腔がない、深い、直腸が近い―前立腺に「届く」放射線の選び方
第107回医師国家試験 B問題 第38問
国試問題にチャレンジ
前立腺癌の原発巣に対して根治的放射線治療として行われるのはどれか。2つ選べ。
- a.腔内照射
- b.組織内照射
- c.電子線治療
- d.強度変調放射線治療
- e.放射性同位元素内用療法
対話形式の解説
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ドクターまとめ
限局性前立腺癌の根治的放射線治療は、体外から照射する外照射と、前立腺に線源を直接刺入する組織内照射(小線源治療)に大別されます。外照射では、線量の強度を場所ごとに調節して直腸・膀胱への線量を抑えつつ前立腺に高線量を集中できる強度変調放射線治療(IMRT)が標準で、陽子線・重粒子線も用いられます。組織内照射にはヨウ素125シード永久挿入とイリジウム192による高線量率照射があります。前立腺は腔のない実質臓器なので腔内照射(子宮頸癌などで使用)は行わず、浅い部位にしか届かない電子線も不適で、ラジウム223などの内用療法は骨転移を伴う去勢抵抗性前立腺癌向けの治療です。臓器の位置・構造と放射線の性質を結びつけて考えることは、他の癌種の放射線治療を理解するうえでも役立ちます。
解答・解説
正解はb, dです
限局性の前立腺癌に対して治癒を目指す治療法には、前立腺全摘除術と根治的放射線治療があり、両者の治療成績はおおむね同等とされている。本問は、前立腺という臓器の「位置」と「構造」を踏まえて、どの放射線治療法が原発巣の根治に使えるかを問うている。 考える手がかりは次の3点である。 1. 前立腺は骨盤の深部、膀胱の直下で直腸の前方に位置する実質臓器であり、体表から深い。 2. 前立腺そのものには放射線源を挿入できるような管腔(腔)がない。 3. 前立腺癌の根治照射では、隣接する直腸・膀胱への線量を抑えながら前立腺に高線量を集中させることが課題となる。 この条件を満たす方法は、大きく分けて、体外から高エネルギーX線や粒子線を当てる「外照射」と、前立腺内に線源を直接刺し入れる「組織内照射(小線源治療)」の2系統である。外照射のなかでも、照射範囲の形に合わせて線量の強弱を細かく調節できる強度変調放射線治療は、直腸障害を減らしつつ線量を上げられるため、現在の標準的な外照射法となっている。
選択肢考察
- ×a. 腔内照射
腔内照射は、子宮腔・腟・食道・気管支・上咽頭など、もともと存在する管腔や体腔に線源を入れた器具(アプリケーター)を挿入し、内側から腫瘍に照射する方法である。子宮頸癌の根治照射で外照射と組み合わせるのが代表例である。前立腺は内部に腔をもたない実質臓器であり、腔内照射の対象にはならない。なお、前立腺を貫く尿道や隣接する直腸は管腔であるが、そこから線源を当てて前立腺癌を根治照射する方法は標準治療ではない(経直腸的な高密度焦点式超音波療法〈HIFU〉は放射線治療ではない)。
- ○b. 組織内照射
組織内照射は、腫瘍のある組織そのものに線源を刺入して内部から照射する小線源治療(ブラキセラピー)である。前立腺癌では、経直腸超音波で前立腺を観察しながら会陰部から針を刺して線源を配置する。代表的な方法は、①ヨウ素125(125I)を封入したシード線源を前立腺内に永久に留置する低線量率(LDR)小線源治療、②アプリケーター針を一時的に刺入し、遠隔操作でイリジウム192(192Ir)線源を送り込んで短時間に照射する高線量率(HDR)組織内照射(アフターローディング法)の2つである。線源の近くでは線量が高く、距離とともに急速に低下するため、前立腺に高線量を集中させつつ直腸・膀胱の被曝を抑えられる。低リスク群ではLDR単独、中〜高リスク群では外照射との併用などで根治治療として用いられる。
- ×c. 電子線治療
電子線は、体内に入ると比較的浅い深さで急速にエネルギーを失い、それより深部にはほとんど到達しないという性質をもつ。このため、皮膚癌、表在リンパ節、乳房温存術後の腫瘍床への追加照射(ブースト)、ケロイドなど、体表近くの病変の治療に適している。骨盤深部にある前立腺には十分な線量が届かないうえ、途中の皮膚や皮下組織にばかり線量が集中してしまうため、前立腺癌の根治照射には用いない。深部臓器の外照射には、透過力の高い高エネルギーX線(リニアック)や陽子線・重粒子線を用いる。
- ○d. 強度変調放射線治療
