StudyMed医師国家試験

胸の腫瘍は「場所」と「物質」で語る―浸潤型胸腺腫と上大静脈症候群

第104回医師国家試験 D問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第104回 D問題 第6問

胸部の腫瘍についての組合せで正しいのはどれか。

  1. a.早期肺癌 ―― Lambert-Eaton症候群
  2. b.小細胞肺癌 ―― 重症筋無力症
  3. c.右肺門部肺癌 ―― 反回神経麻痺
  4. d.浸潤型胸腺腫 ―― 上大静脈症候群
  5. e.Pancoast型肺癌 ―― 手掌多汗症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、胸部の腫瘍とそれに伴う症状の組合せを問う問題だ。整理のコツは、症状を「腫瘍が周りの構造を直接押したり浸潤したりして起こるもの」と「腫瘍が出す物質や自己免疫で離れた場所に起こるもの」の2つに分けること。前者は解剖、後者は組織型がカギになるよ。
医学生医学生
腫瘍随伴症候群は呼吸器内科の講義で一覧表を覚えさせられました。でも局所症状のほうは、解剖をちゃんと思い浮かべないと混乱しそうです。
ドクタードクター
まさにそこが試されている。まず腫瘍随伴症候群から片づけよう。Lambert-Eaton筋無力症候群と結びつく腫瘍は何だったかな。
医学生医学生
小細胞肺癌です。だから早期肺癌との組合せは違和感がありますが、小細胞肺癌でも早期で見つかれば合うのでは、と少し迷いました。
ドクタードクター
その迷いはもっともだね。ただ、Lambert-Eatonと対応するのは「早期」という病期ではなく「小細胞癌」という組織型なんだ。神経終末の電位依存性カルシウムチャネルに対する抗体でアセチルコリン放出が減る病態で、合併腫瘍の大部分が小細胞肺癌。しかも小細胞肺癌は見つかった時点で進展していることが多く、早期で見つかる肺癌の多くは腺癌などの非小細胞肺癌だ。
医学生医学生
じゃあ小細胞肺癌と重症筋無力症の組合せも、Lambert-Eatonと取り違えさせるひっかけですね。
ドクタードクター
その通り。重症筋無力症はシナプス後膜のアセチルコリン受容体に対する抗体で起こり、合併する腫瘍の代表は胸腺腫だ。反復刺激試験で重症筋無力症は振幅が漸減、Lambert-Eatonは高頻度刺激で漸増する。シナプスの前か後か、で対にして覚えるといい。
医学生医学生
神経内科の実習で、Lambert-Eatonの患者さんは腱反射が低下していて口渇もあると教わりました。
ドクタードクター
いいね、自律神経症状と腱反射低下はLambert-Eaton側の特徴だ。では局所症状に移ろう。反回神経麻痺は右肺門部の肺癌で起こりやすいかな。
医学生医学生
えっと……嗄声は左側の病変で出やすいと聞いた気がします。理由までは自信がないです。
ドクタードクター
解剖学実習を思い出してみよう。左の反回神経は大動脈弓の下をくぐって気管食道溝を上行するから、胸腔内を長く走る。だから左肺門部や大動脈弓周囲のリンパ節転移で障害されやすい。右の反回神経は鎖骨下動脈で折り返すので胸腔内をほとんど通らず、右肺門部の病変では障害されにくいんだ。
医学生医学生
なるほど、左右で折り返す血管の高さが違うからなんですね。Pancoast型肺癌と手掌多汗症はどうでしょう。交感神経が刺激されて汗が増える、ということは……。
ドクタードクター
そこは逆なんだ。肺尖部の腫瘍が交感神経幹を壊すと、患側にHorner症候群が起こる。眼瞼下垂、縮瞳、眼球陥凹、そして発汗は低下する。手掌多汗症の治療で胸腔鏡下に交感神経を遮断する手術があることを考えれば、交感神経障害は汗を減らす方向に働くとわかるよね。
医学生医学生
確かに。そうすると残るのは浸潤型胸腺腫と上大静脈症候群ですね。胸腺腫は前縦隔だから、すぐ後ろに上大静脈があります。
ドクタードクター
正解。胸腺腫は前縦隔に発生し、上大静脈や腕頭静脈はその背側を走る。浸潤型では被膜を越えて周囲へ広がり、上大静脈を圧迫・閉塞しうる。すると上半身の静脈血が心臓に戻れず、顔面や上肢のむくみ、頸静脈怒張、前胸部の皮下静脈の怒張が出てくるんだ。
医学生医学生
上大静脈症候群の原因で一番多いのは肺癌でしたっけ。
ドクタードクター
そう、特に右側の肺癌や小細胞肺癌の縦隔リンパ節転移が多く、次いで悪性リンパ腫。胸腺腫は頻度こそ低いけれど、前縦隔腫瘍として原因になりうる。臨床では、朝に顔がむくむ、ネクタイやシャツの襟がきつくなった、という訴えがヒントになることもある。
医学生医学生
胸腺腫は重症筋無力症以外にも合併症がありましたよね。CBTで赤芽球癆が出た記憶があります。
ドクタードクター
よく覚えているね。胸腺腫は赤芽球癆や低γグロブリン血症など、自己免疫や免疫異常の疾患を伴いやすい。肺癌側も組織型ごとに、小細胞癌ならSIADHや異所性ACTH産生、扁平上皮癌ならPTHrPによる高カルシウム血症、腺癌ならばち指や凝固亢進による血栓症と整理しておくといい。局所症状は「どの位置の腫瘍がどの構造に当たるか」を解剖でイメージし、遠隔症状は組織型と結びつける。この2本立てで考えれば、組合せ問題は落ち着いて解けるよ。

