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迂回路を作れない狭心症―冠動脈バイパス術の適応は「固定した狭窄」で決まる

第104回医師国家試験 I問題 第30問

国試問題にチャレンジ

第104回 I問題 第30問

冠動脈バイパス術の適応でないのはどれか。

  1. a.急性冠症候群
  2. b.冠動脈3枝病変
  3. c.冠攣縮性狭心症
  4. d.左冠動脈主幹部の75%狭窄
  5. e.経皮的冠動脈インターベンション〈PCI〉後の再狭窄

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は冠動脈バイパス術、いわゆるCABGの適応を問う問題だ。着眼点はシンプルで、「バイパスという治療が何を解決する手術なのか」を考えれば答えにたどり着ける。まず、CABGがどんな手術か説明できるかな。
医学生医学生
狭くなった冠動脈の先に、内胸動脈や大伏在静脈をつないで血液の迂回路を作る手術ですよね。臨床実習で心臓血管外科を回ったとき、内胸動脈を剥離するところを見学しました。
ドクタードクター
その通り。つまりCABGは、形として固定した狭窄、つまり器質的狭窄があって、その先の心筋に血が足りない状態に対して、狭窄部を飛び越えて血流を届ける治療なんだ。カテーテルで狭窄部を広げるPCIも同じく、器質的狭窄による虚血が前提になる。
医学生医学生
ということは、狭窄が固定していない病態だと、そもそも迂回させる対象がないということでしょうか。
ドクタードクター
いい推論だね。選択肢の中でそれに当たるのはどれだと思う?
医学生医学生
冠攣縮性狭心症です。循環器内科の講義で、冠動脈が一過性に強く収縮して虚血が起こる病態だと習いました。
ドクタードクター
正解。攣縮は可逆的で、発作が治まれば内腔は元に戻る。発作のないときの冠動脈造影では有意な器質的狭窄がないことも多いから、バイパスやステントで治す固定病変が存在しない。治療は禁煙などの危険因子の是正と、カルシウム拮抗薬や長時間作用型硝酸薬による発作予防、発作時のニトログリセリン舌下が中心だ。
医学生医学生
β遮断薬は使わないんでしたっけ。労作性狭心症では使うので混乱しやすいです。
ドクタードクター
そこは大事な落とし穴だ。非選択的β遮断薬を単独で使うと、α受容体を介した血管収縮が相対的に優位になって攣縮を悪化させうる。だから単独使用は避ける、と覚えておこう。では残りの選択肢がなぜ適応になりうるかを確認しよう。まず左冠動脈主幹部の75%狭窄は?
医学生医学生
主幹部は左前下行枝と左回旋枝に分かれる手前なので、詰まったら左室の広い範囲がやられてしまいますよね。
ドクタードクター
そう。左室心筋のおおむね3分の2以上を灌流しているから、閉塞すれば広範な心筋梗塞や致死性不整脈、突然死につながる。主幹部は他の部位より軽い狭窄でも重大で、一般に造影上50%以上で有意とされる。75%ははっきり有意で、標準的な血行再建法はCABGだ。近年は病変が単純な例でPCIも選択肢になってきているけどね。
医学生医学生
3枝病変も、右冠動脈・左前下行枝・左回旋枝の全部に狭窄があるので、一度の手術でまとめて治せるCABGが有利ということですか。
ドクタードクター
その理解でいい。特に病変が複雑でSYNTAXスコアが高い例、糖尿病合併例、左室機能低下例では、CABGの長期成績がPCIより良いことが大規模試験で示されている。どちらを選ぶかは、循環器内科医と心臓外科医がハートチームとして協議して決めるんだ。
医学生医学生
急性冠症候群は、救急で緊急カテを見たイメージが強くて、PCI一択だと思っていました。
ドクタードクター
多くは緊急PCIで治療するから、そう感じるのも自然だ。ただ、主幹部病変や多枝病変でPCIが難しい場合、PCIが不成功だった場合、さらに心室中隔穿孔や乳頭筋断裂、左室自由壁破裂といった心筋梗塞後の機械的合併症を伴う場合には、緊急または待機的にCABGが選ばれる。適応から外れるわけではないんだ。
医学生医学生
PCI後の再狭窄も、まずは再PCIを考えて、繰り返す例や複雑な病変ならCABGに回る、という流れですね。
ドクタードクター
その通り。薬剤溶出性ステントで再狭窄はかなり減ったけれどゼロではない。再狭窄を繰り返す例や多枝病変を伴う例ではCABGが選択肢になる。最後に発展知識をまとめよう。CABGでは左内胸動脈を左前下行枝につなぐバイパスの長期開存率が非常に高く、これが手術の大きな強みだ。一方で開胸の侵襲や脳卒中などの周術期合併症のリスクもある。PCIは低侵襲で迅速だが、ステント血栓症予防のために抗血小板薬2剤併用療法が必要になる。
医学生医学生
冠攣縮性狭心症の診断は、発作時心電図やホルター心電図、それにアセチルコリン負荷の攣縮誘発試験でしたよね。CBTの過去問で出てきました。
ドクタードクター
よく覚えているね。夜間から早朝の安静時に胸痛が出る、発作時にST上昇がある、喫煙歴がある、といった病歴を聞き逃さないことが臨床ではまず大切だ。ただし攣縮と器質的狭窄が併存する例もあるから、「攣縮だから造影はいらない」と決めつけず、病変の評価をきちんと行うことも忘れないでほしい。

