StudyMed医師国家試験

脂肪層が消えたら要注意―乳癌のCTで「直接浸潤」を見抜く読影術

第105回医師国家試験 I問題 第36問

国試問題にチャレンジ

第105回 I問題 第36問

乳癌患者の胸部造影CTを別に示す。  この画像上で癌の直接浸潤が認められるのはどれか。2つ選べ。

第105回 I問題 第36問の問題画像
  1. a.皮膚
  2. b.縦隔
  3. c.大胸筋
  4. d.肩甲骨
  5. e.対側乳腺

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は乳癌の局所進展を胸部造影CTで読む問題だ。ポイントは2つ。CTの向きを正しく把握することと、腫瘍と周りの組織の間に「脂肪の境目」が残っているかを一つずつ確かめることだよ。まずCT横断像の見方から確認しよう。画像の左側は患者のどちらかな。
医学生医学生
放射線科の講義で習いました。足側から見上げた像なので、画像の左が患者の右ですね。
ドクタードクター
その通り。画像の上が腹側、下が背側だ。この断面は大動脈弓から肺動脈のあたりで、中央に胸骨と縦隔の大血管、下に椎体、後外側の左右に肩甲骨が写っている。そして画像の左上、つまり患者の右前胸部に、内部が不均一に造影される大きな腫瘤がある。これが乳癌だね。
医学生医学生
腫瘤がかなり大きいので、周りの全部に広がっているように見えてしまいます。
ドクタードクター
大きいと全部浸潤していそうに見えるけれど、そこは冷静に。「直接浸潤」とは、腫瘍が連続性に隣の組織へ入り込んでいる状態のこと。CTでは、腫瘍と隣接組織の間にある脂肪層が消えているか、腫瘍が組織の中に食い込んでいるかで判断するんだ。では前方から見ていこう。皮膚との関係はどうかな。
医学生医学生
腫瘤が前に盛り上がっていて、皮下脂肪の層がなくなって皮膚とくっついているように見えます。
ドクタードクター
そうだね。皮下脂肪を介さずに皮膚と一体化し、皮膚も厚く不整になっている。これは皮膚への直接浸潤と判断できる。臨床的には発赤、橙皮状皮膚、潰瘍、皮膚の衛星結節として現れるもので、TNM分類ではT4bに当たる局所進行乳癌だ。
医学生医学生
乳腺外科の実習で、皮膚が橙の皮のようにへこんでいる患者さんを見ました。あれも皮膚への進展だったんですね。
ドクタードクター
いい経験をしているね。次は後方。乳腺の後ろには何があるかな。
医学生医学生
大胸筋です。解剖実習で、乳腺の裏に脂肪を挟んで大胸筋があったのを覚えています。
ドクタードクター
そう、正常では乳腺後脂肪層が乳腺と大胸筋を隔てている。この画像では腫瘤の背側でその脂肪層が消えて、腫瘤が大胸筋に食い込むように接している。だから大胸筋にも直接浸潤していると判断できる。
医学生医学生
縦隔はどうでしょうか。腫瘤が胸骨のほうまで大きく広がっているので、少し迷いました。
ドクタードクター
縦隔の大血管の周りの脂肪層は保たれていて、腫瘤とはつながっていない。乳房の腫瘍が縦隔に直接届くには、胸壁や胸膜、胸骨を越える必要があるから、ずっと奥の話なんだ。ちなみに胸骨傍リンパ節への転移で縦隔に病変が出ることはあるけれど、それはリンパ行性転移で、直接浸潤とは区別するよ。
医学生医学生
肩甲骨は背中側なので、前胸部の腫瘤とは離れていますね。
ドクタードクター
そう。肩甲骨は両側の後外側に左右対称に写っていて、腫瘤との間には胸郭や筋肉が挟まっている。骨の破壊もない。乳癌で肩甲骨に病変ができるとしたら、通常は血行性の骨転移だね。
医学生医学生
対側の乳腺には腫瘤がないので、浸潤はなしと考えていいでしょうか。
ドクタードクター
そうだね。左の乳房、つまり画像の右側には腫瘤も皮膚の肥厚もない。左右の間には胸骨があって、正中を越えて連続している所見もない。対側に癌が見つかる場合は、多くが独立して発生した両側乳癌で、直接浸潤ではないんだ。だから正解は皮膚と大胸筋の2つになる。
医学生医学生
脂肪層の消失と連続性を、前から後ろへ順番に確認していけばいいんですね。
ドクタードクター
その通り。乳房の腫瘍が連続性に広がる順番は、前は皮膚、後ろは大胸筋、肋間筋・肋骨、胸膜・胸腔と覚えておくと読影しやすい。ここで発展知識をひとつ。T4aは胸壁への進展を指し、肋骨・肋間筋・前鋸筋への浸潤のことで、大胸筋だけへの浸潤はT4aに含めないんだ。
医学生医学生
大胸筋に浸潤していてもT4にはならないこともあるんですか。意外です。
ドクタードクター
CBTや国試でも狙われやすいところだね。皮膚浸潤があればT4bになるけれど、大胸筋だけならTは腫瘍の大きさで決まる。もうひとつ臨床的な注意点として、単に接しているだけでは浸潤と断定できないことも多く、MRIなどで補って評価する。局所進行乳癌では、術前薬物療法を行ってから手術や放射線療法を組み合わせることが多いよ。
医学生医学生
転移の評価も含めて、造影CTは広がりを全体的に見るための検査なんですね。
ドクタードクター
そう。腋窩などのリンパ節転移や、骨・肺・肝・脳への血行性転移も含めて、直接浸潤・リンパ行性・血行性の3つの進展様式を意識しながら画像を見る習慣をつけよう。

