StudyMed医師国家試験

脳に「腺管」があるはずがない―リング状増強の正体を組織像で決める

第106回医師国家試験 I問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第106回 I問題 第7問

高齢女性の頭部MRIの造影T1強調像(A)と病変のH-E染色標本(B)とを別に示す。  考えられるのはどれか。

第106回 I問題 第7問の問題画像
  1. a.胚細胞腫
  2. b.乏突起膠腫
  3. c.神経膠芽腫
  4. d.転移性脳腫瘍
  5. e.悪性リンパ腫

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、頭部MRIと組織像の2つを組み合わせて脳腫瘍の種類を決める問題だ。着眼点は「造影のされ方」と「組織にどんな構造が見えるか」。特に組織像が決め手になるよ。まずMRIから見ていこう。造影T1強調像で、右前頭葉の腫瘤はどんなふうに造影されているかな。
医学生医学生
縁だけが厚く不整に白く光っていて、中は暗いです。リング状増強ですね。周りにも造影されない低信号域が広がっています。
ドクタードクター
その通り。内部の造影されない部分は壊死や嚢胞化を、周囲の低信号域は脳浮腫を示唆する。腫瘍の大きさのわりに浮腫が広く、側脳室前角も圧排されている。では、リング状に造影される病変の代表的な鑑別は何だろう。
医学生医学生
脳神経外科の実習で、転移性脳腫瘍、膠芽腫、脳膿瘍の3つと教わりました。でも高齢者の大脳半球なら膠芽腫もありそうで、画像だけだと迷います。
ドクタードクター
迷うのは当然で、実際MRIだけでは区別が難しいことも多い。そこで組織像の出番だ。H-E染色では、異型の強い上皮性の腫瘍細胞が、中心に内腔をもつ腺管構造をつくって増殖していて、その間に線維性の間質がある。これは何の組織像かな。
医学生医学生
腺腔をつくっているので腺癌です。……あ、でも脳にもともと腺管なんてありませんよね。
ドクタードクター
まさにそこがポイント。脳実質には腺管をつくる上皮細胞が存在しないし、グリオーマやリンパ腫、胚細胞腫瘍のように脳から発生する腫瘍も、基本的に腺腔構造はつくらない。脳に腺癌が見えたら、肺や乳腺、消化管などの腺癌が血行性に転移してきたと考えるのが最も自然なんだ。
医学生医学生
だから答えは転移性脳腫瘍ですね。病理実習で「その臓器にない組織が出てきたら転移を疑え」と言われたのを思い出しました。
ドクタードクター
いい教えだね。画像でも、リング状増強と大きさのわりに目立つ周囲浮腫は転移に典型的だし、担癌患者が増える高齢という背景とも合う。では、紛らわしかった膠芽腫はどう否定する?
医学生医学生
膠芽腫はグリア由来なので、腺管はつくらないということですか。
ドクタードクター
そう。膠芽腫は壁の厚い不整なリング状増強、中心壊死、浮腫と、画像は本当によく似ている。でも組織像は多形性の強い異型グリア細胞のびまん性増殖、偽柵状配列を伴う壊死、糸球体様の微小血管増殖が特徴で、上皮性の腺管構造はない。乏突起膠腫も前頭葉に多いけれど、造影効果は乏しいことが多く、石灰化を伴いやすい。組織は核周囲が明るく抜けた目玉焼き様の細胞と、細い分岐状の毛細血管が典型だ。
医学生医学生
悪性リンパ腫も高齢者に多いですよね。
ドクタードクター
中枢神経系原発の悪性リンパ腫は高齢者に多く、大部分はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫だ。脳室周囲の深部白質や脳梁に好発し、均一に強く造影されることが多い。細胞密度が高いので拡散強調像で高信号になり、組織では大型の異型リンパ球が血管周囲に袖状に浸潤する。腺管はつくらない。胚細胞腫は小児から若年の男性に多く、松果体部や鞍上部という正中部にほぼ限られるから、年齢も部位も合わないね。
医学生医学生
リング状増強のうち脳膿瘍はどう見分けますか。
ドクタードクター
脳膿瘍は壁が比較的薄く均一なことが多い。そして内容の膿は粘稠で水分子の拡散が制限されるため、拡散強調像で著明な高信号になる。腫瘍の壊死部との鑑別に役立つから、セットで覚えておこう。
医学生医学生
脳転移の原発巣として一番多いのは肺癌でしたよね。
ドクタードクター
そう。肺癌が最も多く、乳癌、消化器癌、腎癌、悪性黒色腫などが続く。血行性に広がるので、血管が細くなる皮質と白質の境界に生じやすく、多発することが多い。小さな病変の検出には造影MRIが最も鋭敏だ。今回は単発だけれど、実臨床では他にも病変がないかを必ず確認するし、原発巣の検索も並行して進める。
医学生医学生
治療は手術ですか。
ドクタードクター
病変の数や大きさ、部位、全身状態、原発巣のコントロール状況を踏まえて、手術による摘出、定位放射線照射、全脳照射、分子標的薬を含む薬物療法を組み合わせる。脳浮腫による症状にはステロイドを使う。原発巣によって治療方針が大きく変わるから、組織型の確認はとても重要なんだ。

