熱いものをフーフー、そして片麻痺―過換気が暴く小児もやもや病
第105回医師国家試験 A問題 第30問
国試問題にチャレンジ
5歳の男児。1時間前から数分間持続する全身の強直性間代性けいれんを3回繰り返したため搬入された。1年前から熱いものを食べたり激しく泣いたりしたときに右片麻痺あるいは左片麻痺を認めていた。片麻痺発作は10分程度で改善したが,このような発作は1か月に1回あったという。神経学的所見で両側の上下肢の軽度筋力低下,腱反射亢進およびBabinski徴候を認める。頭部単純MRIのT1強調像を別に示す。 最も考えられるのはどれか。

- a.上衣腫
- b.もやもや病
- c.頭蓋咽頭腫
- d.結核性髄膜炎
- e.亜急性硬化性全脳炎
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
小児が熱い食事を吹いて冷ます、激しく泣くなどの過換気を誘因に一過性の片麻痺を繰り返す場合は、もやもや病(Willis動脈輪閉塞症)を第一に考えます。過換気による低CO2血症で脳血管が収縮し、両側内頸動脈終末部の狭窄で血流予備能が乏しい脳に虚血が生じるためで、病変が両側性なので麻痺は左右交代性に出現しえます。MRIでは基底核部の多数のflow void(もやもや血管)、MRAでは内頸動脈終末部の狭窄・閉塞がみられ、脳波ではre-build up現象が特徴的です。脳腫瘍や感染症は進行性の経過をとるため、誘因つきで完全回復を繰り返す本症とは区別できます。小児は虚血型、成人は出血型が多いことや、治療としての血行再建術・過換気回避の生活指導まで押さえておくと、外来での早期発見と脳梗塞予防につながります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・5歳男児。発熱の記載はなく、全身の強直性間代性けいれん(体が突っ張った後にガクガクと律動的に震える発作)を1時間に3回繰り返して搬入された。 ・1年前から、熱いものを食べる(フーフーと息を吹きかけて冷ます)とき、激しく泣くときに片麻痺が出現していた。麻痺は右のことも左のこともあり、約10分で改善し、月1回程度繰り返していた。 ・神経学的所見:両側上下肢の軽度筋力低下、腱反射亢進、Babinski徴候陽性。いずれも上位運動ニューロン(錐体路)障害を示し、両側の大脳に病変が及んでいることを示唆する。 ・頭部単純MRI T1強調像:両側の基底核部に、小さな点状・線状の無信号域(flow void:血流が速いため信号が抜けて黒く見える血管)が多数みられる。これは基底核を穿通する側副血行路が拡張した「もやもや血管」を反映する。
診断へのプロセス
1)誘因のある一過性の脳虚血発作 熱い食事を冷ます、激しく泣くといった動作はいずれも過換気(過呼吸)を伴う。過換気で血中二酸化炭素分圧が下がると脳血管が収縮し、もともと脳血流に余裕のない領域で虚血が起こる。これにより一過性の片麻痺が生じる。 2)左右交代性の片麻痺 麻痺の側が右にも左にも出現することは、病変が左右両側の血管にあることを示す。一側の腫瘍や局所病変では説明しにくい。 3)両側錐体路徴候とけいれん 虚血の反復により両側大脳に障害が蓄積し、両側の錐体路徴候やてんかん発作(けいれん)をきたしたと考えられる。 4)画像 両側基底核部の多数のflow voidは、もやもや病に特徴的な異常血管網を示す所見である。 以上より、小児のもやもや病(Willis動脈輪閉塞症)が最も考えられる。
鑑別の考え方
発熱のない小児が神経症状を繰り返す場合は、脳血管障害(もやもや病を含む)、てんかん、多発性硬化症、ミトコンドリア脳筋症(MELASなど)などを考える。この中で「過換気を誘因として左右交代性の一過性片麻痺を繰り返す」のは小児もやもや病に特徴的である。脳腫瘍や感染症は、発作的に出現して短時間で完全に回復する症状を、決まった誘因で繰り返すという経過を説明しにくい。
選択肢考察
- ×a. 上衣腫
上衣腫は脳室の壁を覆う上衣細胞から発生する腫瘍で、原発性脳腫瘍の数%を占める。小児では第四脳室に好発し、髄液の流れを妨げて閉塞性水頭症(頭痛、嘔吐、うっ血乳頭)や小脳症状(ふらつき)が徐々に進行するのが典型である。過換気を誘因として10分程度で回復する片麻痺を左右交代性に繰り返す経過は説明できず、画像でも脳室内の腫瘤は指摘されない。
