1998年の逆転劇―透析導入の主役は腎炎から糖尿病へ
第106回医師国家試験 E問題 第67問
国試問題にチャレンジ
我が国における透析導入患者の上位3疾患の年次推移を示す。 疾患Aと疾患Bの組合せで正しいのはどれか。(編註:選択肢表は下記をご参照ください。) 疾患A 疾患B a 腎硬化症 糖尿病腎症 b 腎硬化症 慢性糸球体腎炎 c 糖尿病腎症 腎硬化症 d 糖尿病腎症 慢性糸球体腎炎 e 慢性糸球体腎炎 腎硬化症 f 慢性糸球体腎炎 糖尿病腎症

- a.腎硬化症糖尿病腎症
- b.腎硬化症慢性糸球体腎炎
- c.糖尿病腎症腎硬化症
- d.糖尿病腎症慢性糸球体腎炎
- e.慢性糸球体腎炎腎硬化症
- f.慢性糸球体腎炎糖尿病腎症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
我が国の透析導入原疾患は、かつては慢性糸球体腎炎が過半数を占めていましたが、学校検尿・健診による早期発見とIgA腎症などへの治療の進歩により減少しました。一方、糖尿病患者の増加を背景に糖尿病腎症が増え続け、1998年に慢性糸球体腎炎を抜いて第1位となり、現在もその座にあります。高血圧と加齢による腎硬化症は高齢化とともに増加を続け、2010年代後半には慢性糸球体腎炎を上回って第2位となりました。グラフ問題では「増加・減少の向き」「首位が交代した年」「割合の大きさ」を手がかりに疾患を当てはめるのが基本です。統計の推移を背景とともに理解しておくことは、CKD対策として血圧・血糖管理や生活習慣の改善がなぜ重要なのかを実感するうえでも役立ちます。
解答・解説
正解はdです
グラフの読み取り
図は1985年から2010年までの、我が国の新規透析導入患者に占める原疾患の割合を示している。 ・疾患A:1985年には約20%であったが一貫して増加し、1998年に疾患Bを上回って第1位となり、2010年には40%台前半に達している。2000年代後半には増加が頭打ちになっている。 ・疾患B:1985年には50%を超えて第1位であったが一貫して減少し、1998年に疾患Aに抜かれ、2010年には約21%(20%をわずかに上回る程度)まで低下している。 ・疾患C:数%から約10%へと、ゆっくりだが着実に増加している。
考え方
我が国の透析導入原疾患の推移で押さえるべき事実は次の3点である。 1. かつて第1位だったのは慢性糸球体腎炎(IgA腎症が代表)であり、その割合は年々減少している。 2. 糖尿病腎症は増え続け、1998年に慢性糸球体腎炎を抜いて第1位となり、以後その座を保っている。 3. 第3位は高血圧や加齢に伴う腎硬化症で、高齢化とともに増加している。 これをグラフに当てはめると、急増して1998年に首位となった疾患Aが糖尿病腎症、かつての首位で減少し続ける疾患Bが慢性糸球体腎炎、低い割合から緩やかに増える疾患Cが腎硬化症となる。したがって、疾患A=糖尿病腎症、疾患B=慢性糸球体腎炎の組合せが正しい。 1998年という交差点と、2010年時点で約10%にとどまる疾患Cの存在を押さえておけば、迷わずに解ける。
選択肢考察
- ×a. 腎硬化症糖尿病腎症
疾患A=腎硬化症、疾患B=糖尿病腎症とする組合せである。糖尿病腎症は一貫して増加し1998年以降第1位の疾患であり、図で減少し続けている疾患Bには当たらない。また腎硬化症は増加しているものの、2010年時点で導入患者の約10%程度であり、40%を超える疾患Aには当たらない。誤りである。
- ×b. 腎硬化症慢性糸球体腎炎
疾患Bを慢性糸球体腎炎とする点は正しいが、疾患Aを腎硬化症とする点が誤りである。腎硬化症は増加傾向ではあるが、割合は約10%程度にとどまり、図では疾患Cに相当する。1998年に第1位となった疾患Aは糖尿病腎症である。
- ×c. 糖尿病腎症腎硬化症
疾患Aを糖尿病腎症とする点は正しいが、疾患Bを腎硬化症とする点が誤りである。腎硬化症は高齢化とともに増加しており、1985年に50%を超えていたのちに減少し続ける疾患Bの推移とは逆である。腎硬化症は疾患Cに当たる。
- ○d. 糖尿病腎症慢性糸球体腎炎
疾患Aは約20%から40%台まで増え続け、1998年に首位となっており、糖尿病患者の増加を背景に増えてきた糖尿病腎症の推移と一致する。疾患Bはかつて過半数を占めていたが一貫して減少しており、健診(学校検尿・職場健診)による早期発見や、IgA腎症などに対する治療(副腎皮質ステロイド、扁桃摘出術、レニン・アンジオテンシン系阻害薬など)の進歩によって透析導入が減ってきた慢性糸球体腎炎の推移と一致する。よってこの組合せが正しい。
- ×e. 慢性糸球体腎炎腎硬化症
慢性糸球体腎炎は減少傾向にあり、増加し続ける疾患Aには当たらない。また腎硬化症は増加傾向であり、減少し続ける疾患Bにも当たらない。両方とも推移が逆で誤りである。
- ×f. 慢性糸球体腎炎糖尿病腎症
疾患Aと疾患Bを入れ替えた組合せである。増加して1998年に首位となったのが糖尿病腎症(疾患A)、かつての首位から減少しているのが慢性糸球体腎炎(疾患B)であり、逆になっているため誤りである。
透析導入原疾患の推移(日本透析医学会の統計調査に基づく)
・糖尿病腎症:1998年に第1位となって以降、現在も第1位である。割合は2010年前後に40%台前半でピークとなり、その後は横ばい〜わずかな減少傾向にある。血糖管理の改善や、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬・アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)などの腎保護的治療の普及が寄与していると考えられる。近年は、典型的な糖尿病腎症に加えて、アルブミン尿を伴わない腎機能低下なども含めた「糖尿病関連腎臓病(DKD)」という概念も用いられる。 ・慢性糸球体腎炎:減少が続いている。学校検尿・健診による早期発見と治療の進歩が背景にある。 ・腎硬化症:主に高血圧と加齢による腎の細動脈硬化が原因で、高齢化に伴って増加を続けている。2010年代後半には慢性糸球体腎炎を上回って第2位となった。
その他の事項
・透析導入患者の平均年齢は上昇を続けており、70歳前後に達している。 ・我が国の慢性透析患者数は30万人を超え、長期にわたって増加してきたが、近年は増加が鈍化している。 ・慢性腎臓病(CKD)の進行抑制では、血圧・血糖・脂質の管理、減塩、禁煙、肥満の是正が重要である。
POINT
・透析導入原疾患の第1位は糖尿病腎症(1998年に慢性糸球体腎炎を抜いて首位)。 ・慢性糸球体腎炎は、かつての首位から減少を続けている。 ・腎硬化症は高齢化とともに増加しており、現在は慢性糸球体腎炎を上回っている。 ・糖尿病と高血圧の管理が透析導入の抑制に重要である。