まとめ

冠動脈バイパス術(CABG)は、器質的に固定した冠動脈狭窄による心筋虚血に対して、内胸動脈などで狭窄部を迂回する血流路を作る血行再建術です。冠攣縮性狭心症は可逆的な攣縮が原因で固定病変がないため血行再建の適応にはならず、禁煙とカルシウム拮抗薬・硝酸薬による薬物療法が中心となり、非選択的β遮断薬の単独使用は避けます。一方、左冠動脈主幹部病変(50%以上で有意)や3枝病変、特に複雑病変・糖尿病・左室機能低下を伴う例はCABGのよい適応であり、急性冠症候群やPCI後の再狭窄も状況によってCABGが選択されます。PCIとCABGの選択はハートチームが病変の複雑さや併存症をもとに決めます。「その治療が何を解決するのか」から適応を考える姿勢は、治療選択を問う問題全般に応用できます。

解答・解説

正解はcです

冠動脈バイパス術とは

冠動脈バイパス術(CABG:coronary artery bypass grafting)は、狭窄・閉塞した冠動脈の病変部より末梢側に、内胸動脈・橈骨動脈・胃大網動脈などの動脈や大伏在静脈をつないで、血液の迂回路(バイパス)を作る手術である。器質的(形態的に固定した)狭窄によって心筋への血流が不足している病態に対し、狭窄部を飛び越えて血流を確保することが目的である。

血行再建術の適応の考え方

冠動脈の血行再建には、カテーテルで狭窄部を広げる経皮的冠動脈インターベンション(PCI:percutaneous coronary intervention)とCABGがある。どちらも「器質的狭窄があり、それによって心筋虚血が生じている」ことが前提である。そのうえで、病変の数・部位・複雑さ(SYNTAXスコアなどで評価)、糖尿病や左室機能低下の有無、患者の全身状態などをもとに、循環器内科医と心臓外科医が協議(ハートチーム)してPCIとCABGのどちらを選ぶかを決める。一般に、左冠動脈主幹部病変、3枝病変(特に病変が複雑な場合や糖尿病・左室機能低下を伴う場合)はCABGのよい適応とされる。

本問の考え方

冠攣縮性狭心症は、冠動脈が一過性に強く収縮(攣縮)することで虚血が生じる病態であり、攣縮が治まれば血管の内腔はもとに戻る。固定した狭窄がないため、バイパスで迂回させる対象となる病変が存在せず、治療は薬物療法が中心となる。したがって冠攣縮性狭心症がCABGの適応でない。

選択肢考察

  1. ×a.  急性冠症候群

    適応となりうる。急性冠症候群(ACS:acute coronary syndrome)は、冠動脈のプラーク(動脈硬化巣)が破綻して血栓が形成され、冠血流が急激に低下する病態の総称で、不安定狭心症、急性心筋梗塞、虚血による心臓突然死を含む。多くは緊急PCIで治療されるが、左冠動脈主幹部病変や多枝病変でPCIが困難な場合、PCIが不成功に終わった場合、心筋梗塞後の機械的合併症(心室中隔穿孔、乳頭筋断裂による急性僧帽弁閉鎖不全、左室自由壁破裂)を伴う場合などには、緊急または待機的にCABGが選択される。したがってACSはCABGの適応を含む病態である。

  2. ×b.  冠動脈3枝病変

    CABGのよい適応である。3枝病変とは、右冠動脈・左前下行枝・左回旋枝の3本すべてに有意狭窄がある状態をいう。広範な心筋が虚血にさらされており、多枝を一度の手術で確実に血行再建でき、長期的な再血行再建の必要性や心筋梗塞の発生を減らせる点でCABGが有利とされる。特に病変が複雑な例(SYNTAXスコアが高い例)、糖尿病合併例、左室機能低下例では、PCIよりCABGの長期成績が良いことが大規模臨床試験で示されている。なお薬剤溶出性ステントの普及により、病変が比較的単純な3枝病変ではPCIも選択肢となり、ハートチームで方針を決める。