まとめ

CT横断像は足側から見た像で、画像の左が患者の右にあたります。乳癌の直接浸潤は、腫瘍と隣接組織の間の脂肪層の消失と連続性で判定し、本例では右乳癌が皮膚と大胸筋に及んでいる一方、縦隔・肩甲骨・対側乳腺との連続性はありません。皮膚浸潤はT4b、胸壁浸潤(肋骨・肋間筋・前鋸筋)はT4aで、大胸筋のみの浸潤はT4aに含めない点が重要です。縦隔病変は胸骨傍リンパ節転移、肩甲骨病変は血行性骨転移、対側乳癌は独立発生が主体で、直接浸潤とは区別して考えます。進展様式を整理して画像を読む力は、病期診断と治療方針の決定に直結します。

解答・解説

正解はa, cです

乳癌の局所進展を胸部造影CTで評価する読影問題である。

CT画像の向きの確認

CTの横断像(水平断)は、患者を足側から見上げた像として表示するのが約束である。したがって画像の左側が患者の右側、画像の上側が腹側(前胸部)、下側が背側となる。

画像所見

本画像は大動脈弓〜肺動脈付近の高さの断面で、中央に胸骨・縦隔(大血管)、下方に椎体、両外側後方に肩甲骨が写っている。画像の左上、すなわち患者の右前胸部に、内部が不均一に造影される大きな腫瘤がある。腫瘤は前方へ隆起して皮膚と一体化しており、皮膚との境界(皮下脂肪の層)が消失していることから、皮膚への直接浸潤と判断できる。また腫瘤の背側では、本来は乳腺の後ろに脂肪層を挟んで見える大胸筋との境界が不明瞭となり、腫瘤が大胸筋にまで及んでいる。 一方、縦隔の大血管周囲の脂肪層は保たれ、腫瘤は縦隔に連続していない。背側の肩甲骨やその周囲の筋にも異常はなく、左側(画像右側)の乳房にも腫瘤は認めない。

考え方

「直接浸潤」とは、腫瘍が連続性に隣接組織へ入り込んでいる状態をいう。腫瘍と周囲組織との間の脂肪層が消失し、腫瘍が組織内へ入り込んでいるかどうかを一つずつ確認すればよい。乳房の腫瘍が連続的に広がる順序は、前方では皮膚、後方では大胸筋 → 肋間筋・肋骨 → 胸膜・胸腔であり、縦隔はさらにその奥になる。

選択肢考察

  1. ○a.  皮膚

    右前胸部の腫瘤は前方に大きく突出し、皮下脂肪層を介さずに皮膚と一体化している。皮膚の肥厚・不整もみられ、癌が皮膚に直接浸潤していると判断できる。臨床的には、皮膚浸潤は発赤、橙皮状皮膚(peau d'orange)、潰瘍形成、皮膚の衛星結節などとして現れ、TNM分類ではT4(T4b)に相当する局所進行乳癌となる。

