StudyMed医師国家試験

低酸素なのに青くならない―一酸化炭素中毒の「桜色」の謎

第105回医師国家試験 H問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第105回 H問題 第14問

一酸化炭素中毒でみられないのはどれか。

  1. a.チアノーゼ
  2. b.意識障害
  3. c.けいれん
  4. d.呼吸困難
  5. e.血圧低下

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は一酸化炭素中毒でみられない所見を選ぶ問題だ。ポイントは、COがヘモグロビンに何をするのか、そしてそれが全身や皮膚の色にどう表れるかを機序から考えること。まず、COが体内で起こす変化から確認しよう。
医学生医学生
COはヘモグロビンに酸素よりずっと強く結合するんでしたよね。生理学の講義で200倍以上と習いました。
ドクタードクター
そう、おおよそ200〜250倍とされる。COと結合したヘモグロビン、つまりCO-Hbは酸素を運べない。さらに残りのヘモグロビンも酸素解離曲線が左方移動して、末梢で酸素を手放しにくくなる。加えてCOはミトコンドリアのシトクロムcオキシダーゼにも結合して、細胞の酸素利用そのものを妨げるんだ。
医学生医学生
運べない、渡せない、使えない、の三重苦ですね。でも、それだけ低酸素なら全部の症状が出そうな気がします。
ドクタードクター
そこで、低酸素に一番弱い臓器を考えてみよう。酸素消費量が多いのは脳と心臓だ。脳が低酸素になると、頭痛やめまいから始まって、重くなると意識障害、さらに全身のけいれんや昏睡に至る。
医学生医学生
意識障害もけいれんも、脳の低酸素で説明がつくわけですね。けいれんは重症のサインと考えていいですか。
ドクタードクター
その理解でいい。CO-Hbがおおむね40%を超えるあたりから失神や昏睡、けいれんが目立ってくる。けいれんや意識障害は高気圧酸素療法を考える根拠にもなる。次に心臓。心筋が低酸素になって収縮力が落ち、COはミオグロビンにも結合するから心筋の酸素利用がさらに悪くなる。心拍出量が減り、低酸素による血管拡張も加わって血圧低下が起こる。
医学生医学生
呼吸困難はどうでしょう。肺そのものは悪くないのに、息苦しくなるんですか。
ドクタードクター
組織の低酸素に反応して呼吸が促迫し、息苦しさを訴えることはよくある。ただ面白いのは、動脈血の酸素分圧は下がらないので、頸動脈小体の化学受容器は低酸素を感知しにくい。だから低酸素の程度のわりに呼吸促迫が目立たないこともある。重症では肺水腫や誤嚥を合併して呼吸不全になることもあるよ。
医学生医学生
となると残るのはチアノーゼですね。低酸素なのに出ないというのが直感に反します。
ドクタードクター
そこがこの問題の核心だ。チアノーゼは「酸素が足りない」こと自体ではなく、毛細血管血中の還元ヘモグロビン、つまり酸素と結合していないヘモグロビンがおよそ5 g/dL以上に増えたときに見える青紫色なんだ。
医学生医学生
なるほど。CO中毒ではヘモグロビンがCOで埋まっているから、還元ヘモグロビンが増えないんですね。
ドクタードクター
その通り。しかもCO-Hbは鮮やかな赤色なので、皮膚や粘膜はむしろ桜桃色、チェリーピンクになる。法医学の講義で、CO中毒の遺体では鮮紅色の死斑が特徴だと聞かなかったかな。
医学生医学生
聞きました。ただ、救急科の実習で見たCO中毒の患者さんは、ピンクというより顔色が悪いだけに見えました。
ドクタードクター
鋭い観察だね。桜桃色の皮膚は重症例や死亡例で目立つ所見で、生存患者でははっきりしないことも多い。だから「顔色がピンクでないからCO中毒ではない」とは言えない。そして臨床でもっと危ないのがパルスオキシメータだ。CO-Hbを酸素化ヘモグロビンと区別できないので、SpO2は見かけ上正常に出てしまう。
医学生医学生
SpO2もPaO2も正常なのに組織は低酸素、というのは怖いですね。どうやって診断するんですか。
ドクタードクター
COオキシメトリー、つまり多波長で測る血液ガス分析でCO-Hb濃度を直接測る。冬場の練炭や七輪、ガス湯沸かし器、火災現場など、状況から疑うことが何より大切だ。同じ部屋の家族が一緒に頭痛を訴えている、というのも重要な手がかりになる。
医学生医学生
治療はまず酸素ですよね。
ドクタードクター
曝露環境から離して、ただちにリザーバー付きマスクで100%酸素を投与する。CO-Hbの半減期は室内気で4〜6時間ほどだが、100%酸素で1時間前後、高気圧酸素ならさらに短くなる。意識障害やけいれん、心筋虚血、妊婦などの重症例では高気圧酸素療法を考慮する。もう一つ、回復して数日〜数週間たってから認知機能低下やパーキンソニズムが出る間欠型CO中毒にも注意が必要で、画像では両側淡蒼球の病変や大脳白質の脱髄がみられることがある。
医学生医学生
退院後のフォローまで含めて考える病気なんですね。メトヘモグロビン血症だと逆にチアノーゼ様になるのも対比で覚えておきます。
ドクタードクター
いい整理だ。チョコレート色の血液と青灰色の皮膚のメトヘモグロビン血症、桜桃色のCO中毒。どちらもSpO2の解釈に注意が要る、という点まで一緒に押さえておこう。