  3. ○c.  冠攣縮性狭心症

    CABGの適応ではなく、これが正解である。冠攣縮性狭心症は、冠動脈の一過性の過剰収縮(攣縮)によって虚血が起こる狭心症で、夜間から早朝の安静時に発作が起こりやすく、発作時の心電図でST上昇を示すことがある(異型狭心症)。喫煙が重要な危険因子で、日本人を含む東アジア人に多い。攣縮は可逆的で、発作がないときには冠動脈に有意な器質的狭窄を認めないことが多いため、バイパスやステントで治療する対象となる固定病変がない。治療は禁煙などの危険因子の是正と、カルシウム拮抗薬(第一選択)や長時間作用型硝酸薬による攣縮の予防、発作時の硝酸薬(ニトログリセリン舌下など)である。なお非選択的β遮断薬は、α受容体を介した血管収縮が相対的に優位となり攣縮を悪化させうるため、単独使用は避ける。

  4. ×d.  左冠動脈主幹部の75%狭窄

    CABGのよい適応である。左冠動脈主幹部は左前下行枝と左回旋枝に分かれる手前の部分で、左室心筋の大部分(おおむね3分の2以上)を灌流する。ここに有意狭窄があると、急性閉塞した場合に広範な心筋梗塞や致死性不整脈、突然死を起こす危険が高い。主幹部は他の部位より狭窄の程度が軽くても重大な意義をもち、一般に血管造影上50%以上の狭窄で有意とみなされる。75%狭窄は明らかに有意な病変であり、CABGにより予後の改善が期待できる。近年は病変の複雑さが低い主幹部病変ではPCIも選択肢となるが、主幹部病変に対する標準的な血行再建法はCABGである。

  5. ×e.  経皮的冠動脈インターベンション〈PCI〉後の再狭窄

    適応となりうる。PCIで拡張した部位は、血管内膜の過剰な増殖(新生内膜増殖)などにより再び狭くなることがある(再狭窄)。薬剤溶出性ステントの導入で再狭窄率は大きく下がったが、ゼロではない。再狭窄に対してはまず再度のPCI(薬剤コーティングバルーンや追加ステントなど)を検討することが多いが、再狭窄を繰り返す例、病変が複雑で再PCIの成功や長期開存が期待しにくい例、多枝病変を伴う例などではCABGが選択される。

PCIとCABGの比較

PCI ・カテーテルで狭窄部をバルーンで拡張し、ステントを留置する。 ・低侵襲で入院期間が短く、緊急時にも迅速に行える。 ・再狭窄や、ステント血栓症予防のための抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)が必要となる点が課題。 CABG ・開胸して行う手術(人工心肺を使う方法と使わない心拍動下手術=オフポンプCABGがある)。 ・多枝を一度に確実に血行再建でき、特に左内胸動脈‐左前下行枝バイパスは長期開存率が非常に高い。 ・侵襲が大きく、脳卒中などの周術期合併症のリスクがある。

CABGが選ばれやすい状況

・左冠動脈主幹部病変(特に病変が複雑なもの) ・3枝病変(特にSYNTAXスコアが高い例) ・糖尿病を合併した多枝病変 ・左室機能低下を伴う多枝病変 ・PCIが技術的に困難な病変(慢性完全閉塞、高度石灰化、びまん性病変など)や、PCI後の再狭窄を繰り返す例 ・心筋梗塞の機械的合併症や弁膜症手術を同時に行う必要がある場合

冠攣縮性狭心症のポイント

・安静時(特に夜間~早朝)に発作。発作時ST上昇を示すものを異型狭心症と呼ぶ。 ・診断:発作時心電図、ホルター心電図、冠動脈造影時のアセチルコリンやエルゴノビンによる攣縮誘発試験。 ・治療:禁煙、カルシウム拮抗薬、硝酸薬。器質的狭窄を伴わない限り血行再建(PCI・CABG)の対象にはならない。

POINT

・CABGやPCIは、器質的狭窄による心筋虚血に対する血行再建術である。 ・冠攣縮性狭心症は可逆的な攣縮が原因で固定病変がないため、血行再建の適応ではない。治療はカルシウム拮抗薬・硝酸薬と禁煙。 ・左冠動脈主幹部病変(50%以上で有意)、3枝病変(特に複雑病変・糖尿病・左室機能低下例)はCABGのよい適応。 ・急性冠症候群やPCI後再狭窄も、状況によりCABGが選択される。 ・PCIかCABGかはハートチームで病変の複雑さ(SYNTAXスコア)や併存症をもとに決める。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。