まとめ

造影MRIでリング状増強を示す脳腫瘤では、転移性脳腫瘍、膠芽腫、脳膿瘍が代表的な鑑別となり、画像だけでは区別が難しいことも少なくありません。脳には本来、腺管をつくる上皮組織が存在しないため、組織像で腺腔構造を示す腺癌が見られれば、他臓器からの血行性転移と判断できます。膠芽腫は偽柵状壊死と微小血管増殖、中枢神経系原発悪性リンパ腫は均一な造影と血管周囲への袖状浸潤、乏突起膠腫は石灰化と目玉焼き様細胞、胚細胞腫は若年者の正中部発生が特徴で、脳膿瘍は拡散強調像での著明な高信号が鑑別に役立ちます。脳転移の原発巣は肺癌が最多で、皮質白質境界に多発しやすく、腫瘍の大きさに比べて浮腫が強いのが典型です。「その臓器にないはずの組織」に気づく視点は、転移性腫瘍の診断全般に応用できる重要な考え方です。

解答・解説

正解はdです

画像所見の整理

画像Aは頭部MRIの造影T1強調像(ガドリニウム造影剤投与後のT1強調像)である。右前頭葉に、辺縁が厚く不整にリング状(花輪状)に造影される腫瘤があり、内部は造影されない低信号域で、壊死や嚢胞化を示唆する。腫瘤の周囲には造影されない低信号域が広がっており、脳浮腫を伴っていると読める。右側脳室前角は圧排されている。 画像BはH-E染色(ヘマトキシリン・エオジン染色)の組織像である。異型の強い上皮性腫瘍細胞が、中心に内腔をもつ腺管(腺腔)構造をつくって増殖しており、間には線維性の間質がみられる。これは腺癌の組織像である。

診断へのプロセス

脳実質には本来、腺管をつくる上皮細胞は存在しない。脳から発生する腫瘍(グリオーマなどの神経上皮性腫瘍、リンパ腫、胚細胞腫瘍)は、基本的に腺腔構造を示さない。したがって腺癌の組織像が脳内の腫瘍にみられた場合、他臓器(肺、乳腺、消化管など)の腺癌が血行性に脳へ転移したものと考えるのが最も自然である。 画像所見の面でも、リング状増強効果(ring enhancement)と、腫瘍の大きさの割に目立つ周囲浮腫は転移性脳腫瘍でよくみられる所見であり、高齢という患者背景(担癌患者が多い年代)とも合致する。

設問への考え方

リング状に造影される脳腫瘤の代表的な鑑別は、転移性脳腫瘍、膠芽腫、脳膿瘍であり、MRIだけでは区別が難しいことも多い。本問では組織像が決め手となる。腺腔構造という「脳に本来ない組織」を見た時点で、転移性脳腫瘍と判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  胚細胞腫

    胚細胞腫(正確には胚腫 germinoma)は小児〜若年者、特に男性に多い腫瘍で、松果体部や鞍上部(視床下部・下垂体柄付近)といった正中部にほぼ限って発生する。高齢女性の前頭葉という発生部位・年齢ともに合わない。MRIでは比較的均一に強く造影されることが多く、組織像は大型の腫瘍細胞と小型リンパ球が混在する「two cell pattern」が特徴で、腺管構造はつくらない。

