問題は「塩」だけ―健診で見つかった高血圧、何を指導すべきか
第107回医師国家試験 E問題 第39問
国試問題にチャレンジ
36歳の男性。定期健康診断で異常を指摘され来院した。喫煙歴はない。飲酒はビール350 mL/日を15年間。父親が高血圧症で治療中。身長168 cm,体重60 kg,腹囲77 cm。脈拍76/分,整。血圧144/78 mmHg。尿所見:蛋白(-),糖(-)。血液生化学所見:空腹時血糖99 mg/dL,尿酸6.8 mg/dL,総コレステロール170 mg/dL,トリグリセリド70 mg/dL,HDLコレステロール58 mg/dL。心電図に異常を認めない。管理栄養士が本人から聴取した食事内容から,摂取エネルギー量1,900 kcal/日,塩分摂取量15 g/日と推定した。 適切な指示はどれか。
- a.減塩
- b.禁酒
- c.体重の減量
- d.脂肪摂取制限
- e.プリン体の制限
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
健診で見つかったⅠ度高血圧の生活指導では、所見を一つずつ評価して該当する問題点に的を絞ることが重要です。本症例はBMI約21で腹囲も基準未満、飲酒はエタノール約17〜18 mL/日で許容範囲、尿酸6.8 mg/dLは高尿酸血症の基準(7.0 mg/dL超)未満、脂質・血糖も正常で、唯一の問題は食塩15 g/日という過剰摂取です。したがって適切な指示は減塩で、高血圧患者の食塩摂取目標は6 g/日未満とされています。危険因子や臓器障害のないⅠ度高血圧では、家庭血圧も確認しながらまず生活習慣の修正を行い、3か月程度で効果を判定して降圧薬を検討します。必要のない制限を重ねず、患者に合った優先順位で指導する姿勢は、生活習慣病の診療全般に通じる基本です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・血圧144/78 mmHg:収縮期血圧が140~159 mmHgの範囲にあり、日本高血圧学会の分類でⅠ度高血圧に相当する(拡張期は正常範囲)。父親が高血圧症で治療中であり、家族歴もある。 ・体格:BMI(体格指数)=体重(kg)÷身長(m)の2乗=60÷(1.68×1.68)≒21.3で、普通体重(18.5以上25未満)である。腹囲77 cmも、わが国のメタボリックシンドローム診断基準(男性85 cm以上)を下回る。 ・飲酒:ビール350 mL/日はエタノール換算で約17~18 mL(アルコール度数5%として)で、高血圧治療において許容される男性の飲酒量(エタノール20~30 mL/日以下)の範囲内である。 ・喫煙歴なし。 ・検査値:空腹時血糖99 mg/dL(100 mg/dL未満で正常域)、尿酸6.8 mg/dL(高尿酸血症の基準7.0 mg/dL超に達しない)、総コレステロール170 mg/dL、トリグリセリド70 mg/dL(空腹時150 mg/dL未満で正常)、HDLコレステロール58 mg/dL(40 mg/dL以上で正常)。尿蛋白・尿糖陰性、心電図異常なしで、明らかな臓器障害の所見もない。 ・食事:摂取エネルギー1,900 kcal/日は、標準体重(22×1.68²≒62 kg)に身体活動量に応じた係数を掛けた適正量とほぼ一致し、過剰ではない。一方、塩分摂取量15 g/日は、高血圧患者の目標である6 g/日未満の2倍以上であり、日本人男性の平均的な摂取量(おおむね10~11 g/日)と比べても明らかに多い。
考え方
本症例は、肥満・脂質異常症・耐糖能異常・高尿酸血症・多量飲酒・喫煙のいずれもなく、唯一の問題が「塩分の過剰摂取を伴うⅠ度高血圧」である。したがって、生活習慣の修正のうち最も優先すべき指示は減塩である。問題点のない項目についてまで制限を課すことは、患者の負担を増やして指導全体への協力(アドヒアランス)を損ないかねないため、所見に基づいて的を絞った指導を行うことが重要である。 なお、診察室血圧だけで高血圧と確定させず、家庭血圧(135/85 mmHg以上で高血圧)での確認も望ましい。危険因子や臓器障害のないⅠ度高血圧では、まず生活習慣の修正を行い、おおむね3か月程度で効果を評価して、改善がなければ降圧薬の開始を検討する。
選択肢考察
- ○a. 減塩
