StudyMed医師国家試験

噛むと痛む顎は失明のサイン?―巨細胞性動脈炎で必ず眼底を診る理由

第105回医師国家試験 B問題 第46問

国試問題にチャレンジ

第105回 B問題 第46問

78歳の男性。2週前からの頭痛と微熱とを主訴に来院した。1週前から食べ物を噛んでいると顎が痛くなるので,柔らかいものを食べているという。体温37.5℃。呼吸数18/分。脈拍80/分,整。血圧138/88 mmHg。右側頭部に圧痛を伴う索状物を触知する。  この患者で留意すべき診察部位はどれか。

  1. a.眼底
  2. b.鼓膜
  3. c.鼻腔
  4. d.舌
  5. e.咽頭

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高齢者の頭痛から血管炎を見抜き、その疾患で最も警戒すべき合併症を意識して診察部位を選ぶ問題だ。カギになるのは「噛んでいると顎が痛くなる」という訴えと、側頭部の索状物。この2つが何を意味するか考えてみよう。
医学生医学生
顎の痛みと聞くと、最初は顎関節症や歯の病気を思い浮かべてしまいました。
ドクタードクター
それも鑑別には挙がるね。でも、噛み続けると痛み、休むと楽になるという経過がポイントなんだ。これを顎跛行と呼ぶ。下肢の間欠性跛行と同じ仕組みで、咀嚼筋を栄養する顎動脈など外頸動脈の枝が狭くなり、運動時に筋が虚血に陥るために起こる。
医学生医学生
なるほど、筋肉の虚血なんですね。側頭部の索状物は浅側頭動脈が腫れているということでしょうか。
ドクタードクター
その通り。炎症で硬く太くなった浅側頭動脈を触れているんだ。50歳以上で新たに出てきた頭痛、微熱という全身症状、側頭動脈の圧痛を伴う索状肥厚、そこに顎跛行。これらがそろえば、何を考えるかな。
医学生医学生
側頭動脈炎、今でいう巨細胞性動脈炎ですね。膠原病内科の講義で、リウマチ性多発筋痛症と合併しやすいと習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。巨細胞性動脈炎は大型血管炎に分類され、大動脈とその主要分枝、特に外頸動脈系を好んで侵す肉芽腫性血管炎だ。では、この病気で一番怖い合併症は何だと思う?
医学生医学生
大動脈瘤……でしょうか。大型血管炎なので。
ドクタードクター
大動脈炎や大動脈瘤も確かに起こりうるけれど、急いで防ぐべき最大の合併症は失明なんだ。眼動脈から分かれる後毛様体動脈が炎症で閉塞すると、視神経乳頭が虚血に陥って動脈炎性前部虚血性視神経症を起こし、突然の不可逆的な視力低下をきたす。治療が遅れると、短期間のうちに反対の眼にも及ぶことがある。
医学生医学生
だから診察では眼底を診るんですね。眼科の臨床実習で倒像鏡を練習したのが役に立ちそうです。
ドクタードクター
そう、留意すべき診察部位は眼底だ。視神経乳頭の蒼白な浮腫、網膜の綿花様白斑や小出血、網膜中心動脈閉塞症などがないかを確認する。視力や視野のチェック、それに数分間片眼が見えなくなる一過性黒内障や複視がなかったかの問診もセットで行おう。
医学生医学生
鼓膜や鼻腔、咽頭はどうして違うんでしょう。血管炎で上気道を診るイメージがあったので迷いました。
ドクタードクター
いい疑問だね。そのイメージは多発血管炎性肉芽腫症のものなんだ。あちらは鼻中隔穿孔や鞍鼻、副鼻腔炎、滲出性中耳炎、咽頭・喉頭の潰瘍といった上気道病変が特徴で、鼓膜や鼻腔の診察が重要になる。巨細胞性動脈炎は大~中型の動脈を侵す病気で、そうした粘膜の壊死性肉芽腫性病変は起こさない。咽頭痛や乾性咳嗽を訴える例はあっても、特異的な局所所見は乏しいんだ。
医学生医学生
舌はどうですか。顎跛行があるなら舌も虚血になりそうな気がします。
ドクタードクター
鋭いね。実はまれに舌動脈の虚血による舌の痛みや舌の壊死が報告されている。ただ頻度は低く、見逃せば失明という重大な転帰につながる眼底評価のほうが圧倒的に優先度は高い。血管炎の種類で診るべき部位が違う、という整理が大事だよ。
医学生医学生
巨細胞性動脈炎は眼、多発血管炎性肉芽腫症は耳・鼻・のど、と分けて覚えればよさそうですね。
ドクタードクター
その整理で十分役に立つ。次に検査と治療も押さえよう。赤沈の著明な亢進とCRP上昇が特徴的で、確定には側頭動脈生検で内弾性板の断裂や多核巨細胞を伴う肉芽腫性炎症を確認する。病変は飛び石状に分布するから、ある程度の長さを採取するのがコツだ。超音波で血管壁が低エコーに肥厚するhalo signも参考になる。
医学生医学生
生検の結果が出るまで治療は待つんでしょうか。
ドクタードクター
そこが臨床で特に大切なところ。視力障害が疑われるときは、生検を待たずに高用量の副腎皮質ステロイドを始めるのが原則だ。ステロイドを始めてもしばらくは生検所見が残るから、診断の機会を失うことは少ない。再発例やステロイドの減量が難しい例にはIL-6受容体抗体のトシリズマブも使われる。高齢者の新しい頭痛を診たら、側頭動脈を触り、顎跛行と眼症状を聞く習慣をつけておこう。

