性交後出血とカリフラワー状の腫瘤―子宮頸癌を「確定」させる検査はどれか
第106回医師国家試験 I問題 第51問
国試問題にチャレンジ
32歳の女性。不正性器出血を主訴に来院した。6か月前から,性交後の出血と月経時以外の出血とがあった。初経13歳。月経周期は28日型,整。身長165 cm,体重54 kg。体温37.2℃。内診所見上,分泌物は血性で少量であり,子宮は前傾前屈で正常大である。両側付属器とDouglas窩とに異常を認めない。血液所見:赤血球305万,Hb 10.7 g/dL,Ht 29%,白血球8,800,血小板24万。酢酸加工後のコルポスコピィの写真を別に示す。 次に行う検査として適切なのはどれか。

- a.子宮鏡検査
- b.子宮頸部組織診
- c.血中CA125測定
- d.腟分泌物培養検査
- e.ヒトパピローマウイルス検査
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
性成熟期の女性の性交後出血(接触出血)は子宮頸部の病変を疑うサインで、コルポスコピーで易出血性・カリフラワー状の隆起病変や異型血管を認めれば浸潤性の子宮頸癌が強く疑われます。確定診断はコルポスコピー下の狙い組織診(パンチ生検)で行い、細胞診・コルポスコピー・HPV検査・腫瘍マーカーだけでは診断は確定できません。子宮鏡は子宮内腔の病変、CA125は主に卵巣癌、腟分泌物培養は感染症の検査であり、いずれも本例の確定には寄与しません。組織診で診断が確定した後に、内診・直腸診、MRI、CTなどで進行期を決め、円錐切除術、広汎子宮全摘出術、同時化学放射線療法などから治療を選択します。検査それぞれの役割(スクリーニング・病変同定・確定診断)を区別して理解することは、婦人科腫瘍の診療の流れ全体を押さえる土台になります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・32歳の女性。6か月前から性交後出血(接触出血)と月経時以外の不正性器出血がある。 ・月経周期は28日型で整。月経不順(排卵障害)による機能性出血は考えにくい。 ・内診: 少量の血性分泌物。子宮は正常大、両側付属器・Douglas窩に異常なし。子宮体部の腫大や卵巣腫瘍、骨盤内への明らかな進展を示す所見はない。 ・血液: Hb 10.7 g/dL、Ht 29%と貧血があり、持続する出血による失血が示唆される。 ・酢酸加工後のコルポスコピー(腟拡大鏡診): 子宮腟部に、表面が凹凸不整で乳頭状〜カリフラワー状に隆起した、白色調の脆い腫瘤性病変を認め、易出血性で不整な血管もみられる。正常な扁平上皮や頸管腺上皮の構造は失われている。
診断へのプロセス
性成熟期女性の性交後出血は、子宮頸部の病変(子宮頸癌、子宮頸管ポリープ、子宮腟部びらん、頸管炎など)をまず考える所見である。コルポスコピーでは、酢酸で白く変化する(酢酸白色上皮)だけでなく、明らかに隆起して崩れやすい腫瘤を形成しており、不整な異型血管を伴うことから、上皮内にとどまる病変ではなく浸潤癌(子宮頸癌)が強く疑われる。子宮が正常大で付属器・Douglas窩に異常がないことは、明らかな骨盤内進展がないことを示唆する。
設問への考え方
子宮頸癌の確定診断は、病変部から組織を採取して病理組織学的に癌を証明すること(組織診)による。細胞診やコルポスコピーはあくまでスクリーニング・病変の同定・生検部位の決定のための検査であり、それだけで診断を確定することはできない。組織診によって癌の有無、組織型(扁平上皮癌か腺癌かなど)、浸潤の深さが分かり、これが進行期の決定と治療方針の選択の出発点になる。したがって、次に行うべき検査は、コルポスコピー下の狙い組織診(パンチ生検)を中心とする子宮頸部組織診である。
選択肢考察
- ×a. 子宮鏡検査
子宮鏡検査は、内視鏡を頸管から子宮内腔に挿入して内膜ポリープ、粘膜下筋腫、子宮内膜増殖症・子宮体癌などの内腔病変を観察する検査である。本例の病変は腟から直接見える子宮腟部にあり、すでにコルポスコピーで観察されている。子宮内腔病変を疑う所見もなく、診断確定のための次の検査として優先されない。
- ○b. 子宮頸部組織診
コルポスコピーで子宮腟部に易出血性の不整な隆起性病変を認め、浸潤性の子宮頸癌が疑われる。癌の確定診断には病変から組織を採取し、病理組織学的に悪性であることを証明する必要がある。コルポスコピーで最も異常の強い部位を狙って生検することで、癌の確定、組織型の判定、浸潤の有無の評価が可能となり、その後の進行期決定(内診・直腸診、MRI・CTなど)と治療方針の決定につながる。
- ×c. 血中CA125測定