強度変調放射線治療(Intensity Modulated Radiation Therapy:IMRT)は、リニアック(直線加速器)で発生させた高エネルギーX線を用いる外照射法の一つである。マルチリーフコリメータ(照射口に並んだ多数の細い金属板)を動かして、照射野の形だけでなく、照射野内の線量の強さ(強度)を場所ごとに変化させ、多方向からのビームを重ね合わせる。これにより、腫瘍の形に沿った凹凸のある線量分布をつくることができ、前立腺には高線量を与えながら、すぐ後ろに接する直腸や上方の膀胱への線量を低く抑えられる。前立腺癌では線量を増やすほど局所制御が向上することが知られており、直腸出血などの有害事象を増やさずに線量増加を実現できるIMRTは、根治的外照射の標準的な方法となっている。近年は回転しながら照射する強度変調回転照射(VMAT)や、画像で毎回位置を補正する画像誘導放射線治療(IGRT)と組み合わせて行われることが多い。
- ×e. 放射性同位元素内用療法
放射性同位元素内用療法(内照射療法)は、特定の組織に集まる性質をもつ放射性医薬品を内服や静注で投与し、体内から照射する治療である。代表例は、甲状腺に取り込まれる性質を利用したバセドウ病や分化型甲状腺癌(術後)に対する放射性ヨウ素(131I)内用療法である。前立腺癌領域では、骨転移をもつ去勢抵抗性前立腺癌に対し、骨の代謝が活発な部位に集まるラジウム223(223Ra)が用いられ、また海外を中心に前立腺特異的膜抗原(PSMA)を標的とするルテチウム177(177Lu)製剤も転移性去勢抵抗性前立腺癌に用いられている。しかし、これらはいずれも転移のある進行癌に対する延命・症状緩和を目的とした治療であり、原発巣を根治する目的の放射線治療ではない。
前立腺癌の治療選択の概略
前立腺癌の治療は、病期(TNM分類)と、PSA(前立腺特異抗原)値・グリソンスコア(病理学的悪性度)・T因子から判定するリスク分類(低・中間・高リスク)、年齢や期待余命をもとに選択する。 ・限局性(転移なし):監視療法(低リスクで適応)、前立腺全摘除術、根治的放射線治療。中〜高リスクの放射線治療では内分泌療法(アンドロゲン除去療法)を併用することが多い。 ・転移あり:内分泌療法が中心。去勢抵抗性となった後は、新規アンドロゲン受容体経路阻害薬、ドセタキセルなどの化学療法、骨転移に対するラジウム223内用療法などが用いられる。
前立腺癌に対する根治的放射線治療の種類
外照射 ・三次元原体照射(3D-CRT):CT画像をもとに、前立腺の形に照射野の輪郭を合わせる方法。 ・強度変調放射線治療(IMRT):照射野内の線量強度も変化させ、直腸・膀胱の線量をさらに下げる方法。現在の標準。 ・粒子線治療(陽子線・重粒子線):粒子線はある深さで急にエネルギーを放出して止まる性質(ブラッグピーク)をもち、病巣の奥の正常組織への線量を減らせる。日本では限局性前立腺癌に保険適用がある。 組織内照射(小線源治療) ・ヨウ素125シード永久挿入(低線量率) ・イリジウム192による高線量率組織内照射
放射線治療の代表的な有害事象
急性期には頻尿・排尿時痛などの膀胱刺激症状や、下痢・排便時痛などの直腸炎症状がみられる。晩期には放射線性直腸炎による直腸出血、放射線性膀胱炎による血尿、尿道狭窄、勃起障害などが問題となる。
放射線の種類と到達深度の整理
・電子線:浅い部位で止まる → 皮膚・表在病変 ・X線(高エネルギー):深部まで透過 → 体幹深部の外照射全般 ・陽子線・重粒子線:一定の深さで止まり、そこで最大の線量を与える → 深部病変に線量を集中
腔内照射と組織内照射の違い
いずれも小線源治療であるが、腔内照射は既存の体腔・管腔(子宮・腟・食道など)に線源を挿入し、組織内照射は組織に針や線源を直接刺入する。前立腺・舌・乳房などの実質組織の病変では組織内照射を用いる。
POINT
・前立腺癌(限局性)の根治的放射線治療は「外照射(3D-CRT、IMRT、陽子線・重粒子線)」と「組織内照射(125Iシード永久挿入、192Ir高線量率照射)」に大別される。 ・前立腺は腔をもたない実質臓器なので腔内照射は行わない(腔内照射の代表は子宮頸癌)。 ・電子線は浅い部位にしか届かず、皮膚癌など表在病変向けで、深部の前立腺には不適。 ・前立腺癌に対する放射性同位元素内用療法(ラジウム223など)は骨転移を伴う去勢抵抗性前立腺癌向けで、原発巣の根治目的ではない。
