StudyMed医師国家試験

1998年の逆転劇―透析導入の主役は腎炎から糖尿病へ

第106回医師国家試験 E問題 第67問

国試問題にチャレンジ

第106回 E問題 第67問

我が国における透析導入患者の上位3疾患の年次推移を示す。  疾患Aと疾患Bの組合せで正しいのはどれか。(編註:選択肢表は下記をご参照ください。) 疾患A 疾患B a 腎硬化症 糖尿病腎症 b 腎硬化症 慢性糸球体腎炎 c 糖尿病腎症 腎硬化症 d 糖尿病腎症 慢性糸球体腎炎 e 慢性糸球体腎炎 腎硬化症 f 慢性糸球体腎炎 糖尿病腎症

第106回 E問題 第67問の問題画像
  1. a.腎硬化症糖尿病腎症
  2. b.腎硬化症慢性糸球体腎炎
  3. c.糖尿病腎症腎硬化症
  4. d.糖尿病腎症慢性糸球体腎炎
  5. e.慢性糸球体腎炎腎硬化症
  6. f.慢性糸球体腎炎糖尿病腎症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は公衆衛生の統計グラフ問題だ。我が国で新たに透析を始める患者さんの原因疾患が、どう移り変わってきたかを問うている。見るべきは「どの線が増え、どの線が減り、どこで交差したか」の3点だよ。まず全体の印象から聞かせてくれるかな。
医学生医学生
1本は大きく増えていて、もう1本は大きく減っていて、途中で入れ替わっていますね。もう1本は低いところからじわじわ増えています。
ドクタードクター
いい観察だ。では、昔は首位で減り続けている疾患Bは何だと思う?
医学生医学生
腎臓内科の講義で、透析導入原疾患の1位は糖尿病腎症と習ったので、首位だった線は糖尿病かと思ったんですが……昔から1位だったわけではないんですよね。
ドクタードクター
そこが引っかけどころだね。現在の1位は確かに糖尿病腎症だけれど、1980年代には慢性糸球体腎炎、代表的にはIgA腎症などが透析導入の半分以上を占めていたんだ。糖尿病腎症が慢性糸球体腎炎を抜いて首位になったのは1998年。グラフで線が交差している年だね。
医学生医学生
ということは、急に増えて1998年に1位になった疾患Aが糖尿病腎症、減り続けている疾患Bが慢性糸球体腎炎ですね。
ドクタードクター
その通り。疾患Aを糖尿病腎症、疾患Bを慢性糸球体腎炎とする組合せが正解だ。では、低い位置からゆっくり増えている3本目は何かな。
医学生医学生
残りは腎硬化症なので、疾患Cですね。高齢化で増えていそうです。
ドクタードクター
そう。腎硬化症は高血圧や加齢による腎の細動脈硬化が原因で、高齢化とともに増えてきた。ただこのグラフの時期では1割程度にとどまっている。だから、疾患Aや疾患Bを腎硬化症とする組合せは、割合の大きさでも増減の向きでも合わないんだ。
医学生医学生
腎硬化症を疾患Bにする組合せは、増えている病気を減っている線に当てはめることになるので逆ですね。AとBを入れ替えた組合せも同じ理由で外れます。
ドクタードクター
よく整理できているね。では、なぜ慢性糸球体腎炎の透析導入が減ってきたと思う?
医学生医学生
小児科の実習で学校検尿の話を聞きました。早く見つけて治療できるようになったからでしょうか。
ドクタードクター
まさにそれが大きい。学校検尿や職場健診で尿異常が早期に見つかるようになったこと、そしてIgA腎症に対する副腎皮質ステロイドや扁桃摘出術、レニン・アンジオテンシン系阻害薬などの治療が進歩したことで、末期腎不全まで進む人が減ってきたと考えられている。
医学生医学生
逆に糖尿病腎症が増えたのは、糖尿病の患者さんそのものが増えたからですね。
ドクタードクター
そう。生活習慣の変化と高齢化で糖尿病患者が増え、そのぶん腎症から透析に至る人も増えた。ただし糖尿病腎症の割合は2010年前後に40%台前半で頭打ちになり、その後は横ばいからわずかな減少傾向だ。血糖管理の改善やACE阻害薬・ARBなどの腎保護的な治療の普及が寄与していると考えられている。最近はアルブミン尿を伴わない腎機能低下も含めて、糖尿病関連腎臓病(DKD)という概念も使われるよ。
医学生医学生
このグラフの後、順位に変化はあったんですか。
ドクタードクター
あったよ。腎硬化症はその後も増え続け、2010年代後半には慢性糸球体腎炎を上回って第2位になった。今は糖尿病腎症、腎硬化症、慢性糸球体腎炎の順と覚えておくといい。透析導入患者の平均年齢も上がり続けていて、70歳前後に達している。
医学生医学生
出題年によってグラフの範囲が違うので、どの時点のデータなのかを確認してから読む必要がありますね。
ドクタードクター
その姿勢が大事だ。臨床的には、透析導入を減らす鍵は血圧・血糖・脂質の管理、減塩、禁煙、肥満の是正といったCKDの進行抑制にある。統計の数字の裏には、こうした予防や治療の成果と課題がそのまま映っているんだ。

まとめ

我が国の透析導入原疾患は、かつては慢性糸球体腎炎が過半数を占めていましたが、学校検尿・健診による早期発見とIgA腎症などへの治療の進歩により減少しました。一方、糖尿病患者の増加を背景に糖尿病腎症が増え続け、1998年に慢性糸球体腎炎を抜いて第1位となり、現在もその座にあります。高血圧と加齢による腎硬化症は高齢化とともに増加を続け、2010年代後半には慢性糸球体腎炎を上回って第2位となりました。グラフ問題では「増加・減少の向き」「首位が交代した年」「割合の大きさ」を手がかりに疾患を当てはめるのが基本です。統計の推移を背景とともに理解しておくことは、CKD対策として血圧・血糖管理や生活習慣の改善がなぜ重要なのかを実感するうえでも役立ちます。