まとめ

50歳以上で新たに出現した頭痛、発熱、側頭動脈の圧痛を伴う索状肥厚に、咀嚼で顎が痛む顎跛行が加われば巨細胞性動脈炎を強く疑います。この疾患で最も警戒すべき合併症は、後毛様体動脈の閉塞による動脈炎性前部虚血性視神経症や網膜中心動脈閉塞による失明であり、眼症状の問診とともに眼底を診察して視神経乳頭の蒼白浮腫や網膜の虚血所見を評価することが重要です。鼓膜・鼻腔・咽頭の病変は多発血管炎性肉芽腫症で重視される部位で、舌の虚血はまれな合併症にとどまります。診断には赤沈・CRPの著明高値や側頭動脈生検での肉芽腫性炎症が役立ち、視力障害が疑われれば生検を待たずに高用量ステロイドを開始します。疾患ごとに「何が最も危険か」を把握して診察の優先順位を決める姿勢は、血管炎に限らず救急・総合診療の現場で欠かせない判断力です。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

・78歳の高齢男性 ・2週前からの頭痛と微熱(37.5℃) ・1週前から、食べ物を噛み続けると顎が痛くなる(顎跛行) ・右側頭部に圧痛を伴う索状物(腫れて硬くなった浅側頭動脈)を触知

診断へのプロセス

咀嚼を続けると顎が痛み、休むと軽快する症状を顎跛行(jaw claudication)という。咀嚼筋を栄養する顎動脈など外頸動脈の枝が狭窄し、筋が運動時に虚血に陥るために生じる。下肢の間欠性跛行と同じ仕組みが顎で起きていると考えればよい。これに加え、50歳以上の高齢者に新たに出現した頭痛、発熱などの全身症状、側頭部の圧痛を伴う索状の動脈がそろっており、巨細胞性動脈炎(giant cell arteritis:GCA、以前は側頭動脈炎と呼ばれた)が最も考えられる。 鑑別としては、片頭痛・緊張型頭痛などの一次性頭痛(高齢での新規発症は非典型)、帯状疱疹の前駆期、顎関節症や歯科疾患(顎の痛みはあっても側頭動脈の索状物は説明できない)、同じ血管炎でも上気道病変を伴う多発血管炎性肉芽腫症などが挙がるが、本例の所見の組み合わせは巨細胞性動脈炎に特徴的である。

設問の考え方

巨細胞性動脈炎で最も恐れるべき合併症は視力障害、特に失明である。眼動脈から分岐する後毛様体動脈が炎症で閉塞すると、視神経乳頭が虚血に陥り(動脈炎性前部虚血性視神経症)、突然の不可逆的な視力低下をきたす。いったん片眼に起こると、治療が遅れれば短期間のうちに反対眼にも及ぶことがある。したがって本例では、視力・視野の確認とともに眼底を診察し、視神経乳頭の蒼白浮腫や網膜の虚血所見がないかを速やかに評価する必要がある。視力障害が疑われる場合には、側頭動脈生検の結果を待たずに高用量副腎皮質ステロイドを開始することが原則である。

選択肢考察

  1. ○a.  眼底

    巨細胞性動脈炎では眼動脈の分枝(後毛様体動脈、網膜中心動脈)が侵され、視神経乳頭の虚血による蒼白な浮腫(動脈炎性前部虚血性視神経症)、網膜の綿花様白斑(神経線維層の虚血を示す白色斑)、小出血、網膜中心動脈閉塞症などが眼底にみられる。これらは失明に直結する所見であり、発見すれば直ちに治療を始める根拠となるため、最も留意すべき診察部位である。一過性黒内障(数分間片眼が見えなくなる)や複視などの前兆症状の問診も併せて行う。

