夜泣きは耳からのSOS―かぜに続く幼児の急性中耳炎、最初の一手は?
第107回医師国家試験 A問題 第26問
国試問題にチャレンジ
1歳5か月の男児。発熱と鼻水とを主訴に母親に伴われて来院した。昨夜夜泣きをしてなかなか寝付かなかったという。食欲はある。体温38.2℃。呼吸音に異常を認めない。鼻汁が鼻内に充満している。咽頭所見で軽度の発赤と後鼻漏とを認める。右鼓膜の写真を別に示す。 まず行うべき処置はどれか。

- a.耳管通気
- b.乳突洞削開術
- c.抗菌薬の経口投与
- d.鼓室換気チューブ留置術
- e.副腎皮質ステロイドの経口投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
かぜに続いて発熱と夜泣きがみられる乳幼児では、夜泣きや不機嫌を耳痛のサインと捉えて鼓膜を観察し、急性中耳炎を見逃さないことが大切です。鼓膜の発赤・膨隆と膿の透見があれば急性中耳炎と診断し、年齢、耳痛、発熱、不機嫌、鼓膜所見などから重症度を判定して治療方針を決めます。2歳未満で症状と鼓膜所見が明らかな中等症以上では、肺炎球菌やインフルエンザ菌を標的としたアモキシシリンの経口投与が第一選択で、重症例では鼓膜切開も考慮します。耳管通気は急性期には細菌を中耳に押し込むおそれがあり、チューブ留置は遷延する滲出性中耳炎や反復例、乳突洞削開術は急性乳様突起炎などの合併症に対する治療で、ステロイドは用いません。小児科でも耳鼻咽喉科でも日常的に出会う疾患だからこそ、重症度に応じた適切な抗菌薬使用を身につけることは、耐性菌対策の観点からも重要です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・1歳5か月の男児で、発熱(38.2℃)と鼻汁がある。 ・鼻腔内に鼻汁が充満し、咽頭には軽い発赤と後鼻漏(鼻汁がのどへ流れ落ちること)を認める → 上気道炎(かぜ)の状態である。 ・前夜に夜泣きが続き寝付けなかった。言葉で耳の痛みを訴えられない乳幼児では、夜泣き・不機嫌・耳に手をやるしぐさが耳痛のサインとなる。 ・呼吸音は正常で、下気道感染を示す所見はない。食欲は保たれている。 ・右鼓膜の写真では、鼓膜が発赤して外側へ膨隆し、鼓膜の奥(鼓室)に黄色の膿の貯留が透けて見える。
診断へのプロセス
乳幼児の中耳炎は、かぜなどの上気道炎に続いて起こることが多い。乳幼児の耳管は成人に比べて太く、短く、水平に近いため、鼻咽腔の細菌が中耳へ入り込みやすい。本例は上気道炎の経過中に、耳痛を示唆する夜泣きと発熱を生じ、鼓膜に発赤・膨隆と膿の貯留を認めることから、急性中耳炎(細菌性)と診断できる。主な起炎菌は肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスである。
設問の考え方
急性中耳炎の治療方針は重症度で決まる。わが国の小児急性中耳炎診療ガイドラインでは、年齢(24か月未満は加点)、耳痛、発熱、啼泣・不機嫌、鼓膜の発赤・膨隆、耳漏を点数化して軽症・中等症・重症に分類する。軽症なら抗菌薬を使わず数日経過をみることもできるが、本例は2歳未満で、発熱・夜泣きがあり、鼓膜の膨隆と膿の貯留が明らかであるため、少なくとも中等症以上と判断され、抗菌薬の投与が必要である。第一選択はアモキシシリンの経口投与であり、選択肢の中で「まず行うべき処置」はこれにあたる。
選択肢考察
- ×a. 耳管通気
耳管通気は、鼻腔側から耳管を通して中耳に空気を送り込み、中耳の陰圧を解消する処置で、主に滲出性中耳炎や耳管狭窄症で用いられる。本例のように鼻腔・上咽頭に膿性の鼻汁が充満している急性炎症期に行うと、鼻咽腔の細菌を中耳へ押し込み、炎症を悪化させるおそれがある。また1歳の幼児では協力が得られにくく、実施自体が困難である。
- ×b. 乳突洞削開術