解答・解説

正解はdです

グラフの読み取り

図は1985年から2010年までの、我が国の新規透析導入患者に占める原疾患の割合を示している。 ・疾患A:1985年には約20%であったが一貫して増加し、1998年に疾患Bを上回って第1位となり、2010年には40%台前半に達している。2000年代後半には増加が頭打ちになっている。 ・疾患B:1985年には50%を超えて第1位であったが一貫して減少し、1998年に疾患Aに抜かれ、2010年には約21%(20%をわずかに上回る程度)まで低下している。 ・疾患C:数%から約10%へと、ゆっくりだが着実に増加している。

考え方

我が国の透析導入原疾患の推移で押さえるべき事実は次の3点である。 1. かつて第1位だったのは慢性糸球体腎炎(IgA腎症が代表)であり、その割合は年々減少している。 2. 糖尿病腎症は増え続け、1998年に慢性糸球体腎炎を抜いて第1位となり、以後その座を保っている。 3. 第3位は高血圧や加齢に伴う腎硬化症で、高齢化とともに増加している。 これをグラフに当てはめると、急増して1998年に首位となった疾患Aが糖尿病腎症、かつての首位で減少し続ける疾患Bが慢性糸球体腎炎、低い割合から緩やかに増える疾患Cが腎硬化症となる。したがって、疾患A=糖尿病腎症、疾患B=慢性糸球体腎炎の組合せが正しい。 1998年という交差点と、2010年時点で約10%にとどまる疾患Cの存在を押さえておけば、迷わずに解ける。

選択肢考察

  1. ×a.  腎硬化症糖尿病腎症

    疾患A=腎硬化症、疾患B=糖尿病腎症とする組合せである。糖尿病腎症は一貫して増加し1998年以降第1位の疾患であり、図で減少し続けている疾患Bには当たらない。また腎硬化症は増加しているものの、2010年時点で導入患者の約10%程度であり、40%を超える疾患Aには当たらない。誤りである。

  2. ×b.  腎硬化症慢性糸球体腎炎

    疾患Bを慢性糸球体腎炎とする点は正しいが、疾患Aを腎硬化症とする点が誤りである。腎硬化症は増加傾向ではあるが、割合は約10%程度にとどまり、図では疾患Cに相当する。1998年に第1位となった疾患Aは糖尿病腎症である。

  3. ×c.  糖尿病腎症腎硬化症

    疾患Aを糖尿病腎症とする点は正しいが、疾患Bを腎硬化症とする点が誤りである。腎硬化症は高齢化とともに増加しており、1985年に50%を超えていたのちに減少し続ける疾患Bの推移とは逆である。腎硬化症は疾患Cに当たる。

  4. ○d.  糖尿病腎症慢性糸球体腎炎

    疾患Aは約20%から40%台まで増え続け、1998年に首位となっており、糖尿病患者の増加を背景に増えてきた糖尿病腎症の推移と一致する。疾患Bはかつて過半数を占めていたが一貫して減少しており、健診(学校検尿・職場健診)による早期発見や、IgA腎症などに対する治療(副腎皮質ステロイド、扁桃摘出術、レニン・アンジオテンシン系阻害薬など)の進歩によって透析導入が減ってきた慢性糸球体腎炎の推移と一致する。よってこの組合せが正しい。

  5. ×e.  慢性糸球体腎炎腎硬化症

    慢性糸球体腎炎は減少傾向にあり、増加し続ける疾患Aには当たらない。また腎硬化症は増加傾向であり、減少し続ける疾患Bにも当たらない。両方とも推移が逆で誤りである。

  6. ×f.  慢性糸球体腎炎糖尿病腎症

    疾患Aと疾患Bを入れ替えた組合せである。増加して1998年に首位となったのが糖尿病腎症(疾患A)、かつての首位から減少しているのが慢性糸球体腎炎(疾患B)であり、逆になっているため誤りである。

透析導入原疾患の推移(日本透析医学会の統計調査に基づく)

・糖尿病腎症:1998年に第1位となって以降、現在も第1位である。割合は2010年前後に40%台前半でピークとなり、その後は横ばい〜わずかな減少傾向にある。血糖管理の改善や、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬・アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)などの腎保護的治療の普及が寄与していると考えられる。近年は、典型的な糖尿病腎症に加えて、アルブミン尿を伴わない腎機能低下なども含めた「糖尿病関連腎臓病(DKD)」という概念も用いられる。 ・慢性糸球体腎炎:減少が続いている。学校検尿・健診による早期発見と治療の進歩が背景にある。 ・腎硬化症:主に高血圧と加齢による腎の細動脈硬化が原因で、高齢化に伴って増加を続けている。2010年代後半には慢性糸球体腎炎を上回って第2位となった。

その他の事項

・透析導入患者の平均年齢は上昇を続けており、70歳前後に達している。 ・我が国の慢性透析患者数は30万人を超え、長期にわたって増加してきたが、近年は増加が鈍化している。 ・慢性腎臓病(CKD)の進行抑制では、血圧・血糖・脂質の管理、減塩、禁煙、肥満の是正が重要である。

POINT

・透析導入原疾患の第1位は糖尿病腎症(1998年に慢性糸球体腎炎を抜いて首位)。 ・慢性糸球体腎炎は、かつての首位から減少を続けている。 ・腎硬化症は高齢化とともに増加しており、現在は慢性糸球体腎炎を上回っている。 ・糖尿病と高血圧の管理が透析導入の抑制に重要である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。