まとめ

一酸化炭素はヘモグロビンに酸素の約200〜250倍の強さで結合してCO-Hbを形成し、酸素運搬の障害、酸素解離曲線の左方移動、細胞での酸素利用障害によって組織低酸素を起こします。低酸素に弱い脳と心臓が障害されやすく、意識障害・けいれん・呼吸困難・血圧低下はいずれもみられますが、CO-Hbは鮮紅色で還元ヘモグロビンが増えないため、典型的なチアノーゼはみられず、重症例では皮膚が桜桃色を呈します。PaO2やSpO2は見かけ上正常となるため、状況から疑ってCOオキシメトリーでCO-Hbを測定することが診断の鍵です。治療は100%酸素投与が基本で、重症例では高気圧酸素療法を考慮し、回復後の間欠型CO中毒にも注意します。「チアノーゼは還元ヘモグロビンの量で決まる」という原理を押さえることは、貧血やメトヘモグロビン血症の所見理解にもつながります。

解答・解説

正解はaです

一酸化炭素(CO)は無色・無臭・無刺激性の気体で、不完全燃焼(練炭・七輪、ガス湯沸かし器、火災、自動車排気ガスなど)で発生する。吸入されたCOはヘモグロビン(Hb)に酸素の約200〜250倍の強さで結合し、一酸化炭素ヘモグロビン(CO-Hb)を形成する。その結果、 1. Hbの酸素運搬能が失われる、 2. 残ったHbの酸素解離曲線が左方移動し、末梢組織で酸素を放しにくくなる、 3. ミトコンドリアのシトクロムcオキシダーゼなどにも結合し細胞の酸素利用を妨げる、 という機序で組織の低酸素(ただし血中の酸素分圧は保たれる)が生じる。 低酸素の影響を最も受けやすいのは、酸素消費量の多い脳と心臓である。脳では頭痛・めまい・悪心から始まり、重症化すると意識障害・けいれん・昏睡に至る。心臓では心筋虚血、不整脈、心機能低下による血圧低下がみられる。呼吸器症状としては呼吸促迫や呼吸困難が出現する。 一方、皮膚や粘膜の色は特徴的である。チアノーゼは還元ヘモグロビン(酸素と結合していないHb)が毛細血管血中でおよそ5 g/dL以上に増えたときに生じる青紫色の変化である。CO中毒ではHbの多くがCO-Hbとなっており、CO-Hbは鮮やかな赤色を示すため、皮膚・粘膜は桜桃色(チェリーピンク)を呈し、典型的なチアノーゼはみられない。この点が本問の要点であり、「低酸素なのに青くならない」ことがCO中毒の特徴である。

選択肢考察

  1. ○a.  チアノーゼ

    CO中毒で典型的にみられない所見である。チアノーゼは還元Hbの増加によるが、CO中毒ではHbがCOと結合して鮮紅色のCO-Hbとなるため、還元Hbは増えにくく、皮膚・粘膜はむしろ桜桃色となる。死体でも鮮紅色の死斑が特徴とされる。なお、桜桃色の皮膚は重症例や死亡例で目立つ所見で、生存患者では必ずしも明らかでなく、顔色不良程度にとどまることも多い。また、パルスオキシメータはCO-HbをO2-Hbと区別できないため、SpO2は見かけ上正常値を示す。診断にはCOオキシメトリー(多波長の血液ガス分析)でCO-Hb濃度を測定する必要がある。