まとめ

胸部腫瘍に伴う症状は、周囲構造への浸潤・圧迫による局所症状と、腫瘍随伴症候群による遠隔症状に分けて整理します。前縦隔に発生する浸潤型胸腺腫は背側の上大静脈を圧迫・閉塞し、顔面・上肢の浮腫や頸静脈怒張を呈する上大静脈症候群を起こしえます。Lambert-Eaton筋無力症候群は病期ではなく小細胞肺癌という組織型と、重症筋無力症は胸腺腫と結びつき、反回神経麻痺は大動脈弓を回る左反回神経が障害されやすく、Pancoast型肺癌は交感神経幹障害によるHorner症候群で発汗はむしろ低下します。解剖に基づく局所症状と組織型に基づく随伴症候群を区別して考える姿勢は、胸部腫瘍の診断や症状の見落とし防止に直結します。

解答・解説

正解はdです

胸部腫瘍(肺癌・胸腺腫)と、それに伴う症状・合併症の組合せを問う問題である。胸部腫瘍に伴う症状は、大きく次の二つに分けて考えると整理しやすい。 1.腫瘍が周囲の構造に直接浸潤・圧迫して起こる局所症状 縦隔や肺尖部には、上大静脈、反回神経、横隔神経、交感神経幹、腕神経叢、食道、気管などが密集している。どの位置の腫瘍がどの構造を障害しうるかは、解剖(特に左右差)を思い浮かべて判断する。 ・上大静脈:前縦隔〜右上縦隔にあり、胸腺腫などの前縦隔腫瘍や右上葉・右肺門部の肺癌、縦隔リンパ節転移で圧迫されやすい。 ・反回神経:左側は大動脈弓の下をくぐって上行するため胸腔内での走行が長く、左肺門部・大動脈弓周囲の病変で障害されやすい。右側は鎖骨下動脈で反回するため、胸腔内病変では障害されにくい。 ・交感神経幹(頸部・上胸部):肺尖部の腫瘍で障害され、Horner症候群を起こす。 2.腫瘍が産生する物質や自己免疫機序による遠隔症状(腫瘍随伴症候群) 小細胞肺癌では抗電位依存性カルシウムチャネル(VGCC)抗体によるLambert-Eaton筋無力症候群、ADH産生によるSIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)、ACTH産生によるCushing症候群などが、胸腺腫では重症筋無力症、赤芽球癆、低γグロブリン血症などが代表的である。 これらの知識を各組合せにあてはめると、前縦隔に発生し周囲に浸潤しうる浸潤型胸腺腫と、上大静脈が圧迫・閉塞されて起こる上大静脈症候群の組合せが妥当である。

選択肢考察

  1. ×a.  早期肺癌 ―― Lambert-Eaton症候群

    誤り。Lambert-Eaton筋無力症候群(LEMS)は、神経終末の電位依存性カルシウムチャネル(VGCC)に対する自己抗体によりアセチルコリン放出が減少して起こる筋無力症候群で、合併する腫瘍の大部分は小細胞肺癌である。つまりLEMSと結びつくのは「組織型(小細胞癌)」であり、「早期」という病期ではない。小細胞肺癌は発見時にすでに進展していることが多く、早期肺癌として見つかる癌の多くは腺癌などの非小細胞肺癌である。また一般に、早期の小さな腫瘍では腫瘍随伴症候群は目立ちにくい。LEMSの特徴は、近位筋優位の筋力低下、腱反射の低下、口渇などの自律神経症状、そして反復運動や反復刺激で筋力・筋電図の振幅が増強(waxing)する点である。

  2. ×b.  小細胞肺癌 ―― 重症筋無力症

    誤り。重症筋無力症は、主に抗アセチルコリン受容体抗体によって神経筋接合部のシナプス後膜が障害される自己免疫疾患で、合併する腫瘍として典型的なのは胸腺腫である(重症筋無力症患者の約2〜3割に胸腺腫、胸腺腫患者の約3〜5割に重症筋無力症を合併するとされる)。小細胞肺癌に合併する神経筋接合部疾患は、シナプス前の障害であるLambert-Eaton筋無力症候群である。重症筋無力症では反復刺激で筋電図の振幅が漸減(waning)し、LEMSでは高頻度刺激で漸増するという点で区別される。