塩分摂取量が15 g/日と過剰であり、本症例で指摘できる唯一の生活習慣上の問題点である。食塩の過剰摂取は、体液量の増加や交感神経系の活性化などを介して血圧を上昇させる。わが国のガイドラインでは高血圧患者の食塩摂取目標を6 g/日未満としており、減塩は降圧効果が確立した生活習慣修正の柱である。食塩感受性には個人差があるが、一般に食塩摂取量を減らすほど血圧は低下する。具体的には、麺類の汁を残す、漬物・加工食品・外食を控える、減塩調味料や出汁・香辛料・酸味を活用するなどを指導する。
- ×b. 禁酒
高血圧患者の節酒の目安は、エタノール換算で男性20~30 mL/日以下、女性10~20 mL/日以下である。本症例のビール350 mL/日はエタノール約17~18 mL/日で、この範囲内に収まっている。多量飲酒は血圧上昇の要因となるため節酒を指導することはあるが、適量範囲内の飲酒者に禁酒まで求める根拠はない。
- ×c. 体重の減量
BMIは約21.3で普通体重であり、腹囲77 cmも内臓脂肪型肥満の基準(男性85 cm以上)に該当しない。高血圧に対する生活習慣の修正では適正体重(BMI 25未満)の維持が推奨されるが、本症例はすでに適正体重であり、減量を指示する必要はない。摂取エネルギー量1,900 kcal/日も適正範囲と考えられる。
- ×d. 脂肪摂取制限
総コレステロール170 mg/dL、トリグリセリド70 mg/dL、HDLコレステロール58 mg/dLといずれも基準範囲内で、脂質異常症はない。肥満もなく、摂取エネルギー量も適正である。脂肪摂取量自体は示されておらず、積極的に脂肪摂取を制限する理由はない。なお、飽和脂肪酸やコレステロールを控え、魚や野菜・果物を積極的にとる食事は高血圧の生活習慣修正として一般に推奨されるが、本問で優先すべき指示ではない。
- ×e. プリン体の制限
高尿酸血症の定義は血清尿酸値7.0 mg/dL超である。本症例の尿酸6.8 mg/dLはこれに達しておらず、痛風発作の既往も示されていないため、プリン体制限を指示する必要はない。やや高めの値ではあるが、現時点では経過観察でよい。
成人の血圧分類(診察室血圧、日本高血圧学会)
・正常血圧:120未満かつ80未満 mmHg ・正常高値血圧:120~129かつ80未満 ・高値血圧:130~139かつ/または80~89 ・Ⅰ度高血圧:140~159かつ/または90~99 ・Ⅱ度高血圧:160~179かつ/または100~109 ・Ⅲ度高血圧:180以上かつ/または110以上 ・(孤立性)収縮期高血圧:140以上かつ90未満 家庭血圧では135/85 mmHg以上を高血圧とする。
高血圧に対する生活習慣の修正項目
1. 食塩制限:6 g/日未満 2. 食事パターン:野菜・果物を積極的に摂取(ただし重篤な腎障害では高カリウム血症に注意)、飽和脂肪酸・コレステロールの摂取を控える、魚(魚油)・多価不飽和脂肪酸・低脂肪乳製品を積極的に摂取 3. 適正体重の維持:BMI 25未満 4. 運動療法:軽強度の有酸素運動(速歩など)を中心に、定期的に(毎日30分以上、または週180分以上を目安に)行う 5. 節酒:エタノール換算で男性20~30 mL/日以下、女性10~20 mL/日以下 6. 禁煙(受動喫煙の防止も含む) 複数の項目を組み合わせると、より大きな降圧効果が得られる。
エタノール量の目安
ビール中瓶1本(500 mL)でエタノール約20~25 mL、日本酒1合(180 mL)で約22~27 mL、ワイン グラス2杯弱(約200 mL)で約20~25 mL程度である。
食塩摂取の現状
日本人の食塩摂取量は減少傾向にあるものの、成人男性で1日あたり約10~11 g、女性で約9 g程度と、依然として目標値を大きく上回っている。高血圧の予防・治療において減塩の重要性はきわめて高い。
POINT
・収縮期140~159 mmHgまたは拡張期90~99 mmHgはⅠ度高血圧。 ・高血圧患者の食塩摂取目標は6 g/日未満。 ・節酒の目安はエタノール換算で男性20~30 mL/日以下、女性10~20 mL/日以下(ビール350 mLは約17~18 mL)。 ・適正体重はBMI 25未満。メタボリックシンドロームの腹囲基準は男性85 cm以上、女性90 cm以上。 ・高尿酸血症は血清尿酸値7.0 mg/dL超。 ・生活指導は所見から問題点を洗い出し、該当する項目に絞って行う。