  2. ×b.  乏突起膠腫

    乏突起膠腫は成人の大脳半球(特に前頭葉)の皮質から白質に好発するグリオーマで、発生部位は本例と重なる。しかし造影効果は乏しいか部分的であることが多く、明瞭で厚いリング状増強はまれである。石灰化を伴いやすい点もCT上の特徴である。組織像は核周囲が明るく抜けた「目玉焼き(fried egg)様」の細胞と、細い分岐状の毛細血管(chicken-wire pattern)が典型で、腺腔構造はみられない。現在のWHO分類では、IDH変異と1p/19q共欠失の確認が診断に必要とされる。

  3. ×c.  神経膠芽腫

    神経膠芽腫(膠芽腫 glioblastoma)は中高年の大脳半球に好発し、壁の厚い不整なリング状増強、中心壊死、周囲浮腫を示すため、MRI所見は本例とよく似ており、画像だけでは転移性脳腫瘍との鑑別が難しい。しかし組織像は、多形性の強い異型グリア細胞のびまん性増殖、偽柵状配列を伴う壊死、糸球体様の微小血管増殖が特徴であり、上皮性の腺管構造はつくらない。本例の組織像とは一致しない。

  4. ○d.  転移性脳腫瘍

    組織像Bで異型上皮細胞が腺腔構造を形成しており、腺癌と判断できる。脳には腺管をつくる上皮成分が存在しないため、他臓器の腺癌が血行性に転移したものと考えられる。MRIでのリング状増強、中心壊死、腫瘍の大きさに比べて広い周囲浮腫も転移性脳腫瘍に典型的であり、高齢という背景とも合う。脳転移の原発巣としては肺癌が最も多く、次いで乳癌、消化器癌、腎癌などが続く。

  5. ×e.  悪性リンパ腫

    中枢神経系原発悪性リンパ腫は高齢者に多く、大部分はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫である。脳室周囲の深部白質や脳梁に好発し、MRIでは均一に強く造影される腫瘤となることが多い(免疫不全患者では壊死によりリング状増強を示すことがある)。細胞密度が高いため拡散強調像で高信号を示す。組織像は大型異型リンパ球が血管周囲に袖状に浸潤するのが特徴で、上皮性の腺管構造はみられない。

転移性脳腫瘍の概要

転移性脳腫瘍は成人の頭蓋内腫瘍のなかで頻度の高い腫瘍であり、担癌患者の経過中にしばしば発見される。原発巣は肺癌が最も多く、乳癌、消化器癌(大腸癌など)、腎癌、悪性黒色腫などが続く。血行性に転移するため、血流が多く血管が細くなる大脳の皮質と白質の境界部に生じやすく、多発することが多い(単発のこともある)。 画像では、リング状または結節状の造影効果と、腫瘍の大きさに不釣り合いな広い周囲浮腫が特徴である。小さな病変の検出には造影MRIが最も鋭敏である。組織像は原発巣の性格を反映し、腺癌であれば腺腔構造、扁平上皮癌であれば角化などがみられる。 治療は、病変の数・大きさ・部位、全身状態、原発巣の制御状況を考慮し、手術による摘出、定位放射線照射、全脳照射、薬物療法(分子標的薬を含む)を組み合わせる。脳浮腫にはステロイドを用いる。

リング状増強を示す主な病変

・転移性脳腫瘍:皮質白質境界に多発しやすい。周囲浮腫が強い。 ・膠芽腫:壁が厚く不整。脳梁を越えて対側へ広がる(butterfly glioma)ことがある。 ・脳膿瘍:壁が比較的薄く均一。内容物(膿)は粘稠で水分子の拡散が制限されるため、拡散強調像で著明な高信号を示すことが腫瘍の壊死部との鑑別に役立つ。 このほか、免疫不全患者の中枢神経系リンパ腫やトキソプラズマ症、脱髄疾患(開いたリング状増強)なども鑑別に挙がる。

POINT

・脳には本来、腺管をつくる上皮組織がない。脳内腫瘍に腺腔構造があれば、腺癌の転移(転移性脳腫瘍)を考える。 ・リング状増強の三大鑑別は、転移性脳腫瘍、膠芽腫、脳膿瘍。脳膿瘍は拡散強調像で高信号。 ・脳転移の原発巣で最も多いのは肺癌。好発部位は皮質白質境界で、多発しやすく周囲浮腫が強い。 ・胚腫は若年男性の正中部(松果体・鞍上部)、中枢神経系原発リンパ腫は均一な造影と血管周囲浸潤、乏突起膠腫は石灰化と目玉焼き様細胞が特徴。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。