  3. ×c.  右肺門部肺癌 ―― 反回神経麻痺

    誤り。反回神経麻痺(嗄声を生じる)を起こしやすいのは左肺門部の肺癌である。左反回神経は迷走神経から分かれたのち、大動脈弓の下を前から後ろへくぐって気管食道溝を上行するため、胸腔内での走行が長く、左肺門部の腫瘍や大動脈弓周囲(大動脈下リンパ節など)の転移リンパ節で障害されやすい。一方、右反回神経は右鎖骨下動脈の下で反回するため胸腔内をほとんど走行せず、右肺門部の病変では障害されにくい(右側では右肺尖部の腫瘍や頸部病変で障害されることがある)。

  4. ○d.  浸潤型胸腺腫 ―― 上大静脈症候群

    正しい。胸腺腫は前縦隔に発生する腫瘍であり、上大静脈や腕頭静脈はそのすぐ背側を走行する。浸潤型胸腺腫では、腫瘍が被膜を越えて周囲組織へ浸潤し、上大静脈を圧迫・閉塞することがある。上大静脈が閉塞すると、上半身から心臓へ戻る静脈血がうっ滞し、顔面・頸部・上肢の浮腫、頸静脈怒張、前胸部の皮下静脈の怒張(側副血行路)、頭痛や呼吸困難などを呈する。これが上大静脈症候群である。上大静脈症候群の原因として最も多いのは肺癌(特に右側の肺癌や小細胞肺癌の縦隔リンパ節転移)であり、次いで悪性リンパ腫が多いが、胸腺腫などの前縦隔腫瘍も原因となる。

  5. ×e.  Pancoast型肺癌 ―― 手掌多汗症

    誤り。Pancoast型肺癌(肺尖部胸壁浸潤癌、superior sulcus tumor)は肺尖部に発生して胸壁へ浸潤する肺癌で、第1肋骨周囲の腕神経叢(特に下部のC8・T1神経根)や星状神経節を含む交感神経幹を障害する。交感神経幹が破壊されると患側にHorner症候群(眼瞼下垂、縮瞳、眼球陥凹、顔面の発汗低下〜無汗)が起こる。交感神経は汗腺を支配しているため、障害された側では発汗が減少するのであり、多汗症にはならない。そのほかの症状として、腕神経叢障害による肩〜上肢尺側の激しい痛みやしびれ、手の筋萎縮がある。なお、手掌多汗症の治療として胸部交感神経節を遮断する手術(胸腔鏡下交感神経遮断術)が行われることからも、交感神経障害は発汗を減らす方向に働くことがわかる。

肺癌の組織型と特徴的な随伴症状

・小細胞肺癌:肺門型が多い。神経内分泌細胞の性質をもち、SIADH(低Na血症)、Cushing症候群(異所性ACTH産生)、Lambert-Eaton筋無力症候群、抗Hu抗体に関連する傍腫瘍性神経症候群(脳脊髄炎、感覚性ニューロパチーなど)を起こす。腫瘍マーカーはNSE、ProGRP。 ・扁平上皮癌:肺門型が多い。PTHrP(副甲状腺ホルモン関連蛋白)産生による高Ca血症。腫瘍マーカーはSCC、CYFRA。 ・腺癌:末梢型が多く、最も頻度が高い組織型。肥大性肺性骨関節症やばち指、トルソー症候群(凝固亢進による血栓症)などを伴うことがある。腫瘍マーカーはCEA。

胸腺腫の随伴疾患

重症筋無力症(最多)、赤芽球癆(赤血球系のみの低形成)、低γグロブリン血症(Good症候群)などの自己免疫性・免疫異常の疾患を伴いやすい。

局所浸潤による症状と部位

・上大静脈症候群:右上縦隔〜前縦隔の腫瘍(肺癌、悪性リンパ腫、胸腺腫など) ・嗄声(反回神経麻痺):主に左側(大動脈弓周囲)の病変 ・横隔神経麻痺:患側横隔膜の挙上 ・Horner症候群・腕神経叢障害:肺尖部のPancoast型肺癌 ・嚥下障害:食道への浸潤・圧迫

Lambert-Eaton筋無力症候群と重症筋無力症の比較

・障害部位:LEMSはシナプス前(VGCC抗体)、重症筋無力症はシナプス後(アセチルコリン受容体抗体など) ・反復刺激試験:LEMSは高頻度刺激で漸増(waxing)、重症筋無力症は低頻度刺激で漸減(waning) ・腱反射:LEMSでは低下、重症筋無力症では保たれる ・合併腫瘍:LEMSは小細胞肺癌、重症筋無力症は胸腺腫

POINT

・浸潤型胸腺腫などの前縦隔腫瘍は上大静脈を圧迫し、上大静脈症候群(顔面・上肢の浮腫、頸静脈怒張、前胸部皮静脈怒張)を起こしうる。 ・Lambert-Eaton筋無力症候群は小細胞肺癌、重症筋無力症は胸腺腫と組み合わせて覚える。 ・反回神経麻痺(嗄声)は大動脈弓を回る左反回神経が障害されやすく、左肺門部病変で起こりやすい。 ・Pancoast型肺癌は交感神経幹を障害してHorner症候群(眼瞼下垂・縮瞳・眼球陥凹・発汗低下)を起こす。多汗ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。