けいれんを目の前にしたら―「口に物を入れない」が鉄則の理由
第106回医師国家試験 B問題 第40問
国試問題にチャレンジ
1歳の女児。発熱を主訴に来院した。2日前から咳と鼻汁とがみられ,昨日の夜から発熱を伴ったため受診した。10か月時に突発性発疹を罹患した際,けいれんがみられ,単純型熱性けいれんと診断された。体温39.0℃。脈拍116/分,整。呼吸数24/分。咽頭に著明な発赤を認める。口蓋扁桃は両側とも腫大しており,白苔が付着している。項部硬直を認めない。診察後,ベッドに仰臥していた患児が,突然けいれんし始めた。 対応として誤っているのはどれか。
- a.患児の四肢の動きを観察する。
- b.けいれんの持続時間を確認する。
- c.患児の周囲にある物を取り除く。
- d.患児の口の中に舌圧子を挿入する。
- e.患児の顔が上を向いた状態を避ける。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
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医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
熱性けいれんは主に生後6か月〜5歳の乳幼児に38℃以上の発熱に伴って起こる発作で、中枢神経感染症などの明らかな原因がないものをいいます。けいれん発作時の対応は、周囲の物を取り除いて転落や外傷を防ぐ安全確保、顔を横に向けるか側臥位にして吐物の誤嚥を防ぐ気道管理、四肢の動きや左右差・持続時間を観察する記録の3本柱が基本です。舌をかむのを防ぐ目的で舌圧子やタオル、指などを口に入れることは、舌根の押し込みによる気道閉塞や嘔吐・誤嚥、口腔損傷を招くため行ってはなりません。焦点性発作・15分以上の持続・24時間以内の反復のいずれかがあれば複雑型とされ、5分以上続く発作は抗けいれん薬で止めることが目安です。発作を前にして落ち着いて正しく動けることは、医療者としてだけでなく保護者指導においても欠かせない実践的な力になります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・1歳女児、2日前からの咳・鼻汁に続いて39.0℃の発熱。 ・咽頭の著明な発赤、両側口蓋扁桃の腫大と白苔付着:乳幼児で高熱を伴う滲出性扁桃炎であり、アデノウイルス感染症がまず考えられる(アデノウイルスは高熱が数日続きやすい)。 ・10か月時、突発性発疹(高熱をきたすヒトヘルペスウイルス6・7型感染症)の際に単純型熱性けいれんの既往あり。 ・項部硬直なし:髄膜炎を積極的に疑う所見はない。 ・診察後に突然けいれんが出現。
診断の考え方
乳幼児が38℃以上の発熱に伴ってけいれんを起こした場合、髄膜炎・脳炎・脳症などの中枢神経感染症や代謝異常を除外したうえで、熱性けいれんと考える。本児は好発年齢(生後6か月〜5歳)であり、熱性けいれんの既往があり、急な高熱の時期で、髄膜刺激徴候もないことから、熱性けいれんの再発が最も考えやすい。ただし、発作が止まった後に意識が速やかに戻るか、麻痺などの神経学的異常が残らないかを確認し、中枢神経感染症を否定していく必要がある。
設問の考え方
本問は「誤っている対応」を選ぶ問題である。けいれん発作の目の前にいるときに医療者が行うべきことは、大きく分けて次の3つである。 1. 安全確保:外傷や転落を防ぐ。 2. 気道確保と誤嚥防止:嘔吐物や分泌物で窒息しないようにする。 3. 観察と記録:発作の型(全身性か焦点性か、左右差の有無)と持続時間を把握し、単純型か複雑型か、薬物治療が必要かを判断する材料にする。 一方、口の中に物を入れる行為は、かつて「舌をかむのを防ぐ」目的で行われていたが、現在では有害な処置として明確に否定されている。
選択肢考察
- ×a. 患児の四肢の動きを観察する。
適切な対応である。四肢の動きを観察することで、発作が全身性(強直間代性、間代性など)か、片側や一部に限局する焦点性か、左右差があるかを判断できる。焦点性の要素がある場合は複雑型熱性けいれんに分類され、脳の器質的病変や脳炎・脳症、将来のてんかん発症の可能性をより慎重に考える必要がある。眼球の偏位や顔色(チアノーゼの有無)もあわせて観察する。
- ×b. けいれんの持続時間を確認する。