  2. ×b.  意識障害

    CO中毒でみられる。脳は酸素消費量が多く低酸素に弱い臓器であり、組織低酸素により意識混濁から意識消失・昏睡まで様々な程度の意識障害が生じる。CO-Hb濃度がおおむね40%を超えると失神や意識障害が目立つようになる。さらに、急性期を脱して回復したあと数日〜数週間の無症状期を経て、認知機能低下・パーキンソニズム・無動無言などの精神神経症状が出現することがある(間欠型CO中毒、遅発性精神神経症候群)。淡蒼球の両側性病変や大脳白質の脱髄が画像で認められる。

  3. ×c.  けいれん

    CO中毒でみられる。脳の低酸素により神経細胞の興奮性が変化し、全身性けいれんを生じる。重症例(CO-Hbがおおむね40〜60%以上)で昏睡とともに出現しやすく、重症度の目安となる。けいれん・意識障害などの重症所見は高気圧酸素療法を考慮する根拠の一つとなる。

  4. ×d.  呼吸困難

    CO中毒でみられる。組織低酸素に反応して呼吸が促迫し、息苦しさや呼吸困難を訴える。ただし、動脈血の酸素分圧(PaO2)は低下しないため、頸動脈小体の化学受容器が低酸素を感知しにくく、呼吸促迫が低酸素の程度に比べて目立たないこともある。重症例では肺水腫や誤嚥などを合併して呼吸不全に至る場合もある。

  5. ×e.  血圧低下

    CO中毒でみられる。心臓も酸素需要の大きい臓器であり、心筋の低酸素によって収縮力が低下し、さらにCOがミオグロビンに結合して心筋の酸素利用を妨げる。その結果、心拍出量が減って血圧が低下する。また低酸素に伴う血管拡張も血圧低下に寄与する。心筋虚血による心電図変化、トロポニン上昇、不整脈もみられ、冠動脈疾患を持つ患者では症状が出やすい。

CO-Hb濃度と症状の目安

・〜10%:通常は無症状(喫煙者では5〜10%程度になりうる) ・10〜20%:頭痛、軽い息切れ ・20〜30%:拍動性頭痛、めまい、悪心、疲労感 ・30〜40%:強い頭痛、嘔吐、視力障害、判断力低下 ・40〜60%:頻脈、頻呼吸、失神、けいれん、昏睡 ・60%以上:呼吸・循環不全、死亡 ただしCO-Hb濃度と重症度は必ずしも一致しない(曝露時間、搬送前の酸素投与などの影響を受ける)。

検査の注意点

・PaO2は正常(溶存酸素は保たれる)。 ・SpO2(パルスオキシメータ)は見かけ上正常 → 低酸素を見逃す危険がある。 ・CO-HbはCOオキシメトリー付きの血液ガス分析で測定する。 ・代謝性アシドーシス(乳酸上昇)、CK上昇(横紋筋融解)がみられることがある。

治療

・曝露環境からの脱出と、ただちに100%酸素投与(リザーバー付きマスク)。 ・CO-Hbの半減期は室内気で約4〜6時間、100%酸素で約1時間前後、高気圧酸素では20〜30分程度に短縮する。 ・意識障害、けいれん、心筋虚血、妊婦、高いCO-Hb値などの重症例では高気圧酸素療法を考慮する。遅発性の精神神経症状の予防効果も期待される。 ・妊婦では胎児Hbの親和性が高く、胎児への影響が大きい。

チアノーゼの基礎

・毛細血管血中の還元Hbがおよそ5 g/dL以上で出現する。 ・重度の貧血では還元Hbの絶対量が5 g/dLに達しにくく、低酸素でもチアノーゼが出にくい。 ・メトヘモグロビン血症ではチアノーゼ様の青灰色(チョコレート色の血液)を呈する点がCO中毒と対照的である。

POINT

・CO中毒ではCO-Hbが鮮紅色のため、皮膚・粘膜は桜桃色となり、典型的なチアノーゼはみられない。 ・COのHbへの親和性は酸素の約200〜250倍。酸素解離曲線は左方移動する。 ・PaO2・SpO2は正常にみえる → CO-Hbを直接測定する。 ・低酸素に弱い脳・心臓の症状(頭痛、意識障害、けいれん、心筋虚血、血圧低下)が中心。 ・治療は100%酸素、重症例では高気圧酸素療法。回復後の間欠型CO中毒(遅発性精神神経症状)に注意。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。