乳突洞削開術は、側頭骨の乳突部を削開して感染巣や病変を除去する手術で、急性乳様突起炎(耳介後部の発赤・腫脹・圧痛や耳介の聳立〈前方に押し出されること〉を伴う)や、真珠腫性中耳炎などの手術に際して行われる。本例には耳後部の所見がなく、合併症のない急性中耳炎に対していきなり行う処置ではない。
- ○c. 抗菌薬の経口投与
本例は鼓膜の発赤・膨隆と鼓室内の膿の貯留を伴う細菌性の急性中耳炎で、2歳未満、発熱、夜泣き(耳痛)を伴うことから中等症以上と判断される。このような例では、起炎菌(肺炎球菌、インフルエンザ菌など)を標的とした抗菌薬の経口投与で消炎を図るのが基本である。わが国のガイドラインでは、アモキシシリン(耐性菌を考慮して高用量を用いることが多い)が第一選択とされ、効果が乏しい場合や重症例ではクラブラン酸・アモキシシリン配合薬などへの変更や鼓膜切開を検討する。
- ×d. 鼓室換気チューブ留置術
鼓室換気チューブ留置術は、鼓膜に小さなチューブを留置して中耳の換気と排液を持続的に行う手術で、長期間続く滲出性中耳炎(難聴や鼓膜の病的変化を伴うもの)や、繰り返す難治性の反復性中耳炎が適応となる。本例には中耳炎を繰り返した既往の記載がなく、初回の急性中耳炎に対して最初に選ぶ治療ではない。侵襲も大きい。
- ×e. 副腎皮質ステロイドの経口投与
急性中耳炎は細菌感染症であり、原因に対する治療は抗菌薬である。ステロイドの全身投与は急性中耳炎の治癒を早める効果が示されておらず、免疫を抑えて感染を悪化させるおそれもあるため、通常行わない。
小児急性中耳炎の要点
・定義:急性に発症した中耳の感染症で、耳痛、発熱、耳漏を伴うことがある。 ・好発:生後6か月〜2歳ごろに多く、保育所通園、兄弟の存在、受動喫煙などが危険因子となる。 ・起炎菌:肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスが三大起炎菌である。ペニシリン耐性肺炎球菌やβ-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性(BLNAR)インフルエンザ菌などの耐性菌が問題となる。 ・乳幼児に多い理由:耳管が太く短く水平に近い、免疫が未熟で上気道炎を繰り返す、アデノイドが大きい、など。 ・鼓膜所見:発赤、膨隆、光錐の消失、膿の透見。進行すると鼓膜が穿孔して耳漏が出る。
重症度と治療(小児急性中耳炎診療ガイドラインの考え方)
・年齢(24か月未満)、耳痛、発熱、啼泣・不機嫌、鼓膜の発赤、鼓膜の膨隆、耳漏をスコア化して、軽症・中等症・重症に分類する。 ・軽症:抗菌薬を投与せず3日間程度経過観察し、改善しなければアモキシシリンを開始する。 ・中等症:アモキシシリン(高用量)の経口投与。 ・重症:高用量アモキシシリンやクラブラン酸・アモキシシリン配合薬の投与に加え、鼓膜切開を考慮する。 ・鎮痛には解熱鎮痛薬(アセトアミノフェン)を用いる。
急性中耳炎と滲出性中耳炎の違い
・急性中耳炎:急性の細菌感染。耳痛・発熱があり、鼓膜は発赤・膨隆する。治療は抗菌薬、重症例で鼓膜切開。 ・滲出性中耳炎:急性炎症症状(耳痛・発熱)を伴わずに中耳に液体が貯留した状態。難聴が主症状で、鼓膜は陥凹し、液面や気泡が透見されることがある。まず経過観察と原因(鼻・副鼻腔炎、アデノイド増殖症など)の治療を行い、長引く場合に鼓室換気チューブ留置術を検討する。
合併症
急性乳様突起炎、顔面神経麻痺、内耳炎、髄膜炎、頭蓋内膿瘍など。耳介後部の腫脹・発赤・圧痛や耳介の聳立があれば急性乳様突起炎を疑い、画像検査と外科的治療(乳突洞削開術)を検討する。
POINT
・上気道炎に続く発熱と夜泣き(乳幼児では耳痛のサイン)では、必ず鼓膜を観察して急性中耳炎を疑う。 ・鼓膜の発赤・膨隆と膿の透見 → 急性中耳炎。 ・治療は重症度で決める。2歳未満で症状・鼓膜所見が明らかな中等症以上では、アモキシシリン経口投与が第一選択。重症例では鼓膜切開も考慮。 ・耳管通気は急性炎症期には禁忌的(菌を中耳に押し込む)。チューブ留置は遷延する滲出性中耳炎や反復性中耳炎、乳突洞削開術は急性乳様突起炎などの合併症で行う。
