StudyMed医師国家試験

鼻すじが沈むとき―鞍鼻の裏に潜む「軟骨を壊す病気」を見抜く

第104回医師国家試験 I問題 第25問

国試問題にチャレンジ

第104回 I問題 第25問

鞍鼻をきたすのはどれか。2つ選べ。

  1. a.側頭動脈炎
  2. b.再発性多発軟骨炎
  3. c.多発血管炎性肉芽腫症〈Wegener肉芽腫症〉
  4. d.若年性特発性関節炎
  5. e.全身性強皮症〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、鞍鼻をきたす疾患を選ぶ問題だ。暗記で解くこともできるけれど、「鼻背を支えているのは何か」「それを壊すのはどんな病気か」という順に考えると、迷わず答えにたどり着けるよ。
医学生医学生
鞍鼻は、鼻すじの真ん中がへこんで、横から見ると馬の鞍みたいになる変形ですよね。
ドクタードクター
その通り。では鼻背を支えている構造は何だろう。
医学生医学生
上のほうは鼻骨で、その下は軟骨だったと思います。解剖実習で鼻中隔を剖出したとき、思ったより軟骨部分が大きくて驚きました。
ドクタードクター
いい記憶だね。鼻背は上部の鼻骨と、それに続く鼻中隔軟骨や外側鼻軟骨で支えられている。特に鼻中隔軟骨が破壊・吸収されると、支えを失った鼻背が落ち込んで鞍鼻になるんだ。だから「鼻の軟骨そのものを壊す病気」と「鼻腔内で壊死性の炎症を起こして鼻中隔を壊す病気」を考えればいい。
医学生医学生
軟骨そのものを壊す病気といえば、再発性多発軟骨炎ですね。
ドクタードクター
正解の一つだ。全身の軟骨に炎症を繰り返して破壊していく自己免疫性疾患で、耳介、鼻、喉頭・気管・気管支、関節などが侵される。鼻軟骨が壊れれば鞍鼻になるし、耳介軟骨炎では耳介が赤く腫れて、のちに変形を残すこともある。
医学生医学生
耳介が腫れるなら、外耳の感染症と見分けがつきにくそうです。
ドクタードクター
鋭いね。鑑別のポイントは耳垂だ。耳垂には軟骨がないから、再発性多発軟骨炎では侵されない。耳垂まで赤く腫れていれば蜂窩織炎などの感染を考えやすい。もう一つ大事なのが気道病変で、気管軟骨が障害されると気道狭窄や虚脱を起こし、窒息や呼吸不全で予後を左右するんだ。
医学生医学生
もう一つの「鼻中隔を壊す病気」は、多発血管炎性肉芽腫症でしょうか。CBTの勉強でELKと覚えました。
ドクタードクター
その通り。上気道(E)、肺(L)、腎(K)を侵すANCA関連血管炎で、PR3-ANCA陽性が多い。鼻腔では膿性・血性鼻汁や鼻閉、痂皮がみられ、壊死性病変が鼻中隔を破壊して穿孔を起こし、進行すると鞍鼻になる。上気道症状で始まることが多いから、治りにくい副鼻腔炎や中耳炎では本症を思い浮かべることが大切だよ。
医学生医学生
耳鼻咽喉科を回ったとき、難治性の中耳炎でANCAを測っている患者さんがいたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにその発想が臨床で生きる。では残りの選択肢を確認しよう。側頭動脈炎はどうかな。
医学生医学生
今は巨細胞性動脈炎と呼ばれる高齢者の血管炎ですよね。頭痛や顎跛行、視力障害が特徴で、鼻とは関係なさそうです。
ドクタードクター
そうだね。大型〜中型血管の肉芽腫性血管炎で、リウマチ性多発筋痛症を合併しやすく、失明の危険がある点が重要だ。でも上気道や鼻軟骨を障害する病態はないから、鞍鼻はきたさない。
医学生医学生
若年性特発性関節炎も関節の病気なので、鼻軟骨は関係ないですよね。
ドクタードクター
その理解でいい。全身型ではマクロファージ活性化症候群、少関節炎型ではぶどう膜炎の合併に注意が必要で、顎関節の障害による小顎症はみられるけれど、鼻軟骨を壊すことはない。
医学生医学生
全身性強皮症は顔の皮膚が硬くなって鼻の形も変わると習ったので、少し迷いました。
ドクタードクター
そこは引っかけやすいところだね。強皮症では仮面様顔貌や小口症、鼻が細く尖る変化がみられる。でもこれは皮膚の硬化・萎縮によるもので、軟骨が壊れて鼻背がへこむ鞍鼻とは別物なんだ。見た目の変化の「原因」を考えると区別できる。
医学生医学生
鞍鼻は「支えの軟骨が壊れたサイン」と考えれば、病気を選びやすくなりますね。
ドクタードクター
その通り。発展として、鞍鼻の原因はほかにも先天梅毒、鼻骨骨折や鼻中隔血腫・膿瘍による軟骨壊死といった外傷、ハンセン病などの感染症、コカイン吸入などがある。多発血管炎性肉芽腫症は副腎皮質ステロイドにシクロホスファミドやリツキシマブを組み合わせて寛解導入するけれど、腎病変が急速に進むことがあるから早期診断が鍵だ。再発性多発軟骨炎でも気道病変の評価を怠らないこと。鼻の変形をきっかけに全身疾患を見つける、という視点を持っておこう。