- ○b. もやもや病
両側内頸動脈終末部が進行性に狭窄・閉塞し、それを補うために脳底部に細かな側副血行路(もやもや血管)が発達する疾患である。小児例では、熱い食事を冷ます・啼泣・笛を吹くなどの過換気で脳血管が収縮し、一過性の片麻痺・失語・けいれんなどの脳虚血発作を起こすのが典型であり、病変が両側にあるため麻痺は左右交代性に出現しうる。本例の病歴と両側錐体路徴候、MRIで両側基底核部に多数のflow void(拡張したもやもや血管)がみられることは、いずれも本症に合致する。
- ×c. 頭蓋咽頭腫
頭蓋咽頭腫はトルコ鞍の上部(鞍上部)に発生する良性腫瘍で、小児では5〜9歳前後に多い。多くは嚢胞を伴い、石灰化を示すことが多い。視交叉の圧迫による視野障害(両耳側半盲など)、下垂体機能低下による低身長(成長ホルモン分泌不全)、尿崩症などが主な症状である。過換気で誘発される一過性片麻痺の反復とは結びつかず、画像でも鞍上部腫瘤はみられない。
- ×d. 結核性髄膜炎
結核性髄膜炎は、食欲不振、倦怠感、微熱、頭痛、嘔吐などの非特異的症状で緩徐に始まり、2〜3週間程度の亜急性の経過で進行する。発熱や髄膜刺激症状を伴い、症状は改善せず悪化していくのが通常である。周囲に排菌者がいることが多い。本例は1年間にわたり短時間で完全に回復する片麻痺発作を繰り返しており、発熱の記載もないため考えにくい。
- ×e. 亜急性硬化性全脳炎
亜急性硬化性全脳炎(SSPE:subacute sclerosing panencephalitis)は、麻疹ウイルスが変異して脳内に持続感染することで起こる遅発性ウイルス感染症である。麻疹罹患から数年(多くは5〜10年程度)の潜伏期を経て、性格変化や学業成績の低下で始まり、ミオクローヌス(周期的な筋のぴくつき)、知能低下が進行し、最終的に無動・植物状態に至る。一過性の片麻痺を発作性に繰り返し、そのつど回復するという経過とは異なる。
もやもや病(Willis動脈輪閉塞症)の概要
・両側の内頸動脈終末部(前大脳動脈・中大脳動脈の起始部を含む)が進行性に狭窄・閉塞し、脳底部に異常血管網(もやもや血管)が発達する疾患である。脳血管撮影で煙草の煙が立ちのぼるように見えることからこの名がある。 ・原因は不明だが、日本など東アジアに多く、家族内発生が約1割程度にみられる。感受性遺伝子としてRNF213が知られている。 ・発症年齢は二峰性で、5歳前後の小児と30〜40歳代の成人にピークがある。
小児例と成人例の違い
・小児:虚血型が大部分。過換気(啼泣、熱い食事を吹いて冷ます、笛・ハーモニカを吹く、激しい運動)で一過性脳虚血発作(片麻痺、脱力、失語、けいれん)を起こす。繰り返すうちに脳梗塞や知的障害を残すことがある。 ・成人:約半数が出血型で、脆弱なもやもや血管の破綻や、それに伴う動脈瘤の破裂による脳室内出血・脳内出血で発症する。虚血型もある。
検査
・MRI/MRA(磁気共鳴血管撮影):内頸動脈終末部の狭窄・閉塞と、基底核部の多数のflow voidを確認する。小児では非侵襲的なMRI・MRAで診断できることが多い。 ・脳血管撮影:確定診断の基本的検査。成人では動脈硬化性狭窄など他の原因との鑑別に重要である。 ・脳波:過呼吸負荷後、いったん回復した徐波が再び出現する「re-build up」現象が特徴的である。ただし過呼吸負荷は虚血発作を誘発する危険があるため慎重に扱う。 ・脳血流検査(SPECTなど):脳血流と血管予備能の評価に用い、手術適応の判断に役立てる。
治療
・虚血症状を繰り返す例には、血行再建術を行う。浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術などの直接血行再建術と、筋肉や硬膜などを脳表に接して新たな血管の発達を促す間接血行再建術がある。 ・内科的には抗血小板薬が用いられることがある。日常生活では過換気を避けるよう指導する。
POINT
・小児で「熱い食事を冷ます・啼泣など過換気時に、一過性の片麻痺を繰り返す」ときは、もやもや病を第一に考える。 ・病変は両側性なので、麻痺が左右交代性に出現しうる。 ・MRIでは両側基底核部の多数のflow void(もやもや血管)、MRAでは内頸動脈終末部の狭窄・閉塞がみられる。 ・小児は虚血型、成人は出血型(脳室内出血・脳内出血)が多い。 ・脳波の特徴はre-build up現象。治療は血行再建術。