CA125は主に卵巣癌(特に漿液性癌)の腫瘍マーカーで、子宮内膜症、子宮腺筋症、月経、妊娠、腹膜炎などでも上昇するため特異性が低い。本例は付属器に異常がなく、子宮頸癌が疑われる状況で測定しても診断確定には寄与しない。子宮頸癌の腫瘍マーカーとしては扁平上皮癌ではSCC抗原、腺癌ではCEAやCA125が用いられることがあるが、いずれも補助的・経過観察用であり、診断は組織診による。
- ×d. 腟分泌物培養検査
腟分泌物培養は、細菌性腟症、カンジダ腟炎、トリコモナス腟炎、淋菌・クラミジアによる頸管炎などの感染症の診断に用いる検査である。頸管炎でも性交後出血は起こりうるが、本例のコルポスコピー所見は炎症ではなく腫瘍性の隆起病変を示しており、培養で得られる情報では診断は確定しない。
- ×e. ヒトパピローマウイルス検査
子宮頸癌の大部分は高リスク型ヒトパピローマウイルス(HPV: human papillomavirus、主に16型・18型)の持続感染が原因であり、HPV検査は検診や細胞診でASC-US(意義不明な異型扁平上皮細胞)と判定された際の精密検査の振り分けなどに用いられる。しかしHPVが陽性であっても癌の存在を証明することにはならず、陰性でも癌は否定できない。肉眼的に浸潤癌を疑う病変がすでにある本例では、組織診による確定が優先され、HPV検査は治療方針の決定に役立たない。
子宮頸癌の概要
・疫学: 20〜40歳代の若年層で増加しており、性成熟期女性に多い悪性腫瘍の一つである。 ・原因: 高リスク型HPV(16型、18型など)の持続感染。HPV感染の多くは自然に消失するが、持続感染すると子宮頸部上皮内腫瘍(CIN: cervical intraepithelial neoplasia。CIN1→CIN2→CIN3)を経て浸潤癌に進展する。危険因子は性交開始年齢が早いこと、性的パートナーが多いこと、喫煙、免疫抑制など。 ・好発部位: 扁平上皮と円柱上皮の境界である扁平円柱上皮境界(SCJ: squamocolumnar junction)と、その周囲の移行帯(transformation zone)。 ・組織型: 扁平上皮癌が約7割を占め、残りの多くは腺癌。 ・症状: 初期は無症状のことが多い。進行すると性交後出血(接触出血)、不正性器出血、帯下の増加(悪臭を伴う血性帯下)がみられ、さらに進むと骨盤痛、水腎症(尿管への浸潤)などを生じる。
診断の流れ
1) 子宮頸部細胞診(スクリーニング。ベセスダシステムで報告)± HPV検査 2) 異常があればコルポスコピー: 3〜5%酢酸を塗布すると異型上皮が白く変化する(酢酸白色上皮)。モザイク、赤点斑(punctation)、異型血管などの所見を評価し、生検部位を決める。 3) コルポスコピー下狙い組織診(パンチ生検)で確定診断。必要に応じて頸管内掻爬も行う。 4) 組織診でCINや微小浸潤癌が疑われ、浸潤の深さの評価が必要な場合は円錐切除術を行う(診断と治療を兼ねる)。 5) 浸潤癌の場合は内診・直腸診による子宮傍組織への浸潤の評価、MRI(局所の広がり)、CT・PET-CT(リンパ節・遠隔転移)、膀胱鏡・直腸鏡などで進行期を決定する。
進行期(FIGO 2018に基づく)の概略
I期: 癌が子宮頸部に限局する。IA期は組織学的にのみ診断できる微小浸潤癌(間質浸潤の深さ5 mm以下)、IB期はそれを超える浸潤癌で、腫瘍の最大径によりIB1(2 cm以下)、IB2(2 cmを超え4 cm以下)、IB3(4 cmを超える)に分ける。 II期: 子宮頸部を越えて広がるが、腟壁下1/3または骨盤壁には達しない(IIA: 腟壁浸潤、IIB: 子宮傍組織浸潤)。 III期: 腟壁下1/3、骨盤壁に達する、水腎症・無機能腎を伴う、または骨盤・傍大動脈リンパ節転移がある。 IV期: 膀胱・直腸粘膜への浸潤、または遠隔転移。
治療の概略
CINや微小浸潤癌では円錐切除術、IB〜II期では広汎子宮全摘出術または同時化学放射線療法、III〜IVA期では同時化学放射線療法、IVB期では全身薬物療法(化学療法など)が中心となる。若年者で妊孕性温存を希望する場合、条件を満たせば広汎子宮頸部摘出術(トラケレクトミー)が検討される。
予防
HPVワクチン(一次予防)と子宮頸がん検診(二次予防:細胞診、HPV検査)が重要である。
POINT
・性成熟期女性の性交後出血(接触出血)→ まず子宮頸部病変、特に子宮頸癌を疑う。 ・コルポスコピーで易出血性の不整な隆起病変・異型血管 → 浸潤癌を疑う。 ・子宮頸癌の確定診断は組織診(コルポスコピー下狙い生検)。細胞診・コルポスコピー・HPV検査・腫瘍マーカーでは確定できない。 ・組織診で診断確定後に、内診・MRI・CTなどで進行期を決め、治療方針を決定する。 ・原因は高リスク型HPV(16型・18型など)の持続感染。