まとめ

鞍鼻は、鼻背を支える鼻中隔軟骨などの支持組織が破壊されることで鼻すじが陥凹する変形です。代表的な原因は、全身の軟骨を繰り返し侵す再発性多発軟骨炎と、上気道の壊死性肉芽腫性炎症で鼻中隔を破壊する多発血管炎性肉芽腫症で、ほかに先天梅毒や外傷なども原因となります。再発性多発軟骨炎では耳垂を侵さない耳介軟骨炎と気道狭窄が、多発血管炎性肉芽腫症では上気道・肺・腎の病変とPR3-ANCA陽性が重要です。巨細胞性動脈炎や若年性特発性関節炎は鼻軟骨を壊さず、全身性強皮症の顔貌変化は皮膚硬化によるもので鞍鼻とは異なります。外見の変化から背後の全身疾患を推論する力は、難治性の鼻・耳症状を診る際の早期診断につながります。

解答・解説

正解はb, cです

鞍鼻(saddle nose)とは、鼻背(鼻すじ)の中ほどが陥凹し、横から見ると馬の鞍のようにへこんで見える外鼻の変形である。鼻背を支えているのは上部の鼻骨と、その下に続く鼻中隔軟骨・外側鼻軟骨であり、これらの支持組織、特に鼻中隔軟骨が破壊・吸収されると鼻背が落ち込んで鞍鼻となる。 したがって鞍鼻をきたす疾患を考えるときは、「鼻の軟骨を直接破壊する病気」と「鼻腔内で壊死性の炎症・肉芽腫を起こし鼻中隔を破壊する病気」を思い浮かべればよい。前者の代表が再発性多発軟骨炎、後者の代表が多発血管炎性肉芽腫症(GPA)である。そのほか先天梅毒、外傷、ハンセン病、コカイン吸入などでも生じる。 選択肢のうち、側頭動脈炎・若年性特発性関節炎・全身性強皮症は、いずれも鼻軟骨や鼻中隔を破壊する病態をもたないため、鞍鼻の原因とはならない。

選択肢考察

  1. ×a.  側頭動脈炎

    側頭動脈炎は現在、巨細胞性動脈炎と呼ばれ、主に50歳以上の高齢者に起こる大型〜中型血管の肉芽腫性血管炎である。大動脈とその主要分枝、特に浅側頭動脈が侵され、側頭部の頭痛、側頭動脈の怒張・圧痛、顎跛行(咀嚼で顎が痛む)、視力障害(眼動脈系の虚血で失明の危険)などを呈し、リウマチ性多発筋痛症をしばしば合併する。上気道や鼻軟骨を障害する病態はなく、鞍鼻はきたさない。

  2. ○b.  再発性多発軟骨炎

    再発性多発軟骨炎は、全身の軟骨組織(耳介、鼻、喉頭・気管・気管支、関節など)に炎症を繰り返し、軟骨を破壊していく自己免疫性疾患である。鼻軟骨が侵されると鼻背を支えられなくなり鞍鼻を生じる。そのほか耳介軟骨炎(耳介の発赤・腫脹、耳垂は軟骨がないため侵されない)とその後の耳介変形、気道軟骨の障害による気道狭窄・虚脱、眼症状(強膜炎・上強膜炎など)、非びらん性の関節炎、内耳障害(感音難聴・めまい)などがみられる。気道病変は窒息や呼吸不全の原因となり予後を左右する。

