わない

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。