  2. ×b.  鼓膜

    巨細胞性動脈炎で鼓膜に特徴的な所見は生じない。鼓膜所見が診断上重要になる血管炎は多発血管炎性肉芽腫症(granulomatosis with polyangiitis:GPA、旧称Wegener肉芽腫症)で、滲出性中耳炎や難聴を伴いやすい。本例には耳症状もなく、優先して診る部位ではない。

  3. ×c.  鼻腔

    鼻腔の病変(膿性・血性鼻汁、鼻中隔穿孔、鞍鼻、副鼻腔炎)は多発血管炎性肉芽腫症の上気道病変として重要である。巨細胞性動脈炎は大~中型の動脈を侵す血管炎であり、鼻腔粘膜の壊死性肉芽腫性病変は起こさない。本例にも鼻症状はない。

  4. ×d.  舌

    巨細胞性動脈炎では、まれに舌動脈の虚血による舌の痛み(舌跛行)や舌の壊死が報告されている。しかし頻度は低く、本例の患者の予後を左右する最優先の診察部位とはいえない。見逃すと失明という重大な転帰につながる眼底評価のほうがはるかに重要である。

  5. ×e.  咽頭

    咽頭痛や咽頭・喉頭の潰瘍性病変は、多発血管炎性肉芽腫症の上気道症状としてみられることがある。巨細胞性動脈炎でも乾性咳嗽や咽頭痛を訴える例はあるが、特異的な局所所見は乏しく、本例で重点的に診察すべき部位ではない。

巨細胞性動脈炎(GCA)の概要

・大型血管炎に分類され、大動脈とその主要分枝、特に外頸動脈系(浅側頭動脈など)を好んで侵す肉芽腫性血管炎である。 ・ほぼ全例が50歳以上で発症し、欧米の白人に多く、日本では比較的まれである。 ・リウマチ性多発筋痛症(polymyalgia rheumatica:PMR。肩・腰周囲の痛みと朝のこわばりを主症状とする炎症性疾患)との合併が多く、両者は同一スペクトラムの疾患と考えられている。

主な症状

・頭部症状:新たに生じた頭痛、側頭動脈の圧痛・索状肥厚・拍動減弱、頭皮の圧痛 ・虚血症状:顎跛行、視力障害(一過性黒内障、失明)、複視、まれに舌の痛み・壊死 ・全身症状:発熱、倦怠感、体重減少 ・大血管病変:大動脈炎、大動脈瘤、鎖骨下動脈狭窄による上肢の跛行や血圧左右差

検査

・赤沈の著明な亢進、CRP上昇が特徴的である。 ・側頭動脈生検:内弾性板の断裂、多核巨細胞を伴う肉芽腫性炎症。病変は分節状(飛び石状)に分布するため、ある程度の長さを採取する。 ・画像:側頭動脈超音波で血管壁の低エコー肥厚(halo sign)、MRI・CT・PET-CTで大血管病変の評価を行う。

分類基準(1990年ACR基準の概略)

①発症年齢50歳以上、②新たに出現した頭痛、③側頭動脈の圧痛または拍動低下、④赤沈50 mm/時以上、⑤動脈生検での特徴的所見、のうち3項目以上。本例は①~③を満たす。なお2022年にはACR/EULARによる新しい分類基準が発表されている。

治療

・高用量の副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン)が第一選択である。視力障害がある場合はステロイドパルス療法も考慮する。 ・失明予防のため、疑った時点で生検を待たずに治療を開始する(ステロイド開始後しばらくは生検所見が残る)。 ・再発例やステロイド減量困難例には、IL-6受容体抗体のトシリズマブが用いられる。

POINT

・高齢者の新規頭痛+顎跛行+側頭動脈の圧痛・索状肥厚 → 巨細胞性動脈炎を想起する。 ・最重要合併症は失明(動脈炎性前部虚血性視神経症、網膜中心動脈閉塞)であり、眼症状の問診と眼底診察が必須である。 ・赤沈・CRPの著明高値、側頭動脈生検で肉芽腫性炎症と巨細胞を確認する。 ・治療は高用量ステロイドで、視力障害が疑われれば生検を待たずに開始する。 ・鼓膜・鼻腔・咽頭の病変は多発血管炎性肉芽腫症の上気道病変として問われやすい。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。