適切な対応である。熱性けいれんの大部分は数分以内に自然に止まる。持続時間が15分以上であれば複雑型熱性けいれんに分類される。また、けいれんが5分以上続く場合は自然に止まりにくく、けいれん重積状態へ移行するおそれがあるため、ジアゼパムやミダゾラムなどの抗けいれん薬による治療を開始する目安とされる。治療の判断に直結するため、発作の開始時刻を確認し持続時間を記録することは重要である。
- ×c. 患児の周囲にある物を取り除く。
適切な対応である。けいれん中は手足が激しく動くため、周囲の硬い物や角のある物にぶつかって外傷を負ったり、ベッドから転落したりする危険がある。周囲の物をどけ、ベッド柵を上げるなどして安全を確保する。なお、けいれんしている手足を無理に押さえつけて動きを止めようとする必要はない。
- ○d. 患児の口の中に舌圧子を挿入する。
誤った対応であり、これが正解である。けいれん発作で舌を深くかみ切ることはまれで、それを防ぐ目的で口に物を入れる必要はない。むしろ、舌圧子を無理に挿入すると、舌根を咽頭の奥へ押し込んで気道を狭めたり、咽頭を刺激して嘔吐を誘発し誤嚥・窒息を招いたりするおそれがある。さらに、歯の破損や口腔内の損傷、器具の破損による誤嚥の危険もあり、救助者の指がかまれることもある。舌圧子に限らず、タオルや指など何であれ口の中に物を入れてはならない。
- ×e. 患児の顔が上を向いた状態を避ける。
適切な対応である。けいれん中や発作直後は嘔吐しやすく、唾液などの分泌物も増える。仰向けで顔が上を向いたままだと、吐物や分泌物が気道に流れ込み誤嚥・窒息を起こす危険がある。また意識のない状態では舌根が沈下しやすい。顔を横に向けるか体ごと側臥位(回復体位)にし、衣服をゆるめて呼吸しやすくし、口腔内の吐物や分泌物は吸引する。
熱性けいれんの定義
主に生後6か月から5歳(60か月)までの乳幼児に起こる、通常38℃以上の発熱に伴う発作性疾患(けいれん性・非けいれん性を含む)で、髄膜炎などの中枢神経感染症、代謝異常、その他の明らかな発作の原因がみられないものをいう。てんかんの既往がある場合は除く。
疫学・経過
・日本では小児の7〜11%程度が経験するとされ、欧米(2〜5%)より多い。家族歴がある例が多く、遺伝的素因が関与する。 ・発熱の初期、体温が急に上がる時期に起こりやすい。 ・再発は全体の約3分の1にみられる。再発の危険因子として、両親いずれかの熱性けいれん家族歴、1歳未満での発症、短時間の発熱で発作が起こったこと、発作時の体温が39℃以下であったことが挙げられる。 ・大部分は予後良好で、知能や運動発達への影響はない。
単純型と複雑型
以下の3項目のうち1つ以上を満たすものを複雑型熱性けいれん(複合型ともいう)とし、いずれも満たさないものを単純型とする。 1. 焦点性発作(部分発作)の要素がある 2. 15分以上持続する 3. 一発熱機会内(通常は24時間以内)に複数回反復する 複雑型や、発症前から神経学的異常・発達の遅れがある例、てんかんの家族歴がある例では、将来のてんかん発症の危険が高くなる。
けいれん発作時の対応の基本
1. 慌てずに周囲の安全を確保する(危険な物を遠ざけ、転落を防ぐ)。 2. 衣服をゆるめ、顔を横に向けるか側臥位にして吐物の誤嚥を防ぐ。 3. 口の中に物を入れない。 4. 発作の持続時間、けいれんの様子(左右差、眼球の偏位など)、体温を観察・記録する。 5. 5分以上続く場合は抗けいれん薬(ジアゼパム静注、ミダゾラム静注・口腔内投与など)で止め、酸素投与などの呼吸管理を行う。 6. 発作後は意識の回復や麻痺の有無を確認する。意識障害が遷延する場合や髄膜刺激徴候がある場合は、髄膜炎や急性脳症を鑑別する。
熱性けいれんの予防
発熱時のジアゼパム坐剤による予防投与は、単純型をくり返すだけの例には一律には行わず、遷延性発作(15分以上)の既往がある例や、焦点性発作・24時間以内の反復・神経学的異常などの因子を複数もつ例で考慮する。解熱薬には熱性けいれんの再発を予防する効果はないとされる。
POINT
・けいれん発作時の対応は「安全確保」「誤嚥・窒息の防止(顔を横向き・側臥位)」「観察と記録(発作の型・左右差・持続時間)」が基本である。 ・口の中に舌圧子やタオル・指などを入れてはならない(嘔吐誘発、気道閉塞、口腔損傷の危険)。 ・熱性けいれんは生後6か月〜5歳、38℃以上の発熱に伴う発作で、中枢神経感染症などの原因がないもの。 ・複雑型:焦点性発作の要素、15分以上の持続、24時間以内の反復のいずれか1つ以上。 ・5分以上続くけいれんは抗けいれん薬で止める。
