脳幹の「上から下まで」を確かめる―脳死判定に必須の7つの脳幹反射
第106回医師国家試験 B問題 第38問
国試問題にチャレンジ
臓器移植に伴う脳死判定に必須なのはどれか。2つ選べ。
- a.輻輳反射
- b.睫毛反射
- c.前庭眼反射
- d.咳反射
- e.腱反射
対話形式の解説
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ドクターまとめ
脳死は脳幹を含む全脳機能の不可逆的停止であり、法的脳死判定の核心は脳幹反射の消失を確かめることにあります。確認する脳幹反射は対光反射、角膜反射、毛様脊髄反射、眼球頭反射、前庭眼反射、咽頭反射、咳反射の7つで、中脳から延髄まで脳幹全体を網羅しています。腱反射などの脊髄反射は脳死でも残りうるため判定項目にならず、睫毛反射や輻輳反射も7項目には含まれません。このほか深昏睡、瞳孔固定、平坦脳波、無呼吸テストによる自発呼吸の消失を確認し、年齢に応じた間隔をあけて2回判定します。反射の経路と責任部位を結びつけて理解することは、脳死判定だけでなく意識障害患者の神経学的評価全般の基礎になります。
解答・解説
正解はc, dです
臓器移植法に基づく脳死判定(法的脳死判定)で確認すべき項目を問う問題である。 脳死とは「脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止した状態」と定義される(全脳死)。大脳の機能だけが失われ脳幹機能が残る遷延性意識障害(いわゆる植物状態)とは異なり、脳死では自発呼吸をつかさどる脳幹の機能も失われている。そのため、判定の中心は「脳幹の機能がすべて失われていること」を客観的に確かめることにある。 脳幹機能を調べる具体的な手段が脳幹反射である。脳死判定で確認する脳幹反射は、対光反射、角膜反射、毛様脊髄反射、眼球頭反射(人形の目現象)、前庭眼反射(冷水・氷水を外耳道に注入するカロリックテスト)、咽頭反射、咳反射の7つであり、これらがすべて消失していることが必須とされる。 したがって、選択肢のうちこの7項目に含まれるものを選べばよい。一方、脊髄のみで完結する反射(腱反射など)は脳死でも残りうるため判定項目にはならず、また7項目に含まれない反射(輻輳反射、睫毛反射)も必須項目ではない。
選択肢考察
- ×a. 輻輳反射
輻輳反射は、遠くを見ている状態から近くの物を注視したときに両眼が内側へ寄り(内転)、同時に縮瞳と水晶体の調節が起こる反応(近見反応)である。被検者が覚醒して意図的に近くの物を注視することが前提であり、深昏睡の患者では検査自体が成り立たない。脳死判定の必須項目には含まれない。
- ×b. 睫毛反射
睫毛反射は、まつげに触れるとまぶたが閉じる反射である。求心路は三叉神経(第1枝)、遠心路は顔面神経で、眼輪筋が収縮して閉瞼が起こり、反射中枢は橋にある。脳幹を介する反射ではあるが、法的脳死判定で確認が求められる7つの脳幹反射には含まれていない。同じく三叉神経と顔面神経を介する角膜反射が判定項目となっている。
- ○c. 前庭眼反射
前庭眼反射は、頭部の動きを内耳の前庭器官が感知し、それを打ち消す方向へ眼球を動かして視線(網膜像)を安定させる反射である。経路は前庭神経から脳幹の前庭神経核、内側縦束(MLF)を経て動眼・滑車・外転神経核へ至り、橋・中脳を広く通過する。脳死判定では外耳道に冷水(氷水)を注入するカロリックテストで評価し、眼球が全く動かなければ消失と判断する。7つの脳幹反射の一つとして判定に必須である。
- ○d. 咳反射
咳反射は、気管・気管支の粘膜刺激によって咳が誘発される反射である。求心路は迷走神経で、中枢は延髄にある。脳死判定では気管内吸引用のカテーテルを気管チューブから挿入して気管分岐部付近を刺激し、咳が出ないことを確認する。延髄機能を評価できる数少ない反射であり、7つの脳幹反射の一つとして判定に必須である。
- ×e. 腱反射
腱反射(膝蓋腱反射やアキレス腱反射など)は、筋の伸張を筋紡錘が感知し、脊髄で運動ニューロンに直接伝わって筋が収縮する単シナプス反射であり、反射弓は脊髄内で完結する。したがって脳の機能が全く失われていても、脊髄が保たれていれば出現しうる。脳死でも腱反射などの脊髄反射や、ラザロ徴候のような脊髄自動運動がみられることがあり、これらの存在は脳死判定を否定しない。判定項目ではない。
法的脳死判定の概要
1. 前提条件:器質的な脳障害により深昏睡かつ無呼吸であること、原因疾患が確実に診断されていること、あらゆる適切な治療を行っても回復の可能性がないと判断されること。 2. 除外例:急性薬物中毒、低体温(深部温が6歳以上で32℃未満、6歳未満で35℃未満)、代謝・内分泌障害、脳死と類似した状態になりうる症例(生後12週未満〔在胎週数40週未満の場合は出産予定日から起算〕など)。知的障害などにより本人の意思表示が有効でない可能性がある人も、法的脳死判定の対象から除かれる。 3. 判定項目: ・深昏睡(JCS 300、GCS 3) ・両側瞳孔径4mm以上で瞳孔が固定 ・脳幹反射の消失(対光反射、角膜反射、毛様脊髄反射、眼球頭反射、前庭眼反射、咽頭反射、咳反射) ・平坦脳波(脳波の平坦化) ・自発呼吸の消失(無呼吸テスト:人工呼吸器を外してPaCO2が60mmHg以上に上昇しても自発呼吸が出現しないことを確認。危険を伴うため判定項目の最後に行う) 4. 観察時間:第1回判定の後、6歳以上では6時間以上、6歳未満では24時間以上経過してから第2回判定を行い、2回とも条件を満たすことを確認する。第2回判定終了時刻が死亡時刻となる。
脳幹反射と責任部位の対応
・対光反射:中脳(求心路は視神経、遠心路は動眼神経) ・毛様脊髄反射:頸部への痛み刺激で両側瞳孔が散大する反射(交感神経系、脳幹) ・角膜反射:橋(三叉神経→顔面神経) ・眼球頭反射・前庭眼反射:橋・中脳(前庭神経→MLF→眼球運動神経) ・咽頭反射・咳反射:延髄(舌咽神経・迷走神経) 7項目は中脳から延髄まで脳幹全体を網羅するように選ばれている。
植物状態との違い
遷延性意識障害(植物状態)では脳幹機能が保たれ自発呼吸があるのに対し、脳死では脳幹機能を含めて全脳の機能が失われ、人工呼吸器なしでは呼吸を維持できない。
POINT
・脳死は脳幹を含む全脳機能の不可逆的停止であり、判定の核心は脳幹反射の消失である。 ・脳死判定で確認する脳幹反射は7つ:対光反射、角膜反射、毛様脊髄反射、眼球頭反射、前庭眼反射、咽頭反射、咳反射。 ・腱反射などの脊髄反射は脳死でも残りうるため判定項目ではない。 ・輻輳反射と睫毛反射は判定項目に含まれない。 ・その他の必須項目:深昏睡、瞳孔固定(両側4mm以上)、平坦脳波、自発呼吸の消失(無呼吸テストは最後に行う)。6歳以上は6時間以上、6歳未満は24時間以上あけて2回判定する。