  2. ×b.  縦隔

    縦隔は左右の胸膜腔にはさまれた中央の領域で、心臓・大血管・気管などを含む。本画像では縦隔の大血管周囲の脂肪層は保たれており、腫瘤との連続性もない。乳房の腫瘍が縦隔に直接及ぶには、胸壁(大胸筋、肋間筋、肋骨)や胸膜、あるいは胸骨を越えて広がる必要があり、本画像の範囲では縦隔への直接浸潤は認められない。なお、胸骨傍(内胸)リンパ節への転移から縦隔に病変が現れることはあるが、それはリンパ行性転移であり、直接浸潤とは区別する。

  3. ○c.  大胸筋

    大胸筋は乳腺の背側に位置し、正常では乳腺後脂肪層(乳腺と大胸筋の間の脂肪層)によって乳腺と隔てられている。本画像では腫瘤の背側でこの脂肪層が消失し、腫瘤が大胸筋に食い込むように接しているため、大胸筋への直接浸潤と判断できる。大胸筋のみへの浸潤はそれ自体では胸壁浸潤(T4a)とはみなされず、T4aは肋骨・肋間筋・前鋸筋への浸潤を指す点も押さえておくとよい。

  4. ×d.  肩甲骨

    肩甲骨は背部の外側に位置し、本画像でも両側の後外側に左右対称に写っている。腫瘤は右前胸部にあり、肩甲骨との間には胸郭や広背筋などが介在していて連続性はない。骨皮質の破壊や周囲軟部組織の腫瘤もみられず、直接浸潤は認めない。乳癌が肩甲骨に病変をつくる場合は、通常、血行性の骨転移による。

  5. ×e.  対側乳腺

    対側(左側、画像の右側)の乳房には腫瘤や皮膚の肥厚などの異常はみられない。左右の乳房の間には胸骨があり、腫瘍が正中を越えて対側乳腺に直接連続している所見もない。なお、対側乳房に癌がみられる場合は、多くが独立に発生した両側乳癌(異時性・同時性)であり、直接浸潤によるものではない。

CT読影の基本

・横断像は足側から見た像で表示する(画像の左=患者の右)。 ・直接浸潤の評価では、腫瘍と隣接臓器との間の脂肪層の消失、隣接臓器内への腫瘍の入り込み、骨皮質の破壊などを確認する。単に接しているだけでは浸潤と断定できないこともあり、MRIなど他の検査で補うこともある。 ・造影CTは腫瘍の広がりや周囲臓器への浸潤、リンパ節転移、遠隔転移(肺・肝・骨など)の評価に用いられる。

乳癌のTNM分類(T4の要点)

・T4:大きさを問わず、胸壁や皮膚に直接進展する腫瘍。 ・T4a:胸壁への進展(肋骨、肋間筋、前鋸筋。大胸筋のみの浸潤は含まない)。 ・T4b:皮膚の浮腫(橙皮状皮膚を含む)、潰瘍、同側乳房内の皮膚衛星結節。 ・T4c:T4aとT4bの両方。 ・T4d:炎症性乳癌(乳房皮膚の広範な発赤・浮腫。皮膚リンパ管内の腫瘍塞栓による)。

乳癌の進展様式

・直接浸潤:皮膚、大胸筋、胸壁(肋間筋・肋骨)、胸膜。 ・リンパ行性転移:腋窩リンパ節が最多。ほかに鎖骨下・鎖骨上・胸骨傍(内胸)リンパ節。 ・血行性転移:骨(最多、特に脊椎・骨盤・肋骨)、肺・胸膜、肝、脳。 局所進行乳癌では、術前薬物療法(化学療法、HER2陽性なら抗HER2療法など)を行ってから手術・放射線療法を組み合わせることが多い。

POINT

・CT横断像は足側から見るため、画像の左が患者の右。 ・直接浸潤の判定は、腫瘍と隣接組織の間の脂肪層の消失と連続性で行う。 ・本例は右乳癌が皮膚と大胸筋に直接浸潤している。縦隔・肩甲骨・対側乳腺には及んでいない。 ・乳癌の皮膚浸潤はT4b、胸壁浸潤(肋骨・肋間筋・前鋸筋)はT4a。大胸筋のみの浸潤はT4aに含めない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。