  3. ○c.  多発血管炎性肉芽腫症〈Wegener肉芽腫症〉

    多発血管炎性肉芽腫症(GPA)は、上気道(鼻・副鼻腔・中耳など)と肺の壊死性肉芽腫性炎症、全身の小型血管の壊死性血管炎、腎の壊死性糸球体腎炎を特徴とするANCA(抗好中球細胞質抗体)関連血管炎であり、PR3-ANCA(C-ANCA)陽性が多い。鼻腔では膿性・血性鼻汁、鼻閉、痂皮形成がみられ、壊死性病変が鼻中隔を破壊して鼻中隔穿孔を起こし、さらに進行すると鼻背の支持が失われて鞍鼻となる。上気道症状が初発となることが多いため、難治性の鼻・副鼻腔炎や中耳炎では本症を鑑別に挙げる。

  4. ×d.  若年性特発性関節炎

    若年性特発性関節炎(JIA)は、16歳未満で発症し6週間以上持続する原因不明の慢性関節炎の総称である。全身型(弛張熱、リウマトイド疹、肝脾腫などを伴い、マクロファージ活性化症候群に注意)、少関節炎(ぶどう膜炎・虹彩毛様体炎の合併に注意)、多関節炎などの病型がある。顎関節の障害による小顎症などの成長障害はみられるが、鼻軟骨を破壊する病態はなく、鞍鼻はきたさない。

  5. ×e.  全身性強皮症〉

    全身性強皮症は、皮膚や内臓の線維化と血管障害を特徴とする膠原病である。顔面の皮膚硬化により表情が乏しくなる仮面様顔貌、口囲のしわと開口制限(小口症)、鼻が細く尖る変化などがみられるが、これは皮膚の硬化・萎縮によるもので、鼻軟骨が破壊されて鼻背が陥凹する鞍鼻とは異なる。そのほかRaynaud現象、手指の皮膚硬化、間質性肺疾患、逆流性食道炎、強皮症腎クリーゼなどが重要である。

鞍鼻をきたす主な原因

・多発血管炎性肉芽腫症(GPA) ・再発性多発軟骨炎 ・先天梅毒(Hutchinson三徴:Hutchinson歯、実質性角膜炎、内耳性難聴 などとともにみられる) ・外傷(鼻骨骨折、鼻中隔血腫・膿瘍による軟骨壊死) ・鼻中隔手術後の支持組織不足 ・ハンセン病、結核などの感染症 ・コカイン常用による鼻中隔穿孔

GPAの臨床像(ELK分類)

E:上気道(Ear, Nose, Throat)病変―鼻出血、膿性鼻汁、副鼻腔炎、中耳炎、鼻中隔穿孔、鞍鼻 L:肺(Lung)病変―多発結節影・空洞形成、肺出血 K:腎(Kidney)病変―急速進行性糸球体腎炎(壊死性半月体形成性糸球体腎炎、免疫複合体の沈着に乏しいpauci-immune型) 検査:PR3-ANCA陽性が多い。治療は副腎皮質ステロイドとシクロホスファミドまたはリツキシマブによる寛解導入。

再発性多発軟骨炎で侵される部位

耳介(最多)、鼻、喉頭・気管・気管支、関節、眼、内耳、心血管(大動脈弁閉鎖不全、大動脈瘤)など。軟骨がない耳垂は侵されないことが外耳の感染症(蜂窩織炎など)との鑑別点となる。

POINT

・鞍鼻は鼻中隔軟骨などの鼻背支持組織の破壊で生じる。 ・鞍鼻の代表的原因:多発血管炎性肉芽腫症(GPA)、再発性多発軟骨炎、先天梅毒、外傷。 ・GPAは上気道・肺・腎の3臓器病変とPR3-ANCA陽性が特徴。 ・再発性多発軟骨炎は耳介軟骨炎(耳垂は侵されない)と気道軟骨病変が重要。 ・強皮症の顔貌は仮面様顔貌・小口症であり、鞍鼻ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。